【安岡 優】バラード本来の意味を追
求した初のソロアルバム
ゴスペラーズで多くの曲の作詩を手がける安岡 優が完成させた、1stソロアルバム『バラードが聴こえる』に込めた想いを訊いた。
取材:土屋恵介
1stソロアルバム『バラードが聴こえる』の全体的なテーマについて聞かせてください。
まず3年くらい前に“バラードが聴こえる”ってフレーズだけがパッと思い付いたんです。本格的にアルバムに向かっていく時に、“バラード”っていう言葉の意味を改めて調べたら、しっとりした、ゆったりした曲調のことと思われがちですが、もともとは吟遊詩人が物語を聞かせる時にメロディーに乗せたほうがより心に届くって演奏スタイルだったんですよ。僕はグループの中で20年間、作詩家としてのポジションが大きかったので、僕のソロアルバムのタイトルに相応しいなと思って、いろんな物語の入ったアルバムにしようと思ったんです。
だから、いろんなジャンルの楽曲が入ってるのですね。1曲目の「Luz」は、人の生と死の輪廻を想起させるものですし。
スペイン語で“光”って意味なんです。この曲は1番最後に作詩をしたんですけど、たくさんの物語の全部の入口と出口になる曲であり、なぜ詩人が今から歌うのか、なぜ詩人が歌ったのかが含まれる曲にしたかったんです。光は音と一緒でかたちのないものだけど、聴く側の胸に留めておけるという部分で重なると思ったんですね。内容的には、人の死は悲しいものではあるけれども、それは生まれてきた喜びが前にあったからこそあるわけで、また次の喜びの入口でもある。レクイエムとララバイ、セレナーデとエレジーも、同じ心の動きから生まれてきてるってことを伝えたいって、自分の中で昇華してできた曲ですね。
「Border line」はいきなりロックで驚きました。
まず、今回はバンドサウンドにしたいというのがあって。この曲はボーダーラインの向こう側に飛び越える勇気を歌うのではなくて、飛び越えない臆病さを歌ったものなんです。若者に“この線を飛び越えていく勇気を持とうよ”って歌うというよりも、大人はいつの間にか線の向こう側をなかったものにしている…そういう曲にすることで、僕らの世代の人にも聴くべき物語になるし、その臆病さを見せることで、逆に若者たちに飛び越える勇気を持ってもらいたいなって。きっと、受け取る側によって意味が変わると思うんです。若い人が聴いたらポジティブと思うかもしれないし、歳が上の人からしたらネガティブと感じる人もいると思うんです。いろんな世代で、自分の物語として置き換えた時に、どう感じるのかを聴いてもらいたいなと思いましたね。
アルバム中で一番カラーが違うのが、DANCE☆MANさんとのファンキーな「チャネリング☆ファンク」ですね。
DANCE☆MANさんの音楽の引き出しってものすごくて、6年くらい前にTHE☆FUNKSという制作集団を組んで(笑)、作ったのがこの曲なんです。いい意味で音楽をおもちゃにしないとファンクじゃないので、本人たちがバカ騒ぎする音楽のスタイルをみなさんに楽しんでいただけたらいいなと。
最後の曲「The Birthday Song」はドゥワップですね。生を祝う曲で終わることで、1曲目にループする感覚があります。
そうなんですよ。光を持って今から歌うと詩人が宣言して、最後に生、スタートの話で終わってリングがつながるのが、このアルバムの物語としては一番いいかたちだなと思ったんです。
アルバム発売と同時に、東名阪ツアーが行なわれますね。
僕が歌うのは、話して聞かせるものの延長線上にあるものだと思っているんです。ライヴというスペシャルな一瞬の中で、アルバムの曲たちがみなさんにより伝わるツアーにしたいと思っているので、楽しみにしててほしいなと思います。