【CIVILIAN】もっと自由にやっていき
たいと語るLyu:Lyu改めCIVILIANのこ
れから
悩みを抱える人たちの救いとなる歌が支持されてきた3人組ロックバンド、Lyu:Lyuがバンド名をCIVILIANに改め、第一弾となるシングル「Bake no kawa」をリリース。メンバー3人に改名の理由、そして今回のシングルで提示したバンドのこれからについて話を訊いた。
取材:山口智男
Lyu:Lyuのラストライヴでもあり、CIVILIANのデビューライヴでもあった8月2日のライヴは、どんな手応えがありましたか?
コヤマ
これまでLyu:Lyuを応援してきてくれた人たちに対して、Lyu:Lyuとして最後のライヴをやった上でCIVILIANをお披露目するわけですから、最初からかなり気合が入っていたというか、絶対に下手なライヴは観せられないと思っていました。だから、やっている最中は本当に必死だったし、ただでは帰さんぞっていう気持ちでした(笑)。バンド名を変えることに対して、不安に思っているお客さんがやっぱりたくさんいたので、そういう人たちに対してちゃんと自分たちの言葉と演奏を通して説明することで、納得してもらえたんじゃないかという気はしています。
有田
実はLyu:Lyuのパートの最後まで、バンド名が変わるって実感があまりなかったんです(笑)。先のことばかり見てたということもあるんですけど、ライヴが終わる頃になって、“あぁ、本当にバンド名が変わるんだ”ってセンチになると同時にパンツの紐を締め直すというか(笑)、ぐっと腹に力が入って、“ここでちゃんと観せられなかったら、今日来てもらった意味はない”と思ったんですよ。その想いはお客さんの反応を見るかぎり伝わったと思います。
純市
うん、受け入れてもらえたと思います。トラブルもなく、無事に終えることができてほっとしました(笑)。
コヤマ
結局、自分が思っていることの中で、人に伝えられることって本当に限られているじゃないですか。どんなに頑張ってTwitterやブログに気持ちを書いても伝え切れない部分ってあるし、自分の意図とは違う受け取られ方をすることもあるし…そこでどんなに説明しても、バンド名が変わることが不安な人たちはいて、それをひしひしと感じていたんですよ。Lyu:Lyuの音楽を支えとか生活の糧にしている人たちが多かったので、さっき言った、何としてでもいいライヴにしなければっていうのは、そういう人たちを納得させなきゃいけないって想いからなんです。CIVILIANになった時に下手なライヴをしようものなら、バンド名を変えた意味さえなくなってしまいますからね。
改名の理由を、改めて教えてもらってもいいでしょうか?
コヤマ
自分たちの中では100パーセント、ポジティブな理由なんです。今までやってきたことはもちろん、何も欠けることなく引き継いだ上で、自分が今まで挑戦できなかったこととか、今まで書くことをためらっていた歌詞とか、音にするのが難しかった音楽とか、そういうものをもっともっと自由にやっていきたいという想いから始まっているんです。今回リリースした「Bake no kawa」は前回から2年ぐらい空いているんですけど、その2年の間、ライヴ活動を続けつつ、新曲を作りながら、自分たちは何をやっていきたいのか、やりたいことは何なのか、いろいろな話をしてきたんです。その中でLyu:Lyuってバンドが発していたメッセージって、ヴォーカルである僕自身の考えや過去と結び付いていて。それ自体はいいことだと思うんですけど、それだけではないことも歌いたいと思ったんですよ。自分自身の中のことだけではなくて、もっともっと周りの人たちのことや自分を取り巻く世界のこと、もっと広いところに目を向けた歌を書いていきたいという気持ちになっていって、そういういろいろな想いがちょうどいいタイミングで重なって、バンド内で“じゃあ、新しい活動としてやっていくのが一番いいのではないか”という結論に至ったんです。
有田
そんな時、誰とはなしに“名前を変えるのもありなのかな…”ってなったんです。
コヤマ
そこから不思議と誰も抵抗もなく、バンド名を変えるのがいいんじゃないかって。
有田
その頃、コヤマから上がってきた曲がそう言ってたんですよね。だから、“あぁ、新しいことをやるんだ”って。それは歌詞も含めてなんですけど。
純市
3人それぞれに、もっといろいろやってみたいってことを持っていたと思うんですよ。それはこれから演奏はもちろん、ライヴの雰囲気なんかにもどんどん出てくると思います。
Lyu:Lyuの音楽が思っていた以上に多くの人に受け入れられたんだから、もっと幅広いことを歌ってもいいんじゃないかと思ったところもあるのですか?
コヤマ
以前、僕が書いていた内省的な歌に対して、たくさんの人から反応があって、ライヴをやれば、大勢の人たちが集まってくれる。その状況を改めて考えた時、それまでと同じ方法で歌詞を書こうと思っても、筆が止まってしまう自分がいたというか…自分で自分にツッコミが入るんですよ。“お前、相変わらずこんなことばかり書いているな”っていう。“こんなに聴いてくれる人がいるじゃないか。かつてのお前はひとりだったかもしれないけど、今のお前は違うだろ。周りを見てみろ”って。そこに目を背けたまま、“俺は俺は”って歌詞を書き続けるのは、自分に嘘を付いていることになる。それに気付いてしまったことも大きくて、気付いた以上、そこに向き合っていくのが表現する人間の正しい在り方なんじゃないかと思ったところもあります。
今回のシングルはLyu:Lyuらしさも残しつつ、CIVILIANとしての新しい一面を印象付ける作品になったと思います。表題曲の「Bake no kawa」をはじめ、今回の3曲はどんなふうに選んだのですか?
コヤマ
聴いてほしい曲は他にもいっぱいあって、どれを入れようかはかなり迷ったんですけど、新しいバンド名になって最初の音源なので、どれを入れたらベストなのかって話し合いながら、一番バランスがいいというところで、今回の3曲になりました。
番変化が表れた「Bake no kawa」は、CIVILIANとして生まれ変わったことを一番アピールできる曲ではないかと思います。グルーブもある、こういうリフものの曲って、これまでなかったものですよね。
コヤマ
これまではコードワークから曲を組み立てていくことが多かったですからね。この数年間でギタリストとしての自覚が出てきたというか。これまではそういう自覚が全然なかったんですよ。曲を作るのに必要だからギターを弾いているっていう意識だったんですけど、弾いているうちにギタリストとしての欲求も出てきたので、サウンド的にはそれを素直に出した曲です。
有田
今回、俺がシンセの音も入れたいと提案したことをきっかけに制作スタイルがより密接になってきたんです。これまではコヤマが作ってきた、結構なクオリティーのデモに対してそれぞれ自分のパートだけを考えて、他のふたりが何も言わなければそれでオーケーっていうふうにやってきたんですけど、今回は録り音を決める段階から、自分以外のパートについても、“こういうサウンドにしたい”“こういう音も入れたいんだけどどう?”“いいじゃん”“いや、それは…”って話し合いをしていたので、作り方から違う。それが音にも表われていると思います。
コヤマ
自分のことで言えば、バンドを始めた時は曲を作ってギターを弾きながら歌うことで精いっぱいだったんですけど、成長しながらどこかのタイミングでドラム、ベース、ギター以外の音も楽曲の表現として入れたいという思いが芽生えてきて、それが今回、CIVILIANになるタイミングでたまたまかたちになりましたね。
コヤマさんはヴォーカリストとしてもラップに近い歌い方に挑戦していますね?
コヤマ
メロディーを考えて歌詞を考えるんですけど、その時期その時期によって、自分の手癖の範囲から抜け出せていない感じが訪れることがあるんですよ。一曲一曲いい曲にしようと思いながら作っていても、出来上がってから並べてみると、どれも譜割が同じだとか、曲の長さが同じだってことがあって。そこから脱したかったっていうのもあるんですけど、今回ラップっぽい歌になったのは、たぶんロックバンドを聴いてギターを弾き始める以前に、僕の姉が好きだった小沢健二さんとかスチャダラパーとかをその横で聴いていた経験が自分の根っこにあるからなんじゃないかな。意外とロックだけじゃないところにもルーツを持っていたんだなって改めて思ったところもあって、今後はそういうところももっと出していきたいと思いました。
曲が持っている疾走感とか、曲が簡潔にまとめられているところも新しいのでは?
コヤマ
これまで曲が長かったのは、言いたいことを歌詞に全部詰め込もうとしていたからなんですけど、それは仕方ないと思ってました。今回は音楽をちゃんと音楽として機能させさせるためというか、楽曲として飽きずに楽しめることやメッセージだけに止まらず、音楽的な高揚感も表現したいと考えて、無駄に長くしないように意識しながら作りました。
本当だったら目を背けたい人間が抱える闇をあえて抉り出しているような歌詞は、Lyu:Lyuの頃と変わらないと思いました。ただ、「Bake no kawa」は闇を抱えた人間がたくさんいる今の世の中を俯瞰しているようなところがこれまでと違いますね。
コヤマ
CIVILIANとしてどんなに新しい曲を作ったとしても、Lyu:Lyuとしてやってきたことや、そもそも自分が音楽を作り始めた時に持っていたものは、自分の血肉になっているから自然に表われて、違うテイストの歌詞を書いても入ってくる。それは自分が背負っているカルマというか、消せないものだと思うんですよ。ただ、「Bake no kawa」の歌詞を書いた時もそうだったんですけど、今はそこで終わるのではなくて、その先をどうするのかってところまで踏み込みたいという想いがすごくあるんですよ。この曲を聴いて、“進もうとしている感じがあるよね”って言ってくれる人は多いですね。
2曲目の「爽やかな逃走」は今回、一番Lyu:Lyuっぽいですね。
有田
そうですね。かなり前に作った曲だからLyu:Lyuっぽいのかもしれないけど、レコーディングする時に結構フレーズを作り直したんですよ。そこに新しさが出ていると思います。
純市
この曲は温かい感じを目指しました。歌詞が捻くれていたりエグかったりしても、演奏が陽気だったり軽快だったりしているところがこのバンドのいいところなんじゃないかって思うんですよ。
有田
1回作ったものを作り直すのって、大変でしたけどね。できることが増えたっていうのもあるんですけど、これでよしっていうところから、さらに加点するために、フレーズを聴き直しては要らないところを省いて、また追加して…って作業を何回も繰り返して。
3曲目の「自室内復讐論」はタイトルはLyu:Lyuっぽいけど、アコースティックギターの音色を生かしたフォークっぽいテイストが新しいです。
コヤマ
ここまで牧歌的な感じやアコギを使った曲はなかったですね。ただ、今回の3曲はまだまだ作り溜めた氷山の一角なんです。聴いてほしい曲はまだまだいっぱいあるので、ほんと早く聴かせたいです(笑)。さらに曲のバリエーションは広がっているので、いろいろなタイプの曲を聴いてもらえるんじゃないかと思います。
10月には“Hello, civilians.”と題したワンマンライヴを大阪と東京でやりますね。
コヤマ
CIVILIANとして初めて、長い尺でのライヴができるので、聴いてほしい曲をやっと聴いてもらえます。Lyu:Lyuとしてやってきた曲も交えながらではあるんですけど、“これが本当にCIVILIANなんだ”って分かってもらえるライヴになるんじゃないかって思っています。
有田
8月2日のライヴではCIVILIANとして新曲を7曲やったんです。その時に新曲の力を確信できたので、新曲を増やすことも視野に入れつつ、どんなライヴにするかも考えているんですけど、今まで培ってきたものとこれからやりたいことが融合したものをやっと観せられるタイミングなので、僕らもすごく楽しみなんです。
- 「Bake no kawa」
- XQBZ-1615
- 2016.08.03
- 1080円
シヴィリアン:2008年、コヤマが中心となり結成された3ピースロックバンド。退廃的な世界と攻撃的な楽曲が話題を呼び、10年8月にミニアルバム『32:43』でインディーズデビュー。16年にバンド名をLyu:LyuからCIVILIANに改名。改名後初の作品となるシングル「Bake no kawa」を8月3日にリリースした。CIVILIAN オフィシャルHP