アジアの新世代アートの最前線 『U
NKNOWN ASIA』をレポート【FM COCOL
O DJ 尾上さとこ編】

『UNKNOWN ASIAART EXCHANGE OSAKA』は2015年にスタートし今年で4回目を迎えました。「大阪からアジアへ、アジアから大阪へ」をモットーに、次の世代を担うクリエイターたちが作品を出展、みずからプレゼンテーションもおこなって、オーディエンスとも触れあう、新感覚のアートフェアです。9月15日(土)、16日(日)の2日間、大阪・梅田のハービスホールにて開催された模様をレポートします。
今年は、韓国、台湾、香港、中国、タイ、マレーシア、インドネシア、フランス、日本など、世界各国から審査を通過した212組が集結しました。表現方法も、イラストレーション、写真、映像、ファッション、インスタレーションなど多種多彩。
通訳もスタンバイし、クリエイターと来場者の会話を手助けしてくれます。
国内外から招聘された第一線で活躍するアートディレクターやギャラリスト、プロデューサーなどによる審査員、協賛企業やアート、広告などの関係者によるレビュアー、そして一般来場者が選ぶ賞も設定されています。
さて、今年も会場内は熱気に満ちあふれていました。クリエイターたちの意気込みが直に伝わってきます。初めて訪れる方は、静かな画廊での鑑賞とはまるでイメージが異なりびっくりされるかもしれません。これが「UNKNOWN ASIA」の空気です!
気になったクリエイターに話しかけてみると、その人柄の魅力がわかります。ここがひとつの出会いの場。ここから生まれる繋がりで、過去にも、新しいプロジェクトや展開ができ、それが海を越えることもありました。夢の広がりの始まりとなるこの場所で、キッカケを掴むクリエイターも多いのです。来場された方々からも「刺激を受けた!」など感動の声や、早くも来年への期待が寄せられました。会期終了後もまだ興奮が尾を引いている感覚です。
クリエイターたちは、それぞれに与えられたブース内を、開幕までの限られた時間で、プレゼンテーションスペースに仕上げていきます。徹夜明けの体でギリギリまで作業する人もいれば、来場者が入場してからライブペインティングを披露し会期中にブースを作り上げていく人もいます。それぞれの個性あふれるアイディアで、彼らの世界が出来上がっていきます。
イープラス賞を受賞したのは、その活躍ぶりから名を知る方も多い、福岡から出展のイフクカズヒコさん。
カラフルな色に彩られた作品は、日常から一瞬にして、夢の世界へと連れ出してくれる楽しさを含み、暮らしの中から生まれるひらめきによって、みたことのない世界をいくらでも経験できるんだ、そんなポジティブなエネルギーを感じさせてくれます。それだけに、ワクワクさせる要素がたっぷり詰め込まれているように思うのですが、ご本人に伺ってみると、「理想のタイプと好きになる人が異なるのとちょっと似てるかも。」と。シンプルを目指すはずが、いつのまにか賑やかになってしまうのだそう。恋愛において後者が心地よく自然体でいられるのと同じように、今あるイフクさんの絵は、本当に描きたいと思う伸び伸びとしたスタイルなのではないでしょうか。観る人に楽しい気分を届けてくれる彼の作品には、ご自身の楽しい気持ちも乗っているように感じます。
FM COCOLOのDJもレビュアーとして参加し、それぞれの心に残るクリエイターに賞を贈りました。私も非常に頭を悩ませながら、最終的には、松田聖子さんではありませんが、自分のなかの「ビビビ」と来た感覚に頼り決めることにしました。
僭越ながら、尾上さとこ賞をおくらせていただいたのは、高田昌耶さん。葦ペンと墨を使って描かれた魅力的なフォルムの女性達がその身を包むのは、こんなの着てみたいと思わせる鮮やかなコート。小顔から伸びる美しい首のラインは剛力彩芽さんからインスパイアを受けたとか。うなじも綺麗なんだろうなぁと後ろ姿までも想像してしまう女性達と美猫さん達。こんな洒落た絵が掛け軸に描かれているんだから驚きですよ。うちの床の間もクローゼットにしなきゃよかった。ここでの出会いをご縁に、彼女のますますの活躍の一助となれる存在でありたいと思いました。
人懐こい笑顔で出迎えてくれたのは、タイのMonsty Planet。Monsty Planetはアーティストネームで、その素顔はとてもキュートな一人の女性作家です。
カフェで色んな人と話をするのが好きだという彼女の作品には、可愛らしいスイーツが次々と登場します。落ち込んだ時には、美味しいものを食べたり、スーパーに出かけて色んな商品を見るのがストレス解消法だったという彼女は、それらを描くことで元気を取り戻していたようですね。お気に入りの食器や焼きたてのクロワッサン、コーヒーの香りが漂うカフェの風景。ささやかな日々の幸せで満たされる彼女のイラストは、世界中の人たちの心をとらえて離しません。好きな世界観をZINEを作って表現していた彼女ですが、その魅力にひきつけられる人は多くインスタグラムも人気なのです。
マレーシアから家族でやってきていたのは、ikuwashi。ikuwashi もまた、アーティストネームです。今回が初出展となる彼のブースには、彼の10歳の息子が看板ボーイとして出迎えてくれ、親子で一生懸命に作品の説明をしてくれました。作品の中に登場する女の子を指差して「daughter!」と嬉しそうに教えてくれたりもしました。
水彩とインクを使って描かれたイラストは、マレーシアの自然をあらわしているものが多かったです。木々は優しいグリーンで描かれ、森の精のようなオリジナルキャラクターも見られます。かと思えば、濃い単色のインクで半円が連続して描かれている部分があったので、「これは海の波?」と尋ねると「マレーシアであった津波を描いたんだよ。」と教えてくれました。自然を身近にされていることがわかります。と同時に共に生きる自然を守りたい想いも伝わってきます。キラキラとした瞳で話をしてくれたのがとても印象に残りました。
数多くのブースが並ぶので、観客に足を止めて観てもらうための工夫をしているクリエイターも多くみられます。
高棹祥太さんのブースは、すべての作品が、赤白黒の三色に統一されていたため、とてもクールに存在感を発揮していました。雑誌や新聞を丁寧に切り貼りして制作された平面のイラストで、近くで見るとその繊細さに驚きますが、離れて鑑賞すれば、そこから人物が浮き出てくるような躍動感。今回は、赤い色の紙を集めるのに苦労したそうですが、ちなみに、「いつかこのコラージュアートを○○の誌面を使ってやってみたい。」と某スクープ連発の週刊誌の名前を挙げてくれました。決定的瞬間を張り合せた先にどんなものが浮かび上がるのでしょう。様々な可能性を感じさせてくれます。
同じコラージュでも、こちらは木材を使った貼り絵、ウッドコラージュでの出展、ミヤザキコウヘイさん。様々な形や色の木片がモザイクのように組み合わせられ、人物や物、文字に至るまでを形作っています。ビキニの細かい模様にまで細工が施された気持ち良さそうに泳ぐ女性たちや、打鍵音やベルの音が聞こえてきそうなタイプライターなど、作品のひとつひとつが印象に残ってゆきます。木材ならではのあたたかみもまた良いですね。
竹内みかさんは、事前に行われたポートフォリオレビューでは、細い体で100号原画を運び込んだ根性の持ち主です。その気合いももちろん素晴らしいのですが、彼女が描く作品は、そのテーマ性により、観客に、自身の記憶をゆさぶり、懐かしい気持ちを思い起こさせる体験をもたらしました。彼女が描くのは、かつてはよくデパートの屋上や遊園地でみかけることの多かった動く動物の乗り物。メロディペットというそうで、今では希少な存在となっているようです。竹内さんは、各地の遊園地をめぐり取材し、それらを作品に残しています。そうせざるを得ない使命感のようなものまで感じられます。そこから漂う哀愁になんとも心が掴まれます。語りかけてくるような動物達は、現代の子供達の心をも掴んだようで、彼女のブースには子供の姿も絶えませんでした。
アートユニット、透明回線は、主にライブペイントとプロジェクションマッピングを組み合わせたライブパフォーマンス作品を制作しています。一目で完璧なまでの魅力にひきつけられました。ノリにノリまくっている勢いを感じる彼ら。大変多くのレビュアーの票を獲得したということで「Reviewer Prize(レビュアー特別賞)」を受賞しました。透明回線は、この秋、「MINAMI WHEEL 2018」のメインビジュアルを担当し、digmeout ART&DINER での個展も控えています。とても楽しみです。
ブースは白い壁がほとんどですが、そんななか全面を苔で覆い一際目をひいたのが、かとうともきさんのブースです。中央には、これまた苔むした半円型のオブジェが鎮座しています。まるで円い小さな森のよう。なにやら子供達が楽しそうに中を覗いています。気になって私も体験させてもらうことにしました。オブジェの前には指を置くスペースがありそこにはセンサーがついています。そっと指をのせ力をぬくと準備完了。窓から森の中を覗き込むと、自分の心拍が光になって内側で色をなしているのがわかりました。興奮しているのか点滅が早い!その光に反応してさらに色々な光が浮かび上がります。まるで万華鏡のような不思議な作品です。今後は、脳波、体温、足音など、日常できづかれにくい要素を静かな空間に表現していきたいとのこと。まるで体の声を聞いているようなひとときでした。
最後になりますが、今年は、10日程前に近畿を襲った台風の影響で、予定していたルートが使えなくなり、各地を経由することで大阪入りしたクリエイターも多かったようです。大きなサイズの作品の搬送も予定通りにはいかず、新しい業者に頼んだために請求書が送られてくるのが怖いよ~という声も聞きました。こういった壁が次々と立ちはだかろうとも、やはり彼らにとっては「何としても参加したい!」という思いが強くあるのです。そうやって挑んだ212組、すべてのクリエイターの皆さんにとって、今回の経験が、次のステージへと大きく飛躍する援けとなっていてほしいと願います。
取材・文=尾上さとこ 写真=高村直希
尾上さとこ(おのえさとこ)
DJ(FM COCOLO「Fruits O’ Sunday」日曜 AM8:00-11:00)、ナレーター、MC。一児の母。趣味は、ヴィンテージの服やレコード収集、映画鑑賞。
アロマテラピー、漢方、産後ケア、マクロビオティック、救急法、日本語教師などの資格を保持。

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