【石月 努】あふれ出した衝動と音楽
へのピュアな想い

2012年の夏に約7年のブランクを経て、音楽活動を再開させ、待望の1stフルアルバムを6月5日にリリースする石月努。バンド解散後、再び歌い始めた理由、そして今、この時代に彼が伝えたいメッセージとは?
取材:山本弘子

石月努さんとしての1stフルアルバム『プテラノサウルス』はバラード、ファンク、ロック、ジャズと曲調もバラエティーに富んでいて、身近なことをテーマにしながらも、人間の持つ可能性や生きていて忘れがちなことを大きな視点でメッセージしているなと思いました。石月さん自身がテーマにしたことは?

まず、僕はバンド(FANATIC◇CRISIS)解散後、しばらく音楽の世界を離れてデザイン(空間デザイナー、ジュエリーデザイナーとして活躍)の仕事をさせてもらっていて、音楽活動を再開したのが約1年前なんです。大きなスイッチになったのが東日本大震災で、直後に石巻に行ったんですけれど、そこで言葉では表現し切れない衝撃的な光景を目の当たりにして「自分に何ができるんだろう?」って思った。それから1年、悶々と考えた結果、ずっとやってきた音楽をもう1度やろうって…。それまでは自分が音楽をやっているイメージすらなかったんです。

ということは、2011年の出来事がなかったら、ずっと歌っていなかったかもしれない?

と思います。他にも要素はあったんですけど、震災は大きな引き金になりましたね。今回のアルバムには音楽活動を再開したばかりの頃の初期衝動が入っている「365の奇跡」や「Parade」(先行配信シングル)のような曲も収録されているし、2013年の1月に渋谷公会堂で復活ライヴをやった後に作った曲も入っているし、つい最近生まれた曲も収録されています。冒頭で言っていただけたように、歌っていることはすごく身近なこと。でも、そういうことが一番大事だなって最近思うんですよね。

当たり前になっている日常だったり?

ええ。人って絶対に日常に慣れていってしまうし、最初の衝動って忘れちゃうじゃないですか。自分自身、音楽が好きだったからこそ、惰性でやりたくなくて、全てをゼロに戻してもともと好きだった絵やデザインの道に進んだんです。でも、約7年近く音楽から離れていたことにも意味があったんだと思えたし、今は良かったなと思っています。

アルバムのタイトル曲でもある1曲目「プテラノサウルス」は《幼い頃描いたプテラノサウルスをずっと待ってる。史上最強の力で、僕達の悲しみを全部 消し去ってくれ》と歌うサビにグッときました。

アルバムの中で一番最後にできた曲なんですよ。いつも言葉とメロディーが同時に出てくることが多いんですけど、この曲は歌詞を聴いてほしくて、後からメロディーを紡いでいったんです。《僕に残された時間はあとどれ位?》って歌っているのは、残りの時間が分かっていたら、もっと一日一日を大切に生きられるのかなって。小さなことだって自分にしかできないことがある。そんな想いがバタフライエフェクトみたいに影響し合って広がっていくような…。全曲を通してそういうイメージがありますね。

プテラノサウルスって架空の恐竜なのですか?

そうです。プテラノドンとティラノサウルスのミックスみたいな。実際、子供の頃にそういう絵を描いていたんです。実家で探したら残ってなかったので、そこからジャケットの絵を公募しようってアイディアが生まれたんです。

「ありがとう。」という曲では生まれてきた生命を愛おしく思う気持ちがとてもシンプルに素直に表現されていますね。

ええ。半年前からTwitterを始めたんですけど、今の時代ってリアルタイムでいろんな意見が聞けるじゃないですか。僕の曲を聴いてくれる人たちは世代的にも結婚されて子供ができたっていう人たちが多くて… 男性なので子供を産むことに関しては想像でしかないんですけど、いろんな人たちの声を聞いたのがきっかけで、こういうテーマの曲を書いてみたいなと思ったんです。

今の石月さんだからこその曲ですね。ライヴで歌いたいなと思って作った曲もありますか?

前回のミニアルバム『DROP』はライヴをイメージして作ったんですけど、今回はあまりそこにはとらわれていないですね。「RUSTY EMOTION」のような90年代にバンドを始めた頃のような懐かしいテイストの曲も入っているし、石月努としてはまったくの新人なので(笑)、自由ですね。ただ、この時代だからこそ伝えられるメッセージがあるし、いろいろなツールがあって音楽が簡単に作れてしまう時代だからこそ、胸を張って“いいアルバムなんだよ”って言える作品を作りたかったっていうのはありますね。

そして、先ほど話に出たアルバムのジャケットはもう決定したんですよね?

ええ。聴いてくれる人がいたからできたアルバムだと思っているので、僕の作ったものにみんなが関わってくれることによって新しいかたちになったらいいなって。たくさんの応募作品の中から、小さい子が描いたんだろうなっていう落書き風の絵を選ばせてもらったんですけど、歌詞に出てくるような子供の絵がいいなと思って…。選ぶのも楽しかったですよ。プテラノサウルスが最強のキャラクターであることは事前に伝えたんですけど、息子さんの写真を送ってくれたり(笑)。みんな、それぞれのストーリーがあるんですよね。

石月さんは今後もデザインの仕事と音楽活動を両立させていくのですか?

そうですね。僕の中では音楽を作ることも、デザインすることも自分の作品という意味で感覚的にあまり変わらないので、両立ということも意識してないんですよね。ただ、音楽ってかたちがないものだから、ニュアンスは絵とも違うんです。改めて“音楽好きなんだなぁ”と思ったし、音楽の持つ力、可能性を感じているところです。
『プテラノサウルス』2013年06月05日発売勇気レコーズ
    • 初回限定盤(CD)
    • URCL-1008 3100円
    • オフィシャルサイト限定盤(CD+DVD)
    • URCL-1009 3500円
石月努 プロフィール

イシヅキツトム:1977年1月8日生まれ、愛知県出身。92年に自身が中心となってFANATIC◇CRISISを結成し、97年にメジャーデビューを果たす(レコードジャケットから衣裳まで、全てのアートディレクションも担当)。また、多数のアーティストにも楽曲を提供、プロデュースなどバンド以外にも精力的に活動を行なう。05年5月のFANATIC◇CRISIS解散後、音楽活動を完全に離れ、デザイン、アートの分野で活動していたが、12年に音楽活動を再開させた。オフィシャルHP
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