取材:石田博嗣
昔から憧れていた理想のロックを形にし
た
まずは弾き語りで回った中田くんのソロツアー『SONG COMPOSITE』の感想からうかがいたいのですが。
やって良かったですね。いろんな意味でプラスになりました。ずっと前からやってみたかったんですよ。単純に歌うのが好きだし、20代のヤツが70年代や80年代の歌謡曲を歌う面白さもあるだろうし…でも、想像以上に疲れましたね。ひとりで2時間以上やるってのは。もちろん、楽しかったし、お客さんも楽しんでくれたと思いますけど。椿屋ではできないこともいろいろできたんで。
このソロツアーをやって、どんなものが得られましたか?
諦めないこと、歌いきること…ですね(笑)。楽器がない分、誤魔化しがきかないんで。だから、集中力を切らさないで表現しきる…表現力を要求される曲が多かったから、気持ちを込めて歌うことの大事さを改めて実感しました。それに、名曲ばかりなんで、曲の構造とか学ぶことが多かったですね。ほんとに良い曲ってのは最小限の伴奏だけでも成り立つんだなって。あと、ヴォーカリストとしての自信もつきました。こういうこともやれちゃうロックバンドのヴォーカリストということで、“俺はこのスタイルでいこう”って思ったというか。
ソロツアーの後にバンドでのツアーもありましたが、やはり今までとは違いました?
違いましたね。客席に向う気持ちが前と変わりました。前は“聴いておくれ~”だったのが、“聴けー!”になったというか(笑)。バンドをしっかりとリードしていかないといけないっていう気持ちが芽生えましたね。
そして、今回のアルバムなのですが、配信シングルはあったものの、作品としては前作から1年半ぶりですよね。
時間は空いちゃったんですけど、レコーディングはタイトだったんですよ。ものすごい数の曲を書いたんで、レコーディングに入るまでに時間がかかったんです。いっぱい書かされましたからね(笑)。一応、テーマがあって…椿屋四重奏ってマイナー調の暗い曲が多いんで、明るい曲が欲しいって。包容力のあるアルバムにしたかったんですよ。簡単に言えば、光が差し込むような明るい作品…そういうものがほんとに作れるのか少し不安もあったんですけど、これが意外に作れちゃうんですよね。開き直って、楽しみながら作ってたんで(笑)。だから、今まで出してこなかったものを中心に書いてました。
確かに、今までない曲調のものもありましたけど、逆に椿屋のコアな部分が出ている印象がありましたよ。
よく言われます(笑)。もともと自分がやりたかったことなんでしょうね。2枚目の『薔薇とダイヤモンド』というアルバムの時に、こういうことをやりたいと思ってたんですけど、技術と経験が追い付いてなくて、結局暗くなってしまったんですよ。それはそれで面白いものになったんですけどね。でも、今回はちゃんと“想い”と“結果”がつながったような気がします。
あと、一本の軸はあるんですけど、統一した色がないように思ったのですが。
そうそう! 俺も完成したものを聴いて思いました。今までのアルバムって場面が切り替わるぐらいで、なんか話が続いていたりしたんですけど、今回のアルバムは1曲1曲の主人公が違うし、まったく違うストーリーが展開しててバラバラだなって。でも、アルバムとしてはしっかりとまとまっているという。
楽曲的には、今まで以上に中田くんのルーツを色濃く感じました。『SONG~』をやったことの影響が出てるのかなと。
影響はありますね。『太陽の焼け跡』とか。なんかね、当時の歌謡曲って潔いんですよ。今だと照れてしまうようなことを、やりきってるカッコ良さがあるというか。そこが俺は好きなんだと思ったんで、その感覚のまま曲を書いてました(笑)
「太陽の焼け跡」のようなディープな恋愛ドラマ的な楽曲は椿屋ならではと思うのですが、その深さもより深くなってますよね。
今までだと最終段階でちょっと濁してたり、少しオブラートに包んでたりしてたんですけど、今回はそういう部分も惜しげもなく全部出してしまおうと。“うわぁ~、恥ずかしい”と思うんですけど、聴くと面白いし、スカッとするんですよね。
「空に踊れば」みたいな内省的なものも出してしまえと?
そうですね。でも、暗く聴こえないと思うんですよ。それだけ開き直れているんだと思いますね。そういうのも堂々と出せるようになったというか。
「CRAZY ABOUT YOU」のような憂いがありつつも、楽しげにハネるサウンドも行ききってますね。
チャラいところは、ほんとチャラくしようと思って(笑)。『SONG ~』をやったせいもあると思うんですけど、歌とメロディーに自信があれば、どんな服を着せても良いって思ったんですよ。ちょっと前だと恥ずかしくてできなかったと思いますからね。逆に、これができるのが今の椿屋の強みかなって。あと、今回は歌詞の面でもかなりストレートに書いた…自分をさらけ出すっていうわけじゃないんですけど、どこまで血の通った言葉で書けるかってのを意識したし、聴き手が聴いて一瞬でイメージできるようなスピード感も意識しましたね。
今作はバンドにもこだわっているように思えたのですが。
そうですね。打ち込みも入ってるんですけど、人力でやりたいと思ってたんですよ。前作ってテーマが“東京”だったせいもあって、どこか無機質な感じがあったんで、有機的な、人の温もりがあるようなものにしたいと思ってました。
そんな本作に“CARNIVAL”と名付けた想いというのは?
前作が…抽象的なイメージなんですけど、地球の外から東京を見ていて、そこからどんどん東京に住む人間たちにピントが絞られて、その人間たちの心の中に入っていって、最後にそこに不時着して、“周りには何もないけど、ここから始めるんだ!”みたいな終わり方をしたんですね。今回は、それのまったく逆のイメージなんですよ。何もない砂漠の真ん中でバンドのメンバー4人だけで祭りを始めて、たまたま通りかかった人が“何かやってるな”って足を止めて、どんどん人が増えていって、街の方からも人がやってきて、気が付いたら大きなカーニバルになっている…っていう。街の中じゃなくて、何もないところから始まったっていうところが重要なんですよ。今って技術が進歩してて、パソコンがあればレコーディングもできちゃうし、配信で世の中に出すことができるじゃないですか。すごくお手軽にロックが作れちゃう。でも、ロックってそんなお手軽なものじゃないと思うんです。普通の仕事ができない人たちとか、社会でやっていけないような人たちが、他にできることがなくてロックをやるんだけど、最終的に万人を巻き込んで勝ち上がっていく…それが俺の中に昔からあるロックのイメージなんですよ。そういうものに憧れているんで、その理想をこのアルバムでは形にしたというか。そういう意味でも、今までで一番ロックなアルバムになったと思いますね。
このアルバムを引っ提げたツアーが控えてるのですが、結構長いツアーですね。
そうですね。長いツアーが向いているアルバムだと思うんですよ。前作のツアーもすっげえ長かったんですけど、内省的な曲が多かったんで、ライヴをやりながら“もっと盛り上りたいな”って思ったんですね。その気持ちが今回のアルバムの制作時からあったかもしれないですね。だから、今回のツアーは始まる前からすげえ楽しみにしてるし、絶対に盛り上がるし、楽しくなると思います。
00年に仙台で結成された唯一無二のロック・バンド。現在のメンバーは中田裕二(vo&g)、永田貴樹(b)、小寺良太(dr)の3人。“和”を意識した楽曲、ライヴを“演舞”と呼ぶなど、艶ロックと称される強烈な個性で日本のロック・シーンに新たな風を吹き込んでいる。主に作詞・作曲を担当している中田は、安全地帯やTHE YELLOW MONKEY、CHAGE&ASKAなどに多大な影響を受けている。
02年に、幾度のメンバー・チェンジを経て、中田、永田、小寺の3人編成となり、03年8月に<DAIZAWA RECORDS>より1stミニ・アルバム『椿屋四重奏』でデビュー。アルバム全体にみなぎる初期衝動と鋭角的なサウンド、そして艶やかに非日常を歌う世界観が巷で話題を集め、その名を一躍全国に轟かす。
04年4月、1stフル・アルバム『深紅なる肖像』を発売。他の追随を許さぬハードでドラマティックな激情サウンドを確立。各地でワンマン・ライヴを成功させ、インディーズながら『ROCK IN JAPAN FES』はじめ全国の夏フェスやイベントに出演。05年6月に1stシングル「紫陽花/螺旋階段」をリリース後、全国各地でパワー・プレイを獲得、テレビ朝日系『ミュージックステーション』などの地上波テレビ出演により大反響を得る。
九段会館でのワンマン・ライヴの際に、サポート・ギタリストとして安高拓郎を新たに迎え入れる。05年9月に第一期・椿屋四重奏を総括した2ndフル・アルバム『薔薇とダイヤモンド』をリリース。その後、06年3月にSHIBUYA-AXで行われた『熱視線IV 〜ENDLESS GAME〜』公演にて、サポート・メンバーとして参加していた安高のメンバー正式加入を発表、晴れて真の「椿屋“四重奏”」となった。4人編成としての新たなスタートを切った椿屋四重奏を世に知らしめるべく放たれた2ndシングル「幻惑」では超攻撃型ロック・ナンバーを披露。同年の大晦日には、バンド史上初となるカウントダウン・ライヴ『ナカノ・サンライズ』を開催。
約3年間のインディーズ活動を経て、07年5月にシングル「LOVER」で<ワーナーミュージック・ジャパン>よりメジャー・デビュー。同年8月には、ダイナミックなバンド・サウンドと文学的に綴られた歌詞によって表現された「恋わずらい」を発表。08年3月には既発シングルを含むメジャー1stアルバム『TOKYO CITY RHAPSODY』をリリース。更に進化した椿屋サウンドとポピュラリティーが見事に結実した傑作が誕生した。このアルバムを引っさげて各地でライヴを開催、企画ワンマン・ライヴ『熱視線』も定期的に行い、シングルの発売が待ち望まれていたが、約1年半年ぶりとなる音源は、09年8月にメジャー2ndアルバム『CARNIVAL』としてリリースされた。
そして、全国31ヶ所32公演『TOUR '09 CARNIVAL』の振替公演が終了直後の10年3月1日、音楽的な方向性の違いにより安高拓郎が脱退。当初のメンバーである3人編成に戻ったものの、安高が所属した4年間を糧として精力的な活動を展開。5月には、東海テレビ・フジテレビ系昼ドラマ『娼婦と淑女』の主題歌に抜擢されたシングル「いばらの道」を発売し、今までのファンに加えて、多くの主婦層のファンも獲得した。同年8月にはメジャー3rdアルバム『孤独のカンパネラを鳴らせ』をリリースし、年末には地元・仙台で約4年ぶりとなるカウントダウン・ライヴ『SENDAI SUNRISE』を開催。作品を発表する度に進化を遂げ、バンド結成10周年を最高の形で締め括った彼らだったが、11年1月11日、永田貴樹(b)の脱退を受け、苦渋の決断とも言える解散を発表した。今後、永田貴樹(b)は音楽活動を辞め新たな道に進むことになり、中田裕二(vo&g)と小寺良太(dr)は、別の形で音楽活動を継続していく。椿屋四重奏Official Website
椿屋四重奏Official Website
椿屋四重奏オフィシャルサイト
公式サイト(レーベル)