写真左から、中村悠一さん、櫻井孝宏さん ©小林裕和

写真左から、中村悠一さん、櫻井孝宏さん ©小林裕和

【虐殺器官】中村悠一&櫻井孝宏、口
を揃えて“難しい役だった”と語る舞
台裏【撮り下ろしインタビュー】

アニメーション映画『虐殺器官』いよいよ2月3日(金)公開! 中村悠一さん×櫻井孝宏さんの撮り下ろしロング対談をお届けします。

『東京国際映画祭』が送るスペシャルなアニメイベント『TIFF アニ!!』にて、アニメーション映画『虐殺器官』の特別上映と公開日の発表、そして、キャストトークが行われました。
【撮り下ろし写真をもっと見る】インタビューは時おり笑いも起きる、和やかな雰囲気で行われました!
天才が残した作品がついにアニメ化本作は、夭逝したSF作家、伊藤計劃氏の小説をアニメ化した作品であり、氏の作品を劇場映画化する企画『Project Itoh』3部作の第1作目となる"ハズ"だった作品です。
製作会社の倒産、そして、公開延期という苦難を乗り越え、新たなに編成された制作スタジオ「ジェノスタジオ」のもとで、劇場公開に向けて鋭意制作が進められています。
この日のイベントでは、本作にまつわる情報がまとめられたプロモーション映像を挟んで、映画の冒頭シーンが15分間に渡って初公開されました。
会場に集まったアニメファンが固唾を飲んで見守る中、スクリーンに映し出された映像では、本作の主人公である「クラヴィス・シェパード」が敵地へと潜入する緊迫感のあるシーンがハイクオリティな映像のもとに展開されます。
序盤からショッキングなシーンを織り交ぜながらも、映像の最後には、物語の鍵を握る重要人物である「ジョン・ポール」について、その存在が暗示される……という強烈な"引き"を残し、映像は終了。15分という短い時間ではありましたが、作品全体のムードを観る者に印象付けてくれる導入部だと感じました。
上映後には、クラヴィス・シェパードを演じる中村悠一さんとジョン・ポール役の櫻井孝宏さんのお二方と、本作でプロデューサーを務める山本幸治氏が登壇し、メインキャストとクリエイターというふたつの立場からトークが繰り広げられました。
制作にまつわる苦労話を交えながらも、その口調は決して暗く重たいものではなく、寧ろ、そのような苦境を乗り越えて本日の映像公開にまで辿り着いた喜びと安堵に溢れているようでした。
お三方の和やかな掛け合いには、先程まで緊張感に満ちた『虐殺器官』の映像に対峙していた客席からも思わず笑いが。
色々とナイーブな事情もあった作品かと思いますが、それすらも作品の完成度を高めるモチベーションと、このイベントに集まったお客さんを楽しませようとするエネルギーに変えてみせる登壇者のお三方に惜しみない拍手が送られました。
そして、サプライズとして用意されていたのが、映画の新しいキービジュアルと劇場公開日の発表! この朗報を待ちに待っていたファンも多いことかと思います。
いよいよ公開日も決定した『虐殺器官』の魅力に迫るべく、イベント終了後に中村さんと櫻井さんのおふたりに、本作の見どころをお聞きしました。
収録を行うまで不安は大きかった――『虐殺器官』という作品は、内戦や治安維持といった国際問題や緊迫した世界情勢を盛り込んだ、非常に社会性が高くシリアスな作品だと思います。本作への出演オファーを受けた時のお気持ちや出演にあたっての心情を教えていただけますか?
中村:メッセージ性がとても強い作品なので、役者としては楽しい反面、求められるハードルも非常に高そうだなと感じました。今回、クラヴィス役をやらせていただくにあたって、収録を行うまで不安は大きかったですね。
どういう形で、自分の考えたものを提示するのか、何を望まれているのか、難しい作品だな、と思っていました。
そこにある思いは凄くシンプルなんだな、と
そこにある思いは凄くシンプルなんだな、と――櫻井さんは、どう思われましたか?
櫻井:この作品への出演が決まった時に、作品の内容もさることながら、その……伊藤計劃さんという作家にまつわる色々なドラマがあるじゃないですか。
ファンの方も多いですし、凄い賞を受賞されていたりとか、僅かな数の作品しか遺されていないとか、そういった著者の情報もありましたし、実際に出演前に、この『虐殺器官』という作品を読ませていただいて、凄くチープな表現ではありますけど「難しいな……」と単純に思ったんですね。
決して、現実の世界から浮世離れしているわけではなくて、どこかリアリティがあって、「アニメーションでこれを観た時にどういう気持ちになるのかな? どういう質感のものになるのかな?」というのは、凄く想像力を刺激されましたね。
実際にお芝居をする時は、「アフレコの時に考えよう!」という感じだったので、それは収録に臨んでの感想になってしまうんですけど。「どういう映像になるんだろう?」っていうのは、大きく気になっている部分ではありました。「結構、エグい映像になるだろうな」とか。
――櫻井さんが演じられているジョン・ポールは、非常に謎の多い登場人物です。ご自身でキャラクターを分析されてみて、彼はどのような人物だとお考えになりますか?
櫻井:まぁ、彼は、確実に僕よりも頭が良い人なので。
中村:ふふふ(笑)。
櫻井:僕が彼を超えることは絶対にないなと思っていたので(笑)。彼のことを一から十まで分かるかというと、分からないままの部分もあるだろうな、と考えていました。
でも、それはお芝居のアプローチとして、自分の想像力にプラスして、他のキャラクターたちとのドラマもありますし、実際のアフレコの場での熱量であるとか、そういうものを自分の中では利用しながらお芝居したいな、と。
そうやって、自分なりのプロファイリングで、ジョン・ポールを表現させていただきましたけど、やっぱり、計り知れない男ではありますよね。
――そうした底知れぬ人物を演じる上で、拠り所にした部分などはあるのですか?
櫻井:ジョン・ポールは、当たり前の日常を過ごしたくて、なりふり構わぬ手段を取るわけですよね。ただ、そこは何か、僕自身も「分かる」って思ったんです。
例えば台詞の中に「スタバ」ってキーワードが出てくるんですが、そこに日常を感じて、「あ、この人は、ムチャクチャなマッドサイエンティストみたいな……狂いまくってる人じゃないんだな」って感じました。猛烈に何かを割り切った……どこか、タガが外れている人だと思うんですけど。でも、そう決めたんだなっていう。
そこにある思いは凄くシンプルなんだなって。そこを掴まえどころというか、頼りにした部分はあります。
――中村さんが演じているクラヴィスは、国家の為に戦う戦士である一方で、感情を抑えた喋り方が求められる役どころだったかと思うのですが、何か演じられる上でご苦労はありましたか?
中村:「感情をコントロールされて、人間性を抑制された状態で戦場にいる」という感情を理解するのがなかなか難しかったです。
櫻井:そこだよね~。
「どうしても形にするんだ!」という思いがあった
「感情を抑制されている」具合が難しかった中村:勿論、僕たちは戦場に行ったことがないので、そういったキャラクターを演じる際には、「恐らくは、こうだろう」と先輩たちが演じたものを観て、それを参考にします。
自分たちの想像力に加えて、先人たちがどのように演じてきかというのを色々とトレースしていくんですけど、そこに更に、フィルターが掛かって、「感情を抑制されてます」という、その具合がホントに難しいというか……。
僕自身もアフレコから随分経って、ほぼ白紙の状態で観返した時に、冒頭の潜入捜査のシーンが、「何でこんなにフラットで、やや緊張感に欠けているのかな?」と思ってしまいました(笑)。でも、すぐに、「そうか、これは感情をコントロールされているっていう設定だった」っていうのを思い出してですね。
そこは、僕が感じたように、観ている人にとって違和感として捉えられる部分かなと思うんですね。それっていうのは決して間違いじゃなくて、クラヴィス自身もそこに気付いて、自分の中でどんどん違和感として大きくなっていくというシナリオになっているので。
――そうした難しい役柄を演じる上で、何か思い出に残ったエピソードはありますか?
中村:皆さん、演じるにあたって加減を難しくやっていましたしね。(劇中でクラヴィスの部下であるリーランドを演じる)石川界人くんは、痛覚を無くしているキャラクターですので、死ぬ寸前まで普通に喋れって言われていて、それが本人の正義に非常に合わなかったみたいで(笑)。
スタッフに「いや、最後まで苦しまないで、突然、死んでください」って言われていて、やっぱりそういうのって難しいんだなと思いました。役を演じるのに、想像を張り巡らせた上で、それを一回カットするっていうのが。
櫻井:そういうところも、やっぱりお芝居をする人間としては、色々と刺激になった部分もあって、けれど、やっぱり「怖いな」って単純に思いましたね。
感じるものを感じさせなくすることって、異常じゃないですか。それに対して、「怖いな」って思う自分もいるんですけど、でも、「日常生活を送っていて、そういう部分ってあるよな……」って思うところもあって……。全く突飛ではない、どこか身近さを感じさせるところも、この作品の凄いところではないかと思います。
「どうしても形にするんだ!」という思いを目の当たりにした――ステージで、アフレコが行われたのが去年の1月だったと仰られていましたが、今回、公開日が決定するまで約2年という時間が経過しています。色々と困難があった作品かとは思いますが、現在の率直な感想をお聞かせいただけますか?
中村:中止した計画が再びこうやって形になっていく。それをその後、「またやります!」っていうことが珍しいので、この作品に対する制作サイドの熱量っていうのを、より強く感じることができましたし、それは、本当に凄いことだなぁと思いました。
櫻井:うんうん。
中村:「どうしても形にするんだ!」っていう思いですよね。それを僕らも目の当たりにしました。ですから、感慨深いものは、やはりありますね。
櫻井:制作スタジオの倒産というニュースは、本当に青天の霹靂だったんですけど、それでも今、中村くんも言っていましたけど、具体的な日時を発表できる段まで来たというのは、喜ばしいことだなと思います。
――出演者の皆さんも追加収録は幾らでもというお気持ちでいらっしゃったと、今日の舞台上でも仰っていましたね。
中村:声の収録もイチから撮り直さなければならないっていうレベルで制作し直しているのであれば、音も撮り直した方が良いですよね……みたいな話をしたりもしましたね。
一歩踏み込めば「何か」を感じられる作品
一歩踏み込めば、必ず「何か」を感じさせてくれる作品――『虐殺器官』は、非常にシリアスな物語である一方で、劇中にはラブロマンスの要素があり、アクションの要素があり、様々なドラマが描かれており、非常に多層的な物語だと思います。お二方は、どのような側面に最も魅力を感じましたか?
櫻井:この作品には、ミステリの要素があるじゃないですか。「『虐殺文法』って何なんだろう?」っていう最大の謎があって、明確に語られることはないんですけど、そこは未だに気にはなっていますね。でも、それを知ってしまうのも怖いという気がして……。
――余り、深みにはまり込んでしまうというのも……。
櫻井:そうですね。でも、そこは作品にとって、ひとつの大きなファクターかなという気がします。
――中村さんは、如何ですか?
中村:今回の劇場版に関しては、様々な要素を全部入れていると思うんです。ですから、どこの面をピックアップしても問題ないと思うんです。そこは、観る人の感性に委ねられる部分ですので。
ただ、僕が客観的に観た時は、やっぱり「『虐殺器官』とは一体何なのか?」っていう、そこはタイトルを見た時に一番引っかかりを覚える部分であり、後半戦の大きな見どころになっていると思います。
櫻井:タイトルは怖いんですけど……まぁ、内容も怖いんですけど、でも、怖い中にも一つの作品の中で、エンタテインメント性を感じさせる部分も沢山ある作品だと思います。
何を感じるかは観た人それぞれにお任せするとして、ただ、やっぱり、こういう目を覆いたくなるような……目を背けたくなるような現実や描写にも真摯に向かい合った作品は、僕は観るべきだと思うので、一歩踏み込んでいただければな、と。そうすれば、必ず「何か」を感じさせてくれる作品ですから。
メインキャストを務めた中村さんと櫻井さんのインタビューからも、作品に対する思いと自信を強く感じたアニメーション映画『虐殺器官』。
個人的にも、この映画は、観る者に対して、非常に広い視野で色々なことを考えさせてくれる、そういったパワーを持つ作品だと思いました。
私達が日常生活を過ごす上で、気にも掛けないもの、或いは、目にはしているもののどこか遠くの……自分たちがこの社会で存在している座標からは遥かに離れた、いわば"異世界"で起きている"他人事"として捉えているものを眼前に突きつけてくるような、そういった力がある映画なのです。
そうした、とても重たく、シリアスな映像である一方で、アニメーション映画としての快楽性は勿論のこと、観る者を惹き付ける"物語"の引力も有した、エンターテイメント作品としての揺るぎない魅力も併せ持っています。
この映画版から入って、原作小説に、そして、他の伊藤計劃作品に触れるのもアリだと思いますし、図らずしも『Project Itoh』の最終作となった本作が、より多くの人の目に触れればと願って止みません。
この冬の要注目作である『虐殺器官』は、2017年2月3日(金)より全国劇場にて公開です。

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