毎月テーマを変えて、さまざまな人に選曲をお願いしている「MIXTAPE」企画。今回は「アメリカ」。「アメリカ」が持つ姿は人それぞれ。摩天楼の街並み、ゆったりとしたレイドバックな風景、乾いた大地、往年のギターヒーローなどなど。時代や場所から想像される「自分の中のアメリカ」をミックステープでお届けです。
アコースティックギターを弾きながらラップする日本ヒップホップ界のリビングレジェンド GAKU-MC のアメリカ。


この企画の趣旨である MIX TAPE。カセットテープにお気に入りの曲を実際に並べ、そればかり聞いていた。高校生の頃。大好きなラップの曲達を入れて、擦り切れるまで聞いた(実際には擦り切れる、というより巻き込んであわわ、となることの方が多かったけれど)。大好きなあの子にテープを送るために一晩かけて、曲を選び、録音した。46分の片面23分に5曲入れられるのか、いや4曲だとちょっと余ってしまう、、、、等。空が明るくなるまでそれを必死に作った。

『ああ、そういう文化、ないっすね』

世代の違う僕のバンドメンバーにカセットの思い入れを聞いたらこの返答。ちぇ。でもあの頃のそれがあるから、今の僕があるのは間違いない。大好きなラップをあの子に聞いてもらう為に、テープを必死にまとめた夜があって、その延長に今日がある。だからとても楽しい思い出。当時を思い出しながら、お題の曲を選んでみたい。
 
『わたしのアメリカ』

Kenny Loggins 『Danger Zone』

初めてのアメリカは実際に行った本土よりも、もしかしたら横田だったのかもしれません。東京の西の方。米軍基地がある。季節によってそこで開かれるお祭り(普段入れない基地も解放されて中に入れる)に友達と何度も行った。ゲートの前にはアメリカを強く意識した店が沢山並んでいたし、中に入ると当時日本にはなかったバーガーキングがあって、
『ああ、アメリカだあ』
そう無性に興奮した記憶がある。基地の中は右側通行。見たことの無いアメ車が英語のナンバーをつけて走ってる。そしてその先に見える戦闘機。トップガン(トムクルーズ主演の映画ね)のサウンドトラックがずっと頭の中、流れてた(単純)。

U2 『With Or Without You』

初めての本土はシアトル。高校二年の時に参加したホームステイプログラムでバンクーバー(カナダ)へ行った。とても素敵なホストファミリーに迎えられ、異文化を体験。英語での生活、緑あふれる街の空気、全てが新鮮だった。シアトルへはそのプログラムの期間中、車で訪れた。
『国境を越えるのは飛行機』
なんとなくそんなイメージがあるのは我々が島国だからか。アメリカとシアトルの間はもちろん繋がっていて、ビーチは歩いて国境を超えられる(今はどうなんだろう?)。ホストファミリーと手を繋ぎ、
『ガクはアメリカ、わたしはカナダ』
そんな体験もした(同じ年の女の子がその家族にいたんだ。ずっとドキドキしてた)。アメリカすげえ。カナダすげえ。隣の国に手を繋いで歩いていける。その子がずっと車の中で、当時チャート賑わしていた曲を歌ってた。てっきりアメリカの曲だと思っていたけれど、よく考えたらアイルランドだよね。随分後に気がついた時にはちょっと笑った。

Run–D.M.C. 『Walk This Way』

本格的にラップにのめり込んだのはまさにそのカナダ&アメリカから戻った後。僕は16才だった。世界的ヒットを記録した初めてのラップグループ RUN DMC。エアロスミスの名曲 Walk this way を彼らなりに解釈してのカバー(そしてご本人達登場)は、高校生の僕を直撃。アディダスのスニーカーにジャージ(当時サッカー部だった僕の格好とそんなに変わらんぞ!)が新鮮だった。この出会いがなければ今の僕はない。そう断言できるぐらいの衝撃。後に、
『エアロスミス、好きだよ』
そう言ってくれたウカスカジー相棒桜井和寿 とこの曲をライブでカバーした。高校生の僕に話せるならこう言いたい。
『この曲好きでよかったね。そのお陰で大人になってもラップしてるぜ!』

Arrested Development 『Tennessee』

90年代のHIPHOPは僕の中で今を司る礎となっている。沢山のラッパーが生まれ、のちの世界の流れを決めたその10年。ハードコアなグループ。インテリジェンス溢れるラッパー。とにかくエロいことを歌い続ける能天気な連中も。土地の空気が音楽に色国反映されるようになった。80年代には数えるぐらいしかいなかったラッパーも、その頃になると数えることは不能。細分化され、シーンとして確立された。とにかく僕も沢山の影響をその頃のアメリカンラッパー達から受けた。一番影響を受けたのはアレスティッド・デベロップメントのフロントマン、スピーチ。ヒップホップ界初のグラミー受賞者。成金至上主義だった当時のシーンに黒人としてのルーツの大切さを説いた、いわば哲学者で変わり者。でも本当にカッコよかった。幸運なことに来日中の彼と出会う機会を得た。メールアドレスを聞き出し、想いを書き綴った。そしてその数年後、念願かなって彼とレコーディングをした。僕にとっては大切な思い出。共演した曲も素晴らしかったけれど、やはりミックステープに入れるなら最初に聞いたアレスティッドの名曲をチョイスしようと思う。

Jack Johnson 『Times Like These』

ラップが好きで、幸運なことにそれを生業に出来た。気づけばデビューから26年。随分経ったなあ、という思いと同時にまだまだ。という気持ちもある。やりたいこと、歌いたいこと、それこそ沢山あるよ。普段の生活においても、気になるのは韻。常に新しい言葉を探し、その母音を解析。韻を踏む言葉を探求している。だから疲れる(笑)。海にでも行って、歌詞のことを考えない時間を作ろう。そんな理由でサーフィンにのめり込んだ。海までいく時間、サーファーの友人からオススメされたジャックジョンソンがとにかく心地よかった。ギターと歌。シンプルなフロー。ラップから離れるつもりで出かけた先で、そこで出会った音楽が僕に影響を与えた。ギターを引きながら、のんびりラップ。いいね。彼のようなスタンスで音楽を奏でられたら素敵。リスペクトを込めて、はじめに好きになった彼の曲を選曲。


GAKU-MC「アメリカの音楽」はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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