【amazarashi】前作で言い足りなかっ
たことを全部吐き出した

今やれることを全力で集結したようなラ
イヴになる

いよいよ、具体的な作品の中身へと入り込んでいく。『虚無病』に収録されているのは全5曲。CDに封入される小説『虚無病』が5つの章からなるのと対応し、ひとつひとつの楽曲が独立しつつも結び付き、全体で大きな物語をなす。これまでのamazarashiらしいメランコリックなロックチューン、朗読、アコースティック、さらにエレクトロを導入した斬新な曲など、音楽的な充実度も非常に高い。そして、何と言っても、「僕が死のうと思ったのは」のセルフカバーが収録されているのも大きなポイントだ。秋田ひろむはこの5曲に何を込めたのか?

1曲目の「僕が死のうと思ったのは」は中島美嘉さんへの提供曲ですが、ここでセルフカバーのかたちで蘇った経緯や動機について教えてください。

この曲は評判が良くて、弾き語りで歌ったりはしてたんですけど、中島さんはもちろん、リスナーとか、僕以外の人たちが名曲に押し上げてくれた感じが僕の中であって、いつか出したいと思ってました。今回、ひとつ気持ち的に区切りがいいタイミングだったので、収録しました。

2月に出た中島さんのトリビュート盤で、弾き語りセルフカバーを発表していましたが、あれをやった動機と、あの時点で今回の再収録のプランがあったのかについて知りたいです。

トリビュート盤は願ってもないチャンスなので、やらせていただきました。あの時点ではまだ今回の収録は決まっていませんでした。

アコースティック中心の、やわらかな音の響きと、やさしい歌声の「星々の葬列」。歌詞のテーマ、そして楽曲全体のイメージについて紹介してください。

大事な人が死んで、葬式でその人を偲ぶ、というような歌です。イメージ的には『千分の一夜物語 スターライト』の物語が近いんですけど、深い悲しみを温かみのある手法で表現する、というのがやりたかった曲です。

次に「明日は大人になる君へ」。緊張感ある弦楽器、朗読《私はそれを尊厳と呼ぶ》という印象的なリフレイン。あっと言う間に駆け抜ける鮮やかなスピード感。なぜか残るすがすがしさ。短いけれどとても印象的な曲です。どんなふうに作った曲ですか?

ファンレターみたいな感じでたまに遺書みたいな手紙やメールをいただきますが、そういう人たちに返信するような気持ちで書きました。

そして、「虚無病」。今まであまりなかったような、4つ打ちと跳ねるビートの強いリズム、エレクトロっぽいヴォーカル処理、サビのノイジーな音圧。新しさと従来のamazarashiらしさを共存させた鮮烈な曲だと思います。

今回は音楽的に新しいことをやりたいという気持ちもあって、こういう曲ができました。小説から派生した“虚無病”というキーワードなんですが、なんとなくamazarashiがこれまでやってきたことをひとまとめにした表現だと思います。

もうひと言、「虚無病」について。《虚無の犠牲者》と歌う声には、突き放すような冷徹さと、同時に憐れみや同情のような感情も感じ取れる気がします。“虚無の犠牲者”とは秋田さんにとって、どういう存在なのでしょう?

自分自身のことであり、この世界に確実にいるであろう自分のような人たちのことです。空しさや諦観から逃れられず苦しんでる人のことです。

ラストの曲「メーデーメーデー」。秋田さんの言葉の連なりを中心に、ドラマチックな演奏が陰影豊かに支える、amazarashiらしい一曲だと思います。

ポエトリーリーディングの曲です。「虚無病」とこの「メーデーメーデー」を合わせて、僕らがやってきたことのひとつの着地点だと思ってます。この先へ進むのはもうやめようと思ってます。これらの曲ができたことで、新しい方向が見えてきました。

この曲の歌詞では、《どうか生き残ってくれないか》という言葉が強く胸に残りました。この歌は愛の歌だと思います。『世界収束二一一六』で感じた行き場のない絶望感の向こう側に、少し光が見えたような気がします。この詞を書き上げることで何か秋田さんの中に変化が生まれたのかどうか。秋田さんがこの詞を書き上げた時の気持ちが知りたいです。

『世界収束二一一六』の延長線上だというのは、とても意識しました。あれからまだ続いていて今回で言い足りなかったことを全部言う、全部吐き出す、みたいなアルバムになりました。
秋田ひろむの言う通り、このプロジェクトは、ライヴを終えるまで完成とは言えない。小説が作品のメッセージ性の中心にあり、音楽とアートワークがそれに豊かな肉付けをしたものだとすれば、ライヴはその全てを織り込んだ総合芸術ということになる。10月15日の幕張メッセイベントホール公演は、すでに発表されたところによると、従来のスクリーンに変わってイメージメッシュ(透過性LED)を全面に配置し、amazarashiの楽曲がモチーフとなったキャラクターを、モーショングラフィックスによって動かす映像が流れるという。これまでも斬新な映像の使い方で大きな評価を得てきたamazarashiのライヴだが、どうやら今回はスケールの大きさが違うようだ。全国27カ所でのライヴビューイングも決定した。一体どんなライヴになるのだろうか?

幕張メッセで行なわれる『amazarashi LIVE 360°』。意気込みと、演出などのヒントについて、今言える範囲で教えていただければと思います。

今やれることを全力で集結したようなライヴになると思います。映像、演出含め、今まで培ったバンドの表現力を観せられたらと思ってます。

9月末には、台湾と上海でもライヴがありますが。

海外でのワンマンは初なので、集大成の幕張とは打って変わって、デビューライヴみたいな気持ちで爪痕を残せたらと思ってます。

『世界収束二一一六』と『虚無病』と、重厚でコンセプチュアルな作品を放った2016年。アーティストパワーの高まり、そして世の中に対して言いたいことがある、という意思をこれまで以上に強く感じています。そして今後、amazarashiはどこへ向かうのか? 最後に、amazarashiの未来について、言葉をいただければ。

今回の『虚無病』を作ったことで、次のビジョンが明確になりました。でも、それはまだ先のことなので、深く考えるのはあとにして、幕張のライヴ含め『虚無病』という作品の完結に注力したいと思います。
『虚無病』2016年10月12日発売Sony Music Associated Records
    • 【初回生産限定盤(DVD付)】
    • AICL 3175~7 2160円
    • ※クリア三方背ケース小説・『虚無病』封入
    • 【通常盤】
    • AICL 3178 1620円
amazarashi プロフィール

アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。amazarashi オフィシャルHP

OKMusic編集部

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