【インタビュー】FRONTIER BACKYARD
、あらゆる年代のソウル/ファンク/
R&Bのエッセンスを取り込んだ問題作
『Fantastic every single day』

2年前、ギタリストが抜けて二人になった時には、FRONTIER BACKYARD史上最大の危機か?と思われたが、そこらから快進撃が始まるのだからバンドは面白い。TGMX(Vo&Syn)と福田“TDC”忠章(Dr)のルーツであるブラック・ミュージックに狙いを定め、あらゆる年代のソウル/ファンク/R&Bのエッセンスを取り込んで発信してゆくバンドとして、FRONTIER BACKYARDはこれまでで最高の充実期を迎えつつあると言ってもいい。「今は創作することの調子がいい」と笑顔で語る、二人の本音を聞いてみよう。

■「こういうバンドです」と言いやすいアルバムと思います
■前はいろいろと手を出しすぎて売りがわかんないというか(笑)

――前作から1年ちょっと。どんどん快調になってきているのではないかと。

TGMX:そうですね。前回は新しい旅立ちという感じだったんですけけど、今回は終着点に着くみたいなイメージがあったので。目的がかっちりしていて、「こういうふうにしたい」というものが決まっていたというか。

――はい。なるほど。

TGMX:前作は、ギターがいなくなったこともあって、実験的だったんですよ。「果たしてこの音楽は良いのか?」「急にもっと深いファンク路線に行って大丈夫だろうか?」というものがあって。で、大丈夫だと確認したので(笑)。このまま突き進もうということですね。

TDC:昔のFBYよりも今の方が、やりたいことには近いのかなと思います。

――よりルーツに近い、という言い方でいいんですかね。

TGMX:二人のルーツにはより一層近いというか、僕が忠章くんに「これはどう?」と言って、「ないな」と言われたらないですし、逆もそう。二人だと、コミュニケーションはしやすいですね。何人かいると、誰かがイニシアティブを取ったり、我慢する人も出てくるから。
――最少人数のメリットがある。

TGMX:そうそう。五人いたら五等分になるのが、二等分なんで、かなり濃いですよね。しかも、ライブではサポート・メンバーがたくさんいるんで、二人だけでやってても煮詰まりもせず。

TDC:状況はすごくいいです。

――その、ファンク路線のルーツというのは、具体的にはどのへんですか。二人の年齢を考えると、80'sあたりとか。

TGMX:そうなりますよね。高校時代が80年代の後半なので、80'sは避けて通れない。

――それこそ「Back to new life」は80'sっぽい。キラキラしたシンセ・ポップ。

TGMX:今のFBYは、シンセが売りになってるので。80年代っぽい要素は入れやすいんですよ。

――「My regulations」も?

TGMX:「My regulations」も、80'sっぽいところがありますね。使ってる楽器も、確かJUNO(ローランド)とか、80'sぽいものを使っていた気がする。
▲TGMX(Vo&Syn)

――「Paper plane」はもう少し前、70年代ぐらいのファンキージャズという感じがします。

TGMX:今回は、各種ブラック・ミュージックを盛り込んだつもりです。ブラック・ミュージックにもいろんなスタイルがあって、Pファンク、ソウル、新しいR&Bとかも好きなんで、曲ごとに色を変えている感じですね。

――ああ、なるほど。そのへんをまんべんなく入れてる。忠章さんは、今回のアルバムについては?

TDC:前作よりも整備されたという感覚があります。今まではいろんなジャンルというか、取っ散らかった印象があるんですけど、一本筋が通ったアルバムになったのかなと思います。

――それはサウンド的に、それともメンタル的に?

TDC:メンタルも、そうかな。「こういうバンドです」と言いやすいアルバムかなと思います。前までは、いろんなことに手を出しすぎて、売りがよくわかんないというか。

TGMX:(笑)。

――うはは。それ自分で言う。

TDC:今回はそれがなくて、どの曲を聴かせても大丈夫というか、とらえやすいというか。昔はそれが嫌だったんですよ、統一感のあるものが。でもよくよく考えてみると、統一感はあったほうがいいなと思って、そういうアルバムができたので良かったなと思います。

――何かが起きたんですかね。メンバーが二人になる過程で。

TDC:何ですかね? 知らず知らずのうちに、二人の思いが合致したんじゃないですかね。今までは「違うことをやらなきゃいけない」とか、「変わったことをやろう」という思い込みもあったんですけど。

――それはアーティストの健全な衝動だと思いますけどね。

TDC:まあ、そうなんですけどね。でも、それがもしかしてわかりづらかったのかなと思うので。全体的に見ると。それが今回は薄まったというのが、このアルバムを客観的に見た僕の印象ですね。

――しかも、やっていて楽しい。いいことづくめ。

TDC:いいことばっかりなんで、すごくいいアルバムだと思います(笑)。
▲福田“TDC”忠章(Dr)

――TGMXさんも同じ見解ですか。

TGMX:んー、僕はまだちょっと、このアルバムがどういう存在なのかがわからないんですけど。だんだんわかってくるんでしょうけど、忠章くんが「統一感がある」「前よりもいい」と言うので、そうなんだろうなという感じですね。最初にも言いましたけど、前作はチャレンジっぽかったのが、今回は、前回やってみて良かったものを取り入れて、ギターがなくてもやれるんだとか、こういうものが合うんだとか、アレンジがうまくできるようになったので、そういう意味では良くなったのかなと。今はサポート・メンバーがほぼ同じようなメンバーなので、ある種バンドなんですよ。その人たちもレコーディングに参加してもらってるんで、バンドとしてのサウンドが固まったのかなという気はします。

――実際、ギターがいない場合のアレンジって、どうするんですか。その音域は空けたままにしておくのか、何かで埋めるのか。

TGMX:いろいろ工夫をしてる感じですね。でも僕はもともと、ギターがジャーン!みたいな、ロックっぽいものはあんまり聴いてこなかったので。ロック=ギターみたいな感じはあんまり重要視してないので、いなけりゃいないでしょうがないぐらいの感じで、そこを逆手にとっていこうという、今はその実験が面白いですね。パッドを入れてみたりとか。

――シンセベースの音を、ギターのリフっぽく響かせたり。

TGMX:そうそう。もともと僕らはシンセベースを使っていたんですけど、いよいよ本当に鍵盤しかいなくなっちゃった。たまに、ホーン隊がいないリハーサルをやると、変ですよ。みんなシンセをいじってるのに、わりと激しい音楽をやってる。

――他にはあまりいないですよ。

TGMX:参考にしようとしても、全然いない。気づいたらシンセしかいなくて、フェスに出させてもらっても、ステージのスタッフさんに「ギターいないんですね」って言われたり。「キーボードの方?」って言われても、キーボード三人いるんだけどって(笑)。
■どう思われてもいいので、とにかく聴いてもらいたい
■二人の思い出の音楽をやってるだけだから、よくわからないかもしれないけど(笑)

――今回はゲスト・ボーカルで、おかもとえみ(フレンズ)さんと西寺郷太(NONA REEVES)くんが参加。おかもとさんは、どんなきっかけで?

TGMX:フレンズのメンバーはもともと友達で、ブレイクする前から「こういうバンドやってます」という感じで音を聴かせてくれていて、ボーカルの声がすごくいいなあと思っていたんですよ。ある時、フレンズのライブに誘われてトランペットを吹いたことがあって、それをきっかけにより一層近づけたので、この曲を誰かに歌ってもらおうと思った時に、すぐに「えみさんがいい」と思いました。そんなによく知っているわけではなかったんですけど、すごく良かったですね。「こういう人なんだ」という発見もあったし。たとえば「ワンテイクでいいですか?」とか、テイクを重ねたくないみたいなんですよ。

――一発で? それはすごい。

TGMX:かっこいいなあと思って、より一層好きになりました。漢だなと(笑)。僕なんか何回も録り直したりしちゃうから、そういう意味でもいいシンガーだなって再確認しました。ルックスは小さくて可愛い女性ですけど、相当パンチがありますね。もともとベーシストで、鍵盤も弾けるし。「change」という曲を一緒に歌ってもらったんですけど、アレンジに関しても相談したところがあって、彼女がよりかっこよく見えるように、キーの高さを決めたり、僕が入ってくる場所を考えたり。けっこう会話しながら作りましたね。

――この曲、かなりアダルトなイメージじゃないですか。

TGMX:そうですね。わりとアーバン・ソウルっぽいものをやりたかったので。フレンズのえみさん、というイメージから入ると、変わった一面が見られるんじゃないかと思います。かっこいいシンガーです。
――一方、郷太くんとは、古いですよね。

TGMX:そうですね。僕と忠章はSCAFULL KINGというバンドを昔やっていて、その時代から付き合いをさせてもらっています。今はFRONTIER BACKYARDがファンキー路線になって、NONA REEVESのやってることに近いので、より一層絡みたいなと思ってお願いしました。郷太だったら良い意味でやり合えるし、とても好きなシンガーだし、マン・パワーもすごいし。

――あんなにインタビューが楽な人はいない(笑)。

TGMX:レコーディング中もずーっとしゃべってた(笑)。人となりも好きだし、僕らぐらいの年代のミュージシャンの中でも、かっこよくやり続けている人だから。

TDC:歌入れ前にまず1時間しゃべって…。

TGMX:声出し(笑)。

TDC:実際の歌入れは1時間かかってないです。えみさんもそうですけど、郷太もほぼワンテイク。その前に「こんな感じで歌います」という、デモに歌入れしてきてくれた段階で、これでいけるという感じだった。で、歌い終わってさらに1時間しゃべって(笑)。話がうまいから、聞いちゃうんですよ。楽しかったです。

――この曲、すごい構成に凝っている。どんどん変化しながら転がっていく。

TGMX:ABCD、Eメロぐらいまでありそうな。ABサビ、みたいな概念じゃない曲を作りたくて、「どれがAメロ?どれがサビ?」みたいな曲が、個人的な好みでもあるので、変わった構成の曲が多いと思います。郷太との「SO FAIR」も、えみさんとの「change」も、そういう感じですね。

――逆に「BURN」とか、ワンコード・ファンクみたいな曲もあったりして。

TGMX:ワンコードの、事故みたいな曲ですけど(笑)。それはPファンクのワンコード感を速くしてみたかった、ということだったかもしれない。それと「last soul」とかは、スタンダードに歌メロもちゃんとあって、ソウル・ミュージックから来てる感じです。忠章くんはソウルも聴くけど、そんなに好きじゃないんだよね? 忠章くんは、どっちかといえばファンクが好き。僕は、どっちかといえばソウルが好きなんです。同じブラック・ミュージックでもちょっと違う。

TDC:好きなものは重なってるんですけど、ファンク寄りかソウル寄りかの違いがあって。

TGMX:たぶん忠章くんはドラムで、僕はボーカルで、ということじゃないかな。

TDC:僕はいいメロディも好きなんですけど、それよりもリズムでとらえるので。「SO FAIR」は、二人の好みがいい感じで重なった曲だと思います。

TGMX:でも二人とも、美メロはあんまり好きじゃないよね。わかりやすいサビがあるのはあんまり好きじゃない。ちょっとしたフックっぽいサビのほうが好き。

――「last soul」はかなりの美メロだと思いますけどね。相当頑張ったのかな。

TGMX:これは、相当頑張りました(笑)。それは完全にTLCみたいになればいいなと思って作ってたんで。

――ああ! なるほど。わかる。

TGMX:わかる人は少ないと思うんですけど(笑)。「TLCみたいになればいいな」とか、「フィッシュボーンみたいになればいいな」とか、僕らの思い出を切り取ってるだけなんですけど。決して新しくはない、「まだやってるのか」みたいなことを、何周か遅れてやってる感じ(笑)。

――そこがいいんですよ。古くて新しい。最後に入ってるタイトル曲なんて、言ってしまえば超オーソドックスなブルース進行の繰り返しだし。これを今やるのはかっこいいですよ。

TGMX:普通にドラムとベースを入れると、普通のブギーみたいになっちゃうから。ビースティー・ボーイズの「Girls」という曲があるんですけど、シンセだけで歌っているような、それっぽくしたいという狙いがあったんで。鍵盤と歌だけで、ジャイヴっぽい曲ができればと思っていました。
――「Houseplant」は、だいぶ懐かしい感じがしましたね。SCAFULL KINGでやってもおかしくないような、生きのいい曲。

TGMX:これは忠章くんの名曲ですね。すごくポップだし、ソウルっぽいし。

TDC:リズムとメロディだけあって、コードをつけられなかったので。そのままスタジオに持って行って、「これでどうでしょう」とおうかがいを立てたんですよ。

TGMX:「えっ?」と思いました(笑)。コードがなくて、歌とドラムしか入ってない。でも「もしかして良くなるかも」と思えたので、そこからコードをつけていった。だから二人で作った曲ですね。

――つまり、1曲ごとに、ブラック・ミュージックのルーツに根差したテーマや狙いがあるアルバム。なるほど。わかってきました。

TGMX:1曲ずつバラバラのルーツで、1色ではなく12色あるんですけど、それでも統一感があるというのが忠章くんの意見なので。ブラック・ミュージックがベースになってるというのが、その理由かもしれないです。今は二人とも、創作することの調子がいいので、楽しくやれていますね。あとは、聴いてもらってどう思われるか。特に若い人たちには、どう思われてもいいので、とにかく聴いてもらいたいです。二人の思い出の音楽をやってるだけだから、よくわからないかもしれないけど(笑)。

――そんなことないですよ。今の若い世代の音楽好きは、昔の音楽も掘り出して聴きますから。

TGMX:そうなんですよね。今の若いバンドで、特に洋楽直系のバンドは、本当にかっこいい人たちがいっぱいいるので。フジロックに出てるような若いバンドに、好きなものが多いです。いい時代になってきたんじゃないかなと思います。Suchmosがガーンと行ったように、もっと行ってくれるといいなと思いますね。音楽的にしっかりしたものがちゃんと売れていくというのが理想ではあります。

――行きましょうよ。FBYもその流れに乗って。

TGMX:ただ、意識はだいぶ違うと思うんですよ。僕らもフジロックに出させてもらったんですけど、「洋楽ファンになめられないように」って思ってやっていましたから(笑)。今どき、そういうことを考える人はいないだろうし。

TDC:たぶんないと思う。

TGMX:でも、ぼくらはまだ洋楽が好きですね。憧れが止まらない。特にブラック・ミュージックに関しては。

――アルバムのリリース・ツアー。楽しみにしてます。

TGMX:今回は、東名阪をワンマンでやろうと思っています。前回のツアーは、the band apartとかASPARAGUSとか、古い友達と一緒にやって、「今のFRONTIER BACKYARDはこういう感じですよ」というものを見せるイメージがあったんですけど、今回は自分たちの目標としているものを見せるには、ワンマンで長い時間やったほうがいいのかなと。7枚もアルバムを出していて、曲もいっぱいあるので、なるたけ長くやってみたいと思います。体力は度外視して(笑)。Pファンクのライブって、長いイメージがあるじゃないですか。

――おお。目指せPファンク!ですか。

TDC:そろそろ体力もなくなってくるので、これだけ長くやるのは、もしかしたら最後になるかもしれない(笑)。ぐらいの気持ちでやります。ぜひ見に来てほしいです。

取材・文●宮本英夫

リリース情報

7th Album『Fantastic every single day』
発売日: 2018年10月10日(水)
NIW142 / 3,065 円 + 税
1.DIS SONG
2.SO FAIR feat. 西寺郷太(NONA REEVES)
3.TOO YOUNG TO STOP
4.change feat. おかもとえみ(フレンズ)
5.Paper plane
6.Back to new life
7.last soul
8.My regulations
9.BURN
10.Broken clock's moving
11.Houseplant
12.Fantastic every single day

ライブ・イベント情報

<FRONTIER BACKYARD 7th album“Fantastic every single day”release tour ONE MAN SHOW>
11/ 9 Fri 渋谷 TSUTAYA O-WEST
11/16 Fri 大阪 Shangri-la
11/17 Sat 名古屋 RAD HALL

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着