音楽は国境を越えるのか?〜K-POPス
ターとなった藤原倫己が見たものは?
(後編)

ソウルの明洞でスカウトされ、2006年に韓国に渡った元祖日本人K-POPアイドル、藤原倫己。彼はA'st1というグループで韓国のメインステージに立った。日本に戻り、MCとしてK-POPやドラマ、韓流イベントのステージに立つ藤原は、アイドル側と、アーティストを迎える側の両面から韓国のエンタテイメントの最前線を語れる数少ない人だ。
彼は、最近、韓国的な“ノリ”と日本のK-POPファンの“ノリ”に差がなくなってきているという。その変化とはどんなものなのか。そして韓国での生活で目覚めたという”美”について語った後半のインタビューの模様を紹介する。(聞き手=内田嘉/前回インタビューはコチラ)
内田 藤原さんは美の伝道師でもありますよね? すごいこだわりを持っていると聞きましたが。
藤原 それは完璧に韓国の影響です。
内田 藤原さんの肌も相当きれいですが、韓国の男性は肌が綺麗な方多いですよね。どうしてあんなに綺麗なのでしょう?
藤原 美への意識の違いだと思います。美しくなりたいって思う年齢が違うというか、男性でも高校生から基礎化粧品を一般的に使うんです。ジムとかで化粧水を塗って出てくる人を日本では見たことがなかったんですが、韓国のスポーツジムの更衣室で、ポーチを出して、化粧水とか乳液を塗って出て行く人を見て驚きました。
内田 年齢の話し以前に、そんな人、日本で見たことないです。
藤原 僕もはじめ何を塗っているの?って思いました。男女共、元から(肌から)良くしたい、すっぴんから綺麗にしたいと思う人が多いんです。化粧でごまかすわけじゃなくて。
内田 男性もですか?
藤原 そうです。あと韓国ではエステって言わないで、皮膚科って言い方をします。皮膚のケア、治療なんです。一般のおじさんも施術室からテカテカして嬉しそうに出てきますよ。
内田 見てみたいです。そんなおじさんを。藤原さんは韓国での生活で美しくなることに目覚めたっていうか、楽しい!って思うようになったんですね。施術を受けて何が変わりました?
藤原 えっ!何これ?!こんなに変わるの?って思いました。
内田 どこが変わったんですか?
藤原 肌の色のトーンです。毛穴が締まりました。それと、ちゃんと化粧水や乳液や日焼け止めとかを塗らないとだめなんだと、考え方が変わりました。
内田 日本では男性が美容とか言うと、“変”だとか言う人、まだ多いと思うんです。“綺麗な男になりたい”という概念自体が男性自身にはあまりなくて、むしろ化粧品を使うなんて恥ずかしいことだと思う“おじさん”が多いように思えますが、日本に帰ってきて日本的な考えに戻りませんでしたか?
藤原 逆に韓国に戻りたいって思いました。なぜかっていうと、日本は女性限定のお店(エステ)が多くて、男が行けるお店が少なくて苦労したからです。今は韓国のお店が日本に進出していて苦労しなくなりましたけど。
内田 どんな所に通っているんですか?
藤原 コルギに通っていました。
内田 なんですか?コルギって?
藤原 骨に気と書いてコルギって読むんですが、コルギは骨を動かして老廃物を流してあげることによって、脂肪をつかなくさせるものなんです。痛いです。
内田 ちょっと高そうですね。美にはお金はいとわないですか?
藤原 そうですね。
内田 韓国のお土産の定番というとシートパックですけど、藤原さんのおすすめのものってありますか?
藤原 I'm SORRY For MY SKINのシートパックです。こういうものを口にして“私の肌ごめんね”というコンセプトだと思うんですが、見た目がかわいくて、パッケージにビールやアイスクリームがデザインしてあるんです。基本、シートパックは紙のシートに美容液が含まれてるんですけど、
それだけだと逆に乾燥しやすい肌になりがちなんですよ。
内田 なぜですか?
藤原 美容液がすぐに蒸発して、保湿力がなくなってしまうので気を付けなきゃいけないです。でもI'm SORRY For MY SKINはゼリー状の乾きにくい美容液が含まれているので、保湿力が高くて30分たっても乾かないので、すごくおすすめです。
内田 毎日パックやってるんですか?
藤原 男性は油分が多いからか、毎日やると吹き出物が出やすくなるんですよ。だから保湿力がものすごく高い韓国のシートマスクは、2日に1回やっています。毎日使っているのは日本のパックです。“朝パック”っていう朝1分、マスクするだけで、洗顔も化粧水もいらないっていうのがあって、韓国のパックによくある“しっとり系”ではなくサッパリ感が強いので毎日やっても大丈夫です。肌が綺麗になりました。
内田 理想の肌はどんな肌ですか? 藤原さんが目指すきれいな男性って誰ですか?
藤原 ジョンフン(John-Hoon)さんです。ジョンフン兄さんとは今でも兄弟のようにお付き合いさせてもらっているんですが、たまごみたいな皮膚で、つるっとしていて油っけもない肌で、うらやましいです。
内田 韓国では「綺麗ですね」と男性に言っても変じゃないじゃないですか。日本ではあまり言わないけど。
藤原 そうそう!美容が好きって言っても不思議がられないです。だから僕も日本で「美容が好きなの?! え~!」と言われるんですが、むしろ「やった方がいいですよ」って言うんです。
内田 藤原さんがパーソナリティーを担当しているFM NACK5のラジオ番組「ラジアナ」でも美容のコーナーをやってますよね?
藤原 はい、ビューティーコーナーで化粧水を紹介して、男性リスナーの方から、「初めて化粧水を使いました! いいですね!」というメッセージをもらいました。
内田 まさに美の伝道師ですね。
藤原 あとスイーツが好きで、おすすめのスイーツコーナーもやっているんですが、少しづつメッセージが増えてうれしいです。実は、肌のケアやスイーツも(男性も)「本当はしたかったんじゃない?! 食べたかったんじゃない?!」って思うんです。
内田 なるほどね。
藤原 チャレンジしてみたいという気はあったけど、ドラッグストアに行って、コスメを買うのはちょっと勇気が必要だったんじゃないかと思います。でも、ナポロン(藤原さんのラジオ番組での愛称)が言っていたから行きましたよ、買ってみましたよ。と、買いに行くきっかけができたんじゃないでしょうか。「よかった」とか「奥さんに喜んでもらえた」とか、そういうメッセージをもらってうれしかったです。なかなか深夜の時間に美について語る番組ってないですし。
「綺麗」より「かっこいい」と言われたい男性が日本では一般的なんだろう。しかし韓国では少しその感覚が違う。韓国のコスメショップには必ず男性化粧品があるし、その種類も多い。当たり前だが、隣国であってもそういった感覚、文化というのは違うものだ。韓国に渡りアイドルとなった藤原さんは、周りに流されることなく、自分のスタイルを確立できる人なのだと、“美”の話ししながら実感した。
内田 最近MCを担当したK-POPのステージで、すごい人気だなぁと思ったアーティストは誰でしたか?
藤原 MOMOLAND (女性K-POPグループ) です。ラゾーナ川崎プラザでのイベントだったんですけど、これだけ人が集まるんだ!と改めて驚きました。しかもすごく熱を帯びた声援で、でもこれは今までK-POPアーティストのみなさんが、少しずつそれぞれが日本で活動して、韓国のライヴの雰囲気を伝えていったからなんだなぁ~、それが日本に伝わってきているんだなぁって思いました。2010年頃は、あんなに音楽が聞こえないほどの声援や熱気を日本で僕は経験したことがなかったので。
内田 韓国ではアーティストとして、日本ではMCとして数多くステージに立たれていますが、舞台の作り方で両国の違いを感じることがありますか?
藤原 日本の公演でよくある光景なんですが、日本のスタッフは、最高のパフォーマンスを引き出すために、きっちり段取りを決めて挑むんですが、リハーサルで韓国サイドから“こうしたらいいんじゃないの”と突然、新しい意見が出てくることがよくあります。
内田 あるある!
藤原 それで日本のスタッフは慌てるんです。目指すものは同じなんです。いい公演を作ろうと。日本的な作り方が、一段一段階段を上がる感じだとしたら、韓国スタイルは三段跳びみたいな感じで、どんどんジャンプアップさせるみたいな。韓国では実際にそれで対応しているんで、普通のことなんです。韓国はアドリブにどう対応するかが大事で『どうにかなるよ大丈夫』という“ケンチャナヨ精神”が必要なんです。 こういったところにも国民性が出ますよね。
内田 わかるそれ!!(笑) ……ちょっと話しズレますが、私は昔、韓国最大の野外ロックフェスで日本人アーティストのブッキングを担当していたことがあるんです。日本のアーティストのリハーサルの時、予定してた変圧器がなぜかなくて(韓国は220V)、電圧が違う状態でギターアンプを繋ぐことになったんです。「やばくない?」ってエンジニアに聞いたら「ケンチャナヨ!問題ないよ!」って言うんで、そのまま本番に入ったら、ギターアンプから煙が出たんです。小さな火災ですよ。急遽、アンプを交換することになったんですが、スタッフも観客も慌てない。バンドメンバーも慌てずパフォーマンスを続けてくれたのもあって、何事もなくステージが盛り上がったんですが、あそこでパフォーマンスを止めたら、アーティストのアドリブ力がないってことになったと思います。
藤原 わかるー(笑)
内田 恐るべし“ケンチャナヨ精神”ですよね。他にもいろんな場面で鍛えられました。アドリブ力がなきゃ生きていけないですよね。韓国エンタメの世界では。
藤原 僕は何ごとにも心配してしまう性格なので、1週間前には台本を読んでおきたいって思うんですけど、前日に届いてなくてもなんとかなるよと、思えるようになりました。当日に台本もらっても、台本がなくて箇条書きだけでも大丈夫になりました(笑)。
内田 まじめな話し、私はそんなケンチャナヨ精神をはじめとした韓国式の作り方に慣れている反面、文化やモノ作り、考え方の違いを実感していて、なかなか越えられない難しさがあると思っています。CD一つにしても販売戦略の立て方が違うし、プロモーションの仕方というか、計画を立てるのにもやり方の違いが浮き彫りになります。
藤原 そうなんですよね。
内田 異文化を伝えるという仕事の難しさもあります。私がアイドル以外の韓国音楽を日本で紹介する上でも、いい音楽がすぐ日本で受け入れられるわけではないんです。バイパスがかかる。K-POPの音のイメージが強くて先入観があるのか、そうではないサウンドには興味を持ってくれないとか。当たり前ですが、韓国にも多様な音楽があります。K-POPに馴染んでいる方はそんなことはないんですが、K-POPの人気を遠くから眺めているような音楽ファンにも聴いていただきたいんですけどね。CDの売り場一つにしても「これはK-POP? それともワールドミュージックのコーナーになるの?」と言われたこともあります。“音楽は国境を越える”っていう常套句はそんな簡単なことじゃないよって思うんです。いい音楽だからといって勝手に広まるわけではないですからね。韓国の音楽だから興味ないっていう“聴かず嫌い”な人、業界内でさえも多いです。でもその反面、ドラマもそうですがK-POPは国境を越えて、“近くて遠い国”と呼ばれていた二つの国の距離を縮めたという事実があるじゃないですか。だから諦めたくないんです。このコラムのタイトルは「音楽は本当に国境を越えるのか?」なのですが、この問いを藤原さんにお聞きしたいと思ってインタビューさせていただきました。
藤原 そうですね~。その答えにはならないかもしれませんが、今新大久保に行くと、訪れている人たちの年齢層がすごく若いじゃないですか。10年前と比べてそこがすごく変わったと思います。一番違うと感じたのが若い男の子が多いことです。K-POPアイドルに憧れる男の子が増えて、憧れのK-POPアイドルと同じようなファッションで新大久保に遊びに来ているんです。そういうのを見ると、凄いなぁって思います。それは本当に凄いことなんですよね。そういう影響から、最近K-POPアーティストになりたくて、韓国に渡る日本の男の子が増えているんだと思います。
内田 ホント、増えてますよね。JBJの高田健太さんとかすごい人気ですよ。
藤原 日本の若い世代が韓国に憧れるというのも、自分達がこれまで見てきたものとは明らかに違うクオリティに惹かれているからだと思います
内田 先ほども話しましたが、日本には女性アイドルが100%になるまでの過程を一緒に体感することを楽しむ風潮がありますよね。男性アイドルはどうなのかわからないけど。韓国は100%以上のパフォーマンスを初めから期待するし、どれだけ規格外の高いパフォーマンスを魅せてくれるかが勝負のポイントになるから、アプローチが違うというか、日本とは求められるものが違いますよね。
では日本の音楽は韓国でどう受け取られているのかというと、一部の“日本マニア”を除き、日本人が思うより日本の音楽は韓国に浸透していないという現実がある。ソウルで街頭インタビューをしたことがある。「好きな日本人アーティストは?」という質問だ。30代以上のほとんどの人が、X JAPANやL'Arc-en-Ciel、中島美嘉を挙げた。情報のアップデートをされていないことを痛感した。若い世代はジャニーズのグループの名前か、日韓同時放送の公開オーディション番組「PRODUCE48」の出演アーティストの名前は出るが、「音楽的に好きなアーティストは曲は?」と聞いてみてもその答えは、スタジオジブリ作品の音楽か、90年代の曲ばかりなのだ。
藤原 そうなんですよね。日本の音楽は、日本でのK-POP人気に比べるとまだまだ浸透していないです。アニメや漫画はすごい人気ですけどね。
内田 日本語の歌詞をキー局の放送で流せなかったり、そういった背景はあるにせよ、今はYouTubeとかでみんな世界中の音楽を聴いているじゃないですか?そこからブームになる時代になぜなんでしょうね。何が必要なんでしょうか?
藤原 韓国では当たり前の“クオリティ”を越えてくる斬新さがないと、本格的なブームは起きにくいと思います。そもそも韓国が見ているものは世界です。だから洋楽で歌唱の練習をしますし、ダンスでも外国人の振り付け師を採用するのが早かったです。SUPER JUNIORの「Sorry, Sorry」の振り付けもそうでした。2005年頃から韓国国内から世界に視野が広がっていたんじゃないかと思います。
内田 早くからターゲットは世界だったんですね。
藤原 BIGBANGもそうですけど、それまでK-POPで聴いたことがなかった音が次々生まれたんです。「コジンマル」とかかっこよかったなぁ〜。僕、BIGBANGのパフォ−マンス(自由度の広い)に憧れてBIGBANGを意識してステージに挑んだことがあるんですが、全然まねできなかったです。舞台に上がってみてその凄さが初めてわかりました。
その音楽やアイドルが持つ魅力以前に、“世界を目指す”という意識が必要なのだろう。「とにかくやってみよう!問題ないよ!」という“ケンチャナヨ精神”がK-POPを変えたのかもしれない。
日本大衆文化が段階的に解放された1998年。私は韓国でその瞬間に立ち会った。公のステージで初めて韓国政府が日本語の歌唱を許したのは沢知恵さんの韓国・光州での公演だった。そしてその沢知恵さんを追うラジオ番組を制作したきっかけで、私は韓国音楽と出会い、韓国のアイドル以外の音楽を少しでも日本で紹介したいという思いから、韓国のスーパースターである10CMというアーティストと出会い、日本事務所とレーベルを立ち上げた。この20年間、韓国はエンターテインメントで世界を変えた。韓国と日本の距離さえ変えてしまった。“近くて遠い国”なんて言われていたあの頃には想像できなかった日本と韓国の距離。そしてその渦中に、K-POPの中にいた日本人、藤原倫己さん。1時間以上にもなったインタビューはとても楽しかった。韓国のエンタテイメントを外側から論じるのではなく、”K-POP”と対峙し、国境を越え仕事をすることの楽しさ、難しさ、そして両国のエンタメをリスペクトする者として、日本と韓国を結びたいという”同志”と話しているようなそんな時間だった。音楽は国境を越えるのか?そんな問いへの答えを探しに始まったインタビュー。藤原倫己さんのこれからの活躍に注目したいと改めて思う。
得意の「F」ポーズ
藤原倫己(フジワラ トモキ):1987年1月25日生まれ、東京都出身。詳しくは→コチラ。
●Twitter https://twitter.com/ikecas_Fujiwara
●Instagram https://www.instagram.com/tomoki_fujiwara/
構成・文=内田嘉  撮影=安藤光夫

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