ソロ作品第2弾。安全地帯の大ヒット曲「ワインレッドの心」のカバー、胸にグッとくる名曲「リコ」、さらには『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO』での武藤昭平×ウエノコウジによるライヴ音源を3曲収録している。
取材:田中 大

「ワインレッドの心」は、どういう経緯でカバーすることになったのですか?

スタッフのみんなと相談して決めたんです。ソロワークをするからには、勝手にしやがれを知らない人にも振り向いてほしいので、そのためにカバーをやるのはどうだろうということになったんですけど、勝手にしやがれでもカバーアルバムは2007年に出していて。だから、俺のチョイスだと、あまり変らない趣向になり得るなと。何か違うアイディアが欲しいというところで出てきた曲のひとつが『ワインレッドの心』だったんですよ。シンガーとしてこの曲にチャレンジしてみたいという気持ちもありましたね。

この曲は1983年のリリースですけど、その頃の武藤さんは?

中学校3年生だったんですけど、ませガキで(笑)。スターリンのコピーバンドをやってました。その頃は一風堂が流行っていて、その流れでジャパンにも傾倒して。ジャパンのミック・カーンのフレットレス・ベースの、ちょっとコーラスのエフェクトがかかった感じの音が好きでしたね。『ワインレッドの心』は当時流行っていたポップスの中でも、ベースの音がそういう系統だったので、反応しました。これは歌詞が井上陽水さんで、曲を玉置浩二さんが作っていて、取っかかりはベースの音だったけど、素直に良い曲だなと思いましたね。

スパニッシュなアレンジでカバーしてますけど、このサウンドはものすごくカッコ良いですね。

今年から始動しているソロプロジェクトや武藤昭平×ウエノコウジで、俺はスパニッシュ・ギターで弾き語りをやっていて。スパニッシュのガット・ギターと俺の声の響きがいいっていうのを、今年になって発見して。“だったら俺のなんちゃってスパニッシュじゃなくて、本当のフラメンコ・ギターの人とやってみたらどうか?”ということになったんです。“恐れ多くてできないぞ”っていう想いが最初はあったんだけど(笑)

(笑)。今回のプロデュースとアレンジをしていらっしゃるのは、スパニッシュ・ギタリストの沖 仁さんですが。

俺と全然違う畑の人ですし、ストリングスアレンジをしていただいた鈴木正人さん(LITTLE CREATURES)もそう。音楽的にもシビアで、完成度の高いものを持ってこられる方々だから、何を話したらいいのか最初は不安があったんですけど、それは心配いらなかったです。例えば、沖さんはフラメンコ・ギターのキャリアが長いけど、もともとはクラシック・ギターもやっていて、根本は“音楽が好き”というのがある。ギターを始めるきっかけは、自身がロックバンドをやっていたことらしいし。だから、ロック系の衝動的な部分も分かっていて。“そういうの楽しいですよね”とか話しながらできて、結果的にはすごく盛り上がってできました。こういう貴重な体験はソロならではですね。

原曲が好きな人も、このカバーは納得だと思います。

いいかたちで浸透してくれるといいですね。俺の歌とか声は一般的に“歌が上手いね”っていう人とは違ってクセがあると思うけど、“こういうのもいいね”っていろんな人に思われるようになりたい。『ワインレッドの心』の力と、畑が全然違うフラメンコというものと、全然畑が違う俺の歌が重なっていることによって、衝撃につながってくれればいいと思ってます。

あと、「リコ」もいい曲ですね。多くを説明してないけど、すごく物語を感じます。ラブソングとしても、旅の曲としても解釈できますね。

武藤ソロをやろうということになって、すぐにできた曲です。スタッフやウエノくんとか、俺のソロ用の曲ではこれをみんなイチ押ししてくれて。この曲のできたきっかけって、ちょっと重たい話なんです。詳しい説明が入るとダークな気分になるだろうと思ったので、説明を省いた断片の歌詞になってるんですけど。“どう捉えてもいいよ”ってなってる曲ですね。実は、飲み友達で乳がんにかかった人がふたりもいて、そのふたりとも名前が“リ”で終わるので、そこから“リコ”になったんです。女の子の名前と思うかもしれないけど、中南米だとリコは男の名前。万人に向けた言葉になるなあと。飲み友達のことだから、“愛してるよ”と言うのも、酔っ払って言うようなニュアンス。だから、歌詞に“酒”って言葉が出てきたり。そういう意味で応援歌というか、ちょっと励みになってくれればいいですね。でも、それを説明すると、くどくていやらしいかなと思って、説明を排除したんです。

記事に載せると説明になりますけど、それは大丈夫ですか?

いいんじゃないですか。それは読んだ人の特権で(笑)

今年はこのCDがリリースの締め括りですけど、どうやらソロアルバムに向けての制作も着々と進んでいるらしいですね。

目下制作中です(笑)。前のシングルはアイゴンがプロデュースのセッションでロックバンド。今回は俺とウエノコウジ。それを幹にした上で、どなたかが参加する感じになると思います。まったく違う趣向のものもありますけど…俺が思う“こういうサウンドをやりたい”っていうのは、基本的には勝手にしやがれでできてるんですよ。だから、ソロは俺が主導権を握るのではなく、できるだけ周りの意見を聞きたい。俺が決めると楽器が違うだけで、勝手にしやがれとあまり変らないものになりそうだから。俺の頭の中にはなかったビジョンをかたちにしたい。だから、アルバムは俺の声を抜きで聴いたら、“これってどういうジャンルですか?”っていうものにしたい(笑)。そんぐらいバラエティーに富んだものにしたいんです。俺の声が入ることで一貫したものが出るアルバムになったらいいなと思っています。ぜひ期待していてください。
武藤昭平 プロフィール

97年に日本が誇るジャズ・パンク・バンド、勝手にしやがれを結成。ギターレスであり、尚且つドラマーがヴォーカルを兼ねるという独特のスタイルが特徴の7人組だ。その中でリーダーであり、ドラムとヴォーカルを担当しているのが武藤昭平。

09年にはバンド活動だけでなく、ウエノコウジ(ex.thee michelle gun elephant)との弾き語りライヴを行うなど、ソロ活動も精力的に行い、10年2月に初のソロ1stアルバム『トゥーペア』をリリース。本作は、ライヴでの相棒としてお馴染みのウエノ以外にも、クハラカズユキ(The Birthday)、會田茂一、柏倉隆史(toe)、鈴木正人、大森はじめ(東京スカパラダイスオーケストラ)ら名うてのミュージシャンをはじめ、山崎まさよし、FPM、吾妻光良といった意外なメンツまでもが参加。多彩なコラボレーションによって彼の歌い手としての魅力が一層引き出された作品が誕生した。勝手にしやがれ オフィシャルサイト
公式サイト(アーティスト)

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