迫力ある闘剣シーン、分かりやすい脚
色、NBAバレエ団・久保綋一版『海賊
』堂々の世界初演【公演レポート】

先月東京文化会館で、NBA(日本バレエアカデミー)バレエ団の久保綋一版『海賊』が世界初演された。実に痛快でジンとくる新演出だった。
海賊の首領(宮内)とオスマン軍総督(宝満直也)の一騎打ち! 手に汗握る名シーンだ
まず、久保芸術監督による脚色が面白く分かりやすい。旧来の『海賊』は、見せ場の踊りの良さや異国情緒に富んだ舞台などで人気が高いものの、英国のジョージ・ゴードン・バイロンの原作詩劇から離れたストーリーで、煩雑かつ説得性が不十分。海賊の首領とトルコ軍総督が美しい奴隷女性を奪い合う筋書きだが、主要人物の行動や動機付けが釈然としないまま話が進むからだ。
久保綋一芸術監督。バレエを通じて日本文化を世界へと奮闘している。2015年には文化庁芸術祭賞の新人賞を受賞
久保監督は原作に立ち戻り、総督のハーレムで不自由なく暮らしていた女性が、海賊の首領に思いを寄せたために招いた顛末を首領の恋人と対比表現。ハーレムの女性の切ない境遇が伝わってくる。また、原作が書かれた1814年頃はオスマン帝国の勢力が衰え始め、やがてギリシャが独立を果たす少し前の時代であることに着目。海賊をギリシャ独立に奮起した義賊にし、オスマン軍の奴隷商人たちと闘う構図をとり、意気のいい男性ダンサーたちが刀剣を手に大立ち回りも披露する斬新な冒険活劇風のバレエに仕上げた。闘剣シーンはリアリティーがあり、迫力満点。米国でステージ・コンバットを習得し、宝塚歌劇や劇団四季などでも西洋剣術指導している新美智士(にいみ・さとし)に教わった成果だという。
海賊の首領(宮内浩之)と恋人(峰岸千晶)のロマンチックなパ・ド・ドゥ
従来の見せ場の踊りは生かしながら、場面がテンポよく展開するのも心地よかった。これは、理にかなった作曲手法が功を奏したといえるだろう。『海賊』の音楽は複数の作曲家の音楽を寄せ集めた格好で、統一感があるとは言い難い。そこで、新国立劇場バレエ団指揮者の冨田実里に音楽監修と指揮を依頼。冨田は、場面ごとに最適な分数、曲調などを久保らと相談してト書きした五線紙を、まず作成。それを基に、作曲家の新垣隆が、既存の曲との継ぎ目をどうするか考え、物語や振り付けとの融合や全体のバランスをとりながら作曲した。ハープを駆使した優美な場面、打楽器を効かせたエネルギッシュな戦闘シーンなどメリハリがあり、観客は終始食い入るように鑑賞していた。
作曲家の新垣隆。NBAバレエ団とのタッグは『死と乙女』に次いで2作目
久保は、米国・コロラドバレエ団で20年間プリンシバルを務めた後、2012年から現職にある。「バレエを通じて日本文化を世界に」を目標に掲げ、2016年には、オールジャパンメイドの新作バレエ『死と乙女』を発表。新垣が作曲し、数十人のダンサーが踊る舞台で、ピアノを林英哲の太鼓と共演する、独創的な作品だった。
本作品では男性ダンサーが存分に踊り、立ち回るさまが見事で、男性バレエファンが一気に増えそうに思えた。再演が待たれる。
取材・文=原納暢子  舞台撮影=吉川幸次郎

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