髭の新作完全再現&デビュー15周年ラ
イブにみた、キャリアが成せるワザと
同居するイノセンス

STRAWBERRY ANNIVERSARY - Release Party - 2018.9.26 下北沢SHELTER
髭が、デビュー15周年のアニバーサリー・イヤーの本筋ともいうべきニューアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』のリリース日に、リリースパーティーと称してワンマンライブを開催した。彼らがデビューした2003年当時はソロ・アーティスト全盛時代。ASIAN KUNG-FU GENERATIONレミオロメンも同年デビューだが、相当に個性を確立しているバンドしかメジャーのフィールドで戦うことは難しかった記憶がある。だからこそというか、髭が極端にマイペースに自分たちの音楽を追求していたせいか、今や上の世代はthe pillows、下の世代は夜の本気ダンスと2マン・ライブを行ったり、そのサイケデリックで独自の諧謔味を含んだ表現はTempalayらにかなりの影響を与えてもいる。現在、バンドのサポートドラムである佐藤謙介が所属していた踊ってばかりの国もしかり。海外のロックを意識しなくても自然と共振しているあたりも、類は友を呼ぶ理由だろう。特段ヒットを放たなくてもファンとミュージシャンから厚い信頼を寄せられ、唯一無二のバンドであること。このことは特に現在、20代のバンドには心強いはずだ。
髭 撮影=kaho
さて、そぼ降る雨を物ともせずシェルターに結集したファンは男女比3:7ぐらいだろうか。若いファンも新たに加わり続けているのはさすがだ。リリース・パーティーというからには新譜からのナンバーをどう入れ込んでいくのか?と半分様子を伺っていたファンは、冒頭のブロックで嬉しい肩透かし(?)を食らって大いに踊ることになる。なんたって「ドーナツに死す」に始まる髭ライブ・ヒストリーのキラーチューンの連投だからだ。とはいえ、シェルターのキャパでグッと引き締まった5人のアンサンブルを全身で受け止めるのは相当な快感。須藤寿(Vo/Gt)と斉藤祐樹(Gt)の乾いてファットなテレキャスの最高の鳴り、腰にくる宮川トモユキ(Ba)のロー、そして佐藤“コテイスイ”康一(Dr/Per)と佐藤謙介のツインドラムが作る重層的なグルーヴ。須藤の書くメロディやコード進行ももちろんそうだが、生身の5人が作り上げるモダンなアレンジ、この中毒性の高さは代替不能だ。我々オーディエンスは、寸分の隙もなくツボを狙ってくるゴッドハンドの虜みたいなものだ。
髭 撮影=kaho
斉藤のアルペジオと伸びやかな須藤のボーカルとメロディに、雨の日の地下でも日の光を想像できる「サンシャイン」や、R&Rというダンスミュージックに乗せて逃亡の夢を見る「ボニー&クライド」で序盤からアゲにアゲられたフロアに向かって、須藤がこの日初めて長めのMC。「今日はほんとにありがとう。15周年をみんなで祝える日」と優しく感謝の言葉を述べつつ、歓喜するフロアに向かって、「締め上げて吊るすからな、メスブタども!」と嬉々とした表情でロックスターっぷりも見せる。口が悪くなるほど盛り上がるフロアに「この曲には似合わないMCだ」と、叙情的な「青空」を投下。斉藤のロングトーンが牽引し、スケールの大きな演奏に、ひたすら没入するフロア。曲ごとに脳内の情景をこんなに鮮やかに変化させる今の髭の力量には正直驚いた。
「青空」の残響が途切れ、大きな拍手が起こる中、須藤は「変だな、変だな、みんな稲川淳二さんみたいになってるの、わかるよ。いいんだけど、リリース・パーティーとか言いながら『ドーナツ』とかやってるし、変だな~と思ってるだろうけど」と、旧知の仲(!?)のファンの表情を読みつつ、笑わせる。そしてここから新作『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を全曲「ペロッと」やると宣言。意表を突かれつつ、歓迎ムードのフロアは若干「聴くモード」に突入する。
髭 撮影=kaho
1曲目の「Play Limbo」は、曲中で切ないギターポップ調とカオスに突っ込んでいく別世界が混在していて、しかしメリハリの効いた演奏がその妙な構成に乗っからせてくれる。コテイスイが拡声器で煽りを入れたことも手伝って、フロアは自由なノリで揺れている。音源はUSインディー以降の隙間多めで圧のない音像だが、ライブとなると前半のキラーチューン同様、ライブでの音像に変換されているのがわかる。カラフルな楽曲が収録された新作には特段コンセプトは見当たらないが、髭のライブ・サウンドはそれ自体がコンセプトというか、髭というバンドそのもの、存在そのものがコンセプトなんだと、早くも確信した。ノンストップでオルタナティヴなギターサウンドがまるでダイナソーJr.から過度なルーズさを取り除いたような「アップデートな嵐だよ!」「スライムクエスト」と続く。斉藤のコーラスも効いている。
髭 撮影=kaho
3曲を終えたところで、須藤は次に演奏する曲「きみの世界に花束を」はプライベートな内容を含んでいると話しながら、話題はこの曲のミュージック・ビデオへ。脱退したのにフィリポが登場していることを本人に伝えようと電話。なかなか電話に出ないフィリポが珍しく出たものの、「いいよ~」とおっとりした回答のみ。その5分後にメールで「まぁ頑張ってよ」との返事がきたそうだ。「ていうか、この曲はフィリポを歌った曲じゃない」と、相変わらずの予定不調和に須藤のみならず、髭というバンドの「だから癖になる」持ち味を堪能した。肝心の曲は、どこか大瀧詠一的というか、奥田民生のミディアムバラードというか、曲調はそんなムード。珍しく、大事な友達であろう人物への年相応な想いが溢れる須藤のアザーサイドがうかがえた。ライブでもうそこまで完成していることにも驚いたのだが。
髭 撮影=kaho
さらに人を煙に巻くようなムードの「エビバデハピ エビバデハピ」や、反復するミニマルなビートと暗号的な歌詞も相まって、坂本慎太郎OGRE YOU ASSHOLEにも通じる「得意な顔」。アウトロに向かってトランシーにコーラスが呪術的にリフレインされ、斉藤のエフェクトだけで作り出しているとは思えない変幻自在な音の壁には圧倒された。
アルバムから3分の2以上を演奏し、須藤は「最初、『STRAWBERRY ANNIVERSARY』全曲再現を前半にやったらいいと思ったんだけど、それやったらライブ全部が終わる頃、みんな忘れてるんじゃ?と思って」と、後半にまとめた意図を話した。そして10月20日からスタートするツアーでまた会おう、最終日のリキッドルームには今ここにいるメンバープラス何百人で会いましょう!と、アルバム終盤の3曲を演奏。ラストナンバーでタイトルチューンの「STRAWBERRY ANNIVERSARY」は、パーティーの閉幕と同時にまた会う日までの束の間の別れを歌いつつ、音源での切なさはいい意味で吹き飛ばされて、ひたすらタイトルをリフレイン・連呼し続ける斉藤とコテイスイのタフさに驚きながら、笑顔が自然と溢れてきてしまった。
髭 撮影=kaho
時代に対する嗅覚なのか、バンドが心地い方向に流れていった結果なのかわからないが、とにかく今の髭はリラックスしているのに、無駄な音がない。これはライブに行かなければ味わえない彼らの今日性だと思う。
灼熱のシェルターのステージへアンコールに応えて再登場した5人。おなじみ須藤の「誰かテキーラ奢ってくれないかな?」で、フロア後方から須藤に渡ったショットグラスを一口で煽り、もう一杯はファンに飲ませて、まさにパーティーは大団円。生粋の髭フリークにして、気持ちいいグルーヴの虜たちが結集したこの夜。デビュー15周年というキャリアが育んだタフさこそあれ、生身の人間が集まって音を出すことに対してイノセントですらあるシンプルなステージ。ロックンロールのかっこよさはここで息づいている。ツアーを経て、カラフルな新作のナンバーがどう育つのか? 旅の途上でまた5人に会いたい。

取材・文=石角友香 撮影=kaho
髭 撮影=kaho

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