【the pillows】肉体のサイズを超え

思春期の膨大なエネルギーを表現

アニメ『SKET DANCE』のエンディングテーマである「Comic Sonic」は、思春期のモヤモヤを吹っ飛ばすような痛快で瑞々しいロックナンバー。学生時代を思い出しながら歌詞を書いたという山中さわお(Vo&Gu)に当時の想い出も訊いてみた。
取材:フジジュン

音楽以外は楽しいことないけど
音楽だったら本音はもっとやりたい

2011年1月リリースのアルバム『HORN AGAIN』以来となるシングル「Comic Sonic」を完成したthe pillowsですが、まずは近況から訊かせてください。

とりあえず『HORN AGAINツアー』が終わって、バンド的にはオフモードな感じで。個人としては今、ソロアルバムを作っているんですが。前作『ディスチャージ』と同じ感じで、素敵ないろんなリズム隊の人たちとセッションしながら作ってます。

6月からはソロツアーも控えてるんですよね?

それはアルバムとは全然別モノで。仲の良い若手の子を連れて全国回って、酔っ払いながらライヴやろうかな?…くらいのゆる~いツアーですね。今のところ、ノープランです!

“SAWAO vs YOUNGSTER”とタイトルの付いたツアーにノープランで行ったら、打ち負かされる可能性もありますよ。

いいんです、勝つ気もないですから(笑)。向こうは気合い入れてくるでしょうから、負けてもいいんです。

俺を踏み台にしろと(笑)。しかし、ツアーが終わったら間髪入れずにソロの制作に入ったり、常に動き続けている印象ですが。

でも、TOKYO DOME CITY HALLが終わって10日くらい休んだら、もう退屈になっちゃって。音楽以外に楽しいことがないんです。今、見つかってないから、もう見つからないと思うんですけど(笑)。音楽だけで言うと、去年もthe pillowsとソロとTHE PREDATORSと3つをやったんですけど、本音を言うともっとやりたいくらい。でも、時間は24時間しかないし、肉体はひとつしかない。周りの見え方もあるし、それによってthe pillowsがぼんやりするのも嫌なんで、我慢してるところさえあるんです。例えば、まったく相手の了承もないし、そんな話をしたこともないんですけど、トモフスキーに入りたいなと思ってみたり、男だけどnoodlesに入りたいなと思ったり。

バイタリティーありすぎです! でも、noodlesに入ろうと思ったら、肉体どころか性別ももうひとつ必要になりますね(笑)。しかし、ライヴを観たり、「Comic Sonic」を聴いたりしても、このバイタリティーはどこから来るんだろうと驚かされます。

『Comic Sonic』は少年ジャンプで連載してる『SKET DANCE』がアニメ化するってことで、作者の篠原健太くんが僕らのファンだってところからエンディングテーマの話がきて。それで生まれた曲だったから、自然発生では生まれなかった曲だろうなと思いますけどね。『SKET DANCE』は高校生3人組の話なんだけど、家にあった単行本をもう一度読み返して。ストーリーに寄せて書くのは上手くないし、僕ららしくないかなと思ったので、主人公たちの気分だけ探る感じにして、あとは自分が高校生だった25年くらい前の記憶を掘り返して書いたんですけど。『SKET DANCE』の舞台がまぁ、男女共学の楽しそうな学校で。俺なんて荒んだ男子校だったから、全然気持ちがリンクしなくて。

俺にこんなキラキラした思い出はない!と(笑)。

ないない、暗い青春ですよ!(笑) ただ、当時からロックは好きで、家に帰るとギターも一生懸命弾いてたんで。そういう気分だったかな。まったくロックを感じない実家や田舎の風景とか、おかんの作る食事の匂いとか…常にモヤモヤしながら、深夜にFMでロック聴いて、いてもたってもいられない気分になるんだけど、そこに近づく術も分からなかったりして。自分の肉体のサイズよりも、中身のエネルギーが膨大な感じというか。そういう感じが上手く出せたかな?と思ってるんですけど。

はい。だから、聴いててすごいワクワクしました。歌詞の言葉を借りるなら、飛び込み台の上に立ってみるけど、どれくらいの高さか分からないどころか、底があるのかさえも分からない。その恐怖と期待が入り混じった感覚というのがすごく表れていて。

期待にはなるべく応えたいタイプなので、リクエストには全力で応えました。ただ、自然発生的にできた曲じゃないから、この後にできた曲が暗くって(笑)。来年あたりアルバムで発表できると思うんだけど、いかにも40代っぽい暗い曲で。

ダハハハ。そのふり幅がいいんじゃないですか! いざ、一緒のアルバムに入ってみたら、つながると思いますよ。

いや、それは聴いてないから言えるんだよ。最近できた曲は“これから何が起こるんだろう?”みたいな曲じゃなくて、いろんなことを経験して“これからどうやって生きていこう?”みたいな曲ばっかりだもん(笑)

「Comic Sonic」は『SKET DANCE』のエンディングテーマとして、すでにO.A.中なんですよね。

最初、勘違いしてて。この曲がオープニングテーマになると思ってたんです。だから、ダカダカダッてスネアが入って、バババーンってタイトルが出てみたいなのを想像して変更したら、“EDかよ!?”って(笑)。TVで観たら、ばっちりハマってましたけどね。

バンドの目標は現状維持
でも、現状維持が恐ろしく難しい

さわおさんの高校時代はどんな感じでした?

時代的にもヤンキー全盛期だった上に、ウチが札幌でも一番最悪な学校だったんで、常に血なまぐさい感じで(笑)。そんな中、僕の心の拠りどころがロックだったんじゃないですかね。17歳くらいの頃っていろんなことでモヤモヤしてて、性欲のモヤモヤもごっちゃになってるでしょ?(笑) 男子校だから、特にモヤモヤしてたしね。そんな感じだったかなぁ。

思春期ど真ん中のモヤモヤしてる子にこそ聴いてほしいですね。このアニメでthe pillowsを知る人もいるかと思いますが、『フリクリ』で音楽担当など、何かとアニメに縁深いですよね。

漫画家さんにファンが多くて。『けいおん』でも名前が使われたり、最近も『ハレルヤオーバードライブ』ってマンガの作者がファンだって、タイトルに曲名が使われたり。the pillowsにもいろんなファンがいるけど、ちょっと内向的というか、友達もそんなにいないし、みたいな人の方が僕の歌詞は入り込みやすいと思うんで。漫画家さんって、そういう人が多いんじゃないですか?(笑)

学校ではあまり居場所もなく、家に帰ってその鬱屈を晴らすべくギターを弾くか、マンガを描くかの違いですよね(笑)。

あと、傲慢な人は多いかも。傲慢って言っても、ジャイアンだけが傲慢じゃないというか。のび太くんの方が傲慢だったりもするじゃないですか。のび太はドラえもんが危険な道具を出して、“こうしちゃダメだよ”って言ったことを必ずしますからね。もう、なんてドラマチックなヤツなんだ!って(笑)。だから、傲慢なタイプって全部が外に出せる人だけではなくって、心の中で抱えた不満を相手に貫き通せないまま生きてる人も多くって。僕もわりとそのタイプだから…ま、僕は外にも出せる方ですけど。

さわおさんはアニメやマンガへの興味って?

アニメはそれほど観ないですけど、マンガは異常に好きですね。とんでもない量読みますよ。コンビニに置いてある雑誌はほとんど読んでますよ。スーパージャンプ、ビジネスジャンプ、ビックコミック、スピリッツ、スペリオール、オリジナル、モーニング、イブニング、ヤンジャン…

本当にすごいですね!(笑) 最近、好きな作品は?

『宇宙兄弟』。あれはもう100点に近いですね。ホントに声出して笑うところと、ホントに泣けるところがあったり、これは俺が歌詞で書きたかったなって台詞もあったり。あとは東村アキコさんも好きですね。今やってる『主に泣いてます』も面白いし、『ひまわりっ ~健一レジェンド~』も面白かったですね。小さいボケやツッコミがなんて面白いんだろう!って。

漫画家さんのthe pillowsファンも多いですけど、さわおさんがそれだけマンガ好きだったら、相思相愛みたいなもんですね(笑)。そして、今作のカップリングには「Good Bye Present」を収録。こちらは穏やかで優しく、少し切ないラブソングですね。

これは特に何にも話すことないんだよなぁ(笑)。本当は別の曲を用意してたんだけど、あまり自分らしくないなと思って、一晩でパパッと書いた曲で。『Comic Sonic』もそうなんですけど、2年くらいやっているラジオ番組があって。そこに中高生から恋愛相談のメールが来たりするんですけど、それが詞を書く時のスイッチになったりするんです。僕はもうさまざまなことを経験してきたし、これから経験するであろうことは、あまりロックに結び付けたくないようなテーマが多いと思っていて。同じことをいろんな角度から何度も何度も歌ってきて、20年以上もやってると、歌い終わってのまた今みたいなところにいるから、中高生からのメールが刺激になるんです。可愛いメールがくるんですよ! 恋愛相談で“バスケ部の先輩にどうやって話しかければ良いですか?”とか。そんなこと訊かれても、俺バスケ部の先輩いないし!みたいな。

アハハハ。忘れかけてた気持ちを思い出すみたいな感覚とも、ちょっと違うんですかね?

そういうことだと思いますよ。もう、そんなことを思い出す瞬間もないこととか。で、そんな恋愛相談も真剣に考えるじゃないですか。でも、四十代の頭で考えても絶対合わないんですよね。“とりあえず一回、呑みに行けば?”とは言えないですしね(笑)。基本的に僕は見ず知らずの人のために歌を歌ったり、幸せを願うみたいなことができるほどの想像力はないですけど、相談が来て、結果をメールで報告してくれたりすると、不思議な連帯感が生まれることがあって。そういう感覚って僕はすごく少ないので、貴重なんですよね。基本的に音楽以外の仕事は全部割り切ってやるしかないと思ってるけど、ラジオだけはやめたくないんです。

そして、先ほども話題に上がりましたが、6月から若手バンドと対バン形式のソロツアー『SAWAO vs YOUNGSTER』がスタートし、若いバンドマンからの刺激も大いに受けそうですね。

それはもう、CDからも十分受けてますよ。恐らく、若手バンドは僕みたいな立ち居地が羨ましいと思うんです。でも、彼らはたぶん、僕が二度と作れないであろう曲を作れる人たちですから。僕は僕で彼らがすごく羨ましいんです。まだ何も始まっていないことへの不満、始まるんじゃないかという期待。今、人生をシリアスなものとして向き合って生きている人の歌ってのが僕は大好きで。僕は今まで良い曲を何曲も書いてきて、これからそれを超えるのは非常に難しいと思うし、僕を理解してくれたり、愛情注いでくれる人とも出会えたし、自分のポジションって意味ではある種、気が済んでいるところがあって。ロックバンド的な響きじゃないけど、僕もメンバーも“現状維持でいい”と思ってるところがあるんです(笑)。ただ、これから50代に向かっていくにあたって、音楽のクオリティーも肉体的にも、現状を維持していくってことが恐ろしく難しいことで。そういう意味でも、未来のある若いバンドを見ていると心底羨ましいんです。

でも、今、そこからやり直せって言われたら嫌ですよね?

う~ん、それは嫌かな(笑)。あの頃は“何で理解してもらえないんだろう!?”ってモヤモヤ感もハンパなかったし、金も全然なかったし。今、あそこからやり直すのは嫌だなぁ。だから、彼らから何かしら受け取れれば良いですよね。いや、吸い取りたいのかな? で、できれば潰してしまいたい。

ダハハハ、なんて大人気ない!!

この年齢になると自分が上がって勝負するのは大変だから、相手を下げることを考えて。“俺の酒が呑めねぇのか?”って前日、たっぷり呑ませるとか、悪評を流すとかして(笑)
『HORN AGAIN TOUR』。
2011年4月27日@TOKYO DOME CITY HALL。
ニューシングル「Comic Sonic」に関するインタビューの際に山中さわお(Vo&Gu)は今回のツアーに触れ、“アルバム『HORN AGAIN』の性質もそうだったんだけど、始まる前はネガティブなことを考えてたんだよね。でも、初日の1曲目からそんなの全部消えてしまって、いきなり楽しくなった”と語った。そのコメント通り、ツアー終盤となるこの日のライヴでもthe pillowsは、その魅力の本質とも言える“ポップテイストにあふれるオルタナティブロック”をストレートに見せつけてくれた。
ライヴ仕様にブラッシュアップされた『HORN AGAIN』の収録曲に加え、このバンドのポップサイドが全面に出た新曲「Comic Sonic」、さらに“マニアックな曲をやります”というMCに導かれ、98年のアルバム『LITTLE BUSTERS』収録曲の「Nowhere」、99年のアルバム『RUNNERS HIGH』収録曲「Wake up!Frenzy!」といった幅広いナンバーを披露。彼らの奥深い音楽性をたっぷり感じられる構成に“BUSTERS”(←the pillowsファンの愛称)も気持ち良く高揚していく。ライヴ後半では「その未来は今」「LITTLE BUSTERS」といった代表曲、アンコールでは“絶望的なことがあっても、元気でまた会おう!”という山中の言葉とともに「No Surrender」、そして最大のアンセムソング「ハイブリッド レインボウ」も飛び出し、結成21年目を越えた現在もエッジの効きまくったロックを体現し続けるthe pillowsの“いま”を実感できる充実のライヴだったと思う。
撮影
鈴木 潤/取材:森 朋之。
the pillows プロフィール

1989年、山中さわお(Vo&Gt)を中心に結成。既存のJロックとは一線を画した、洋楽的な視点を持つギター・ロック・バンドの先駆者的存在。91年5月にシングル「雨にうたえば」で<ポニーキャニオン>よりデビュー。1993年にリーダーの上田ケンジが脱退し、表立った活動が休止状態になるも、翌年<キングレコード>に移籍し、残った3人で活動を再開。バンド・ブームの余韻が残る90年代前半、過小評価されていた彼らの音楽だったが、97年1月発表の5thアルバム『Please Mr. Lostman』より、徐々に状況が変わっていく。60's風のテイスティなメロディ、シンプルかつラウドなサウンドが耳の肥えた若いロック・リスナーを中心に話題を呼び、99年1月に傑作の誉れ高い7thアルバム『RUNNERS HIGH』をリリース。ロック・ファンを中心に絶大な支持を獲得していった。00年7月発表の「Ride on shooting star」はOVA『フリクリ』の主題歌、11月発表の「I think I can」が『スポーツMAX』のEDテーマに起用。その後もコンスタントにリリースやライヴ活度を続け、06年より<avex trax>に移籍。09年に結成20周年を迎え、結成20周年記念日となる9月16日には初となる日本武道館単独公演を敢行。チケットは一般発売後10分で完売したため入手困難なプレミアムチケットとなり、会場には全国から1万人のファンが集結した。また、そんな彼らは多くのミュージシャンから支持を得ており、14年2月には結成25周年を記念したトリビュートアルバム『ROCK AND SYMPATHY』がリリースされた。オフィシャルHP
Twitter
Facebook

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」