GLIM SPANKYの企画『ロックは生きている。対談』が再び! 好評だった同企画の中でもディープな話に発展し、特に注目を集めた、みうらじゅん氏との対談。今回、そのみうら氏にGLIM SPANKYを勧めた、いとうせいこう氏との対談が実現した。その全編を3回に分けてお届けする最終回は、いとう氏が日本の伝統文化である謳(うたい)の極意をふたりに伝授する!

母音を意識して歌えるようになるかどう
かってことが大事

いとう:
あとね、これも伝えておかないと! 秦くんとか、Salyu とか、“この人はいいな”って思う人にだけに教えていることなんだけど。歌で言うと、母音のことをしきりと言われるんだよ。浄瑠璃では母音を“産字(うみじ)”って言うんだけど、“あいうえお”が意味を産んでいるっていう考えなのね。母音をちゃんと発音しないと伝わらないって。だから、民謡もそうなんだけど、こぶしを回すんだけど、あの母音を伸ばした“お~~~”の中に情感を込めるっていうのが、日本語の歌の秘伝なんだよ。俺もさ、「近頃のアナウンサーはなってない!」って怒ってるんだけど、英語混じりの日本語なもんだから、子音のほうが立っちゃってる。カッコ付けちゃってね。そうするとただの早口になっちゃって、意味が伝わらないんだよ。母音を立てて早口で言うのは無理だけど、母音を意識して子音を立ててれば、早口でも言葉が引き立って、意味が伝わるんだよ。俺のラップはそれができていると自分では思ってる。
松尾:
なるほどーー! 私、小学校の時に詩吟をずっとやってたんですよ。それでいつも詩吟の先生に母音を意識するように言われていて…詩吟もこぶしじゃないですけど、母音を伸ばして“お~~~”って歌うんで、母音が大事だって言われていたのはそういう意味があったんですね。

いとう:
その母音の部分に“あ”の情感、“い”の情感、“う”の情感、“え”の情感、“お”の情感が入っているから、それを意識しろってことなんだよ。

松尾:
今、理解できました。ずっと「母音を大事にしろ!」って言われてきたんですけど、その意味が分かってなかったんです。メロディーを大事にするってことなのか、こぶしを回すってことなのか。

いとう:
そういうことじゃないみたい。最終的に子音はどうでもいいみたいな。だから、俺、Salyuに「こころ」って曲の歌詞を書いたんだけど、二番になると言葉が減って、三番になるとほとんど母音になるという。それを上手く歌ってたよ、彼女は。最後は“う~~”とかになっちゃうんだけど、悲しいとか、大きいとかがちゃんと伝わってくるの。もともと日本語ってそういうふうになってるんだよ。それは詩吟にも共通するよね。俺もさ、詩吟の家の出っていうか…木村岳風っていう近代詩吟の人が親戚同様の人なんだよ。だから、親父とか親戚のおじさんが酔うと、♪鞭声粛粛(べんせいしゅくしゅく)~ってよく歌ってたの。結局、俺の日本語もそこから来てるんだよね。つまり、母音を意識して歌えるようになるかどうかってことが大事なんだよ。俺はラップなんだけどね。

松尾:
ほんと、今、長年の謎が解けました。小学校に入ると卒業するまで詩吟の授業があるんですけど、歌い方だったり、こぶしがずっと謎だったんですよ。普通のJ-POPにはないものなので。で、中学に入ってゴスペルをやるようになったんですけど、ゴスペルはゴスペルで全然違うものだったし。詩吟もゴスペルも普段は聴けないものだし、決してとっつきやすいものではないし、習うから仕方なくやってたんですけど、そこで感じていた疑問っていうか、自分の中の壁みたいなものが、今ここで全部なくなりました!
いとう:
分かってきたでしょ? 今日をきっかけに浄瑠璃をしばらく聴いていただいたら、俺も2年前からお稽古に行ってるんだけど、“謡(うたい)”…浄瑠璃以前からある能の後ろで歌っているものを勧めたい。朝の8時から10時まで、そのお稽古に通ってるんだけど、政治家や編集者、ミュージシャン、17世紀のイタリアのオペラの専門家とかもいて、すごく面白いの。例えば、“なぜここでこういうふうに音が下がるのか?”ってことを先生が説明してくれるんだけど、それに対して「オペラだとこうなる」「ゴスペルだとこうだ」「でも、日本はこうなんだよね」っていう意見が飛び交って、「おー! なるほど!」っていろいろ解明するんだよ。だから、“あそこでどうしてこぶしが回るのか?”とかが理解できる。全部、謡からきていることだから。

松尾:
はぁー、すごい…。

いとう:
あと、だいたいこぶしって“お~~~~~”ってなるじゃん。謡の用語で“ゆり”って言うんだけど。あれはね、基本的に神様を呼んでいるんだよ。アジアの山奥に住んでいるような少数民族の歌とか、お坊さんが唱えるお経の“声明(しょうみょう)”ともそうだけど、あの“お~~〜~~”って伸ばしているのは“ゆり”って言って神様や精霊を呼んでる。母音にはそういう力があるっていう考えなんだろうね。普通に歌う時には“ゆり”は出ないから。だから、こぶしってすごく大事なんだよ。松尾さん的にはこぶしを西洋音階に合うようにやりましたって感じにならないように、“ゆり”を考えることが大事なんだと思うよ。で、そこにどういうギターを付けると普遍的なものになるかってことを亀ちゃんは考えないといけない。

松尾:
すっごい面白いー。詩吟をやってた頃、母音を伸ばしてゆらすっていう記号がありましたけど、そこにはそういう意味があったんですね。

いとう:
そうそう。神様を呼んでるの。もともと歌って儀式のものだもん。太古の昔から自分じゃないものと交信するために歌ってたわけだから。俺は言葉よりも先に歌があったと思ってるからね、言語論として。「お願いだから雨を降らせてください」って精霊に祈る…そういう気持ちじゃん。そういうことなんだよ。

松尾:
うぁー、すごいことを教わったなー。長年の謎も解けたし、すごく晴れ晴れした気分。

いとう:
ここまでのことは誰にも教えてないからね。ロックはさ、“ゆり”を先にファズみたいなものでギターにやられちゃって、音だけのカッコ良さを求めるようになってしまったんだよ。だけど、ああいうワウとかが出す“ゆり”の音波に反応して、人間は別世界にトリップするわけじゃん。だから、そこが音だけじゃなくて、歌で魂にまで届くものにできるかどうかが、GLIM SPANKYが世界に行けるかどうかになってくるんじゃないかな。プリンスはできていたと思うよ、俺は。プリンスは魂の“ゆり”をやってたと思う。

歌が上手いとか、声がいいっていうだけ
じゃない何かを感じる

松尾:
今すぐ曲を作りたくなったなー。日本の太古から伝わる表現の意味…たぶん、こういうのって調べないと分からないし、調べても分からないと思うんです。

いとう:
基本的にそういうことって誰も教えてくれないんだよね。たまたま俺が浄瑠璃の世界にちょこっと入り込んでいって、本当は素人がしてはいけないのに弟子入りとかしちゃって、そこで「これはすげー!」ってなって、みんなに教えちゃってる(笑)。だって、教えなければさ、絶対に広まらないからね。すごいことをやってるんだから、あの人たちは。「えっ、そんなことを代々教わってきたんですか!? それ、何百年の秘密なんですか!」って。

松尾:
そういうのって若者は絶対に知らないですよね。

いとう:
知らない。だから、今がチャンスだよ。

松尾:
そうですよね。この対談を設けていただいてありがとうございます!

亀本:
レミさん、あのね、前に出すぎてて、僕、せいこうさんがまったく見えていない。

松尾:
あっ、ごめんね。話が面白すぎて、つい前のめりになってしまって(笑)。

いとう:
随分経ってから言うね(笑)

亀本:
いつ言おうかと思ってたんだけど、言えるタイミングがなかった(苦笑)。でも、さっきの“ゆり”の話、すごく分かりますよ。聴いていると無意識のうちに気持を持っていかれますよね。

いとう:
分かるでしょ? その“ゆり”に相応しい歌詞を乗せないと、来るものも来てくれないからね。それには普遍的な何かを書かないと。そういうことが分かるわけだから、古典を聴くのっていいよね。それもいいやつ…名人のものを聴くっていう。大事なことなんですよ。

松尾:
せいこうさんに、今後いろいろ質問すると思います。

いとう:
いいよ、いいよ。俺には言葉で説明するのが上手いすごい師匠がいるから…っていうか、ふたりもお稽古に来ればいいんだよ。師匠は“来る者は拒まず”だし。ラッパーも来たことあるよ。ゴスペラーズの酒井雄二くんも来てるけど、すごい勉強になってると思う。よく「あー、そうか!」って言ってるもん(笑)。

松尾:
うわー、それ、ほんと行きたいです!

いとう:
俺も強烈なものを得てるよ。ラップがグングン変わっていってる。

松尾:
それって自分で分かるんですか?
いとう:
さっき言った母音の使い方もそうだし、まず説得力が変わった。それはね…んー、ここまで教えたんだからしょうがない、最後にこれも教えよう! 悲しい気持を伝えようとすると、自分も悲しい気持にならないといけないって思うでしょ? でも、俺が大好きな人間国宝の竹本住大夫さんは、「そう聴かせたらええんや」って言うわけ。自分が悲しい気持になるよりも、客が悲しい気持になるように聴こえることが重要なんだって。そういうふうに言えって。歌われている歌詞がどう悲しいかをよくよく理解して、なぜこの娘は悲しいのか? じゃあ、どんな声を出せば、その気持が人に伝わるのか? 客観化せなあかん!って。それをずっと言ってたの。これはすごく勉強になったよ。自分がただ悲しいだけだったら、それでは人には伝わらない…毎日毎日、お客の前でやるわけだから。そこがプロなんだよね。だから、ここはこういう声を出して、ここでは抑えて、ここで盛り上げる…って考えるわけですよ。

松尾:
うわ-、今日はすごいことを教えてもらったなー。こうやって対面でお話しさせてもらうのは、今日が初めてなのに(笑)。なのに、こんなに深いところまで教えていただいて光栄です。

いとう:
名言が10個ぐらい出てるよ。浄瑠璃の奥の奥まで教えた。あとでメールアドレスを教えるからさ、何かあったら連絡してよ。浄瑠璃を観に行きたいとか、お稽古に行ってみたいとか。

松尾:
ありがとうございます!


――早速、お稽古に行かないと。


松尾:
そうですよね。亀、一緒に行こうよ!

いとう:
めっちゃ勉強になるよ。声の出し方が違うんだもん。秦くん、30分ぐらいで発声が変わったって言ってた。ま、謡の場合は弦楽器が入らないから、笛と鼓になるんだけど。でも、笛と歌の兼ね合いがどういうものかって勉強になるし、リズムということで…リズムも少しおさらいしてね。鼓の不思議なリズムとか。言葉のどこで鼓を打つかってことなんだけど、すごく独特なんだよね。それが面白いの。いろんなふうに変化はするけど、規則がないわけではないっていうことが分かったりするんだよ。ま、まずは浄瑠璃のボックスを買ってもらって(笑)。
亀本:
うん。まずは聴こう! まったく知らない世界だからね。

松尾:
そうだね。今日の話を聴いて…例えば、私、ケルト文化にすごく興味があるし、エジプトのピラミッドとかにもすごく興味があるんですけど、それと同じような感覚で日本の文化にも興味が沸きました。浄瑠璃って若者もやってるんですか?

いとう:
やってるよ。国立で養成されてる。まぁ、今は状況が違うから昔みたいな厳しさはないかもしれないけど、少なくともお稽古は厳しくやってるね。でも、日本で本当のブルースが聴けるのって最高でしょ?(笑)

松尾:
ほんと、まさに私たちが欲しかった情報をいただきました。世界的に見た時に、私たちが創るべきロックとはどういうものなのかって悩んでいたところだったんですよ。すごくいいヒントをいただきました。

いとう:
そもそもジャニス・ジョップリンも『ウッドストック』に出た時に、ヒッピーからいろんなことを聞いたと思うんだよね。ヒッピーが持っているヨーロッパの文化だったり、アメリカのインディアンの文化だったり。それで、ああいう音楽を作ったんだと思う。そういう音楽を聴くと人は、ただ歌が上手いとか、声がいいっていうだけじゃない何かを感じるわけで。そういうものが絶対にあるんだよね。そこがそのアーティストにとってのブレイクポイントになってくるんだと思うよ。エイミー・ワインハウスはブレイクする前に死んじゃったんだよね。それが俺はすごく残念で…。だから、GLIM SPANKY、次を頼むよ!

松尾:
頑張ります! メールするんで、いろいろ教えてください(笑)。

著者:土内 昇 PHOTO:清水義史 

OKMusic編集部

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