PELICAN FANCLUBはどこから来てどこ
へ行くのか、メジャーデビューを機に
エンドウアンリと語り合う

11月7日、PELICAN FANCLUBがメジャーデビュー作となるミニアルバム『Boys just want to be culture』をリリースした。インディーズ時代から彼らを知る者としては思わず「そう、これこれ」と口走りたくなるような(筆者だけではないはず)、バンドの嗜好、強み、クセまでもがしっかりと音に込められた作品だ。これならば、正しく誤解なく、彼らの魅力がより多くの耳に届くだろうな。一リスナーとしてそんな考えも頭に浮かんでしまうほど。

そこで本稿ではメジャーデビューという節目にあたり、フロントマンのエンドウアンリ(Vo/Gt)にロングインタビューを実施することで、音楽との出会いからバンド結成、インディーズでの活動、そして今に至るまでのバンドの半生をじっくりと振り返ってもらうことにした。
「カルチャーになりたい」と願い、その宣言とともに走り出した男とそのバンドは、どんな音楽性を志向し、いかなる美学を持ち、何を目指すのか。これまでを知る人もここから知る人も、一読いただきたいテキストです。
PELICAN FANCLUB
■卒業文集に「バンドになりたい」って書いてあった
――メジャー1作目となる『Boys just want to be culture』。まず、すごくかっこいいです。
ありがとうございます。自信作なので、そう言っていただけるともっと自信になります。
――これまで聴いてきたファン以外にも広く届くべき作品だと感じたし、それこそがメジャーに場を移した意義でもあると思うんですね。なので今回は、あらためてPELICAN FANCLUBはどんなバンドなのか、どのような活動をしてきたのか?というところからじっくり聞かせていただきたいです。
まず、こういう音楽を生み出すPELICAN FANCLUBは、元々どんな音楽が好きで、どんな音楽をやろうとして結成されたんですか。
一番最初の、バンドを始めるきっかけになったのは……僕、小学生の頃にBUMP OF CHICKENがすごく好きだったんですよ。友達に『ONE PIECE』の映画に連れて行かれて、その主題歌が「sailing day」で。映画の内容は全然覚えてないけど、その曲がすごく良かった!っていう風になって、その次の次の年くらいに『ユグドラシル』が出て。あとは一方でASIAN KUNG-FU GENERATIONが『NARUTO』の楽曲をやっていて、『ソルファ』が出た時期ですね。
――そのあたりの存在が、音楽との出会い。
そうですね。小学生の頃の、卒業文集ってあるじゃないですか。そこで「好きなもの」にASIAN KUNG-FU GENERATION、BUMP OF CHICKEN、スピッツって書いてあるんですよ。「20歳になった自分にメッセージ」っていう欄には、「バンドになりたい」って書いてました。バンドに「なりたい」って、今もなれてないですよね(笑)。
――バンド自体には、なれないですね(笑)。ソロのシンガーとかグループ系のアーティストもいる中で、バンド形態の何が良かったんでしょうね。
当時、誰かが勝手に作ったようなファンサイトが流行っていた時期で。今じゃあ考えられないくらいずらーっと並んでいて。
――ああ、非公式なやつ。
そう! その人たちが収集した画像に歌詞とかを合わせたものを作ったりしているのを見て、「こういう仲が良さそうな雰囲気っていいな」「なんだろう、このチームワーク感は」と。このチームですごく良い音楽を作っているのは何なんだろう?と思って、そこからバンドというものに憧れを持ったんですよね。
――ギターを弾く姿に憧れたとか、そういう要素から入るパターンも多いのに。
あんまり無かったですね。昔は全然ギターに興味が無くて、純粋に、出来上がった楽曲とそれを誰が歌っているのか、この曲を歌っている人はどんな見た目の人なんだろう?とかそっちの方を気にしていましたね。
――あくまでアイコンとして?
そうですそうです。アイコンとして認識しますし、アイコンとして好きでしたし。だから結局、どこそこのブランドが好きとかと同じような感覚で、このバンドがやっているものだから好き、みたいな。
で、小学校の最後の方の図画工作で、紙粘土を使って「自分の将来像」を作ってくれという授業があって、僕は『ソルファ』のジャケットの女性を僕に置き換えた作品を作ったんですよ。そしたら隣のクラスに、藤原基央そのまんまの、ギターを弾きながら歌っている作品を作っていたやつがいたんですよ。それが、今のベースのカミヤマです。
――はははは!
当時は、お互いに認知はしているくらいだったんですけど、中学に入ってから「そういえば小学生のときの作品見たけど、バンド好きなの?」「藤原基央好きなの?」みたいな話をしたら、「そうなんだよ、すごく好きでさ!」って。そこから、僕はサッカー部で彼は野球部だったんですけど、バンドをやろうということになったわけですよ。で、「カミ、ベースやって」と。
――ギターがやりたかったっぽいのに。
多分そうですよね。作品ではギターボーカルでしたもん。でも彼はベースを買って……僕は、最初は歌をあんまり歌いたくなかったんですよ。ただバンドをやりたかっただけだから。
PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ 撮影=rina chizuwa
THE NOVEMBERSの下北沢SHELTERで人生が変わった
――自分がどのパートをやるとかのイメージまでは無かったんだ。
全然。でも、バンドを組もうとしてる人同士でカラオケに行って、「天体観測」の点数が一番高かったやつがボーカルっていう雑な決め方をしたら、たまたま僕が83点とかで。めちゃくちゃ低いレベルの戦いだったんですけど、それでギターボーカルになったんですよ。
メンバーは5人いたんですけど、バンプのコピバンで「天体観測」をやろうという話だったから、ベース、ドラム、ギターボーカル、ギター……あと一人どうする?っていうことになって、その当時からEXILEがすごく流行ってたんで、ダンサーにしよう!と。
――(笑)。まさかのDragon Ashの先を行ってたという。
そうっす(笑)。そのバンドで生徒発表会に出ようっていうことにもなったんですけど、先生たちから「君たちがステージに出ると、不良たちが色々とペットボトルを投げたりするから、出せません」って言われて、結局ライブをせずに終わってしまったんですよ。
で、そのカウンター的な精神で、「平成のボブ・マーリィとノリオ」っていうバンドを組むんです。コミックバンドなんですけど、不良のせいで抑圧されたりするようなこの世はクソだ!とか、取り敢えず社会に対する怒りを書いていく一方で、今につながるような歌詞を書いたりもしていて。それを一発録りでレコーディングしようということになって。
――街スタみたいなところで。
そうです。それを校内放送でかけたら、ちょっと学校で流行ったんですよ。あ、これは楽しいぞ、本格的に音楽をやりたいなって。そこから高校に入って、「平成のボブ・マーリィとノリオ」は解散して……カミヤマは「平成のボブ・マーリィとノリオ」にもいたんですけど、また一緒にバンドを組んで、そこからだんだん真面目に活動するようになっていきましたね。
――その頃の音楽性としては?
当時、UK.PROJECTがすごく好きで。ハイライン・レコーズがあって、椿屋四重奏がカセットの音源とか出していた頃で、フジファブリックもいましたし、ザ・ガールハントとか、あとはsyrup16gが大好きでしたね。
漫画の『BECK』も好きで、洋楽に触れるようにもなって、ニルヴァーナもそうですし、レディオヘッド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、そこらへんから触れていって。でもレディオヘッドはめちゃくちゃトラウマだったんです。……一番最初に、初めて自分から進んで洋楽を聴いたのが、『Kid A』だったんですよ。
――あー、それはやっちゃいけないやつだ。
(笑)。あと、中3のときにすごく衝撃だったのは、THE NOVEMBERSでした。高校に入ってから『picnic』のリリースツアーのファイナル、下北沢SHELTERにカミヤマくんと一緒に行って、そこで僕の人生は変わりましたね。
――啓示を受けたんだ。
そう、これだ!って。それでTHE NOVEMBERSのコピーバンドを組んだのが、今につながるバンドです。当時の『閃光ライオット』とか『Hジェネ祭り』とかにも色々と出したりして、自分たちもああいう風になりたい、下北沢SHELTERでワンマンしたい、みたいな気持ちがどんどん芽生えていって。
当時、カミヤマくんの家の近くで「バンドでどうなっていきたいのか」っていう話をしたんですけど、僕はTHE NOVEMBERSのいたUKPのDAIZAWA RECORDSから出したい、それが夢だという話をして。メジャーに行くならどこがいい?という話にもなって、お互いにジャンプ系のアニメがすごく好きで、『NARUTO』とか『BLEACH』、『銀魂』とかも(主題歌が)全部ソニーだったじゃないですか。
――そうですね。
だからメジャーに行くんだったらソニーでアニメのタイアップをやりたいよねっていう話をしたんですよ。高校時代は、デモCDを作ったりしながら地元の千葉LOOKで活動をしていました。色んな先輩バンドとかも観て、そこで出会ったのがドラムのシミズくん。同じ千葉で3つ上の先輩なんですけど、最初はすごい怖いお兄さんだなと思っていて。10代の3歳差って、中3からしたら高3じゃないですか。
――ヤバいねえ。
ヤバいですよね。で、高校を卒業する頃にはバンドもそこまで上手くいっていなくて、そのときに同じ18歳でも女王蜂とか、世に出ている人は出ていて。自分はそこまで行けるんだろうかっていう悔しさもあって、すごい嫉妬していました。その嫉妬が強かったせいで、自分は大学でもバンドを続けようと思ったんですけど、でも受験に失敗しちゃったので1年浪人することになって、バンドも解散しちゃって、無の状態ですよね。
そこで出会ったのが前ギタリストなんですけど、お互いのバンドが解散していたので一緒にバンドをやろうということになって、そのときにどんな音楽をやりたいか?っていう話から、今まで影響を受けてきたバンドを挙げて……そのときに出てきたザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートとかコクトー・ツインズみたいなバンドをやろうっていうことで出来たのが、PELICAN FANCLUBなんです。
PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ 撮影=rina chizuwa
■3人になって、もっと自由でよかったんだっていう発見があった
――そこから正式に始まった。
でも最初は全然上手くいかなかったですね。ライブも態度悪い感じでしていて、でもライブハウスの人は「しっかりやった方がいいよ」「そうすれば絶対どこかからデビューできるよ」って言ってくれていて、ちょうどスピードスター・ミュージック(現プロダクション)の人も観にきてくれてた。でも、歯向かいたい時期だったんですよ。「大人なんてクソだよ」みたいな(苦笑)。
――でも、中学生の頃からちゃんと「どうやって行きたいのか」のビジョンまで語り合っていた人が、なんでそんなことに……。
もう、バカだったんですよ(笑)。スタンスみたいなものはブレてなかったんですけど、やっていることと伴っていなかったんです。でもスピードスター・ミュージックに入ってみたら、ちゃんと見てくれて、説教もしてくれて。そこからだんだんと真面目に、音楽に対してストイックになっていくというか、高校生時代に色んなコンクールとかに出していた頃の感覚を思い出してきて、あのときはすごく燃えていたけど今はただバンドをやって過ごしている気がする、と。そこで焦ったんですよね。
で、『UKFC on the Road』の初のオーディションライブに出してみたんですよ。そこでファイナルまで残って、最終的に(優勝者が出演する)ステージには立てなかったんですけど、その縁で翌年にUKPからリリースできたんですよね。これは夢がひとつ叶ったな、と。そのときに出していた楽曲が、今回のアルバムの1曲目(「Telepath Telepath」)なんですけど。
――そうなんだよね。その後のライブでも何度か聴いた記憶があるし。
……あ、時系列がごちゃごちゃなんですけど、2014年に元からやっていたドラムが抜けちゃったので、そのオーディションに出したときはドラムがサポートだったんです。それでドラマーを探しているときに、同じ千葉にめちゃくちゃ上手いドラマーがいると。それがシミズくんだったんですけど、一緒にスタジオに入ったら、元々僕らの音楽を聴いていたみたいで、なんでこんなに知ってくれてるんだろう?っていうくらい、曲も覚えているしアレンジとかも完璧で、グルーヴもバッチリハマっていたので、「一緒にやりませんか?」って。そうしたら快く入ってくれて。みんなが知っているPELICAN FANCLUBは、そこから進んでいったと思いますね。
――そこからはずっと4人で活動をしてきて、今年になってギタリストが脱退しました。タイミング的には既にメジャーデビューの話が進んでいたはずですよね?
めちゃめちゃ進んでました。進んでたんですけど……この脱退ってネガティヴに捉える人も多いと思うんですけど、自分たちはすごいポジティヴなものだと思っていて。というのも、足並みの揃っていない中途半端な気持ちで(メジャーに)行くのは良くないじゃないですか。
――うん。
ひとつの新たなスタート地点に、同じものを目指しながら行きたい。彼には、僕らとは違った別のビジョンが見えていたんですよね。彼は彼なりの道、僕らは今決まっているメジャーへの道。そこで別れて各々が自由にできる状況でやろうということで、ああいう決断をしたんですよ。
――そのときに、代わりのギタリストを入れるような選択肢はなかったんですか。
ゼロでした。それをするとPELICAN FANCLUBではなくなると、僕は思うので。だから僕がギタリストになるしかないとしか、思わなかったです、もう。
――元々エンドウくんのギターも入っている曲が多いから、フレーズから考え直さなきゃいけないだろうし、それをしたとしても、それだけで1人分の穴をカバーできるわけじゃない。だから3人全員、それぞれが負うものも変わったと思うんです。
そうなんです。今までは、ギターボーカルだったらバッキングが多いとか、ベースはルートが基本にあって――とか、色々と形式的なものがあったと思うんですけど、3人になってからはそういうのに関係なく、ベースがリフを弾くアレンジもしましたし、僕もあえてずっとリフだけを弾くとか、今まで思っていた固定的な考え方にはあまり捉われないようになりましたね。もっと自由でよかったんだっていう発見があった。
そこは今作にも活かせていて、エフェクトとかも含めて、色んなことができるんだったら色んなものを使っていこうよっていう発想になってきて、曲の作り方もアレンジも変わっていったし、その発見があったからこそ、進化もしました。バンド力はすごく上がったと思います。
PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ 撮影=rina chizuwa
■より自分を表現することに対しての探究心が強くなって
――そうしていざメジャーで出すにあたっては、「好きなアニメがあるからソニー」ってだけの当時とは、考えも視点も変わっているはずで。今、メジャーに場を移すことについては、どんな風に考えましたか。
すっごく前向きでしたね。前向きっていうのは……なんだろうな、自分たちの楽曲に対して不安がある人もいると思うんです。「メジャーに行って変わってしまった」とか。でも、僕は「変わる」っていうことはすごく素敵なことだと思うんですよね。その変わり方みたいなものは僕らが選べるんじゃないかなって。
このタイミングで、3人になったということもあって、去年出したアルバム『Home Electronics』まではバンドに委ねてきたもの――責任だったり担うべきものを、自分で負う気持ちがすごく強くなったんですね。僕が歌っている人だから、僕自身の頭の中を再現したい、PELICAN FANCLIBらしさ、エンドウアンリらしさみたいなものを、このタイミングで表現したいなって。
――それは今までも脳内においては確立されていたものですか?
確立されていたんです。それはもう、感覚でいえばミニアルバム(『PELICAN FANCLUB』・2015年)を作った頃にはもう、自分の中にあったんですよ。それからだんだんライブとかを経ていくうちに「メンバーって良いな」って思うようになっていって、バンドとしての表現に向いていったんですよね。それが『Home Electronics』までで。
それがPELICAN FANCLUBだと思っていたんですけど、(3人になって)バンドとしての表現が1人ぶん減るわけだから、僕はそれを補いたかったんですよ。むしろ今まで以上の、人数は減ったけどパワーはダウンしていないところを見せたいっていうのもあって。だから、自分がそこを補えるだけの説得力のあるものを作ればいい、じゃあそれは何か?っていったら、嘘偽りなく自分らしさを出せれば良いんだと。
僕が好きなアーティストってそれがあるんですよね、みんな。フロントマンの雰囲気が、そのバンドの魅力に直結しているというか。そうなりたいなと思ったので、より自分を表現することに対しての探究心が強くなっていったんです。それを考えると、今まで以上に感覚的でいいんだなというか。
――というと?
自分が良いと思ったものを、ただ一つの単語から1曲作るみたいな感覚で生まれ出たものが自分らしさというか、ナチュラルな自分が出るっていう風に思ったし、実際そうなって。それを評価してくれたのがメンバーでした。「エンドウらしさがすごく出ている」って。これが僕のやりたいことだし、バンドで表現したいことだって再認識できたから、僕も結果的に“エンドウらしさ”がすごく出たアルバムを作ったなと思います。結果的に、ですけど。
――なるほど。ただ、そうやってエンドウくんのパーソナリティがこれまで以上に反映されたアルバムであると同時に、カミヤマくんの曲も入って完成しているところも面白いです。
そこは今までのPELICAN FANCLUBを踏襲している部分でもあって、僕はこの曲を入れることは必然だと思っていたんです。前作だったら、カミヤマくんが「Night Diver」――リード曲を書いていて、そのくらいスキルのある彼の楽曲を今作に入れないというのは、僕は違うと思いますし、エンドウアンリのソロではなくバンドとして見られる上でも、彼の楽曲が入るのはアルバムの中で必然、必要なので。だから今作には今までなかった彼の作詞・作曲の楽曲(「to her」)も入っています。それがあることで僕とカミヤマくんの対比もできますし、それがあることによって、極端に言えば白と黒のコントラストが際立つというか。
――一方でエンドウくんが自分の色を追求しまくっているからこそ、2人の曲が混在する面白みが出るし、それによって「PELICAN FANCLUBとは何か」が見えてくるのかも。
本当にそうです。僕だけだったら、コンセプトアルバムになりかねないと思うんですね。世界観が一つしかないというか、感覚的に作っているので。
――ということは、その時々の精神状態や見ている物事に、結構引っ張られるタイプですか?
引っ張られますね。めちゃくちゃ引っ張られます。元々は影響をすごく受けやすい人間なので、ちょっとしたことでも「あれいいな」とか、目移りじゃないですけど、感化されやすいというか。でも今作はそれがあんまりなかったんです。感覚を大事にして、感覚から出たものに対してはそれが全てだと思って作ってましたね。
良いと思ったもの、自分が良いと思ったメロディを即興で出すことで、改めて自分はこういうメロディが好きなんだって気づくこともありますし、そういう自分のツボ、ストライクなものを曲として詰めていった感じです。
PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ 撮影=nishinaga "saicho" isao
■「Telepath Telepath」は自分たちの核となる曲
――ちなみに1曲目は再録ですけど、それ以外は全て最近書いた曲?
そうですね。本当最近です、全部。でも書いていて思ったのは、「Telepath Telepath」って結成当初からあった曲なんですけど、当時と今とで物の捉え方はあんまり変わってないなっていうことなんですよ。で、3人になった自分たちが一番カッコよく演奏できる曲って何だろう?って考えたときに、自分たちの核となる曲として「Telepath Telepath」を思い出したことで、また新たにバンド感が生まれてきたんですよ。
――メジャーデビューとか節目のタイミングで、名刺代わりの曲を作ろうと試みるケースは多いですけど、そういう曲が既にあったと。
そうです。しかもデモCDにしか入っていなかったので、このタイミングでどうしても入れたいねっていう話になりました。
――この曲ともう一つのリード曲の「ハイネ」って、対になってる感じがするんですよ。共通項はあるんだけど、真逆の色もある。
まさにそういう選び方をしたし、MVもそういう狙いです。極端な明暗というか、それで選びましたし、客観的に見ても、今回は(リードが)2曲あったほうがPELICAN FANCLUBの良さみたいなことを出せるんじゃないかっていう風に、スタッフもメンバーもみんな同じように思っていたので。
――ファースト・インプレッションとしてこの2曲から入ってもらうのは、たしかに正解だと思います。ただ、僕はそれ以降の楽曲たちもすごく好きですよ。「ハッキング・ハックイーン」なんて、「ガストロンジャー」(エレファントカシマシ)を彷彿とさせるようなパワーがある。
おお、マジですか! PELICAN FANCLUBの、いきなり明るくなったりいきなり暗くなったりする部分を1曲に集約したくて、場面展開を変えていこうと思って作ったというか、そうなっていった楽曲なんですよ。とりあえず自分の頭の中にある風景をそのまま音とか構成にしたから、すごくメチャメチャだと思うんですよ。構成としては。
――でもそこを無理やりつなぎ合わせちゃう術みたいなものは、持ってるバンドであり、持ってる人なわけで。
そうですね(笑)、やりますね。でもそれをこのメジャーデビューのタイミングで出せるっていうのは、すごくワクワクしていました。この曲はどういう反応を受けるんだろう?って。
――「to her」とか「ノン・メリー」とか、歌のよさがストレートに入ってくる曲もありつつ、全体的な印象としては……良い意味でですよ? メジャーから出ているアルバムっぽくない。
あ、それはもう、めちゃくちゃ嬉しいですね(笑)。そこは狙ったわけではなかったですけど、でも自分という人間は多分、そういうポジションの人間なんだなというか。メジャーメジャーしているというよりは、ちょっと……僕自身、中学の頃からクラスの端っこにいるような、斜に構えてる人間だったので、そういう自分らしさが出ているんだって。ああ、良かったって思いました。
PELICAN FANCLUB 撮影=nishinaga "saicho" isao
■「僕自身しかできないでしょ」って自信をもって言える作品
――そういうアルバムを作り、メンバーそれぞれが「良い」と思えている今のPELICAN FANCLUB。自分たちをどんな存在だと思いますか。
唯一無二、と思います。今までのPELICAN FANCLUBって、いろんな曲があるからイメージが分からないというか、「どんなバンドなんだろう」って思われてたと思うんですよね。でも今回はそれがまとまっていて、歌詞やメロもそうですけど、雰囲気みたいなものも含めて「PELICAN FANCLUBといったらこの感じ」っていう“らしさ”を表現できたなと思います。だから、PELICAN FANCLUBそのものっていう意味で、唯一無二のものですね。
――自分たちをオルタナティヴな立ち位置だとは思います? メインストリームにあるものなのか、そこに対するカウンターとして聴かれる音楽なのかにおいて。
カウンターですね。僕自身がそういうものが好きでやってきたので。でも、カウンターだからこそ、ちゃんと機能したら中心になれる日も来るんじゃないかなっていうことは、すごく思ってます。
――ニルヴァーナ然り、ね。
そうですね、本当。僕はジョイ・ディヴィジョンもそうだと思いますし、日本ではNUMBER GIRLとかがそうかもしれないですし、付いていこうと思う人が多ければ、ひっくり返せること、一つのカルチャーになることはあると思うんですよ。だから、やっている音楽性どうこうという意味では、あまり考えていないですね。とりあえずはこの作品から、自分たちにちゃんと付いてきてくれる人がいれば、それでカルチャーを作れるなって思っています。
――その“カルチャー”というワードは、今作のタイトルにもなっています。『Boys just want to be culture』、これはバンドとしてずっと掲げてきている信念ですよね?
掲げてます。それを口にすること、タイトルにすることって、結構勇気の要ることだったんですよ。だって、自分たちに自信がなかったら、それは嘘になっちゃうじゃないですか。でも今作は出来上がったときに本当に自信があったから、このタイトルをつけるのに全然迷いはなく。今までのつけ方とは違いますけど、メジャーの1発目は意志表示をするタイミングでもありますし。
――スタンス、音楽性、いろんなものをひっくるめて、PELICAN FANCLUBという一つのカルチャー。
それを与えられる人物になりたいです。やっぱり僕が最初に触れたBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONって、僕の中では文化になっているんですね。THE NOVEMBERSのコピバンをしていた頃も、コピーをすることでそこに自分を投影できていて、それも僕は文化だと思うんですよ。周りで別のコピバンを組んでいた人にも、それぞれの中にカルチャーがあって。
それが一人でも良いんですよ。でも、将来的にその誰かにとってのカルチャーが、日本のカルチャーになっていけば良いなって思うので。
――まずはオリジネイターであろうということですね。
そうです。エンドウアンリという人間は世界に一人しかいないので、だからこそ、歌う僕自身の頭の中を忠実に再現していきたいという、そういう意志の作品なんですよね。今作は。だから、音楽、歌詞、アートワークも含めて「僕自身しかできないでしょ」って自信をもって言えますし、これを今後も続けていきたいですね。
――当面の話で言えば、まずはツアーがありますね。
ツアータイトルもアルバムのタイトルと一緒なので、そういう影響を与えたいっていうことは思っています。今までのツアータイトルって、毎度毎度アルバムのタイトルとは違った決め方をしていたんですけど、今作は意志表示として。観に来るお客さんの誰かにとって衝撃的な日にしたいし、極端な話、その人にとっての一番になりたいなって思うので……それは毎回思っていることではあるんですけど、それを敢えてタイトルにしてこの3人でツアーを回ろうっていう。
――ライブにおいての表現という点でも、3人体制になりメジャーに移ったことで定まってきていますか。
定まりました。尖っていってると思いますね、表現や佇まいみたいなものが。今までは模索しながら環境に合わせてやっていたんですけど、今はもう自信に満ち溢れているので。「誰が何を言おうとこれがPELICAN FANCLUBだ」って、そういう気持ちでステージに立っています。

取材・文=風間大洋

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