リーガルリリーたかはしほのかの地元
・福生で開催された企画ライブ『333
』初日をレポート

リーガルリリーpresents 『333』~たかはしほのか生誕祭~

2018.12.10 福生UZU
リーガルリリーが現在の3人になって初めて、3ヶ所3公演を行うことから銘打たれた企画ライブ『333』。ベトナム語読みで「バー・バー・バー」。なぜベトナム語読みかといえば、ベトナム好きのたかはしほのか(Vo/Gt)がベトナムのビール「333」から命名したのだという。今回はその初日にして、たかはしの地元・福生での開催、かつ彼女の誕生日ということで生誕祭を兼ねた特別なセットリストで神聖にして親密な夜がふけていった。
この日の会場である福生UZUは今年で開店43年という歴史あるライブハウスだ。米軍キャンプの街でもあり、ベトナム戦争の時代から兵士の日常とともにあり、またストリート・スライダーズらの聖地としても知られる。開演までの時間、アメリカのカントリー/ブルースがゆったり流れるこの美しい空間には、詩人の魂が宿っているように感じられた。
リーガルリリー
完売し満員ながら居心地のいい空間に、まずたかはしが一人で登場し、ごくスローなテンポでアコギを爪引き、時にストロークしながら「リッケンバッカー」を歌う。フロアより少し目線は高い虚空を見ている。壊れそうなガラスのようでもあり、甘やかな砂糖菓子のようでもある彼女の声は、聴き手の心にしっかりと確かな痛みを残す。純度も緊張感も高いのに、むしろそれが心地よく私たちの気持ちをまっさらにしてくれるのだ。「こんなにたくさん集まってくれて、思わず3曲も一人で歌ってしまいました。エゴ的なやつです」と笑わせる。ゆきやま(Dr)、海(Ba)も加わって、「333」のビールで乾杯。生誕祭とこの空間ならではの親密さが溢れる。たかはしは「21歳になって明るくなりました。ま、自分で言うって意味では暗いんですけど」と、いつものようにとりとめのないようでいて、普段より明らかに饒舌だ。
リーガルリリー

リーガルリリー

歌を大切にするリーガルリリーの楽曲が、音色を抑えめにして、さらに3人で呼吸するように奏でられる「overture」では、歌メロの裏を行くイマジネーション豊かな海のベースのフレーズが印象的だった。また、「猫の涙ギター」と題された新曲もアコースティック・スタイルで披露してくれたのだが、涙も出ない、音も聴こえないと歌う主人公が、でもギターは鳴らすことができる、ギターは泣いているという意味の歌詞を聴き取ったとき、たかはしほのかという、一貫した詩人の魂に直に触れたような静かな衝撃に打たれた。
リーガルリリー
さらに、「リーガルリリーはカバーもやるんですが、誰の何の曲とか言わずにやるので、この曲も父親に『新曲、良かった』って言われたり。でも嬉しかった」と、曲ふりをしてくるりの「三日月」のカバーを聴かせてくれたのだった。淋しさを優しさに変えていきたいという歌詞の切実さは、原曲の安定感とはまた趣きを異にしながらも、リーガルリリーの“若い三日月”に滲み出る願いや祈り、そして正面から音楽を愛し、追求する共通点に胸が熱くなる。リーガルリリーのまっすぐさと音楽愛ももちろんなのだが、ルーツライクで普遍的な曲とこの空間は実に相性がいい。広い意味でのブルースの神様が見つめているような感じなのだ。器じゃないバンドやアーティストはこの空間に圧倒されてしまうだろう。
リーガルリリー
この日は今の3人になったことも含め、リーガルリリーの足跡めいたことも3人で普通に会話するように進行していったのだが、ベースの海が加入してまだ5ヶ月目とはにわかに信じがたいほど、堂にいったプレイスタイル、そしてたかはしやゆきやま同様のマイペースっぷりが、このバンドに今彼女がいる必然を感じさせた。たかはし曰く海はついに見つけた「この子だ!」と確信できるメンバーだそうで、今のメンバーが変わるときはバンドの終わりというぐらい、リーガルリリーはこの3人で本当のスタートを切れたこと、さらに他のバンドにはない作品やライブを生み出していく期待を募らせてくれたのだった。
リーガルリリー
ゆきやまが「思わずインドに行きたくなる話をする」と、旅行体験を起こったことそのままに話す。ガンジス川に流れる死体の話や、ダンシング・ヨガと称する自己の解放など、大いに人生初体験をしてきたことをそのまま話した。かなり興味深い。たかはしと海に言わせると「10日間ドラムを叩いてなかったのに、上手くなってる気がする」とか。そんな風に各々が自分の興味の赴くままに得たものをバンドにフィードバックしている。いや、そんな大げさなことではなく、3人それぞれがタフなんだろう。
リーガルリリー
親密な空気から息を呑むような演奏に地続きで移行できるのも彼女たちのすごさだ。たかはしがテレキャスターに持ち替え、海がピアノを弾いた、うみのてのカバー「WORDS KILL PEOPLE」。言葉が人を殺すというタイトルが示唆するように、歌詞の中でも頭の中では誰でも人を殺しているという、その圧倒的なリアリティが隙間の多いアンサンブルと、たかはしの透明感のあるシューゲイズ・ギターで浮き彫りになる様子にただただ圧倒される。また、スモークとフラッシュライトによる演出は、一瞬、会場のキャパシティや物理的な場所を忘れさせるほど、意識を遠くに飛ばしてくれた。海がベースに戻ると、本編ラストは美しいディレイが響き渡る「蛍狩り」が外の寒さとは異質な透明感を放ち、荘厳なまでのエンディングとなった。
リーガルリリー

リーガルリリー

リーガルリリーをを聴いていると悲しい日も醜い日も、「生きているんだな」という強い思いにとらわれる。すぐに起こったアンコールに応えて登場した3人。たかはしへのケーキとゆきやま、海それぞれからのプレゼントが渡され、この日一番のロックバンドなサウンドで「好きでよかった。」を披露。記念撮影も行ったが、さらにアンコールを求める声に応えて、たかはしの弾き語りに「ボーイング」で、この特別な夜の幕は閉じた。いや、実は「333」を飲みながら、その余韻を楽しむ時間のあるファンは貴重なバンドとの時間も過ごしたのだった。
今のリーガルリリーをキャッチできるこの『333』、年明けには大阪、東京で開催されるので、ぜひ体験してほしい。

文=石角友香 撮影=南風子

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