【ライヴレポート】清春、相思相愛の
対象たちと祝した50回目の誕生日

10月30日、東京・マイナビBLITZ赤坂にて清春のバースデー公演<KIYOHARU 50th BIRTHDAY>が開催された。
彼の誕生日公演は恒例化しているものだが、今年はいよいよこの日に50歳になるということ、さらにはsadsとしての活動が年内をもって停止に至ることがあらかじめ公表されていることもあり、例年以上に大きな節目としてファンの間でも認識されていたに違いない。が、その場で示されたのは今後のキャリアにおける変化の予兆などではなく、むしろ、彼自身にしかまとうことのできない艶やかなロックスター感とでもいうべきものの、時間の概念を超えた絶対さだった。
午後7時を6分ほど過ぎた頃に場内は暗転。白いシャツにブルージーンズという統一感のある出で立ちの中村佳嗣(G)、大橋英之(G)、YUTARO(B)、楠瀬拓哉(Dr)が配置に着くと、スパンコールのきらめきを伴いながら登場した清春の後ろ姿が、ステージ中央で自らの吐く紫煙に包まれる。その完璧な風景のなかで最初に聴こえてきたのは「JUDIE」。フロアを見据えた今夜の主役は、ビートのきいた躍動感溢れるサウンドスケープのなかで舞うように歌ってみせる。

清春のソロ公演においては静寂が何かを訴えかけてくることが多々あるが、この夜はむしろ最初からそうした妖しい躍動美が空間を支配していた。ときおり曲間に挟まれるMCでは、敢えて自らの言葉でそうした空気の流れを緩和させるかのように「50歳で“清春”とか、おかしいだろ? 今日からは“森さん”で」などと言ってみたかと思えば、すぐさま「“森さん”って呼んでるやつがいたら叩きのめす」と釘を刺しながらさらなる笑いを誘う。しかしそうしたジョークめいた流れのなかで「50に、無事になりました。あとは完成に近付いていく」といった真理を口にするあたりがまた心憎い。そんな言葉に続いて聞こえてきた「みんなのせいで、50になっても引退せずにステージに立たされてる」という発言も、いわば清春流のファンに対する愛情表現なのだと感じさせられる。
ショウの流れが大きく変わったのは、本編終盤にゲスト・ギタリストとしてDURANが呼びこまれた以降のことだ。清春自身の現時点でのソロ最新作にあたる『夜、カルメンの詩集』にも参加していたこの気鋭のギタリストは、スペイン系の血を引くエキゾチックな風貌のみならず、その卓越したプレイで今やさまざまなアーティストたちの間で引っ張りだこの存在だ。そして彼を迎えてのトリプル・ギター編成で演奏された全5曲は、DURANが何故注目を集め、清春がどうして彼に目を付けたのかをリアルに実感させて余りある説得力に満ちていた。「アモーレ」や「眠れる天使」での情熱的なプレイはもちろん、お馴染みの「少年」や「赤裸々」、「COME HOME」でも通常以上の加速度と、ロック・バンドがロールしていくスリリングな興奮を味わうことができた。加えて“絶対的ヴォーカリストとギタリストが絡む”というロック然としたクラシックな構図に収まる両者の姿がとても眩いものとして目に映った。
そうした新鮮な局面を経てひとたび着地点に至ったライヴは、「忘却の空」や「Miss MOONLIGHT」、「BEAMS」といった彼自身の四半世紀の歴史を彩る名曲群を連射しながらタイムマシンのように時空を飛び越えつつも、あくまで今現在の彼の充実の色濃さを漂わせながら、開演から3時間弱を経た頃、あくまで熱くにぎやかなまま幕を閉じた。

ライヴ本編の終盤にはDURANのギター・ソロに導かれながら巨大なバースデー・ケーキが登場する場面、また、アンコール時には清春自身の敬愛するMORRIEが「Happy Birthday」を歌いながら登場して真紅のバラの花束を手渡し、両者が抱擁するというシーンも。そうしたさまざまな瞬間が、長きにわたりカリスマという呼称を欲しいままにしてきた清春の“これまで”と“これから”のすべてを祝福していた。そして、彼自身が浴びている祝福の光をオーディエンスに分け与えようとするかのように、「HORIZON」を歌っていた際の清春が「ここにいる全員に、同じ光が当たりますように」と訴えていたのも印象的だった。
清春は「マニアックな趣味をお持ちのみんなのおかげで生き残っている」などと言いつつも、「50代もそんなに悪くないと思うようになるはずだから、みんなも早く上がってきて」「できる限る存在するので、マニアックな皆さんの生きる励みになれれば」とも語っていた。そして最後は「幸せな50代に入ってます。サンキュー! ありがとう」と言い残し、鳴りやまない拍手と歓声のなか、ステージから去っていった。

この先にはsadsの最終局面到来に加え、年末のソロ公演も控えており、さらには2019年の活動についても具体的なプランが固まりつつあるという清春。時代は今、日本のロック・シーンに50代のスターがひとりもいなかった頃とはまるで違う様相を呈しているわけだが、誰にもこの先を言い当てることのできないこの状況下にあっても、この人物の放つ光が艶やかさを失うことはないだろう。そして重要なのは、彼が身にまとう歓声は、他の誰かではなく清春だけを選ぶ人たちによって発せられるものであり、清春自身もまた、彼を絶対的な存在として選ぶ人たちに対して何かを届け続けているのだということ。そうした深い相思相愛関係の永遠さを感じずにいられない一夜だった。
取材・文◎増田勇一

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