【明田川進の「音物語」】第16回 ベ
テランと新人の化学変化と、石塚運昇
さんと最後に話したこと

 前回 、“会話”の大事さについてお話しましたが、実際のアフレコでは、どのようにディレクションをしているのか具体例を紹介したいと思います。経験が浅い人には、実際に録ったものを聴いてもらうのがいちばんです。他のみんなが芝居をしているのに、その子だけが自分のセリフをポンと言えばいいと思っているから、流れが全然できていないことが多いんですよね。「これを聴いて、自分の芝居がいいと思う?」と聞けば、本人にもよく分かってもらえます。
 昔は、ベテランの役者が、新人と一緒に芝居をしながら脇でアドバイスすることがよくありました。ベテランの人が、「ここは、こうやったほうがいいんじゃないの?」などと言って、役者同士でやりとりすることが多かったです。今は、なかなか難しいですけどね。メインの若い子が真ん中にいて、ベテランの人たちが端っこのほうに座っていて……あれではアドバイスを言う環境にはなかなかならないです。そもそも現場が若い人ばかりというケースもあり、予算のこともふくめて、ベテランの人たちの芝居を聴きながら新人が成長できる機会が今は非常に少ないです。
 ベテランの人には、「ここは、もう少しこんな感じでやってもらえませんか」というふうに言うことが多いですが、そもそも僕が、ある程度知っているベテランの人にでてもらうときには、ここまでの芝居は確実にしてくれるだろうとの安心感があるわけです。さらにそこから、その人が役をとおして、みんなから「面白い」と言わせるためにこんなふうにやってみようと意識し、現場で良い化学反応がおこることを期待しています。新人は、自分のことだけでいっぱいいっぱいでしょうから、そこにベテランの演技をあわせることで、一歩進んだ芝居がおこることもあります。
 今はだいぶ少なくなってきましたが、1年もののテレビシリーズなど長いものだと、新人が伸びるケースが多いです。さっきお話した安心感のためのベテランのキャスティングのほかに、「この子は新人だけれど、この作品で成長してくれるのではないか」との期待で選ぶこともあります。これからの人を育てていく、やりがいのある楽しい仕事で、これまでも自分が教えているジュニアの子や、周りのスタッフから推薦された新人を起用したこともあります。
 ベテランの人といえば、石塚運昇さんは、劇団でガチガチのシェイクスピア劇をやっていた方で、当時はCMの帝王と言われていました。ネクタイとスーツ姿でアオイスタジオまでCMの仕事に来ているときによく会っていて、その頃から一緒にやりたいなと思っていたので、OVA「銀河英雄伝説」のときに「いくらでも大演説をやってください」とトリューニヒト役をお願いしました。それをきっかけにお付き合いするようになったのですが、先日亡くなられて残念でした。亡くなる何週間か前に、ウチの会社にきて2時間ぐらい会議室で話したんですよ。
 運昇さんとは、ある声優事務所の新年会で会うと、大机に2人で座って飲むのが恒例でした。そうすると、ほかの人たちは近寄りがたいみたいで(笑)、僕らのところに来るのは松風(雅也)さんぐらいでした。昔は飲みにいくことも多かったのですが、最近会うのは仕事のときばかりで、一緒に飲むのはその新年会ぐらいだったので、「七夕みたいだね」なんて話していました。それが今年の新年会では会えないでいて、会社で久しぶりに話をしたんです。
 最後に会ったときも運昇さんとは、芝居の話をしました。あと、ウチの息子(※音響監督の明田川仁氏)を働かせすぎだと(笑)。「ダメだよ、あんなに働かしちゃあ」と、会うたびに言われていました。

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