【インタビュー】DJ KAWASAKI「ジャ
ンルを超えたDJになる。その答えのひ
とつがKAWASAKI RECORDSにあります」

DJ KAWASAKIが自身のレーベル“KAWASAKI RECORDS”を立ち上げる。記念すべき第一弾は7インチでリリースする「DON'T PUT MY HEART DOWN」。こちらはカナダの気鋭シンガー“メイリー・トッド”をフィーチャーした、2013年にリリースされたメイリー・トッドのソロ作品「Baby’s Got It」にも通じるアップテンポなディスコ/ブギー・ダンスチューンだ。またカップリングにはGlitterboxの看板アーティストでもあるディスコ・マスターで、ジョーイ・ネグロやディミトリ・フロム・パリと比較されるディスコ系ハウス・リミキサーとして世界中から熱い注目を集めている“DR PACKER”を起用したリミックスを収録している。なぜ今レーベルなのか、2006年にメジャーデビューし、DJ、トラックメイク、プロデュースなど着々とキャリアを築き上げてきたDJ KAWASAKIの苦悩と決断とは?

■ジャズの中にあった、
■ジャズ・アーティストがセレクト/プレイするディスコ

──なぜKAWASAKI RECORDSを立ち上げるに至ったのですか?

DJ KAWASAKI この何年かズーッと考えていたことですが、自分がやりたい音楽をやるには、どうしても自分のレーベルが必要だと思ったんです。ジャンルを関係なく自分が本当にやりたい音楽を作って、かつ、こうありたいという姿をリアルに考えたときに、今自分がやりたい音楽をやりたいままに作ることができる、作らせてくれるレーベルやレコード会社は存在しないんじゃないか……そう思ったわけなんです。

──例えばKAWASAKIさんが所属しているEXTRA FREEDOM沖野修也主宰)や、ESPESIAL RECORDS(沖野好洋主宰)に紐付くリリースでは違う?

DJ KAWASAKI 違うというか……ESPESIAL RECORDSでも無理ですね。世間一般では“DJ KAWASAKI=ハウス”のイメージです。ハウスミュージックは一時期“流行”って、今は落ち着いている状態。もちろんハウスミュージックは大好きだし、作らないということではなく、ハウスミュージックが流行ったためにイメージが一人歩きして、コマーシャルなものとして消費されてしまった気がしているんです。

また、“DJ KAWASAKI=ハウスが流行ってたときに活躍してた人”というイメージを持たれているなと感じることが、ここ何年かであって……デビューのときもハウスミュージックを作ろうと思ったわけではなく、THE ROOMで学んだ音楽を昇華してダンスミュージックのアルバムを作ったという意識。つまりフォーマットは4つ打ちでしたが、スピリットはジャズだった。

今はハウスを作ればどこでもリリースできた、そういう時代じゃない。より自分の音楽に正直に向き合って、キチンとやりたいことを素直にやっている人の方がかっこいいなと自分でも思いますし、そうありたいと思う。それで世間に認められるのが理想的です。今年46歳になって、今も音楽を作っているということは、音楽は一生の仕事になるだろうと思っていて、そうだとすると後悔したくない音楽を残していきたい。それに単純に作りたいものを作るには自分が自由にできる、判断できるレーベルを作るべきじゃないか、そう思いました。

──なぜ今?とは思いました。

DJ KAWASAKI ハウス・ムーブメントで売れてるときと、今始めるのでは、全く意味合いも作る曲も違ってたと思うんです。僕は今でよかった。もちろん当時も間違ったことはしてないし、正直にやってましたけど、時代が時代だったから、捉えられ方が違う。コロンビアからリリースした最初のアルバムは、モデルの藤井リナちゃんをよねさん(米原康正)が撮ったものですが、あれはジャケを70年代のBLUE NOTE風にしたかったんです。アーティストは前に出てないけど、当時のモデルが楽器を持って高級車の前に立っている……。でも“キラキラハウス”、“乙女ハウス”、“モデルジャケ”、その部分だけが一人歩きしてしまって……あれは最初に僕がやったと思うんですけど。その最初のイメージを理解してくれている人がいるのかどうか……(笑)。そのイメージがヒットした理由でもあるし、トレンドになった理由でもありますけどね。

──今も、レコード会社のオファーやCMソングを作ってほしい、地方にDJとして招聘される……そういう仕事には、「ハウスのDJ KAWASAKI」というイメージが付きまとっている?

DJ KAWASAKI 付きまとっていた、ですかね。最近は、例えばNAYUTAHの作品をプロデュースしたり、アナログレコードでしかプレイしないを公言したり、日本全国一回りして自分の選曲や自分の音楽感はある程度伝わったなという印象です。だからハウスだけを望んでいるパーティには呼ばれなくなりましたね、いい意味で。

──では、KAWASAKIさんのレーベルはオールジャンルで、基本的にKAWASAKIさんの好きなものだけを出していくことになりますか?

DJ KAWASAKI 基本はディスコ/ブギーにフォーカスします。僕はTHE ROOMで初めて沖野さんを観て憧れてDJを目指した経緯があります。きっかけはジャズですが、ジャズの中にあった、ジャズアーティストがセレクト/プレイするディスコ……例えばジョージ・デュークだったり……ディスコがなんたるか分からないままに、こういうのが好きだと思って掘り出したのが始まりなんです。自分の1stアルバムも打ち込みで、そういうジャズのスピリットを持ったダンス・ミュージックを作りたかったわけなんです。

──例えば音楽家が自分の好きなものを追求していくと、マニアックすぎて一般層にウケなかったりするものですよね。KAWASAKIさんのレーベルは自分が良かったらリリースするというスタンスでしょうか?

DJ KAWASAKI そこまで自分勝手なものは考えていませんね。自分がいいと思うし、いいと思ってくれる人がいるという確信もあり、海外向けなサウンドを目指しています。今までも海外向けを意識していながら、契約の問題で日本国内でしかリリースできない事情がありました。それを自分のレーベルを立ち上げることで、海外にもアピールできるしリリースもできる。もちろん日本のリスナーにも伝わる、そういう音楽を自由に作れるようになると思っています。

──目指しているレーベル像はありますか? 

DJ KAWASAKI ひとつの参考例はジョーイ・ネグロのZ RECORDS。彼は、僕がこうなりたいというアーティストのひとりでもあるし、彼がやっていることは、ディスコにフォーカスしつつ、旬なアーティストをリミキサーに起用したり、キチンといいバランスでトレンドも抑えていること。アンテナも張れている人で、やりたいことをやりながら成功している。僕にとってはいい参考例です。

──その立ち位置を日本で目指す?

DJ KAWASAKI いま、そこの立ち位置っていないと思うんです。例えばジョーイ・ネグロ、コン、ディミトリ・フロム・パリ、ダニー・クリヴィット、サダ・バハー、それにフォーマットは違えどセオ・パリッシュ。彼らがかけている曲はほとんど好きで、僕と好みが似ているアーティスト達です。日本にいながら日本人クリエイターとしてそういうものが作りたいと思ったとき、日本のミュージックシーンでやっていくのは難しいと、ここ数年感じてたんです。昔から僕がやっていることは変わりませんが、それをハウスを捉えるのか、ディスコと捉えるのか、その違いだと思う。もちろんDJプレイの中でハウスをかけることはありますが、織りまぜるくらいで、自分の中心は生音や生音のエディットものが多い。そこにキチンと混ぜられる自分の楽曲を作りたいと思っています。
■全部のリスナーを満足させられる貴重な存在
■僕もそうありたいなと思います

──最初に相談したときの沖野(修也)さんの反応は?

DJ KAWASAKI 喜んでくれました。そうやろ? 自分でやるしかないやろ、と。

──大変だから辞めておけ、ではなかった。

DJ KAWASAKI 大変だから覚悟してやりなよ、と。やるからには自分で何もかもやらなくてはいけないし、セルフプロデュースもしなきゃいけない、具体的な予算や売上のこと、そういうことも考えなくてはいけない。現実的なことも考慮した上で、やる。その覚悟が今の段階には必要だということで、理解していただきました。

──第一弾としてメイリー・トッドをフィーチャーした「DON'T PUT MY HEART DOWN」を11月3日にリリースしますが、先々の予定はありますか?

DJ KAWASAKI 実はもう次のレコーディングも始まってるんです。この後、何枚かは自分の作品が中心。A面はオリジナル、B面は今自分がコラボしたいアーティストにリミックス/エディットをお願いしています。第一弾はDR PACKERでしたが、それこそディミトリにお願いするかもしれないし、ダニー・クリヴィットやサダ・バハーにももちろんオファーしたいですね。

──5年後、10年後にはどんなレーベルになってますか?

DJ KAWASAKI 理想はジョーイ・ネグロのZ RECORDSのように、自分の曲を出しつつ、ディスコのコンピを出したり、旬なアーティストのリミックスやエディットをオファーしたり、さらにはコラボしたアーティストを招いてビッグパーティをしたり……かつ、ここが大事ですが、それでお客さんが集まる(笑)、そういうレーベルにしたいと思っています。

──KAWASAKIさんが考えるレーベル運営に必要な条件とは?

DJ KAWASAKI それを長年考えてきました。まず一番は、自分が本当にやりたいことをすること。自分に嘘をつかない、より自分がやりたいことを正直にやる、そうすることで自分が本気で楽しめているかどうか……心構えの話になりますが、そうすることによって、周りに伝わると思う。ThE ROOMみたいな小箱で30人くらいの反応が重要なんです。身内ノリということではなく。身近なファンの人たちに僕がやりたいことが伝わるかは、自分が正直にいることが大切だと思っています。あとは続けられるかどうか…………それはまだスタートしたばかりなので分からないですね(笑)。

──レーベル運営は、今やSNSを駆使して配信して、パーティもできる。それ以外に何が必要なんでしょうか?

DJ KAWASAKI 一番分かりやすいのは、所属しているアーティストのひとりがヒット曲を出す、そういうことだとは思います。

──外国の著名なDJが自分の曲をかけてくれたとか……。

DJ KAWASAKI それもひとつですね。要は注目されるにはどうすればいいのか。なぜ僕が先ほどから正直、正直と言っているかというと、邪な気持ちでコマーシャルなことをやろうと考えているときって絶対うまくいかない。先日後輩のDJに、「僕の友達みんなが、最近KAWASAKIさんのDJがかっこいいと言っている」と言われて。「マジで! 嬉しいな、ありがとう」って返したんですけど。「KAWASAKIさん、自分の曲をかけなくなってからいいよね」と、みんなが言っていると……(笑)。それって自分の曲をガンガンかけているときって、少し宣伝しようという気持ちが入っていて、DJプレイの中でも強引にそこへ持っていこうとするし、決まったタイミングで自分の曲がかかったりするのは予定調和になってたりするじゃないですか? そういうのがなくなって自由にやり始めてからすごくいいと言われて、後輩にそんな風に分析されるなんて……一般のリスナーもそうジャッジされてるんだろうなと思ったんです。それは、自分に正直にいること=かっこいい、ということにつながるエピソードでした。

──自分の曲をたくさんかけてたときは、先ほどの言葉でいうと“邪な”気持ちでした?

DJ KAWASAKI 邪なというのは当てはまらない言葉かもしれませんが……パーティにもよるし、サービスタイムでたまにはいいと思うんです。自分のファンに向けて自分の曲をかける時間があっても。僕の場合は「Into You」と「One」がすごくヒットしたので、どこにいってもそれをリクエストされるわけです。でも僕の中では「もういいんじゃないか」という気持ちにもなっている。そう思いつつ、それらのヒット曲は永遠にかけ続けなくてはいけないし、かけ続けるべきです。結果、それを超えるヒット曲を作らないと、今の状況は変わらないとも思います。

──その思いがレーベルにつながる面もある?

DJ KAWASAKI そうですね。自分がDJとして大好きな、MUROさん、RYUHEIさんのリスナーの人たちは僕のリスナーとは、もともと違った層でした。それがレーベルやプロデュースの仕事によって、今リンクしかけているし、僕はそこをリンクさせたい。現状、彼らのファンは僕の楽曲を聴く前から、「DJ KAWASAKIってハウスの人でしょ?」と聴くまでもいかない。一方でハウスの人が僕の音楽を聴いてくれるかというと、「DJ KAWASAKIってハウスって言われてるけど、生音の人でしょ?」と、聴いてくれない。ものすごい中途半端な位置になってしまった(笑)。

そこにすごく悩んだ時期があったんですよ。結局DJ KAWASAKIというジャンルでいればいいという答えは出たわけでが、そうするためにはジャンルを超えなくてはいけないし、超える必要がある。音楽家として食べていくには全て好き勝手にやればいいわけではないし、その第三者目線で自分を見つめたときに、生音やレコード好きなリスナーに届けたいという思いと、今までの自分を支えてくれたファンの皆さんにも、「この曲、KAWASAKIらしいよね」というものを、キチンと作れるようなスタンスを目指すには、自分のレーベルしかないという答えにつながったわけなんです。例えばディミトリ・フロム・パリは両方のファンから支えられている。ハウスが好きな人からも、MUROさんRYUHEIさんが好きな人からも。そこに何かひとつ答えがあるような気がしています。

──ディミトリは何をかけても彼らしい感じはします。

DJ KAWASAKI キチンと生音のエディットものやディスコのイメージもあるし、生音好きは彼のチェックしているし、レコード好きも彼の作品を買う……彼のアルバムはいい意味でアンダーグラウンドだし、いい意味でメジャー感もある。全部の層を満足させられる貴重な存在。僕もそうありたいなと思います。

──メジャーすぎないし、アンダーグラウンドすぎない。そういう意味だとKAWASAKIさんはアンダーグラウンド側でしょうか?

DJ KAWASAKI どっちなんだろう(笑)? 例えばDJとしても一番僕がかっこいいと思うのは、ジャンルを超えるDJ。自分のセットの中で縦横無尽にさまざまなジャンルの曲をかけつつ、ひとつ自分のスタイルにしている。ワンジャンルだけで1時間って僕はどうしてもできないし、そこに魅力を感じない。それは最初に沖野さんのDJを見たからというせいもあります。ジャズの人がかけるジャズ、ディスコ、フュージョン、アシッドジャズ……ジャズというテーマの中で縦横無尽にミックスしていて、こういうスタイルってひとつのジャンルで表せられないなと。ジャンルを超えて支持されるのが理想です。

──めちゃくちゃテクノ好きだけど、DJ KAWASAKIっていいよね、と言われたい。

DJ KAWASAKI 最高に理想的な形です。昔、ローランド・アペルの曲をリミックスしたら、DJヘルがプレイしてくれたんですが、そういうことだと思う。DJ KAWASAKIのことは知らないけど、これいいじゃん、と。クリエイター冥利に尽きるし、素直にうれしい。今回、レーベルをやるにあたり、相当の葛藤がありましたし、覚悟もあります。その答えがKAWASAKI RECORDSだと思っていただきたい。

──その葛藤は、KAWASAKIさんのファンにはまだ伝わってないと思いますが。

DJ KAWASAKI フルアルバム『パラダイス』から10年が経ちました。その10年前から今まで、たくさんの作品を世に出してきた。歴史は10年で回るといいますが、今僕がレコードを買い始めたころくらいのレコード・ムーブメントが来ている。レコードで自分の曲を出したいし、レコードでプレイしていきたい……だから自分のレーベルなんです。自分の流れからも、自分のレーベルをやるのは今しかない。

よりフロアユースなシングルと好きなクリエイターとのカップリング、現場の即戦力となるアナログは自分のレーベルで出したい。レーベル運営をしている友達も少なからずいますし、勉強もしましたから、大変なのは理解しています。でもやり始めないと何も始まらない。ただやるって宣言をしたことで、喜んでくれる人もたくさんいます。嬉しかったし、自分の音楽を待ってくれてる人がいる。不安でしたが音楽を続ける上での気持ちの支えになりました。

取材・文:BARKS編集部
「Don't Put My Heart Down feat MAYLEE TODDc/w Don't Put My Heart Down feat MAYLEE TODD(DR PACKER DISCO REMIX)」

2018年11月3日(土)リリース
KAWASAKI RECORDS / Lawson Entertainment
HR7S111 ¥1,300+税

<RELEASE PARTY>

■11月3日(土)
<Kyoto Jazz Massive presents Especial Records Session -レコードの日スペシャル- Kyoto Jazz Sextet 12" & DJ KAWASAKI 7" Release Party>渋谷 THE ROOM
GUEST DJ:SHUYA OKINO (Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet) DJ KAWASAKI (Kawasaki Records)
DJ:YOSHIHIRO OKINO (Kyoto Jazz Massive/Especial Records)
POP UP SHOP:HMV record shop
www.theroom.jp/schedule/2018/11/kyoto_jazz_massive_presents_especial_records_session--kyoto_jazz_sextet_12_dj_kawasaki_7_release_par.php

■11月17日(土)
<Freedom Time Presents Kyoto Jazz Sextet 12"&DJ KAWASAKI 7"& NAYUTAH 7" Release Party>
@大阪/CONTORT
GUEST DJ:SHUYA OKINO(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET)/DJ KAWASAKI
Featuring vocal:NAYUTAH
DJ:Yoshihiro Okino(KYOTO JAZZ MASSIVE)
and more..
www.facebook.com/events/169611033947675/iflyer.tv/ja/contort/

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