amazarashi初の武道館ライブ。言葉を
殺した君に

amazarashi初の日本武道館ライブをレポ
ート。

ライブレポートは誰のためにあるのか? それはまず何よりも、ライブに行けなかった人のためにあると、私は思います。そこで今回のレポートでは、その方々にできるだけ臨場感を味わってもらうために、「私」という余計な解説者を介さずに、直接「君」を主語に立てました。

実験的な形式に抵抗のある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、amazarashiのもっと実験的な、おそらくは過去最高のライブの模様をお伝えするには、この方法が一番だと考えた次第です。結果的に、ライブに行かれた方々にもそのときの様子をありありと思い出していただけたら嬉しいです。

Photography_Victor Nomoto
Text_Ozawa Hiroyuki


2018年11月16日。夜。君は入口をくぐり、席につく。会場の中央にはキューブ状の舞台が設えられ、周囲を客席がぐるりと囲んでいる。amazarashi初となる武道館ライブ『朗読演奏実験空間 “新言語秩序”』が、いよいよ始まる。
今回のライブは言葉を狩る者らが結成した自警団「新言語秩序」によって「検閲」されている。そのため、事前にスマートフォンにインストールした専用アプリを用いることで、スクリーンに映しだされる黒塗りの歌詞を「検閲解除」しなければならない。君はその方法に少し不安を覚えているかもしれない。


「アプリの使用は必須ではありません。ここに集っていること自体が「新言語秩序」への抵抗運動です」。
アナウンスが流れるのを君は注意深く聞くだろう。そうだ、君は自分の耳に全神経を集中させる。スマホを操作する余裕があるかどうか分からない。今夜は一言だって聞き逃すまい、脳みそのヒダというヒダに言葉を刻みこんでやろうと身体を固くする。


19時。検閲解除の予行演習が行なわれる。武道館に集まった人々はスマートフォンを中央のスクリーンにかざす。客席から一斉にフラッシュがきらめく。歓声が上がる。まるで銀河系の中心で星空を眺めるみたいだ。君はそう思う。
不意の、暗転。
「遮光粘膜に囚われて 能動性が切断された感性を 自由解放運動、奪還の行路、故に単身武装蜂起」。『ワードプロセッサー』だ。「歌うなと言われた歌を歌う 話すなと言われた言葉を叫ぶ」。

ボーカルの秋田ひろむがまさに叫ぶのを君は聞く。汗ばんだ手のひらを丸める。ひやりと冷たい。『ワードプロセッサー』は「言葉を取り戻せ」を合言葉にしている今回のライブに相応しい楽曲だな、とぼんやり考える。


会場中央に設えられた舞台の四方はLEDパネルに覆われ、側面に映像が出力される。2年前にamazarashiが行なった『360°ライブ』と同様の趣向だ。しかし、今回は映しだされる画像の種類がまったく違う。歌詞が映されては塗りつぶされ、映されては塗りつぶされてゆくのだ。検閲。
小説『新言語秩序』第1章を秋田ひろむが朗読する。父親に虐待される娘、実多(みた)の物語だ。暗澹たる余韻がライトの消えた会場に漂うなか、『自虐家のアリー』が響きわたる。

自虐家のアリー 波の随に 浮かんで 被虐者の愛 波の随に 沈んだ あの人が愛した 父さんが愛した この海になれたら 愛してくれるかな

これはおそらく親に虐待されて海に身を投げる少女の歌だ。決して明るいとは呼べない感情を歌うことの多いamazarashiの楽曲のなかでも、特殊な位置を占めているといえる。

なぜ秋田ひろむはこれほどまでに救いのない歌を作ったのだろうと、あの頃の君は考えたかもしれない。では昨日も考えただろうか、あの頃みたいに?『自虐家のアリー』の報われない愛に、見棄てられた愛に、いや見棄てた愛に、君は思わず嗚咽しそうになる。
『ナモナキヒト』や『ムカデ』など、懐かしい楽曲が演奏されて、君は昔を思い出す。


鍵をかけた部屋でamazarashiの歌をひたすら何時間もリピートしていた。amazarashiを自分の分身だと感じていた。彼らを応援することは自分を応援することだ。彼らに希望を託すことは、ありえたかもしれない自分の未来を夢見ることだ。でも、だからこそ、8月の陽のように輝かしい未来が彼らに訪れるなどと、君に想像することができただろうか。
圧巻の『しらふ』に、ゾワリと鳥肌を立てる。
「自分以外皆死ね」。秋田ひろむがその声に悲痛な色を重ねる。情感豊かに、しがみついてくる指を一本一本引きはがすように、恐ろしいほど丁寧に、言葉の裏側でわずかにめくれた小さなささくれまで克明に表現し尽くすそのイントネーションに、君の心臓は鼓動を止める。


曲が終わっても会場はシンとしている。拍手が聞こえない。真っ暗なステージに点のような明りだけが何個か揺れている。皆、きっと忘れているのだ、手を叩くことさえも。amazarashiは武道館を制圧した。
演目の合間に、秋田ひろむは小説『新言語秩序』第2章と第3章を朗読してゆく。ライブももう後半だ。『空っぽの空に潰される』を見事に奏し終えたamazarashiに、先程の無音を取りかえす勢いで、歓声とともに稲妻のような拍手が送られる。


そして『カルマ』。
初期amazarashiを代表するこの楽曲のクライマックスに、秋田ひろむが野太い雄叫びを上げる。「どうかあの子を救って」と。この歌はこれまでのライブで幾度となく君の感情を揺さぶってきたが、今夜の『カルマ』ほど哀切だったためしはない。かつて心の幹が折れてしまったと感じたみぞおちが、かっと熱くなる。

『新言語秩序』第4章が読みあげられる。専用アプリで事前に公開されていたバッドエンドではない、新たな物語だ。自警団「新言語秩序」の幹部、実多がマイクを手に取り、自分を納得させるために無理にでも押し殺してきた真の言葉を語りだす。
最後の楽曲『独白』が始まる。

「まさかあの子が」と口走る前に顧みる 私の過去の痛みはあの子の為にこそ使う 「言葉にならない」気持ちは言葉にするべきだ 「例えようのない」その状況こそ例えるべきだ 「言葉もない」という言葉が何を伝えてんのか 君自身の言葉で自身を定義するんだ

「言葉を取り戻せ」と、秋田ひろむが絶叫する。君自身が殺した言葉を取り戻せ、言い訳の裏庭に葬った言葉を取り戻せと、何度も何度も、夜に打ちつけた頭のように、物を造るハンマーのように、その一撃一撃が、君に食いこむ。

君は座席に釘付けにされている。感情と言葉の奔流に身をまかせる。何も考えられない。しかし他人の足みたいに感じられる足をやっと踏みだして、武道館を後にする。
薄雲に滲む月が綺麗。


〈セットリスト〉
1. ワードプロセッサー
2. リビングデッド
3. 空洞空洞
4. 季節は次々死んでいく

小説「新言語秩序」第1章
5. 自虐家のアリー
6. フィロソフィー
7. ナモナキヒト
8. 命にふさわしい

小説「新言語秩序」第2章
9. ムカデ
10. 月が綺麗
11. 吐きそうだ
12. しらふ

小説「新言語秩序」第3章
13. 僕が死のうと思ったのは
14. 性善説
15. 空っぽの空に潰される
16. カルマ

小説「新言語秩序」第4章
17. 独白


〈リリース情報〉
amazarashi New Single『リビングデッド』
発売日 2018/11/7

・初回生産限定盤 [CD+新言語秩序バリケードテープ]
AICL-3590
2,300円(税込)
1.リビングデッド
2.月が綺麗
3.独白(検閲済み)
4.リビングデッド -instrumental-
5.月が綺麗 -instrumental-
・通常版
AICL-3592
1,280円(税込)
1.リビングデッド
2.月が綺麗
3.独白(検閲済み)


〈ライブ情報〉
amazarashi Live Tour 2019
前売¥5,800(ドリンク代別)/ 当日¥6,800(ドリンク代別)
※5/1 愛媛、5/12 熊本、5/18 新潟、5/19 石川、5/25 青森、5/31 広島、6/21 東京、6/29 京都はドリンク代なし

▲2019/4/29(月・祝) 大阪・Zepp Osaka Bayside

問い合わせ  キョードーインフォメーション 0570-200-888

▲2019/5/1(水) 愛媛・松山コミュニティセンター

問い合わせ  デューク松山  089-947-3535

▲2019/5/6(月・祝)   東京・Zepp DiverCity Tokyo

問い合わせ  ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999

▲2019/5/11(土)    福岡・Zepp Fukuoka

問い合わせ  キョードー西日本  0570-09-2424

▲2019/5/12(日)    熊本・熊本県立劇場演劇ホール

問い合わせ  キョードー西日本  0570-09-2424

▲2019/5/18(土) 新潟・新潟テルサ

問い合わせ  FOB新潟  025-229-5000

▲2019/5/19(日)   石川・本多の森ホール

問い合わせ  FOB金沢  076-232-2424

▲2019/5/25(土)    青森・リンクモア平安閣市民ホール

問い合わせ  キョードー東北  022-217-7788

▲2019/5/26(日)    宮城・SENDAI GIGS

問い合わせ  キョードー東北  022-217-7788

▲2019/5/31(金)    広島・上野学園ホール

問い合わせ  夢番地 広島  082-249-3571

▲2019/6/2(日)    愛知・Zepp Nagoya

問い合わせ  サンデーフォークプロモーション  052-320-9100

▲2019/6/21(金) 東京・NHKホール

問い合わせ  ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999

▲2019/6/23(日)    北海道・Zepp Sapporo

問い合わせ  ウエス  011-614-9999

▲2019/6/29(土)   京都・ロームシアター京都 サウスホール

問い合わせ  キョードーインフォメーション  0570-200-888
チケット先行予約 オフィシャルモバイルサイト「APOLOGIES」

11月17日(土) 〜 11月25日(日) (会員のみ)
11月26日(月) 〜 12月2日(日) (会員同行者含む)

一般チケット発売日
2019/1/19(土)


amazarashi 公式サイト

amazarashi 公式ツイッター

amazarashi 公式フェイスブックページ

amazarashi初の武道館ライブ。言葉を殺した君にはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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