【吉澤嘉代子】逃げた先には別の道が
あるというのを知ってもらえたら

吉澤嘉代子が3rdアルバム『屋根裏獣』をリリースした。人呼んで“妄想系個性派シンガーソングライター”の彼女らしい…いや、そんな彼女だからこそ作り出せた、色濃い妄想の物語が10篇収録された珠玉の作品だ。
取材:帆苅智之

アルバム『屋根裏獣』を聴いて、吉澤さんの音楽の作り方って、ご自身の頭の中にある物語やビジュアルをメロディーやサウンド、リリックに落とし込むような行為なのかなと思いました。実際のところはどんな感じなのでしょうか?

意識したことはないんですけど、いつも大体タイトルから作るんですね。“このタイトルの歌を歌いたい”というところから、それに見合う物語、主人公像、舞台設定というものを考えて、主人公の表情や年齢、性格とか、そういうのを思い描きながら書くので、確かにビジュアルを思い浮かべてそれを落とし込んでいるのかもしれないです。

例えば、5曲目「屋根裏」。ストレートに分かりやすいサウンドではないかもしれませんが、あのメロディーと歌詞、サウンドで、吉澤さん頭の中にある世界観が疑似体験できるようなところがあると思うのですが。

嬉しいです。音楽を作る時、共感してほしいと思ったことや自分の身に起きたことを曲にしようと思ったこともあんまりなくて、小説や映画のように聴く人に疑似体験してもらえたら一番いいなと思ってるんです。「屋根裏」は少女の歌なんですけど、自分とは違う別の世界に生きている主人公で、その主人公を書くことによって現実と向き合えなかった時の逃避の場所を作れたらなと思ったんです。

1曲目「ユートピア」もややサイケな雰囲気があって、どこか別の世界へ誘う感じがありますね。

この曲はOKAMOTO'Sのハマ・オカモトくんにサウンドプロデュースをお願いしたんですけど、バンドサウンドに奇天烈な弦が入る…みたいなものにしようという大枠がもともとあって、岡村美央さんのチームに弦のアレンジをお願いしたんです。ベーシックを録っている時に美央さんに来てもらって、“どこまでやったらストリングスに影響するか?”とか、そういうことをやってもらえたので、逆にバンドのほうも自由にできたと思います。

あのゴチャッとしたサウンドは、歌詞に登場する市民プールの喧騒と重ねられているのかなと。

あ、いいですね(笑)。市民プールなんだけど、それが自分の海に変わる瞬間というか、めくるめく世界…実際の海とはまた別で、たくさんの生き物がいて、ラメが降り注ぐ、美しい自分だけの海を思い浮かべた時に、こんなふうな目まぐるしさになりました。

ただ、そうした幻想的、幻惑的な世界に誘うような楽曲でありながら、《場内には少しまえに流行ったポップス めくるめく現実》と最終的にはしっかりとリアルも描写されていますね。これは本作の特徴であると思ったのですが、この辺は自覚的でしたか?

どうなんだろう? 私は作りものの世界と現実の世界を行き来するような子供時代を送ってきたというか、“これがこうだったらいいな”という妄想ばかりの少女時代だったので、そういう夢見がちな感覚が曲にも表れていると思うんです。でも、夢を描くためにはその対比として現実を描かないといけないと思うし…多分そういうところで入っているのかな。

全部が夢物語なのは、むしろ素直ではないということですか?

グッとこないでしょうね。自分自身がグッとくるかこないかで曲を作っているので。

なるほど。そんな吉澤さんが楽曲を作り続け、こうしてアルバムにしているのはなぜなのかということにも興味がいくのですが、それはずばり10曲目「一角獣」の歌詞に集約しているのかなと。《誰かに会いたいのにそれが誰だかわかんないよ》《ゆめの中 ひとりぼっちのわたしは ずっとあなたに会いたい》…先ほど“共感は求めていない”とおっしゃいましたが、誰かとつながりたいという気持ちは強い方なのではないかなと。

そうですね。「ユートピア」もそうですし、「一角獣」もそうです。自分が作り出した世界に没頭するけれども、その底には外の世界につながる扉があったという曲。私自身、あまり人と接するのが得意じゃなくて…だからこそ、今まで自分の中だけで描いていた物語や想像を武器にして曲を作っているんです。やっぱり、自分の内に潜りながらも、どうにかして世の中とつながろうというふうに思っていると思います。

吉澤さんにとって“歌=手段”といったところでしょうか?

手段ですね。高校生の頃に曲を作るようになって、“私は世の中とつながれるかもしれない”と思ったんです。そこからまた自分が誕生日を迎えたような気がしたので、きっと生きる手段ですよね。“これで生きていけるぞ”という。現にここまで生きてこれていますし(笑)。

逆に言うと、歌がないと生きづらい状態でしたか?

自分の気持ちを言葉にしようとすると泣いちゃうような子供だったので、話し合いも苦手だったし。大人ならその世界から逃げることもできるんでしょうけど、子供の世界は学校がほぼ100パーセントを占めていますから、そこでの自分の位置が重要だし、それを投げ出すのはほんと大変で、簡単には逃げ出せない。だから、子供って本当に大変だなと思うし、今でも私は絶対に戻りたくないと思います。もし、今、自分と似たような子供がいるなら、そこで楽しく生きられたらそれが一番幸せかもしれないですけど、逃げた先には別の道があるというのを知ってもらえたらなという気持ちはあります。

『屋根裏獣』を聴くことで自分なりに何かを感じてもらえたら、ということでしょうか?

そうですね。曲の中で“頑張れ”とか“大丈夫”みたいなことは言いたいとは思わないんです。そういうのは他にもありますから。だから、アルバムを聴くことでひとつの逃避として少しでも楽になれる場所があったら、と思いますね。
『屋根裏獣』2017年03月15日発売e-stretch RECORDS/CROWN RECORDS
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • CRCP-40497 3500円
    • 【通常盤】
    • CRCP-40498 3000円
吉澤嘉代子 プロフィール

ヨシザワカヨコ:1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場育ち。14年メジャーデビュー。バカリズム作ドラマ『架空OL日記』の主題歌として「月曜日戦争」を書き下ろす。17年10月に発表した2ndシングル「残ってる」がロングヒットする中、18年11月7日に4thアルバム『女優姉妹』をリリースする。吉澤嘉代子 オフィシャル HP

OKMusic編集部

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