【Rie fu】絵を描くように音も録りた
かった
約1年振りのアルバムは、デビュー6年目にして目標だったセルフプロデュース&セルフアレンジで完成させた作品。いつも絵を描き曲を作っているアトリエでの友人たちとの楽しく和やかな時間が、そのまま封じ込められたものになった。
取材:榑林史章
今回は初のセルフプロデュース作品になりましたね。
前作の制作中からエンジニアの方にいろいろなことを教わったり、機材を揃えるなどして準備を進めていました。それで自分でアレンジしてレコーディングもし、全部自分でやったという新しい試みです。アーティストの方には私のアトリエ(作業場)にお茶を飲みに来てもらう感覚で参加してもらいました。
リラックスした雰囲気が欲しかったのでしょうか?
音だけじゃなく空間もアルバムに封じ込めたかったので。タイトルの『at Rie~』は“アトリエ”とかかっていて、自分の空間で絵を描くように音も録りたかった。デモの雰囲気は良かったのにスタジオで録ると違うものになってしまうことが多々あったので、デモのようなわざとらしさのない音を詰め込みたかったんです。
全曲コラボというのもチャレンジでしたね。
自分でプロデュースして、アレンジして、アトリエで録ってというと、本当にひとりで籠もりきりになってしまうと思って。いろんな人を招いたら気持ちもオープンになるし、手作り感と自分の空間の両方を表現できるんじゃないかと思って。ほとんどの方を自分で電話をして誘ったのですが、これがなかなか大変で。スケジュール的に厳しい方もいらっしゃって、そこを何とか2~3時間で終わるからと頼んだりして。
まず初めに呼んだのは?
去年の4月から作業を始めたのですが、ちょうど井上陽水さんのツアーにコーラスで参加し始めた時期で。私の他に参加していた我那覇美奈ちゃんとMayumixちゃんのふたりを呼んで録ったのが、スタートになりました。声の組み合わせが良いなと感じていたし、『いろどって』というカラフルな曲にはぴったりだと思って。華やかな曲になって良かったです。
リード曲「Stay with me~恋なんてヒマつぶし~」には、リリー・フランキーさん、スチャダラパーのBOSEさんが参加していますね。
リリーさんとは3年くらい前、私がロンドンに留学していた時、リリーさんがアビィロード・スタジオでレコーディングするという企画があって。当時の私のプロデューサーを通じてバックコーラスで参加させてもらったんです。アビィロード・スタジオなんて滅多に入れないと思ったから、便乗させてもらったという(笑)。BOSEさんはリリーさんと同じ事務所だし、私は昔からスチャダラパーさんが大好きで聴いていたので、そういう意味では願ったり叶ったりの1曲でしたね。
歌詞は、普通とはちょっと視点の違う恋愛ソングになっていますが。
いろんな人から恋愛経験談を聞いたり、知らない人のブログを読んだりして、恋愛はヒマつぶしや独占欲、寂しさを紛らわすみたいなものに置き換えられるんじゃないかと思ったんです。そういう冷めたひねくれ目線から、この歌詞が生まれました。最近リリーさんの本を読んだら、この歌詞のテイストとすごく似ていて、何かがつながった感じがしましたね。
「STAR」には依布サラサさんとその娘さんが参加。左右で二重音声のように英語と日本語で歌っている面白い作り方ですね。
これは私もすごく気に入っている曲。陽水さんのツアーに参加させてもらった時、陽水さんが舞台上で発光しているように見えて、これはまさしくスターだと思ったんです。周りをハッピーに楽しくさせてくれるし。そういうことを音で表現したいと思って遊び心のある音になりました。
全体に日常的なものをテーマにした歌詞が多いのですが、これは意識したのでしょうか?
アトリエ感、生活の一部みたいなところで、朝起きて、顔を洗って、歯を磨いてっていうのと同じように曲も作りたいと思って。そういうところから日常感が出ているんだと思います。あと、アレンジで実験的なことをたくさんやっているので、歌詞のテーマを分かりやすくしたらギャップが出て面白いと思って。
「Laundry」はまさにそのギャップが出た曲で、歌詞が洗濯なのに音は実験的という。
失恋の悲しい気持ちも、洗濯機で洗い流されて、最終的にはハッピーになれたら良いなっていう歌詞。ロンドンで録った雨の音と洗濯機の音が入っているのですが、歌詞で”3分間のお話”と歌っていることから、ぴったり3分にしたくて、ちょっと足りない時間分を雨と洗濯機の音で調節しているという。
「Gills」では朝起きてからの行動を描写していますね。
ロンドン留学時代に課題で作ったフレーズを基に発展させた曲です。結構みなさん朝が辛いって言うじゃないですか、そういう意味でも共感しやすいかなと思って。
これにはORANGE RANGEのNAOTOさんが参加されていますね。
NAOTOさんとは、1年半くらい前に彼のソロプロジェクトdelofamiliaにゲストヴォーカルで参加させていただのがきっかけ。その時は沖縄でリハしたり、ツアーをやったりして。そのバンドのギタリストのkoheiさんにも参加してもらいました。
タイトルの“ジル”はギターの名前だそうですね。
エアラインっていう、ホワイト・ストライプスのジャックが弾いていたメーカーのエレキ。ロンドンの中古屋で買ったビザール・ギターで、音も安っぽいのだけどそこが良くてひと目惚れだったんです。NAOTOさんにはそのギターを弾いてもらっていて。名前を付けると愛着が沸くんですよ。他にはメアリーという名前のマーチンのアコギと、ベルという名前のギターもいます。ギターの音が左右でズレてるのですが、これはデモを作った時にたまたまズレてしまって、でもそれが面白くてあえてやってみました。
海外の方との曲もありますね。
去年の10月くらいにソニー内でソングライターが集まって2~3人ひと組になって半日で曲を作るという交流会があって、そこで出会った方たち。世界各国から大勢集まっていて、マイケル・ジャクソンの従兄弟という人もいました。みなさん作家として活躍してらっしゃるので、それぞれスタイルを持っていてすごく勉強になりましたね。『My Start』に参加していただいたピーターさんは、その後すぐスウェーデンに帰ってしまったのですが、データでやりとりして、国境を越えた制作になりました。
最後の「ひとつひとつ」はラストで大合唱になって、アルバムをすごくまとめている曲になっていますね。
これは友達やソニーのスタッフなど大勢の方に歌ってもらっていて。あと、私の弟(nobo fu)にもクラリネットを吹いてもらっています。私が今後やって行きたいことを象徴する曲になりましたね。やっぱりセルフプロデュースと言っても自分ひとりの力ではできなかったし、ひとりでやっているだけではなかなか成長もできない。そういう部分で、今後もいろいろな方と関わってセッションしていきたいという気持ちを込めていて。今回の人選は、歌声や演奏だけでなく、その人の人柄や雰囲気も込めたいというのも大きかったんです。みなさん以前から交流があって、普段お話をしていてもすごく楽しい方たちばかり。そういう普段の生活の中でのひとつひとつのセッションも大切だったと思うし、リスナーの方たちにもその空気感が伝われば良いなと思います。
とげとげしさや角張った感じがまったくなく、でもすごくワクワクする作品ですね。
そうですね。“作られたもの=型があってそこにハメられたもの”というイメージがあると思うのですが、そういうきっちりと完成されきったものがないと言うか…。良い意味でいろんな隙間を残してあるので、聴いていただける方には、その隙間にスッと入り込んでいただけたらうれしいです。
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