金属恵比須が『武田家滅亡』リリース
記念ライヴ開催、2019年キスエクとの
対バンも発表

ニューアルバム『武田家滅亡』を 2018年8月29日にリリースした和製プログレシッヴロック・バンドの金属恵比須が、9月8日に吉祥寺のシルバーエレファントでリリース記念ワンマンライヴを行った。また同ライヴのMCにて、金属恵比須主催の猟奇爛漫FEST VOL.3を来年2019年3月23日(土)に開催し、噂のプログレアイドル「キスエク」=xoxo(Kiss&Hug) EXTREMEを対バンに迎え初の本格競演を行うことを発表した。
戦国大名武田家の滅亡を描いた伊東潤の傑作歴史小説「武田家滅亡」を原作とし、“小説のサントラ”をイメージして作られたというアルバム『武田家滅亡』。収録11曲のうち、7曲が実質「武田家滅亡」組曲のナンバーとなっており、今回が全曲披露される初めてのライヴとなった。チケットは早々に完売、当日はバンドのファンのみならず原作ファンなども入り混じり、年齢層の高いオーディエンスたちによって狭い空間が埋め尽くされる有様だった。
開演前には、二組のゲストが登壇。一組目は、武田家本拠地だった山梨県甲府より躑躅ケ崎歴史案内隊のメンバー二人が赤備えの甲冑姿で登場。うち一人は「リッチー・ブラックモアが好きで金属恵比須の音楽にも親しみを覚える」と語った。そこでホスト役の高木大地(金属恵比須リーダー)がディープ・パープルとレインボーではどちらが好みかと問うと「レインボー」。さらに「好きなアルバムは『Bent Out Of Shape』(邦題:ストリート・オブ・ドリームス)」と答えると、客席から「おお」という声が一人からしか上がらなかった。
躑躅ケ崎歴史案内隊
もう一人のゲストが原作の著者・伊東潤。登場するなり「今日は“焼肉えびす”のライブに呼んでいただき……」と言いかけて、高木から「なに、打合せにないことを言っているんですか。お笑い芸人みたいになってるじゃないですか」とツッコまれる。ちなみに“焼肉えびす”は2011年、ユッケを食べた客が食中毒にかかり、4人もの死者を出した焼肉チェーンだが、いかんせん7年前の事件だけに客席でそのことを咄嗟に思い出す人は少なかったようだ。
伊東潤氏を囲む、高木大地と躑躅ケ崎歴史案内隊
開演時刻17:15を回り、いよいよバンドの演奏が始まろうとする。これまでは映画「八墓村」サントラから芥川也寸志作曲「呪われた血の終焉(落武者のテーマ)」が流れ始めるのが常だったが、今回は趣が変わり、NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」より「風馬」が流れる。その中をメンバーたちが登場。最初の演奏曲は、新アルバムに収録され、PVも話題の「罪つくりなひと」、作詞は高木、作曲は現メンバー5人によって手掛けられている。そのまま切れることなく連続してお馴染み「阿修羅のごとく」。
MCが入り、さっそく組曲「武田家滅亡」全曲の披露だ。アルバムでは聴けない序パートの演奏が加えられた重厚な一曲目「新府城」から間を置かずに、タイトル曲「武田家滅亡」へと続く。ヴォーカルの稲益宏美が端切れよく歌い語る歌詞は、武田家滅亡の物語を凝縮させた内容で、原作者・伊東潤自らが作詞を手掛けている。「鞭声粛粛 夜河を過る」で有名な、頼山陽の「川中島」が詩吟ならば、こちらはアップテンポのポップチューンで、さながら講談である。はり扇で台をパンパンと叩きながら歌うスタイルを取り入れてたら、よりいっそう雰囲気が出るのではないだろうか。だが、そうでなくとも、稲益が客席に向けて頻りに「滅亡!」と唱和させるので、聴く側は活気がして、進軍する織田軍の一員になったような気分だ。躑躅ケ崎歴史案内隊の人までもが稲益にマイクを向けられて「滅亡!」と叫んでしまっていた。なお、この曲の間奏終わりでの後藤マスヒロのドラムロールの一瞬の凄まじさに痺れまくりの筆者だった。
ベースの栗谷秀貴が、ガット弦ギターに持ち替える。ギター教室の講師もやっている彼の奏でる優しい音色に、キーボード宮嶋健一のメロトロンから発せられるフルートの音と稲益のスキャットが絡み合い、牧歌的でもの哀しいメロディが静かに繰り広げられる(個人的にはNHK朝ドラ「おはなはん」テーマ曲を彷彿とさせる)。14歳で小田原北条家から武田勝頼の許に嫁いできた北条夫人を描いた「桂」だ。彼女の不遇な運命を思いながら、ピュアさと健気さを醸す稲益のヴォーカルに、涙腺が緩む。
かと思えば次の「勝頼」は攻撃的なヘヴィ・チューン。続いて「内膳」は、勝頼に疎まれながらも最期まで忠義を貫いた小宮山内膳を描く。「桂」夫人への淡い想いを浮かび上がらせるように、前の「桂」の主題が変奏されている。続く「躑躅ケ崎館」はクリムゾンやソフトマシーンのインプロビセーションめいたサウンドによって、破壊と混乱の中へと聴き手を突き落とす。有力家臣たちの裏切りにも遭いながら行き場を失った勝頼たちは「天目山」で自決、ついに武田家は滅亡する。
こうして組曲全体が完奏され、場内大喝采である。全体の印象としてはEL&P色の濃い大作だというのが個人的な感想だ。サウンドもさることながら、以前NHK大河ドラマ「平清盛」で平家の栄枯盛衰が「タルカス」(のオーケストラ編曲版)がBGMに使用されたことの連想もあるだろう。また、タルカスは火山から現れた怪物だが、滅亡の主題メロディは何となく伊福部昭の怪獣音楽のようだし、さらに武田家滅亡が迫る時にちょうど浅間山が噴火した史実もタルカス的だ。
稲益、高木、後藤の笑えるMCトークを挟み後半戦に突入、ファンには馴染み深い「真珠郎」「ハリガネムシ」。「ハリガネムシ」の間奏は長めなのは、常連客のトイレタイムを意識して、とのことだ。たしかに平均年齢50歳以上の客層だからライブハウスのドリンクを飲まされて、そろそろトイレに行きたくなる頃合いではあるが、だからといって名曲「ハリガネムシ」でトイレに行くのはいかにも勿体ない。
次のMCでは、後藤が外部活動のインフォメーションをアナウンス。11月3日に西荻窪Terra、11月23日北千住ノックで、鈴木匠率いるデューセンバーグのライブに参加、12月22日には北千住ノックでデューセンバーグ、マルコシアス・バンプのライブに参加する。また、高木からは2018年10月13日(土)13時からHMV record shop新宿ALTAで、「金属恵比須インストアライヴ with 伊東潤」(観覧無料)を行うことを告知。本記事を読んで気になった人はぜひ聴きに行くとよいだろう。
ライヴもいよいよ終盤、組曲「紅葉狩」の第三部・第四部は一昨年加入したベーシスト栗谷にとって初演奏となった。
続くMCではさらなるインフォメーション。2019年1月26日(土)まごころ居酒屋ROUNDABOUTが主催する「Candytree Garden VOL.2」に、難波弘之&荒牧隆、那由他計画、百様箱と共に金属恵比須が出演する(過去の同イベントのレポートはコチラ)。また、2019年3月23日(土)に高円寺Highで、金属恵比須が主催する「猟奇爛漫FEST VOL.3」で対バンにプログレアイドル「キスエク」=xoxo(Kiss&Hug) EXTREMEを迎えることを発表した(過去の同イベントのレポートはコチラ)。このことを高木が告げている時に、キスエクの話題曲「The Last Seven Minutes」のイントロを栗谷がBGMとして弾いてみせたのが心憎い計らいであった。
そして、疾走感あふれる「みつしり」で楽しくホットに本編終了となる。
興奮のおさまらない観客たちのアンコールに応えて再び出てきたのは、でんでん太鼓を叩きながら志村けんの「だいじょうぶだぁ~ウェッウェッウェッ」を繰り返す稲益と後藤、そして栗谷と宮嶋のみだった。ギタリストの高木が足を攣ってしまい、すぐには出てこれないというのだ。1988年のイエス代々木体育館公演を思い出した。その時、アンコールに応えて出てきたジョン・アンダーソンが「トレヴァー・ラビンが頭を打ってしまい演奏ができません」と。それで「ラウンドアバウト」が演奏されず、代わりにジョンが「スーン」をアカペラで歌ったのだった。……と、そんな展開になったら嫌だなあと思っていたが、稲益と後藤が執拗に「だいじょうぶだぁ」を念仏のように繰り返したおかげなのか、ほどなくして高木がステージに復帰した。足を攣ったのは、ベースペダルの踏み過ぎが原因だという。だが、それだけのせいではないと思われる。新譜リリースとライブの準備で多忙を極め、疲労が限界点に達したからに違いない。そういえば、高木は前回のシルバーエレファントのワンマンでも手を攣っていた。勤め人とアーティストと制作業務を並行してやっていれば、疲れも溜まるというものだ。けっして若くもないのだし。実際、MCにおいてその種のことがほぼ愚痴として高木によって語られていたのが印象的だった。
愚痴の後のアンコール・ナンバーは狂乱のハードロック「イタコ」。木魚を激しく連打する稲益は、やがて文字通りイタコのように憑依された表情に変貌していく。彼女の突き抜けたパフォーマンスはプログレを超え、もはやハードロック、いや、それどころかパンクといってもよいだろう。観ていて本当に清々しいし、天晴だなあと改めて感嘆した次第。
ライブ終了後の物販では、バンドメンバー全員に加え、伊東潤も参加するという豪華な陣容でサイン会が催された。なお、今回は金属恵比須のワンマンを駆け足で振り返ったが、詳しい模様や裏話など、後日、高木大地自身によるセルフレポートをここに掲載したいと思っている。
最後に……今回のライヴで明らかとなったとおり、金属恵比須とキスエクという今プログレ界で話題の二組のアーティストが来年3月にジョイントライブを行うことが決まった。この両者が幕末の薩長同盟の如く手を携えることで、絶滅危惧種と目されているプログレッシヴロックの未来に何らかの新たな展望が見えてくるような気がしてならない。いま金属恵比須は“滅亡”を奏で、キスエクは“最後の7分間”を歌うが、いずれも危惧種だからこその終末の先を見据えた生き残り対策を意識しているのではないか……といったことも話が長くなりそうなので、機を改めて考察していきたい。
取材・文・撮影=安藤光夫

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