オワリカラ・タカハシヒョウリの映画
コラム ドキュメンタリー映画『太陽
の塔』に見た、“畏敬”の正体

モノレールの窓から、突然「それ」は見えた。真昼間の木々の切れ間からヌッと現れた「ソレ」は、まさに常識の外から無音のスライディングで滑り込んできた。『ウルトラマンA』に空を割って(文字通り青空をバリバリ割って)現れるバキシムという超獣がいるが、それくらいの唐突さだった。僕は、「デカすぎだろ!」とモノレールの中で一人でつっこんだ。
(c)2018映画『太陽の塔』製作委員会
あまりにも巨大な「其れ」との対面は、幼少期から巨大な物(ビルであっても怪獣であっても)に特別な感情を感じる僕にとって、感動と恐怖の極致だった。いわゆる「畏敬」だ。
映画『太陽の塔』の中で、縄文時代の少女が荒野にそびえ立つ太陽の塔に遭遇するシーンがある。彼女と同じ感情を僕も感じた。おそらく神様に会っても同じ感情を抱くんだろう。
1970年大阪万博のために芸術家・岡本太郎が生んだ、究極の美術品、顔がある建築物、「太陽の塔」。近年でもフィギュアやアパレルで展開され、ロボットに変形する「太陽の塔のロボ」まで販売される(もちろん買った)、ある種のアイコンとして今も高い人気を誇っている。そして今年は、48年間ずっと失われていたその内部の「生命の樹」や「地底の顔」が修復、公開されたことでも大きな話題を呼んだ。そんな「太陽の塔リバイバル」の一環として、ドキュメンタリー映画『太陽の塔』が公開された。
この映画は「太陽の塔」を中心に、植物のように根がのび枝がのび、あらゆる方向へ話題が拡散していきそのまま広がりっぱなしの「拡散型ムービー」だ! コラージュのように複雑で、一言では言い表せない構造になっているが、人それぞれの琴線に触れる方角から太陽の塔に接近できる……かもしれない。
(c)2018映画『太陽の塔』製作委員会
個人的な白眉は、当時の設計担当だった植田昌吾さんをはじめとする「実際に太陽の塔の製作に関わった人々」の証言だ。太陽の塔は、岡本太郎の作った1/100サイズの原型を忠実に巨大化するため、原型をスライスし図面に起こし、それを建造物として再現したという。なるほど、そうやって岡本氏が持つ独特の曲線やイメージを損なうことなく、あれほどのサイズに作り上げることが出来たのか。
太陽の塔というと「岡本太郎の作品」というイメージが先行するが、建築物である以上そこには「プロダクト」として多くの人々の技術が注ぎ込まれているわけで、そういう視点での記録が新鮮で面白い。太陽の塔は、日本の職人技術の結集でもあるのだ。
そのうえで、この技術面で関わった人々が当時「よくわかんないなぁ」「なんなんだろ、コレ」と思いながら作っていたっぽいのが伝わってくるのがすごく良い。たしかにコレ、「何なのか」今でも誰にもわからなくて、映画まで作られているんだから。それでも太陽の塔は、ちゃんと完成したし、今もそこに立っている。
(c)2018映画『太陽の塔』製作委員会
さて、眉なのでふたつあるわけだが、もうひとつの白眉は日本を飛び出してチベットにある。そこで、チベット仏教の僧侶たちが古来から伝わる神仏の象徴、悪霊を封じ込める供物として作られる「トルマ」を紹介する。この手作りの供物が持つ原初的でキュートなフォルムと色彩は、まさに太陽の塔と通じるものだ。クリソツである。
トルマには、人類の原初から続く根源的な自然への信仰と、人々の未来への福音が込められている。それは、岡本太郎が太陽の塔で表現しようとした、過去、現在、未来が同時に存在し、ぶつかり合いながら調和する三重構造に通ずるものがある。
この海も時代も越えた地球規模での相似形には、唸らされる。そう、クリソツである。ただ違う点は、太陽の塔がそれを極限まで巨大化していることだ。そう、太陽の塔はとにかくデカイ。僕は、そこに太陽の塔の存在のほとんどがあると思う。
デカイ IS GOD。
その常識をマヒさせるほどのデカさが、ある種の意味を消失させ、同時にある種の神性を太陽の塔に与えている。そして太陽の塔には、巨大な顔もある。顔がある、というのは、つまり意志がある、ということだ。太陽の塔のそれぞれの顔は、動かない、叫ばない、しかしどこかへ向かっているのだ。デカイ顔は、その前方を見つめているのだ。それは人類の未来なのか、過去なのか、それすら越えた大きな意志なのか。
僕はたまに想像する、人類が進化の果てに滅亡し、誰もいなくなった地球を。そこでも、もはや自分が何であったのかも忘れた太陽の塔が、まだ人類の行く先を見つめている。
(c)2018映画『太陽の塔』製作委員会

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