【城 南海】
『城 南海 ウタアシビ 2017 夏』
2017年7月9日 at 恵比寿ザ・ガーデン
ホール

 自身のルーツをテーマにした夏ツアーの追加公演。バンドマスターただすけ(Piano)、石村順(Ba)、遠山哲朗(Gu)、notch(Per)、田中詩織(Viola)、古川淑恵(Cello)で構成されるバンドを従え、デビュー曲「アイツムギ」から始まる。公演前に体調を崩した彼女を心配した観客の声援に涙を浮かべながらも笑顔を見せながら、いつもと変わらぬ伸びやかな歌声を届ける城。7月19日発売のニューシングルに収録されている、まだ見ぬ未来に想いを馳せる新曲「未完成の世界」を初披露すると、デビュー当時はこの曲で歌に気持ちを込めるということを学んだという中村 中のカバー曲「友達の詩」を歌唱。その憂いを湛えつつ凄みのある歌声に圧倒されて、会場は息をするのも忘れたように静まり返り、歌い終わった城に感極まったオーディエンスから“最高!”と声がかかった。そして、シークレットゲストとして奄美の先輩でもある元ちとせをステージに招き入れ、元のデビュー曲「ワダツミの木」をお互いの個性が生きたグイン(奄美大島固有の歌唱法)でじっくり聴かせる。ふたりの歌姫による夢のような豪華な共演に会場が酔いしれたことは言うまでもない。その後、「豊年節」「ワイド節」といった奄美大島のシマ唄でにぎやかに歌い踊り、会場は大いに盛り上がった。

 続いて、今夜のスペシャルゲストとして、城がデビュー間もない頃からお世話になっている音楽プロデューサーの武部聡志が登場。“歌が素晴らしく良くなったよね。本当にね”という恩師の賛辞に、“ええっ! 嬉しいです!”と驚きながらも胸いっぱいの表情を見せる城。そして、ふたりが最初にレコーディングした「紅」をピアノと歌のみで披露する。武部の卓越したピアノに乗せて、ますます輝きを増す城のヴォーカル。ピンと張りつめた共演に、客席から割れんばかりの拍手が送られた。さらにバンドメンバーも参加し、武部が城に合うのでは?と勧めた荒井由実の「やさしさに包まれたなら」のカバーを本邦初公開。その完成度から“今度レコーディングしよう”という武部の提案に城も大喜びする場面も。その後、武部が編曲に携わったニューシングル表題曲「あなたに逢えてよかった」へ。武部はこのナンバーについて“すごくいい曲に仕上がったと思っていて。これはきっとこれから先、10年、20年歌っていける歌になったんじゃないかなと思います”と率直な想いを語った。また、城はインタビューで“背中を押す気持ちで歌っています”と述べていたが、そんな彼女のやさしくかつ揺るぎない歌声は、聴き手の心を勇気付けたことだろう。

 最後は武部の鍵盤ハーモニカ&バンドとともに「兆し」で締め括られた本公演。迷いなく真っ直ぐに心のまま歌う城の姿を見て、「兆し」をリリースした2011年当時、作曲・編曲・プロデュースを担当した武部にインタビューをした時の言葉が蘇ってきたーー。
 “今の城さんの年頃は、日々すごく変化して大人になっていくし、そんな中で自分の内面と向き合わなくてはならない時期が絶対に来るでしょう。彼女と最初に会った時は、それこそ屈託のない笑顔の女性だったけれど、今はもう少し自分の内側にあるものと向き合うような歳になってきたんじゃないかな?と感じたんです。(中略)人によって、この瞬間だからこそ似合う歌、みたいなものが絶対にあるはずなので、僕なりに城さんのことを見て、今はこういう歌が似合うんじゃないかな?という曲(「兆し」)を作ったつもりです”。
 …あれから6年。さまざまな出来事と出逢い、彼女は何度も自分の内面と向き合った。その中で変化して大人になっていき、自身の世界をどんどん広げていったからこそ、歌の説得力が格段に深まっていったのだろう。武部が言った“歌が素晴らしく良くなったよね”という言葉の持つ重みも改めて感じる。そういう意味でも、城がこれまで丁寧に紡いできた絆が、そしてルーツが強く感じられた、特別な一夜となった。

撮影:石田 寛/取材:桂泉晴名


セットリスト

  1. 1. アイツムギ 
  2. 2. 誰カノタメ二
  3. 3. 蛍恋
  4. 4. いつか星になる
  5. 5. 未完成の世界
  6. 6. 友達の詩(カバー)
  7. 7. ワダツミの木(カバー)
  8. 8. 豊年節~ワイド節
  9. 9. 紅
  10. 10. やさしさに包まれたなら
  11. 11. あなたに逢えてよかった
  12. 12. 祈りうた~トウトガナシ~
  13. <ENCORE>
  14. 1. 会いたい(カバー)
  15. 2. 兆し
城 南海 プロフィール

キズキミナミ:平成元年 鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡“シマ唄”をルーツに持つシンガー。2006年に鹿児島市内でシマ唄のパフォーマンス中にその歌唱力を見出され、09年1月にシングル「アイツムギ」でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた「あさなゆうな」、「夢待列車」をはじめ、NHKドラマ『八日目の蝉』の主題歌「童神~私の宝物~」、NHKBSプレミアム時代劇『薄桜記』の主題歌「Silence」、一青窈作詞、武部聡志作曲・プロデュースのシングル「兆し」など。また、テレビ東京『THE カラオケ★バトル』に2014年7月に初出演以来、毎回高得点をたたき出し、現在、番組初となる10冠を達成。オンエアの回数が重なるにつれ、カバーアルバムを望む声が多く集まり、15年に初となるカバーアルバム『サクラナガシ』『ミナミカゼ』、17年11月には3枚目のカバーアルバム『ユキマチヅキ』をリリース。20年にはディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」の歌唱が決定し、日本版の訳詞も担当。ライヴでは毎年恒例のワンマン公演『ウタアシビ』の他、さまざまな音楽フェスティバル、イベントに出演している。城 南海 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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