ナオト・インティライミ J-POPシー
ンで求められる自分らしさと、いま自
分がやりたい音楽をナチュラルに鳴ら
す現在のモードとは?

「いまは曲がすぐにできちゃうんです」――昨年(2017年)、1年半の活動休止期間にアフリカ大陸を含む世界19ヵ国をめぐる旅から帰ってきたナオト・インティライミのクリエイティブへの情熱が止まらない。今年3月から初の47都道府県ツアーをまわりながら、復帰後初のシングルとして、“ナオトの日”=7月10 日に「ハイビスカス / しおり」をリリースしたばかりのナオトが、早くも復帰後第二弾となるニューシングル「Start To Rain」をリリースした。昨今の洋楽のトレンドを彷彿とさせるエレクトロな音色と、生のバンド感のハイブリッドによる表題曲は、まさにナオト・インティライミの新機軸。J-POPシーンで求められる自分らしさを大切にしながら、いま自分がやりたい音楽をナチュラルに鳴らすことのできるナオト・インティライミの現在のモードについて話を訊いた。
――今回、資料には“ナオト・新ティライミ”というキャッチフレーズが書いてありました。かなり洋楽テイストを取り入れた新しいサウンドになりましたね。
やっぱりそう思われます?
――聴いたことのないナオト・インティライミでした。
これを世間の人が聴いたときに、“洋楽にかぶれたな”みたいに思われないかな?と思うんですよね。
――個人的には、J-POPシーンの歌手であることに誇りを持っているナオトさんが、ここまで英語詞を増やして、海外のポップシーンと肉迫する曲をシングルとして出すチャレンジ精神を面白いなと思いましたけど。いま、これがナチュラルなモードなんですよね?
うん。僕にとっては本当に自然ですね。旅をしたこと、世界での挑戦を始めたこと、そして、いままでのJ-POPERとしての誇りっていうのがハイブリッドで入ってるから、いまはこれがいちばんしっくりくるんですよ。何の背伸びも我慢もなくやれてるので。
ナオト・インティライミ 撮影=菊池貴裕
1年前に旅に出たのは、追っていたはずの音楽に、気づいたら追われていると感じたから。このままでは5年後は音楽シーンにいない危機感があった。
――そもそも去年、“自分の原点を取り戻す”っていう目的をもって、ナオトさんは世界への旅に出た。その結果が、今作には如実に出ていると捉えていいんですよね?
そうだねえ。1年前に旅に出たのは、自分が追っていたはずの音楽に、気づいたら追われているように感じたからなんだけど。このままでは3年はもっても、5年後は(音楽シーンに)いないっていう危機感があったんですよね。それで、自分のなかでも、常に進化がほしいとは思ってるから、自分の知らないものを感じるために旅に出たんです。でも活動休止をすることで、テレビに出ないこととか、ライブをやらない1年半というのは非常にリスキーだし、デメリットもたくさんある。CDの売り上げが下がるだろうし、ライブの動員が落ちるだろうし、ファンの方々も離れていってしまうかもしれない。もちろん周りの大人には反対されたし。それを受け止めたうえで、もう一度新人としてビルドアップしなおさないといけないっていうのをわかって、覚悟を決めて行ったんです。
――最近は音楽シーンのサイクルは速いですからね。
うん、1年半休んでる間に新人が何組もデビューして、知らない間にヒット曲が出たりしますからね。これが、もうちょっと飛び抜けたアーティストならいいですよ(笑)。宇多田ヒカルさんとかサザンオールスターズさんが1年半休んでも、それこそ安室ちゃんが10年後に復活しても、スターはスター。いきものがかりさんが放牧から帰ってきても、いきものがかりさんはそこにいられる。でも、ティライミぐらいだと、けっこう難しいんです。
――いやいや、また相槌しづらいことを……(笑)。
書きづらいですよね(笑)。でも、その自覚はあって。それでも、自分はリスクを挽回するつもりだし、同じ方程式でやり続けることのほうが怖いと踏んだわけですよね。まあ……勇気のいる決断だったけど、自分のなかでは当然というか。全部、結果が見えてたんです。旅に行ったら、どれだけのインスパイアがあって、戻ってきたらショックを受けるだろうけど、そこから自分が良い状態でクリエイティブを生み出していけるって。
ナオト・インティライミ 撮影=菊池貴裕
――ナオトさんって、人生を振り返ったときに、旅に出る決断をしたことで、新しいビジョンが見えてきたことが過去にもありましたもんね。
世界一周に行くときもそうだったんだろうしね(※ナオトはアマチュア時代にメジャーデビューの話がダメになり、世界一周の旅に出たあとで、再びメジャーデビューのきっかけを掴んだ)。そういう意味では、今回は何度目かのデビューですよね、自分のなかでは。たぶん人生には腹を括ることが大事な瞬間があるんですよね。
――で、旅から帰ってきてかから、曲作りが止まらないモードに突入していると。
それも旅だけのおかげじゃないですけどね。旅から戻ると、あっと言う間に日常にまみれちゃうんですよ。そういう意味では、海外での挑戦を始めたことも大きいんです。今後、海外でも作品を出していくために、海外でもクリエイティブを続けてるっていうことのほうが、むしろこのモードが続いてる原因として大きいのかもしれないな。
――いまは海外に行く前に抱いていた“追われてるような感覚”はないですか?
ああ……ない! すごいことだけどね。47都道府県ツアーをやってて、東京にいるのが週1日か2日しかないっていうタイトなスケジュールのなかで、3ヵ月に1回リリースをしながら、こうやって取材を受けさせてもらったり、テレビに出演させてもらっているけど。追われてる感覚はないですね。前のめりで自分発信を表現できてるし、曲を作るにしても自分の意思が先にある。それは、ものすごく恵まれたことかなと思います。
――そう言えば、7月にリリースされたさだまさしさんのアルバム(『Reborn ~生まれたてのさだまさし~』)のなかで、ナオトさんがプロデュースを手がけた「パスワード シンドローム」を聴きました。“さださんにコレを歌わせる!?”っていう曲ですよね。
あれもね、何のストレスもなく、ものすごく自然にさだまさしプロデュースをやらせていただいたんですよ。楽しかったな。パっと浮かんだものを、スッと出したんです。
――それこそ今作の「Start To Rain」の洋楽感にもつながる曲ですけど。さださんとは、どういうコミュニケーションをして作ったんですか?
一緒に飲んでて、「パスワードってわからなくならない?」っていう話になったんですよ。自分で決めたのに、なんでわからなくなるんだ?って。
――「パスワードを忘れた方はこちら」に何度救われたかっていう(笑)。
そうそう、秘密の質問ね。母の旧姓、子どもの頃に住んでた街とか(笑)。パスワードって、昔は4桁で良かったのが、6桁になり、8桁になり、最近は大文字小文字も全部入れなきゃいけない。条件多すぎ! それはわからなくなるだろうっていう話をしてたら、「まっさん(さだまさし)、ちょっと俺(曲が)浮かんでます。鳴っちゃってるんです」って言ったんです。別に曲の話をしてたわけじゃないのに、鳴ってるんですよね。で、「お前、本当か!? プロデュースやってみるか」ってなったんです。けっこうアルバムの期限は迫ってたけど、そのまま作業場に入って、ほんの数時間でできたんですよね。自分で歌詞を書いて、仮歌も歌って送ったら、「バカ野郎。こんな冒険的なことを俺が……面白い、やってみよう」って(笑)。“すごいな、さだまさし”と思いました。あんな遊びみたいなやりとりから、こんな誰も聴いたことのないさだまさしができるなんて。さださんの国際フォーラムのライブで1曲目にやってもらったんですけど、それを見たとき、鳥肌が止まらなかったですよね。
――いいですね。これまでのイメージに囚われず、新しいことをやるっていうことに、恐れずに挑戦できるふたりだからこそのコラボレーションだと思います。
また歌の表現力もスゴいから、いま風にすることの楽しさがあるんですよ。ペラペラなものをいま風にすると、なかなか届かないけど。さださんのおかげで、重厚なものをライトに届ける切り口を見つけたと思います。プロデュサー冥利に尽きましたね。
最近、桜井さんと二人で初めてご飯に行って「お前の最近の曲聴かせて」って言われて、めちゃくちゃ反応してくれたのが「Start To Rain」なんです。
――で、今回のナオトさんのシングル「Start To Rain」に関しても、テンション的には近い感覚で作ったのかなと思います。これも溜まってるストックのなかから選んだ曲?
そうです。実を言うと、これをシングルで出すのは難しいだろなと思ったんですよ。
――いわゆるザ・ナオト・インティライミなJ-POPソングとは違いますからね。
あまりにも攻めすぎてて、いままでお茶の間のみなさんが抱いているナオト・インティライミ象からすると、ビックリ、ガッカリしちゃうと思うんですよね。
――“ガッカリ”も入りますか?
たとえば、「ありったけのLove Song」みたいな曲が好きな人にとっては、“こういうのを聴きたいんじゃない”っていうガッカリ感はあるんじゃないかなと思うんです。ラジオで流れたときに、“あれ? ナオト・インティライミ、どうした?”みたいになる。だから、はじめは僕のなかではシングル候補じゃなかったんです。ただ、きっかけは、ミスチルの桜井さんと、出会って10年で初めてご飯を食べに行ったんですよ。
――初めて、ですか?
初めて。出会ってから2年間(ミスチルの)コーラスに呼んでいただいて、ものすごい近くで背中を見させてもらったんですけど、僕のなかでは“いつまでもその旗の下でやるのって、ちょっと……”っていうのがあったわけですよ。もちろん近くにはいるんですよ。ただ、公(おおやけ)に対して、“ミスチルでやってましたよ、俺”感というか、“桜井さんと仲良いんですよ”感っていうのを出すのが嫌だったから、我慢してた部分もあるんです。近づきすぎたくない。それを桜井さんも気を遣ってくれて、距離を保ってくれてたんですよね。でも、アドバイスはたくさんくれてたし、サッカーはするしね。良い関係だったんですけど。最近、二人で初めてご飯に行ったんですよ。で、「お前の最近の曲聴かせて」って言われて、日本向けの曲も、海外向けのスペイン語で歌ってる曲も聴いてもらったら、「いいじゃん、いいじゃん! すごいね」って。本当になんか……いろいろな曲に反応してくれたんですよね。それが“ああ、嬉しいな”と思って。で、帰りがけに一緒にタクシーに乗ったあと、「もう1曲あるんですよ」って言ったんです。
――その前にもたくさん聴いてもらってたんですよね?(笑)
そう、10曲以上。“どれだけあるんだ、お前は”っていう感じですよね(笑)。そしたらね、めちゃくちゃ反応してくれたんですよ。それが「Start To Rain」なんです。
――へぇ。
桜井さんには「これ、シングルで出したほうがいいよ」って言われたけど、「いやいや、英語も多いし、ちょっと難しい」と思ってたんですよね。僕としては、“一応、こんなのもあるんですよ”ぐらいの気持ちで聴いてもらったんですけど、桜井さんに「これでいっちゃいな」って言ってもらえたから、それが後押しになりましたね。
――今回、英語詞が半分ぐらい入ってるのも、このサウンドが呼んだものだったんですか?
そうね。メロディの9割ができてて、これに俺が日本語の歌詞をつけると、“あ、これぐらいの曲ね”っていうのが見えちゃったんですよね。だから、これは自分ひとりでやらないほうがいいなっていうことで、シェーン・ファキネロ(Shane Facchinello)と一緒に歌詞を作ることにしたんです。シェーンは、1年前に初めてL.A.で一緒にコライトで作ったうちの何組かのひとりですね。で、ちょっとしたポイントでアメリカ人っぽいシェーン節がほしかったから、自分で作ったメロディを変えてもらって、そのまま歌詞をのせて、すぐ歌入れですよ。
――ああ、いまのナオトさんの曲作りのペースって、曲作りから、歌詞を書いて、歌を入れるまでが、めちゃくちゃスピーディーになってるって言ってましたもんね。
すぐできちゃう。そこで英語の発音も直してもらって。で、そのボーカルデータを持って帰ってきて、日本でアレンジを始めるっていう。ふつうで言ったら、考えられない順番ですよ。ふつうは全部楽器をレコーディングしたうえで歌入れだけど。全く逆だね。
――こういう曲だと、声も楽器の一部みたいな感覚だからできるんですか?
うん、素材というかね。あとは、自分のなかでアレンジのアイディアも設計図があって、そのグルーヴ感だったり、跳ね、シャッフルの度合いなんかも(頭のなかで)鳴ってるから、先に歌を録っても大丈夫なんです。これ、他の人に(アレンジを)やってもらうと、難しいと思うんですよね。歌を録ってから、楽器を合わせるのはグルーヴがちぐはぐになりそうだけど、自分でやってるからフィットできるんですよね。
――エレクトロな音のなかで、ちゃんとバンドの生音も感じられるグルーヴが、ナオトさんらしくて心地好いですよね。
そこのハイブリッドは意識しましたね。いまのトレンドの音は入ってるけど、ちゃんと生のぬくもりがあるっていう。
――ちなみに「Start To Rain」っていう歌詞のテーマは切ないです。
テーマもシェーンと話しながら作ったんだけど、あなたと一緒にいる素敵な時間から、“じゃあ、またね”って離れるときは、いつも自分の心のなかに雨が降り始めるっていう瞬間ですよね。それぐらいあなたを愛しく想っている。その10秒間を切り取った歌です。
――最初に聴いたときは、もっと明るい歌かなと思ったんですよね。でも、よく歌詞を読んだら、切なくて。
不思議ですよね。爽やかなのに切ない。さわ切ない。なんて語呂が悪いんだろう(笑)。
――(笑)。いまのナオトさんの勢いのある制作のモードは、まだしばらく続きそうですか?
うん、精神的に健康的な流れは続きそうですね。今回のシングルを出すことで、いまの自分がやりたいことを100%やっちゃっていいんだと思えたので。
ナオト・インティライミ 撮影=菊池貴裕
12月29日のナゴヤドームは、誰ひとり置いていくことなく楽しんでいただけるようなエンターテイメントショーをご用意したいなと思います。
――最後に12月29日のナゴヤドームの話も訊かせてください。これはもう、“帰ってきたぞ。ナオト・インティライミを忘れさせないぞ”という意味合いかなと思いますが。
挑戦ですよね。ナオト・インティライミがドームに挑むのは、かなり無謀なことなんですけど、それでも挑戦したい、立ち向かっていきたい、そこに向かってがむしゃらに走りたいっていうのはあるんです。当日は、キッズから若者はもちろん、中高年のみなさままで楽しんでもらえるように。ファン・インティライミの方から、ティライミの曲を1曲も知らないあなたまで、誰ひとり置いていくことなく楽しんでいただけるようなエンターテイメントショーをご用意したいなと思います。いままでの史上最多数のバンドメンバーとダンサーでお届けするので、そのスケール感はドームでしか見られないと思いますね。
――ひとりきりでまわった47都道府県ツアーとは全く違うものになりそうですね。
うん。それぞれの辛かったことや悲しかったこと、うまくいかなかったこと、悔しかったことを、全部持ち寄って遊びに来てくれたら、そういった想いから解放できるような、そんな時間と空間を確実にご提供できると思いますね。で、午後3時からですから。全国どこからでも日帰りができるように、ちゃんと調べてますので。
――北海道も?
日帰りできます。
――沖縄も?
日帰りできます。あと、29日という日取りは、大体28日金曜日に仕事が収まりますよね。で、30日以降は家庭の行事でお忙しい。だから、ここしかないんです。29日、土曜日。深すぎず、浅すぎない。ここしかない!(笑) 29日にナゴヤドームに来てもらったら、30日以降はゆっくりしてください。ぜひ、大忘年会やろうぜ、という感じです。
取材・文=秦 理絵 撮影=菊池貴裕
ナオト・インティライミ 撮影=菊池貴裕

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