tofubeats、ソロになる。本が教えて
くれた新しい自分
tofubeats、4thアルバム『RUN』発売。
フィーチャリングからソロへ
4枚目となるアルバム『RUN』に先駆け、水曜日のカンパネラ同様、公開インタビューという形での合同取材が開催された。
聞き手は元・雑誌WIREDの編集長であり、トーフビーツのサードアルバム『FUNTASY CLUB』でライナーノーツを寄稿した若林恵(わかばやしけい)。最先端のテクノロジーやカルチャーに精通した敏腕編集者は、現在のトーフビーツから何を引き出すのか?
Photography_Jun Yokoyama
Edit_Yukari Yamada
tofubeatsとは
同年、森高千里をフィーチャーした『Don’t Stop The Music』でメジャーデビューを飾る。以降4年間で『First Album』、『POSITIVE』、『FANTASY CLUB』と3枚のアルバムを発表。
何がリアルで何がリアルじゃないか そんなことだけで面白いか
話題は『FANTASY CLUB』から『RUN』にたどり着くまでの経緯や、『RUN』制作のインスピレーションとなったものへと展開された。
ゲストに呼びたい人がいなくなった
tofubeats : 上海の「Concrete & Grass 2018」に出演して、おととい帰ってきました。台湾は去年ミニツアーで回りましたね。
若林 : 飛行機が苦手だと聞いていたけど、ついに乗ることにしたんだね。僕はトーフくんにずっと海外に行ってほしいと思っていたから、ちょっと嬉しかったです。上海のお客さんの反応はどうでした?
tofubeats : 実は、サチモスと時間が丸かぶりでして(笑)。でも100〜200人くらいは観てくれたんじゃないかな。僕が日本のロックフェスのDJステージをやるときと同じような感じでした。まあロックフェスだったし、僕の曲はクラブミュージックっぽいので、思ったよりは落ち着いた反応でしたね。
若林 : 台湾はすごく盛り上がったと聞きました。どう良かったの?
tofubeats : それが、何の曲をやっても盛り上がるんですよ。客層としてはインディーロック好きなはずなのに。一番びっくりしたのは「SHOPPINGMALL」の反応がすごく良かったことです。正直日本ではあまり反応が良くなくて、戸惑う人もいたりするんです。台湾には去年の6月に行ったので、『FANTASY CLUB』がリリースされた直後だったし、ビートに対して盛り上がってくれたのが驚きでした。
若林 : そうなんだ。僕もトーフくんの「SHOPPINGMALL」が本当に好きなのね。結構頑張ってカラオケで歌うんですよ。でも本当に歌えない。
tofubeats : ははは(笑)。オートチューンがあったら若林さんも歌えますよ。
若林 : いやいやいや。ていうかね、リズムに乗れない。あれは何拍子?
tofubeats : 4拍子です。
若林 : 普通の4拍子? いやー、そんなはずねえなあ、というのは冗談ですけど(笑)。でね、僕が最近思っているのは、中国とかキャッシュレス化がすごいでしょう。とにかくテクノロジーみたいな話で言うと、中国は2周くらい前にいる状況ですよ。だから最近、中華文化圏がテクノロジーを通してさらに広がっていくような気が本当にしていて。日本もアジアとしてマーケットの一体感を持つことが大事だろうなって思うんですよ。
tofubeats : そうですね。
若林 : 日本の音楽業界全体も、もうちょっとアジアを視野に入れてやれたらいいのにね。これからソウルとか台湾とかも入れて、アジアツアーみたいなことも考えてたりするんですか?
tofubeats : そうです。それで、頑張って飛行機に乗ろうというチャレンジが始まったんですよ。
若林 : なるほど。
tofubeats : 僕としては、「アジアの中の日本」という意識が前作くらいからあるんです。Youtubeに英語の字幕を付けたり、中国のライブでは中国語の字幕の対応をしたり。ここ最近は中国のチャートも調べるようになったんですけど、良い新譜がいっぱい出ているんですよ。そのなかで僕自身、今まで以上に自分らしさを問われているように感じていて。
『FANTASY CLUB』を作った頃に考えていたのはポスト・トゥルースみたいなことだったんですけど、リリースしてみて、そんな風に自分と同じ悩みを持つ人ってあんまりいないのかもしれないという結論に至ったんです。いたとしても、一緒に良い曲を作れそうな人が思い浮かばなくなちゃって、だったら一人で頑張ろうと。
若林 : もしかしたら中国人にいるかもしれないって思うことはなかった?
tofubeats : もちろんそれも思いました! でも、意外と同じ問題意識を抱えている人がいないんですよね。そもそも日本にもあんまりいなかったですし……。コンセプトが立っていた『FANTASY CLUB』の後、タイアップで「電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-」の「ふめつのこころ」と、映画「寝ても覚めても」の「RIVER」を作ったんですけど、それからはもうゲストに呼びたい人がいなくなっちゃって。
森高さんとコラボした『Don’t Stop the Music』から、その後もいろんな人とコラボさせてもらって、どんどん好きなことが増えていって、性格も丸くなって、ラジオとか持って……歳を重ねるほど全部が好きになるんじゃないかと思ったんですよ。
若林 : ははは、ならんよ(笑)。
tofubeats : はい、全くの逆でした(笑)。どんどん好きなものがはっきりしていくという言い方もできるんですけど、それはつまり限定されていくということじゃないですか。どんどん狭くなっていった結果が『RUN』で。出来上がってみて、自分でも面白いなと思ったんですよね。
若林 : 編集においてもキャスティングは重要で、というかそれが生命線なんだけど、難しいんだよ。自分の考えてることがはっきりしてくると、結局自分で書いたほうがいいというか。それは仕方がないのかなあ。
tofubeats : 良いか悪いかは分からないですけど、僕は今回が初めてで。メジャーデビュー前に持ってるお金で全部ゲストを呼んでみよう!みたいに作ったのが『lost decade』で、メジャーになってからは森高さんと藤井さんが入った『First Album』が出て、それもすごく良かったから、今度は別のやり方をしようということになって。『POSITIVE』、『FANTASY CLUB』、『RUN』とどんどんゲストが減っていって一人になったという。俯瞰で見るとキレイな流れにはなっているんですけどね。
いいポップスとは、いいアルバムとは
tofubeats : ありがとうございます。
若林 : こういう言い方をすると語弊があるんだけど……「すごく良い!」みたいなのは強く感じないかもしれない……。うまく言葉にできないんだけど。ただ、不思議と繰り返し聴けるんです。まず聴きたかったのが、作るのは難しかった?
自分とあまり距離が近くないけど同じ問題意識を抱えている、ジャンルの違う同世代のミュージシャンとかにも届いてほしい思って作ったんですけど、その手応えはあまりなくて。いたのかもしれないけど、会えなかった。まあ、会えるほど広めきれなかったのかもしれないんですが。
なので、『RUN』ではコンセプチュアルな部分を剥ぎ取ったり、距離のある人を呼んだことで感じる“圧”みたいなものを減らして、聴き味を軽くしようと。規模感的にももっと小さな半径でやってみようという気持ちがあったし、時間も限られていたので、あまり難しくならないようにしていました。
若林 : なるほどね。アルバムの前半に「RUN」、後半に「RIVER」とキャッチーなタイアップ曲があって、その間も良質な音楽で繋いだパッケージになっていることは間違いないと思うんですよ。よくできたポップスアルバムだし、それこそ“圧”がないので、サクサク聴ける。
で、そもそも今、「良質なポップスアルバムを聴くってどういうことなの?」っていうのが僕の中でちょっとわからなくなっちゃっていて。音楽から「楽しくて高揚した気分になれる」という機能がどんどん失われていて、ポリティカルなステートメントだとか、非常にジャーナリスティックなものになっていくという流れがあったし、『FANTASY CLUB』は特にそういうことを投げかけてきていたので、「よっしゃー!」みたいな気持ちで聴けた部分があったんですよね。
一時期、成果を人のせいにしてたときがあって。「POSITIVE」の中に“未来に期待したいし”という歌詞があるんですけど、どうも世間頼りなんですよね。それじゃあだめかもなってモードになって『FANTASY CLUB』を出したんですけど、今回はもっと自分が頑張るしかないんだなってはっきりしたんです。
若林 : なるほどね。もう一つ、アルバムの聴きやすさでいうと、「万引き家族」はまだ観ていないんだけど、細野晴臣さんの作ったサントラがすごく良くて。
tofubeats : めっちゃ良いですよね。
若林 : 大体1分くらいの曲で、トータルで聴いても15分くらい。ちょっと良い感じになってきたって感じのときに曲が終わっちゃうの。逆に言うと、「もうちょっとこうなるのかなあ」って予感がしてきたところで次の曲に変わっていくみたいな連鎖が、また音楽的だなあって。曲とかアルバムのフォーマットは大体決まっているものなんだけど、そうじゃなくても良くない? みたいなものが出てくるのが俺は面白いなって思うんです。
tofubeats : リリースはされていないですけど、「寝ても覚めても」のサンウンドトラックも全部で10分ちょっとなんですよ。シングルの「RUN」も最初は1分20秒くらいしかなくて、マネージャーに送ったら「2分半に伸ばそうか」って言われて1分54秒にしたんです。
若林 : 今年出たアルバムでいうと、ティエラ・ワックの『Whack World』も全曲を1分程度にしちゃって通しで15分くらいなんだよね。Instagramのストーリーズでやれる範囲にしちゃえって。今の日本の状況は分からないですけど、そいういうフォーマット上の挑戦はあってもいいかなあと。
tofubeats : アルバムの長さや曲数については一応定義が確かあるはずなので。シングルでもなかなかそんなにチャレンジングな人はいないかもしれませんね。
若林 : そうなんだよ。他にも雑誌だと、スタジオ・ボイスは何ページある?
石神 : 200ページくらいです。
若林 : さすがに200ページもあると緩急を作る必要があるので、そこまで重要じゃないものも必要になってくるでしょう。「捨て曲」って概念があるかわからないけど、それに近いというか。
tofubeats : でもサマリーになっちゃ駄目ですし、その辺りが難しくて。個人的にはアルバムだから入れられる曲があるというのは好きなんです。全部豪速球の3曲! みたいのもやってみたいですけど、自分の中ではやっぱり長く聴けることがアルバムの一番の価値なんですよね。
tofubeats、ソロになる。本が教えてくれた新しい自分はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
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ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。