飲み過ぎの翌朝、布団の中で廃人状態
の時に聴きたい曲

ミュージックソムリエ協会では、「こんな時に聴きたい音楽!」ということで、日常のヒトコマで、ふっと聴きたい音楽を選曲しました。選曲はすべて、ミュージックソムリエ(http://musicsommelier.jp)によるもの。
昨日の夜は、飲み過ぎた~。メイクも落とさず布団に潜り込み、頭痛とともに目覚める朝。ぼーっとしながら、「うわぁ。やっちまったなぁ・・・」と反省しながらも「だるいなぁ・・・。まだ起きたくないなぁ」と、モゾモゾすること数時間。少しの罪悪感とブルーな気だるい朝を、包み込んでくれる曲を、今回は女性ボーカルに絞って集めてみました。

1.「Criminal」/Fiona Apple

この曲は96年にリリースされたフィオナのデビューアルバム『Tidal(タイダル)』からのシングルカットで、彼女にとって最大のヒット曲となりました。書いたのはフィオナが、弱冠18歳の頃。リリースは19歳の頃でしたが、歌にはとても10代とは思えない”凄み”のようなものを感じます。
ガリガリのセミヌードで挑発するような視線をこちらに向け、アンニュイな表情で歌う姿が、病的でありながらも、どこか危うい色気を放つ・・・。。このPVはマイケル&ジャネット・ジャクソンの「Scream」、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「Can’t Stop」など、数々のPVや映画を手掛ける監督、マーク・ロマネクによるものです。「性を利用して簡単に物事を手に入れようとする、そのことに嫌気が差す」というフィオナがこの曲の中で暗に示すメッセージをシニカルに表現したもので、セクシュアルな映像が当時大変話題になった作品です。

2.「St. Teresa」/Joan Osborne

95年にリリースされたメジャーデビューアルバム『Relish(レリッシュ)』に収録されています。代表曲の1つである「One of Us」に続く、同アルバムからのシングルです。まさに二日酔いで苦しんでいる時に見ている夢をそのまま映像にしたかのような、やや具合の悪くなるPVではありますが、この曲の歌詞にはとても深いメッセージが込められています。
ジョーンはニューヨークに住んで居た頃に、ある通りの角でベビーカーに乗せた赤ちゃんを傍らにドラッグを売っている女性(娼婦)を見かけました。それは、殺伐とした大都会で家族を養っていくために取った最終手段なのだろうと、その女の強さと割り切った堂々とした姿に、ジョーンはある種の感銘を受けたのだそうです(「聖テレサ」というタイトルにカトリック教’からは批判を受けたようですが・・・)。「たとえば自分以外の誰かが彼女のその姿を見て、彼女からドラッグを買い、関係を持つようになったとしたら・・・?」という想像から書かれた歌詞だとインタビューで話しています。
ブルージーなマンドリンとオルガンのリフが織りなす独特なグルーヴに乗せた、しゃがれ声のジョーンのボーカルは一層味わい深く、センチメンタルな気持ちになりつつも、どこかホッと安心できる包容力を感じるのです。

3.「Trouble’s Lament」/Tori Amos

大御所トーリ・エイモスが、昨年リリースした14枚目のアルバム『Unrepentant Geraldines』からシングルカットされた曲です。
歌詞の中の”トラブル”は、若い女性を擬人化したもので、”ラメント”は、”哀歌”という意味なので、この曲は、”若い女性のための哀歌”といったところでしょうか。新しく”家”と呼べる場所を見つけるため、社会に出てきた女の子(=トラブル)のことを書いた曲です。悪魔と仲違いした”トラブル”は、”Danger(危険)”に惹かれてゆく・・・。そんな若さゆえの”危険”への好奇心は心当たりある方も多いと思います。トーリ自身、”若い女性”=”トラブル” というアイデアがとても気に入っているそうです。
歌詞の中にしばしば”Satan(悪魔)”が出てくるのですが、それを象徴するように不安感を煽るちょっぴり不気味で奇妙なアコギ&ピアノのサウンドワークと、幅広い音域で歌うトーリの歌声が絶妙にマッチして、なぜかとてもクセになってしまう楽曲です。

4.「罪と罰」/椎名林檎

「頬を刺す朝の山手通り・・・」
寂しさを紛らわすためにみんなで飲み明かし、明け方店を出ると薄明るい空と冷たい空気が容赦なく襲ってくる・・・。そんな時、この歌詞が頭をよぎったりします。
自分が愛してやまない人から愛されない、私はこんなに愛してるのにどうして伝わらないの?という、もうボロボロに壊れてしまいそうなくらいの苦しい片想いを経験したことのある人には、どこか共感できる歌詞ではないでしょうか?
この曲は、椎名林檎本人が過労のため病に倒れ、自宅療養していた間に書かれたものです。自分がこうなったのは、いつも人のいうことを聞かなかったことへの罰だ、という自分を責める気持ちと、心の闇がとてもストレートに描かれています。
具合が悪い、苦しい、淋しくてたまらない、でも彼に助けを求める訳にはいかない(そこまでの関係ではない)。そんなやり場のない孤独に苛まれてもがき苦しんでいる時、その気持ちを完璧に代弁してくれているこの曲を聞くことで、少し冷静を取り戻すことができる気がするのです。

5.「Zombie」/The Cranberries

「Linger」や「Dreams」といったドリームポップ風の代表曲とは対照的な曲です。ドロドロとしたヘヴィーなバンドサウンドで、ゾンビ~ゾンビ~と、がなるように繰り返すボーカルがインパクト大なので、一度聴けば、飲みすぎた翌朝の死にそうな状態の時に、きっと頭にぐるぐると巡るメロディーになることでしょう。
実は、この曲はとても政治色が強く、いわゆる”反戦歌”とも言える曲なのです。1993 年イギリス ・ チェシャーにあるウォリントンで起きた、アイルランド共和国軍による爆破事件で犠牲になった2人の子供たちにインスパイアされて、ボーカルのドロレスが書いたものです。歌詞の中にある“ It's the same old theme since 1916”の「1916」はアイルランド独立運動のイースター蜂起のことを指していて、その当時からずっとアイルランド独立のための戦いが続いていることをドロレスは嘆き批判しています。
そして、この残虐的な現実も、自分の身内やごく身近で起きたことでなければ、ただ想像の世界の出来事としてしか捉えられない、だから実感なんて湧かない。所詮頭の中だけで起こっている他人事なのだということを、“In your head, Zombie, Zombie... ”(頭の中にいる、心の無いゾンビ)に例え、皮肉った表現をしていると言われています。
この曲がリリースされた数週間後、アイルランド共和軍は停戦を宣言しました。音楽が停戦のきっかけになるほどの力を持っているかはわかりませんが、多くの人が考えるきっかけには成り得ると思います。今この時にもう一度たくさんの方達に聴いて頂きたい楽曲です。罪の無い人々の命が決して奪われることのない世の中であって欲しいと切に願います。

6.「Angel」/Sarah McLachlan

最後に、お肌も心もガサガサに荒れている二日酔いの朝、穏やかな気持ちで、二度寝にスッと入れそうな処方箋となる曲を紹介します。天使のような透き通る歌声と優しいピアノの音色に癒されてください♪
・・・と、言いたいところですが、実はこの曲もとても深刻な問題に触れています。
サラは音楽誌で目にした、ある記事にインスパイアされてこの曲を書きました。記事では、音楽業界における様々なプレッシャーから逃れようとするために、ヘロインを使用するようになり、後に過剰摂取するまでに至ってしまうミュージシャンについて書かれていました。
過度のプレッシャーから自分を見失い、自分を惨めに感じる時、その苦しみから逃げるのにドラッグを選ばないで欲しい。他のやり方で現実逃避できる道はたくさんあるから。そして、他人が問題を抱えているからと言って、その責任まで全て背負おうとしないで、同時に自分のことを愛してあげて欲しい・・・。サラはこの曲を通じてそう言っています。
ミュージシャンの例のようなことはなくても、生きていれば現実逃避したくなることは多々あると思います。そんな時、手っ取り早く助けになってくれるのはお酒かもしれません。でも、つい飲み過ぎてしまうと後がとてもツライものです。
代わりに、あなたの大好きな音楽が、健康的に現実逃避のお手伝いをしてくれる事、どうか忘れないでくださいね♪

(選曲・文/高原千紘)

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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