majikoインタビュー 愛ゆえの狂気を
描く名バラードと表現者としての新境

majikoが7月4日にシングル「ひび割れた世界」をリリースする(先行配信は開始済み)。表題曲は、佐野史郎が主人公を演じ「怖すぎる」と反響を呼んでいる“オトナの土ドラ”『限界団地』の主題歌だ。同ドラマのテーマともいえる、愛ゆえの狂気、暴走し常軌を逸していく感情とその裏側のピュアネスを、自身の歌声で以って見事に表現しきるボーカルはさすがの一言。また、カップリングの2曲にも彼女の個性と、前作『AUBE』以降のメンタリティや志向、つまり“今”がありありと浮かび上がる。そんなシングルにまつわる話を中心に、まさかの“リア充宣言”まで飛び出したりと、新たな境地へと向かう彼女の胸の内を訊いたインタビュー。
――アルバム『AUBE』のリリースが3月だったので、リリース間も取材をするのもそんなに間隔が空いてないんですよね。
そうですね。いきなりのことだったので(笑)。
――あ、「ひび割れた世界」のリリースがですか?
はい。わたしの感覚的にはですけど。タイアップが決まってからアワアワしてました。
――制作はどういう流れで?
ドラマサイドから、こういう曲が欲しいですっていうイメージの方向性とバラードがいいというお話をいただいたので、小倉(しんこう)さんに作っていただいた「ひび割れた世界」がドラマタイアップになりました。
――タイミングとしてはいつ頃だったんですか?
「声」のプロモーションをしている時期だったので、3月の終わりぐらいです。だからもう、バッタバタでしたね(笑)。
――『AUBE』が出てすぐですもんね。今日はその『AUBE』がリリースされて以降に感じたことなんかも聞いてみたくて。
ライブで盛り上がれる曲ができたりとか、初めてライブで(ハンド)クラップを試したりとか、いろんなサーキットに出て初めて観るお客さんの反応も見れたりとか、すごく楽しい発見があったのが『AUBE』を発売して以降なんですけど、気持ち的にはライブに向けてもっともっとかっこいい曲を作っていきたいなっていう想いもありましたね。ミュージシャンの方だったり、バンドの方とかとの新たな出会いもありましたし。一番でかいのは佐野史郎さんですけども。
――ですよねえ。
もう、ビックリですよね。主題歌が決まる前からmajikoっていう存在を知ってくださっていて、ご挨拶に行ったら「聴いてた」と。「やっべえ、マジか!」みたいになって(笑)。「僕は音楽が大好きだから、好き嫌いはすごくハッキリしてるんだけど、僕はmajikoさんが主題歌で本当に嬉しい」とも言ってくださって。本当、光栄です。
――何でmajikoさんを知ったんでしょうね?
多分、「心倣し」のライブ映像ですね。「心倣し」に戸川純さん的な何かを感じたって言ってくださって。聴いてるんだ、超マニアックだなあって。わたしを知っているってすごくマニアックじゃないですか。
――しかも「心倣し」は元々ボカロ曲ですし、佐野史郎さんとボカロ曲っていう組み合わせもすごく意外ですよね。そういう出会いや、ライブの場で新たにmajikoさんの曲に触れる方もいる中で、そこから改めて認識した自分の強みとかもありました?
何回もライブをやっていくにつれて、何よりバンド感が上がってきているなって思います、映像とか見ても。サポートミュージシャンなので、いわゆるバンド形態の活動ではないんですけど、ライブでわたしが何より大切にしているのはバンドのみんなも楽しむことなので、アイコンタクトしたりして「楽しいね!」っていうテンションの高さだったりは、保ちたいなと思いますね。
majiko 撮影=高田梓
――そういう姿が自然と出せるようにもなってきたりも?
徐々にですけどね。初めてのお客さんだとやっぱり緊張するし……でも個人的にはアウェーの方が好きなんですけど。
――それは何故?
なんというか、誰もわたしのことを知らないから、何をしてもいいみたいな、そういう思考回路になっていて。期待に応えなきゃいけないとかがなくて、どうせマイナスかゼロから始まるから、そこをプラスにするのは期待に応えるよりかは簡単かな、みたいな。
――反応が薄かったらどうしよう、とかは?
そういうのは全然なくて、「好きになりたければなってください、どうぞお好きに」「自分はこんなんです」みたいな感覚ですね。むしろ昔から知っている人だとすごい緊張する。ずっと来てくださってる人の顔とかをライブ中に見ると、すごく嬉しいと同時に「ああ~、頑張ろう……うわぁー」みたいな――。
――親が観にきた、みたいな?
そうそうそうそう!(笑)
――そういうライブの場でも今作の曲たちは披露されていくと思いますけど、「ひび割れた世界」収録の3曲はいずれも、majikoさんの魅力をいろんな角度・方向で打ち出せています。まず、アートワークから目を引きますけど、majikoさんのイメージからオーダーしたものですか?
『AUBE』のジャケットを描いてくださったケイト・ベイレイさんにお願いしたんですけど、クーラ・シェイカーの『K 2.0』のジャケットを手がけていたりした方で、わたしはもともとすごくファンだったんです。年もけっこう近くて女性の方なんですけど、『AUBE』のときにすごく気に入ってくださったみたいで、今回も快く承諾していただきました。
――しっかりイメージが合致していますね。
はい。ジャケットのイラストの他に、パッケージを開けると仮面を外したバージョンも描いてくださっていて、ケイトさんの中でもちゃんと世界観が出来ているんだなって。
――海外の方だと、歌詞の内容とかに関してはニュアンスが伝わりづらかったりすると思うんですけど、そのあたりは。
そこはきっと音とかフィーリングですね。あとは『AUBE』のときに書いた「Avenir」っていう曲が英詞だったので、きっとそこから汲み取って『AUBE』のジャケットを描いてくださったと思うんですけど、それを経てのこのシングルなので、わたしっぽさというか、そういう部分をすごく考えて入れてくださってるのかなって。仮面を外すっていうのも、二つの顔というか、『Contrast』を彷彿とさせるような感じもありますし。
――表題曲「ひび割れた世界」は作詞作曲が小倉しんこうさん、アレンジが横山裕章さんですけど、歌ってみてどうでしたか?
わたしの得意分野とする、感情を爆発させる曲なので、歌っていて気持ちよかったですね。ライブでもそう。
――静から動への移行、コントラストの鮮やかさはmajikoさんの魅力ですよね。バラードだけどエモくて激しい、みたいな。
そうそうそう。ドラマ側も「心倣し」をリファレンスにしていたので、小倉さんもその通りに作ってくださって。
――ストレイテナーのトリビュートで歌った「冬の太陽」に通じる印象もありました。
ああ、「ひび割れた世界」はそこにちょっと狂気も加わったような。感情と狂気が混ざったような感じですね。
――エモさや狂気的な要素は孕みつつも、とても普遍的な“歌の良さ”が伝わってきます。メロディ自体の綺麗さをしっかり前に出している。
ありがとうございます。サビで爆発力がほしいという話ももらっていたので、感情をどういう風に声で表すかっていう部分は、結構悩みましたけどね。1サビとラスサビの違いとか……叫びなんですけど、あまりギャーっていうのは違うし、そこの塩梅は難しいと思いましたけど、やってみたらなかなか良い歌が録れました。
――ドラマの内容を踏まえた歌詞だし、歌唱にもそれは影響していると思いますが、majikoさんなりの解釈をしていく作業はどういう風に?
台本を読んでみて、話も聞いて、“愛ゆえの狂気”が一つのテーマだなって思いまして。佐野さん演じる寺内さんが、唯一愛する孫娘のために殺人を犯していくっていう物語、そこには絶対的に愛があるわけで。“君がいてくれさえすれば、他のものは何もいらない”っていう感情を、100%歌に込めて歌おうって思っていました。
majiko 撮影=高田梓
――愛や思いが暴走していく危うさ、でもそこにはある種の美しさがあるというか。そういう感情が度を越して正常を逸脱していく感覚って、majikoさん自身は理解できます?
自分もそういうところがあるので、すごくよくわかりますけど、あんまり言わないほうがいいかも(笑)。
――ですね(笑)。ちなみに、カバーも歌うし、自身の曲も作家の方から提供された曲も歌う中で、それぞれに違いや難しさみたいな部分はあるんでしょうか。
その都度、感情の切り替えは必要になってくると思いますね。自分なりに、こういう場合はこういう気持ちで、こういう声で、っていうのはある程度分かってきているんですけど……いろいろな歌い方があるとして、そのどれを選んだらいいかは自分の曲ならわかるんですけど、それを作家さんの意図とすり合わせるのは難しくもあり、一番楽しい醍醐味でもあるんです。「こういう風に歌ってみて」「こういう声は出せる?」って言われるのがすごく嬉しくて。どんどん言ってほしい、絶対に出してやる、みたいな。それが一番楽しいです、歌入れは。
――なるほど。カップリングについても聞かせてください。まず、「パラノイア」はご自身の曲。表題曲と通じる要素もありつつ、こちらは陰鬱としてない方の“狂気”が出ていますよね。バーンとぶちまける感じの。
そうそう。昔のわたしだったら陰鬱としたままだったんですけど。サビの<ぶん殴って終わらせてよ>みたいなワードって、昔だったら出てこなかったというか、今だからこそ、受け身じゃなくて攻めでいけるからこそ、出てきた歌詞なんだろうなと思いますね。
――サウンド面はジャズテイストで、とりわけスウィング感が強調されていて。
わたしはこういう曲調が大好きなので、今回も作らせていただきました。デモの段階でAメロにブラスを入れたことで全体にも入れることになって、それは想定外だったんですけど、かっこよくなったので良かった!と。
――あとは出だしのサビから歌の突き抜け感がすごくいいです。
ありがとうございます! 自分の曲でこういう(キーの)高い曲って全然書いてないなと、ちょっと冒険だ!と思って書いてみました。頭サビ(の構成)も、自分で作ったのは初めてなので挑戦でしたね。
――かなり高音域まで出せる強みが存分に生きた曲ですし、ライブ映えもしそうです。
すごく楽しみ。はやくやりたいです。
majiko 撮影=高田梓
――もう一つの「エスケイパー」もジャズテイストではありますけど、またちょっと雰囲気が違って。
そうですね。H ZETT Mさんが書いてくださった曲で、作詞はjamさんと一緒に、曲を聴いたイメージを膨らませてたら、走っているイメージが浮かんだので、何かから逃げていて光に向かって走っているっていう曲にしようかって、そういう歌詞を書いていきました。熱い思いみたいなものを感じますよね。
――以前のmajikoさんからは、あまりこういう意志の強い言葉・歌詞が出てくるイメージがなかったです。
たしかに。他の人が書いたメロディに歌詞をつけるのは難しいですけど、こういう発見もあるのが楽しいですね。あとはやっぱり、メジャーデビューしてからのmajikoは攻めで行くぞ、みたいな思いが……「エスケイパー」は結構前から出来ていた曲だったので、その思いが前面に出ていますね。
――H ZETT Mさんは『AUBE』にも曲を書いていますけど(「スープの日」)、相性はいいですか。
はい。すごく楽しいです。ライブでやっていても楽しいし、今度は合作とかもしてみたいですね。他にもいろいろな人と合作してみたいと思います。
――例えば?
ストレイテナーとか。あと荒井(岳史/a band apart)さんは「今度合作しようよ」って言ってくださって、まぁ飲みの席だったのでアレなんですけど(笑)、haruka nakamuraさんとも、「声」ではアレンジでしたけど、一緒に何かを作りたいなっていう気持ちはありますね。
――ホリエさんや荒井さんとは先日ライブでも共演されて。SNSとかからもう、楽しかったぶりがひしひしと伝わってきましたよ。
あははははは!(爆笑) めちゃくちゃ楽しかったです。光栄だったし、まさに救世主、夢物語っていう感じ。荒井さんがもう、MCでドッカンドッカン言わせてて、わたしもお二人と一緒に歌うゾーンがあったんですけど、そのときも息ができなくなるくらい、心臓止まるのかっていうくらい面白くて(笑)。
――トーク力高いですからねぇ。
めっちゃ面白いです。「なんでこんなに自分をけなすんだ、この人」って(笑)。
majiko 撮影=高田梓
――そういう先輩との共演や、さっきお話ししていたアウェーに出て行くことも含め、修行とまでは思っていないかもしれないですけど、鍛えられてる感覚もありそうですね。
鍛えられてますね。色々と勉強させてもらってますけど、特にMCはすごく苦手なので(苦笑)、全然もう粋なMCをしたことがないから、勉強になりますね。
――じゃあ、majikoさんもそのうちああいう……
自虐MCを(笑)。最近はテナーとかバンアパのMCスタイルを少し取り入れて、まさかのサポートメンバーも喋り出すみたいな、そういうことを実験的にやっているんですけど、まだあんまりうまくいかないですね(笑)。サポートメンバーの方ってみんな優しいんですよね。誰も突っ込んでくれないんです。「ああー、うんうん」みたいな。
――けなしてくれないんだ。
そう。けなしてほしいんです、わたし。けなしたり、なじってほしいんですけど、みんな優しいからフワッと着地しちゃう(笑)。
――(笑)。そういうライブの面も踏まえ、当面「こんなことをやっていきたい」って考えていることはありますか。
いっぱい曲を書きたいなっていう、自分の曲をもっと増やしたい気持ちはありますね。ライブをするにも一貫して自分の曲が多い方がいいなって気づいたので。自分のために書いてくださった曲だからそれぞれに色はあるんですけど、一本の核みたいなものが足りないな、もっとちゃんと出していかないとって思って。
――カバーの比率だけじゃなく、作詞作曲majikoの曲を増やしたいと。
増やしたいですね。何でも歌えるっていう口説き文句はいいと思うんですけど、もっと自分を出していきたいです。内面の考えていることも、サウンドの趣味とかも。
――すでに書いている曲は、どんなものが生まれてきていますか?
最近書いているのは、こうやっていろんなことがあったけど今までちゃんと生きてきたんだよ、みたいな。そういう曲を作れてますね。「ノクチルカの夜」がその頃のわたしだとしたら、それを経た今のわたしがいて、次に出す曲は今のわたしを経たわたし、みたいな。そういう曲を作ってます。
――サウンド的には?
ライブでノれるような曲に今まで触っていなかったので、試しに作ってみようかなって。アップテンポだったり、「パラノイア」みたいなジャジーなピアノが前面に出ているような曲も、これからどんどん作っていきたいなと。
――あれですね、どんどん楽しくなっていきそうだし、充実していますね。
リア充です、わたし(笑)。
――まさかそんな言葉が聞けるとは(笑)。
……MCのときは軟弱になりますけど(笑)。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
majiko 撮影=高田梓

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