【葵-168- インタビュー】
丸いものより尖ったものを求めていた
彩冷えるのヴォーカルでもある葵のソロプロジェクト、葵-168-が4年以上の月日を経て新作を発表する。涼平や夢人など歴代のコンポーザーとタッグを組んだミニアルバム『ニュークラシック』が完成するまでの苦悩と導き出された答えについて話を訊いた。
久々のリリースとなるミニアルバム『ニュークラシック』は、メロディアスでポップな側面があると同時に音楽への情熱が込められていて、赤裸々な葵さんが感じられました。どんな青写真を描いて作ったのでしょうか?
収録されているのは書き下ろしではなく、全てライヴでやっている曲ばかりなんです。観に来てくださっている人たちは“早くCDで聴きたいな”と待っていてくれたと思うんですが、それがやっと出せる。ライヴで先に披露してから音源をリリースするという意味では原点に近いかたちですね。
アヤビエの涼平さんや彩冷えるの夢人さんも楽曲を提供していますよね。
最初に作ったのは、涼平くんが曲を書いてくれた「MUSIC」という曲です。前作(シングル「必要惡」)を発表して以降、僕は2年ぐらい音楽と離れて演技の勉強をしていて、声優や役者の活動をしていたんです。一時はこのシーンで自分はもう闘っていけないんじゃないかという不安があって、音楽を続けるのか辞めるのか悩んでいて…。でも、アヤビエ、彩冷えるというバンドを経てソロになった僕には、自分が音楽シーンから身を引かなければ、いつかバンドを再び動かせるという使命感に似た気持ちがあった。今、彩冷えるは再び動き始めていますが、“それまでは音楽を辞められない”という決意表明として当時に書いたのが「MUSIC」なんです。
その時の葛藤やしがみ付いてでも音楽をやりたいという気持ちがとてもストレートに歌われていますね。
自分の想いが込もりすぎているので、初めて歌った時は泣いちゃうほどでした。今作には僕がアヤビエの前にやっていたバンドのMASKの和矛くんやソロになってから曲を提供してくれている渡辺拓也さんなど、デビューしてから今に至るまでタッグを組んできた歴代のコンポーザーに曲を書いてもらっているんです。“当時の僕や今の僕をイメージしてください”ってオーダーして作ってもらって。
歴代のコンポーザーとコラボしたのはなぜですか?
バンド感が欲しいなと思ったんです。自分の心境的にも丸いものより尖ったものを求めていたから取り扱いにくそうな曲を書いてほしくて、今までタッグを組んでいた人ならこの気持ちを分かってくれるかなと。“何も考えずにただただ突っ走っていた頃にバンドをやっていた人と一緒にやったらどんな曲ができるんだろう?”って。
その作業は今までと違う楽しさがありましたか?
そうですね。僕には真面目な人というイメージがあるかもしれないけれど、根本的にはそうではないというか、ちゃんと尖ってるんだよっていうことも伝えたかったんです。
毒もあるんだよって?
ははは。今回の歌詞は全体に闇深いと思うんですよ。もともと明るい性格ではないので(笑)。もちろんポップな歌詞も書けるし、ソロになった当時はそういう曲も書いてたんですけど、何も気にせずに思ったことを発信するのが音楽かなと最終的に思ったんです。
確かに今作にはメロディーは美しいけど、犯罪の匂いがする「水葬」のようなゾクッとする曲も収録されているし、アッパーな「魔が刺す」では音楽シーンを皮肉っているし。
「魔が刺す」はタイトル通り、魔が刺してこんなこと歌っちゃったよっていう曲です(笑)。
MASK時代の葵さんが出ている曲なんですか?
当時の自分の歌詞の書き方に近いですね。20代前半で社会に対して不満しかなかったので(笑)。
いろいろな時期の葵さんがアップデートされて収録されているのが今作なんですね。
タイトルの“ニュークラシック”にも通じるんですけど、僕も中堅どころになってきて古いものの良さも分かるし、新しい流行りの音楽も好きなので、その両方を知った上で常に自分らしくいられればいいのかなと。今作は間違いなく今の自分の最高傑作だし、明日作るものは今を超えていたい。常に更新していきたいという想いを込めて作った作品です。苦悩の末に音楽シーンに戻って書いたのが「MUSIC」なら、夢人くんが書いてくれた最後の曲「ニュークラシック」ではひとつの答えを出しているんです。《「君の 正解は いつだって 僕だから」》と歌っているんですけど、僕の音楽を好いてくれる人には僕が正解だと思ってほしいし、そのためにも常に最高の自分でいなきゃって。結果、7曲にこの数年の僕が凝縮された作品になっていると思います。
それと歌が表情豊かになっていると感じました。声優を経験したり、舞台に立ったことは影響を及ぼしています?
大いにあります。演技を学んだこと、舞台に立ったことでスイッチがポンッて切り替えられるようになったし、言葉の発し方、伝え方、意味について意識的になったことが歌に活きていると感じています。
11月からツアーがスタートしますが、どんな空間にしたいと思っていますか?
ライヴにはCDとはまた違う魅力があるし、ある種非現実的な空間でもあるので、みなさんと共有する場にしたいと思っています。“ライヴって楽しいものなんだよ”っていうことを一番に伝えたいし、今作はすでに披露している曲ばかりなので新曲も準備している最中です。
今後はソロプロジェクトと彩冷えるを並行してやっていくのでしょうか?
そうですね。彩冷えるの5人にはそれぞれの活動があるので“復活”というほどではないですが、タイミングが合ってみなさんが求めてくれるのであれば。バンドを動かすという意味では冒頭に話した使命、ファンの人との約束は果たせたので、今後はより自由にソロとして活動できると思っています。
取材:山本弘子