【音踊人15】私のトラウマ(仮)と『
シン・ゴジラ音楽集』をめぐる一人旅
(都内在住(み))

音楽好きの中で映画のサウンドトラックを買ったことがある人ってどれぐらいいるのだろう。まして、サウンドトラックCD収集という趣味をこの国でどのぐらいの人が認知しているか、ほとほと謎だ。
私の場合は菅野よう子澤野弘之、マイケル・ナイマン、ハンス・ジマーなどのサウンドトラックが手元に多い。映画・アニメ好きで音楽担当を気にする人なら多分知っている人も多いミーハーなラインナップだけど、気にしない人は全員知らなさそう。(ちなみに紹介した人順に有名な担当映像作品を挙げると『攻殻機動隊シリーズ』『ガンダムUC』『ピアノ・レッスン』『ダークナイト』など)レンタル屋にも小さいけど大体必ずサントラコーナーがある。あまり人に推したことないけど音楽良いしレンタル屋でも借りれるから聴いて……! という密かなパッションを秘めたまま私はここまで一人淡々とサントラを買い集めてきたのだった。
で、そんな私だが、サントラに関する個人的な出来事を語るには今しかないとグッとくるようなことが最近あった。
映画『シン・ゴジラ』のブレイクに伴い、同作のサントラである『シン・ゴジラ音楽集』がオリコンデイリー1位に飛び出したのだ。のちにアルバムウィークリーランキングでも5位にランクインするという流行にフルに乗っかりまくった展開になった。サントラも好きだが映画文化も好きなので、それらが日本のみんなの流行に乗ったことは心の底から喜ばしい。
まず、劇場最新作なのに映画館でサントラが売り切れているという体験をさせられたのはこの『シン・ゴジラ音楽集』が初めてだった。最近仕事にかまけて映画館に行っておらず、封切り日まで映画をやることすら知らなかった私だが、封切り日の翌朝にTwitterのタイムラインから「新作のゴジラが本気で怖い」とかいう噂が流れているのを目にとめた。ゴジラ映画は子供の頃に見せられたもの(調べたら84年版だった)が当時幼稚園児だった私には軽いトラウマとして残っていたが、その後のゴジラ映画についてはそこまで怖いものは1本もなかった印象がある。予告が気になったのでYouTubeに飛んで公式の予告を見た。
「あっ、これまずいやつかもしれない……。」

という第一印象があった。
ゴジラのディテールも一見してザラっとしているが、何よりもBGMが不吉な感情を掻き立てるのだ。園児時代より後に“怖くないゴジラ映画”もたくさん観たが、この音で真っ先に思い出したのは園児時代テレビにかかっていただけで居間から逃げだしていた「1本だけあっためっちゃ怖いゴジラ」だった。恐怖を思い出させる音楽は世の中に存在する。たった1分そこいらの長さでも。
ただ、あの時と違って自分はもういい大人だし、今ここで園児時代のトラウマ(仮)は乗り越えなきゃいけないんでない……?という自分自身に対する焦り、のっぴきならぬ気持ちもそのとき胸の内に生まれたのであった。
たまたま休みの日だったので、そんな胸のざわつきも放置できず勢いで近所の映画館まで一人で行った。未見の人はとにかくこの長文も一回読むのをやめて先に映画を見てほしいのだが、『シン・ゴジラ』は怖かった。しかし作品自体は最後に希望を残し、私は純粋に面白いという感想とともに、園児時代のトラウマ(仮)とサヨナラする形で無事視聴を終えることができた。
この映画の音楽担当はエヴァンゲリオンシリーズの鷲巣詩郎で、監督が庵野秀明だったこともあり、視聴中音楽面で驚かされたシーンもいくつかあった。まさかゴジラの中でエヴァの音楽が流れるとは……(と錯覚したが、私はエヴァにそれほど詳しくないのでたまたま印象的なフレーズが被っているだけなのかもしれない。かなり意図的に)また劇中で流れる鷲巣さんのオリジナルスコアもうっとりするような美しさがある。そして要所要所では過去のゴジラシリーズを飾ってきた伊福部昭のスコアが流れ、庵野監督による選曲がいちいちツボをつく内容で唸らされるのだった。でも上映中は当然何一つ声に出すことは出来ない。
映画視聴後に呆然としながら売店まで行ったが、その時点でパンフレットとサントラが売り切れていた。映画で感動したらとりあえずサントラをチェックしたい私にとって、追い打ちであった。
これはもしかすると、この映画めちゃくちゃ当たるかもしれんなぁ。

──と思いながら家路についた7月の末だった。
この映画のサントラ『シン・ゴジラ音楽集』がチャート入りするのは翌8月1週ごろの話で、私はなかなか現物に巡り会うことができなかった。とにかく在庫がない。そもそもサントラが全国各地で売り切れるということが普通まず誰の想定にもない。Amazonでぽちっても良かったのだけど、どうしても店舗で買いたくて、最終的に電車で1時間以上する立川シネマシティ(狂ったように音響設備に力を入れており恐らく関東でもっとも音質が凄い映画館)まで『シン・ゴジラ』を見に行った際に現地最寄りのCDショップでようやく購入することができた。
ゴジラが最初に上陸するシーンの、鷲巣さんのオリジナルスコアによる楽曲が、聞き直すたびに何度でもあのシーンの絶望を思い出させてくれて気に入っている。とても美しい曲だ。また、このアルバムが誰かにとってサウンドトラックの世界の扉を開いてくれている最初の1枚になってくれることを、サントラ収集家として密かに願っている。
また、映画『シン・ゴジラ』の方もIMAX(超巨大スクリーン上映)が8月25日から再開するそうなので、公開終了までにはまた行ってみようかなと思っている。そしてどこかで園児時代のトラウマ(仮)だった元の『ゴジラ』もちゃんと見返してみようと思う。今度はちゃんと恐怖と向き合って観られるような気がしている。
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