PELICAN FANCLUB “頭の中”を体現
したワンマンが予感させる、新たなカ
ルチャーの萌芽

PELICAN FANCLUB TOUR 2018“Boys just want to be culture”

2018.12.5 渋谷CLUB QUATTRO
「素敵な夜を楽しもう、PELICAN FANCLUBです」
ギターを高く掲げたエンドウアンリ(Vo/Gt)が一言告げて始まったライブ。1曲目が「Telepath Telepath」、ラストが「ノン・メリー」という流れは、11月にリリースしたメジャーデビュー作『Boys just want to be culture』と同じ。だが、そのリリース直後よりはじまった同名を冠したツアーの最終公演・クアトロワンマンでは、その間に配した18曲とアンコールの2曲で、PELICAN FANCLUBというロックバンドの歴史と矜持、そして大いなる可能性を示したのだった。
シミズヒロフミ(Dr)が放つタイトなビートとエンドウによるシャープなカッティングで淡々と、抑えめのテンションで進行していく「Telepath Telepath」は、曲の後半に向かうにつれ次第に音が熱を帯びていき、カミヤマリョウタツ(Ba)のコーラスが箇所によってはツインボーカルにも聴こえるほどの存在感だ。間髪入れずにインディ時代から定番の「Dali」、スピード感とスリルに満ちたサウンドで駆ける「Luna Lunatic」と繋げ、新譜に収録の「アルミホイルを巻いて」へ。音数を少なくしたサウンドアプローチの中、特にタメでノリを作っていくカミヤマのベースが見事。今年の春以降スリーピース編成になったことで、重ねられる音自体は減ったわけだが、それを逆手に取り、むしろ無駄な音を無くして洗練させることで到達した新境地とも言えるだろう。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
ミニアルバムには収録されなかったものの、現体制となって最初にMVが公開された「ガガ」がライブの勢いを加速させたあと、中盤ではファンクテイストの「M.U.T.E」やキャッチーで外連味のないギターロック「Shadow Play」、さらにはカミヤマのメロディセンスとエンドウの声色が持つ深みが際立つ「to her」などが並び、彼らの多岐にわたる音楽性と、決して勢い任せに突き進むだけではない懐の深さも見せてくれた。
「エンドウの頭の中、PELICAN FANCLUBの頭の中が、これまでかと集約された名刺代わりの一枚ができました」とエンドウがMCで言った通り、たしかにデビュー作『Boys just want to be culture』には彼らの多様性の一端が可聴化されて収められている。とはいえ、ポップでイカれていて、激しくて美しい――要するに色々とややこしいことになっている、彼らの一筋縄でいかない“頭の中”を隅々まで堪能するには、やはりフルボリュームのワンマンが最適だ。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
シンセポップ風味のオリエンタルなリフが印象的な「ヴァーチャルガールフレンド」を終えたところで、「ここからはアダルトでビターなPELICAN FANCLUBを」と前振りしたエンドウだったが、その言葉と裏腹に新譜でも一番ぶっ飛んだ「ハッキング・ハックイーン」を投下。手数の多いドラムとエンドウが速射砲のように吐き出す言葉に、重低音の効いたサウンドと絶叫が入り混じる。後に披露した「説明」しかり、こういったカオティックでエキセントリックな楽曲もまた間違いなく彼らの強み。曲を追うごとに大きくなってきていた観客のリアクションもこのあたりでピークとなり、リズムに合わせて手を掲げる動きから、いつの間にか思い思いに拳を突き上げるスタイルへと変わっている。
この日唯一のまとまったMCでツアーの思い出について話し、カミヤマの天然ぶりが炸裂するなど一気に和やかなムードになったあと、グルーヴィなセッションから「ハイネ」を披露。小刻みなフレーズを正確無比に叩き出すシミズのドラムプレイの上を、エンドウの呪文的な歌い回しがループする同曲は、やはり相当中毒性が高い。このあたりからライブも最終盤、カミヤマが「まだまだ行こうぜ、渋谷!!」と扇動して「Night Diver」へと繋げば、フロア中から手が挙がる。かつてはテンションが暴走気味になることもあった曲だが、今やすっかり不動のアンセムとして堂々と演奏されており、ブリッジのシンガロングもバッチリ決まった。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
「ノン・メリー」のラストサビ前、逆光でシルエットになったエンドウが「来いよ」とばかりに手招く姿と、演奏を終えるとすぐさまノイズを散らしたままのギターを置いて去っていく様に痺れたところで本編が終了。アンコールは「花束」「記憶について」という名曲を2連発だったのだが、よくよく考えるとこれらが本編で演奏されなかったことも、それでも全く不足感のないセットリストになっていたことも、個人的にはちょっと驚きだった。それだけ新譜の内容に自信を持っているのだろうし、全体的に良曲揃いなバンドだということの証明でもあるだろう。ボーカルも含む各楽器の押し引きや抜き差しなどなど、この日も随所に伺えたバンドとしての成熟ぶりと充実ぶりを見るに、さらなる名盤と名演に出会える日もそう遠くなさそうだ。
「すごく良い状況です、PELICAN FANCLUBは。自慢です。曲を作ってても全部良い。楽しみにしておいてください!」(エンドウ)
次なる舞台は、LIQUIDROOMでの“ゼロ距離ワンマン”。過去最大キャパの会場で行われる、彼らの代名詞的な企画シリーズだけに、ここでもPELICAN FANCLUBの何たるかを存分に体感できるに違いない。そして、”PELICAN FANCLUBというカルチャー”の文化圏は、今後着実にその輪を広げていきそうである。

取材・文=風間大洋 撮影=伊藤惇
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇

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