向井太一 インタビュー 人、そして
自分自身を好きでありたい――あらゆ
る“PURE”を歌った2ndアルバム

2ndアルバム『PURE』をリリースした向井太一。“本当に伝えたいことを歌いたい”という想いから制作された今作には、ポジティブな意味なだけでなく、人間らしいすべての純粋な気持ちを歌った色とりどりな楽曲たちが並んだ。「人を好きでいること、自分自身を好きであり続けるということが、ピュアであることの大事な要素」と話す向井が発信する“PURE”に迫る。
──2ndアルバム『PURE』を制作されるにあたって、どんなことを考えていましたか?
制作はリリースに関わらず常にしているので、そのときは特にコンセプトとかは考えていなかったんです。でも、実際にアルバムを作ることになったときに楽曲を聴き返してみたら、今まではフィクションとノンフィクション半々で作ったものが多かったんですけど、そのときに自分が感じたこととか、実際に体験したことを歌っているものが多かったんですよね。そういう意味でも、なんか、まっさらというか。偽りのないアルバムにしようと思って。そこからまた新しく曲を作っていきました。
──ご自身が作ってきた楽曲から感じ取ったものが“PURE”であって、それをまた膨らませていったと。
そうですね。僕としては、誰かに発信している立場として、嘘をつきたくないと思ったんですよね。決して今まで嘘をついていたわけでもないんだけど、本当に伝えたいことを歌いたいという気持ちがすごく強くなってきていて。それが一番大きかったですね、『PURE』というタイトルにした理由というと。でも、そこはポジティブな意味なだけでもなくて、人間が持っているじめっとしたような感情とか、ヘイトな気持ちとか、そういうものもすべて含めて、純粋なものというか。そういう意味での“PURE”を歌っています。
──そうですよね。“PURE”といっても捉え方は様々であって、純粋無垢でいい部分もあれば、逆に怖い部分もありますし。
無意識に人を傷つけたりしますしね(笑)。
──まさにです。そういったいろいろな角度から見た楽曲が揃っているなと思いました。
そういう人間臭いアルバムにしたいなと思ってました。あと、いろんな角度から書けたのは、制作期間が長かったり、書きためていたものもあったので、すべてリアルタイムで感じたものをそのまま書いたわけでもないんですよ。だから、前作からの1年を詰め込んだというよりは、これまで自分が感じてきたことや、発したいことを表現した作品になっています。
──タイトルトラックの「Pure」はソウル色が強いですけども、“PURE”というテーマを決めてから作ったのか、先に曲があったのかどちらでしたか?
この曲はタイトルが最後まで決まらなくて、出来上がった後につけたんです。そういえばこれって「Pure」だなと思って。まさに自分が伝えたかったことでもあるし、自分自身を好きになれなくて不安を抱えていたり、否定してしまうような人に対して寄り添ったり、支えたり、鼓舞したりできる曲になればいいなと思って作っていました。
──この曲が誰かのためになればいいと。
そうですね。音楽活動をしていくうえで、実際に話したことのない人から「元気づけられました」とか「自分がすごく大変なときに支えてもらいました」という声をネットや手紙を通していただくんですけど、自分が音楽を制作することで誰かの力になれていることってすごく嬉しくて。その声によって、僕が自分自身を好きになれたし、今までやってきた音楽が間違っていなかったんだって肯定された感じもあって。だから、そういう人たちのためにもこういう曲を歌いたいっていう気持ちもありましたね。
向井太一
──この曲はLUCKY TAPESの高橋 海さんと共同プロデュースという形を取っていますが、そういったテーマは最初にお話しされたんですか?
そのときはまだテーマは決まってなかったですね。最初に海くんとどういうものをやろうかっていう話をしてからラフを作って、僕はそこにメロディと歌詞を乗せて、それと同時進行でアレンジも進めていったんですけど。歌詞に関しては、ある出来事がキッカケになって書き上げていて。何か大きな出来事を変えるのは難しいことだと思うんですけど、たとえば何かに傷つけられたり、自分が何なのかわからなくなった人を、元気づけたり、勇気づけることはできるかもしれないなと思って書いてました。
──ゴスペル的なコーラスも気持ちいいです。
僕としては、“とにかくひとりじゃない”ということを伝えたかったというのと、サウンド面のアプローチとして、たとえばチャンス・ザ・ラッパーとか、ゴスペル色を取り入れたヒップホップがすごく増えてきたところもあって。だから、自分が伝えたかったことと、音楽的にやりたかったことがリンクした気がしますね。
──どの曲も濃くて良曲ばかりですけども、メンツが濃いという意味では「Answer feat. KREVA」。この曲は、蔦谷好位置さんを共同プロデューサーに迎えられていますね。
蔦谷さんはデビュー時からずっと見てくださっていて、いつかご一緒したいと思っていて。この曲は蔦谷さんが貯めていたデモトラックを元に作ったんですけど、僕は音楽的にマイノリティだった気持ちがすごく強いんです。昔からヒップホップやR&Bを聴いていたけど、山のほうで育ったのもあって、周りの友達で同じようなものを聴いている人はいなかったし、音楽を始めたときも、当時のR&Bってビジュアルがもっとマッチョで、ブラックカルチャーをリスペクトしたうえでファッションを真似したりしていて。でも、僕はそういうタイプじゃなかったから、自分の音楽と見た目がリンクしていないことに対して、本当にこれでいいのかと思って自信が持てなかったり、自分の声も好きじゃなかったりして、コンプレックスがすごくあったんです。
でも、自分はこの音楽もファッションも好きだと思いながら続けてきたんですけど、不確かなままやっていくうちに、今の事務所が拾ってくれたり、ファンの人が増えていったり、ちょっとずつ肯定してくれる人が増えていったんですよね。そうやって不確かなものが確かな自信になったり、自分自身をちょっと好きになれたりして。音楽って、この「Answer」というタイトルの通り、答えがないじゃないですか。それを見出すのは自分自身であったり、自分の周りにいる人であったりして。そういうことを曲にしたいなって、まず思ったんです。
向井太一
──なるほど。そして、この曲にはKREVAさんが参加されているわけですけども、どういう経緯だったんですか?
KREVAさんは、僕が元々ものすごいファンで、何回もライブを観に行っているんですけど、蔦谷さんが紹介してくださったんですよ。
──今回が初対面?
一度だけラジオ局でお会いしたことがあって、そのときは「ファンです!」ってお伝えしただけでしたね(笑)。ちゃんとお話をさせてもらったのは、今回の打ち合わせのときでした。KREVAさんは、日本の中ではマイノリティなHIPHOPというジャンルで、バッチバチにヒットチャートを飛ばしていて。武道館でライブをするし、フェスにヘッドライナーで出るし、なおかつテレビ番組にも出るというのは、やっぱりパイオニアだと思うし。あと、クラブでやっていた時代もあるからこそ、いろんな葛藤とか、それこそ今話したような自分を信じることとか、いろんな感情があるんじゃないかなって。だから、この曲をそのまま体現されている方だなと思ったので、今回お願いをしたんですけど。
──実際に制作されてみていかがでした?
すごく感動しました。KREVAさんのバースを聴いて、まるで映画を観ているような感覚になったというか、ご自身が体験されたことを書いてくださっていて。
──事前にいろんなお話をされたんですか?
そうです。最初は僕の歌詞も固まっていなかったんですけど、ただ、どういうメッセージを送りたいかを今みたいな感じで話して。サビだけあったのかな。そしたら「それってこういうこと?」って言われて、まさにそうです!という。
──通じ合えたところがあったんでしょうね。
いやあ、僕はただガチガチに緊張してましたけど(笑)。でも、KREVAさんは本当にカラっとした方だったので、本当に人を惹きつける魅力のある方だなと思いました。
──また夢がひとつ叶いました?
はい。親がKREVAさんをすごい好きだったんで、親孝行できたなと思いました(笑)。母親が電話越しで泣いてましたね。
──めちゃくちゃ素敵な話です。「リセット」は、アニメ『風が強く吹いている』のエンディング曲として書き下ろされていますけども。
原作が素晴らしかったんですけど、自分の境遇と似ているなと思って。僕がデビューしたときって、同世代とか同年代のアーティストがめちゃくちゃ多くて、比較されたりすることも結構あったんですよ。
向井太一
──ちなみに、向井さんの同世代や同年代というと?
友達なのは雨のパレードとか、DATSyahyel、LUCKY TAPESとか、ちょっと下ですけど女の子だったらiriちゃんとか。tofubeatsさんも平成生まれなんで、結構近いんですよね。そのなかで自分自身を見出すことが、楽しさでもあり難しさでもあったんですけど。でも、まさに「駅伝」というひとつのテーマで展開されるストーリーと、自分が置かれている境遇がすごくリンクしたなと思って。
──原作の物語にご自身を投影させて作ったところもあるんですか?
そこは曲を作った後に気づきました。これって自分にも当てはまることだなって。アニメのお話ありきで作った曲なんですけど、今回の“PURE”というコンセプトにもすごく沿っているし、自分自身のことがしっかりと書けた曲ですね。
──あとは、アップテンポなものでいうと「Haters」が印象的でした。身体が動く感じではあるけど、歌詞は辛辣といえば辛辣だし、愛があるといえば愛があるというか。
この曲は、僕が唯一嫌いだと思っている人に向けて書いたんです(笑)。これまでもマイナスな感情や悔しさをぶつけるような歌詞は書いてきたんですけど、今回はそれをおもしろおかしく書いたというか。歌詞の<いつか君に届きますように>も、綺麗に言ってはいるんですけど、その言葉の裏には「君が聴きたくなくても耳に入ってくる存在になってやる」っていう意味を込めていて。お前なんかがもう手の届かないところにいるからな?っていう(笑)。
──それ、よっぽど嫌いですね(笑)。
まあ、攻撃されたっていうのもあるんですけどね(笑)。
──ああ。そうなってくると話は別ですね。逆に、攻撃されないと人をそこまで嫌わなかったりします?
そうかもしれないです。基本的に人が好きなので、自分のことを嫌いな人が嫌いっていう傾向はありますね。
──そっちがそう出るなら、こっちもやってやんよ、みたいな。
たぶん、ものすごく負けず嫌いなんだと思うんですけどね。でも、この歌詞は「やってやんよ」というよりは、「もはや気にしてないよ」ぐらいの感じです。「ああ、そんなこともあったね」ぐらいの感じだけど、でも絶対に許してないっていう(笑)。
──「愛憎」みたいな感じなのかなと思ったら、「憎」のみなんですね(笑)。
そうですね。完全に「憎」です(笑)。
──でも、こういう感情も人間としてはピュアですし。
そうですよね。それに、ヘイトからのパワーってやっぱり強いと思うんですよ。もちろん完全に一方的に攻撃するのはダメだけど、ネガティブなものをポジティブに変える力って、人間にとってものすごく必要なものだと思うし、大事だと思っているから、こういう曲は『PURE』というタイトルには欠かせない要素ですね。
向井太一
──そういった人間臭さという意味では、「午後8時」もそうですよね。ただただ相手を求めるというか。
今回、恋愛の歌は全部実体験なんですよ。
──そうなんですね。「大江戸線」のくだりが素敵でした。景色が目に浮かぶし、あそこを小走りに登るってよっぽど会いたいんだろうなって。
そのときはそういう感じでしたね(笑)。
──(笑)。grooveman Spotさんが手掛けた、まどろみ感のあるトラックもめちゃくちゃ気持ちいいです。
以前から一緒に曲を作らせてもらっているんですけど、僕がgrooveman Spotさんの作るトラックがとにかく好きで、一度ちゃんとセッションしてみたいと思って、制作されている仙台まで初めて行かせてもらったんです。そのときに「午後8時」と「Gimme」を作ったんですけど、もう本当に素晴らしいですよね。メロウなエモさというか、R&Bの持つある意味エロさみたいなものがすごくあって。ボーカルは静かなんだけど、ものすごくエモーショナルな楽曲になりましたね。
──人間の本能を刺激する曲というか。
やっぱりR&Bは快楽主義者の音楽だと思っているから、愛しているものを「愛している」と言い、気持ちいいものを「気持ちいい」と言うみたいな。こういう歌詞を書いて、自分はそういう人間だなって改めて思いました。あと、僕ぐらいの世代のアーティストで、こういう歌詞を歌える人っていないんじゃないかなって。
──日本を見渡してみても、こういう曲を歌う人は減ってきていますよね。
確かに。僕は、自分が聴いてきたジャンルへのリスペクトも含めて、こういう歌は歌い続けていたいですね。
──ぜひ歌い続けてください。あと、『LOVE』のときはビジュアルイメージも手掛けられたとお話しされていましたが、今回もそうですか?
今回も全部自分でディレクションしました。フォトグラファーは井崎竜太郎さんという若い方にお願いして、衣装はすべてセルフスタイリングで、やりたいことをやりたいだけやりました(笑)。壁紙はウィリアム・モリスというアーティストのものを使っているんですけど、絶対にこれでいきたい!とワガママを言わせてもらって。ずっと使ってみたかったんですよね。
──アートワークは譲れない部分であると。
めっちゃケンカしましたからね……(笑)。紙質ひとつとっても、こういうものにしたいとか。『BLUE』のときもそうだったんですけど、やっぱりCDを作る上で、手に取りたいと思うもの、物として持っておきたいと思えるものにしたいんですよね。こういうアート的なアプローチは自分のやりたいことでもあるし、価値を高めるポイントにもなるんじゃないかなと思って、毎回自分でディレクションしているし、こだわりを持って作っています。
向井太一
──そして、年末から来年にかけてツアーも開催されますが、そちらも含めて2019年はどんな1年にしたいですか?
ライブによって初めて作品が完成すると思っているので、『PURE』の世界観や、伝えたかったことは最低限感じられるものにしたいですし、聴き込んだ人はもっとより多くのものを感じられるツアーになるので、ぜひ期待していただければと思います。2019年については、実は毎年やっていることって変わっていないんですよね。常に活動的であることと、クリエイティビティを失くさないこと、その範囲を広げて深くしていく作業をずっとしているし、それを繰り返し続けていきたいです。あと、ぼちぼち考えているんですけど、海外ツアーもそうだし、国内でまだ行ったことのない場所でライブもしたいし、今までとは違う演奏方法とか、新しいことにも挑戦したいなと思っていて。だから、自分のやりたいと思ったことは、できる範囲でどんどんやっていきたいですね。
──自分の内側から溢れてくる、まさにピュアな部分を大事にしたいというか。
そうですね。自分がピュアでありたいということを提示したアルバムだったので、まさに2019年はよりピュアでありたいです。なんか、今すごく綺麗に締まりましたね(笑)。
──はい(笑)。でもごめんなさい、もうちょっとお聞きしたいことがあって。ピュアであり続けることって、ものすごく難しいじゃないですか。
社会人だと特にそうですよね。
──そうですよね。自分の本意ではないことをしなければいけない場面も多いわけで。向井さんとしては、ピュアであり続けるために、努力をする……というのもおかしな話ですけど、心掛けていることってありますか?
自分を好きであることですかね。社会人でよくある感じとして、たとえそれがその場の嘘であったとしても、それも自分を愛するがゆえのものなのであればいいんじゃないかなって。
──そういう場面で嘘をついてしまう自分も愛せばいいんじゃないかと。
もちろん悪いことをしてはいけないですけどね。でも、逃げたっていいと思うんです、僕は。逃げることよりも、誰かを一方的にバッシングするようなことのほうが、ピュアじゃないと思うので。「Pure」の歌詞にもありますけど、僕は人として人をまっすぐに愛していきたいし、愛していることを「愛している」と言いたいんですよ。そういう単純だけど人間的な感情みたいなものを持ち続けることで豊かになると思うし。そこはなくしたくないですね。人を好きでいること、自分自身を好きであり続けるということが、ピュアであることの大事な要素かなって思います。

文=山口哲生 撮影=菊池貴裕

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