平川雄一朗監督

平川雄一朗監督

【インタビュー】『春待つ僕ら』平川
雄一朗監督「若いキャストが頑張って
くれたおかげで、とても気持ちのいい
映画になりました」

 あなしんの人気コミックを原作に、土屋太鳳、北村匠海、小関裕太、磯村勇斗、杉野遥亮、稲葉友という注目の若手俳優たちが集結した青春映画『春待つ僕ら』が12月14日から全国公開される。本作は、孤独な女子高生と、バスケットボールに情熱を燃やす男子高校生たちの恋と友情を描いた物語だ。メガホンを取ったのは、大ヒット作『ROOKIES -卒業-』(09)の平川雄一朗監督。公開を前に、作品に込めた思い、撮影の舞台裏を聞いた。
-オファーを受けたときの感想は?
 原作が僕の得意な少年漫画ではなく、少女漫画だったのでやや戸惑いました。ただ、台本を作る過程で改めて読んでみたら、「今を懸命に生きる若者の話」だと気付いたんです。その中に恋愛や友情の物語がある。そういう人の絆の話であれば、僕にもできるだろうと。
-映画化する上で大事にしたことは?
 この作品の登場人物たちは常に思い悩んでいます。思い悩むのは思春期の特権ですが、高校を卒業した後は悩まないのかといえば、そんなことはありませんよね。40過ぎの僕だって、日々悩んでいる。そんな「みんな背伸びして、頑張って生きているんだ」という雰囲気が映画全体から出せればと思っていました。
-映画は原作をうまく2時間にまとめていますが、主人公の美月(土屋太鳳)が作文コンクールに出場するエピソードは原作にはない部分です。この作文コンクールは、そういう思いの中から生まれたものでしょうか。
 そうですね。原作がまだ完結していないので、1本の映画としてどう決着させたらいいのか模索し、脚本の完成まで1年以上かかりました。その結果、生まれたのが作文コンクール。美月が独りぼっちになったきっかけは、作文を学校で笑われたこと。ならば、美月の成長を描くには、作文コンクール出場がふさわしいのではないかと。
-コンクールで美月が朗読する作文からは、前向きなメッセージが伝わってきます。その内容にもこだわられたのでしょうか。
 かなり試行錯誤しました。もともとは台本を基にした原稿を用意していましたが、それを読んだ太鳳ちゃんが「これは美月の思いだから、自分も考えたい」と。そこから太鳳ちゃんと僕の間で何回かやり取りをした結果、出来上がったのが劇中のものです。映画の中では短く編集されていますが、全部で原稿用紙5枚分。太鳳ちゃんも、「制服を着るのはこれが最後になるかもしれない。だから、これは私の卒業論文」という思いを込めて書いてくれました。
-気持ちのこもった土屋さんのお芝居も印象的でした。
 撮影のときは、僕も太鳳ちゃんも「いいものにしたい」という思いがあったので、「今は声の張りがなかった」、「気持ちが途切れた」と追究し、何回か撮り直しています。だから、あの場面にはものすごくたくさんの思いが詰まっています。
-美月と親しくなる永久(北村匠海)、恭介(磯村勇斗)、竜二(杉野遥亮)、瑠衣(稲葉友)というバスケ部の4人も重要な存在です。それぞれ役に関しては、どんなお話をされたのでしょうか。
 最初にイメージを伝えました。「磯村くんは花沢類(『花より男子』に登場するキャラクター)ね」みたいな感じで(笑)。面白かったのは、稲葉くん。「かわいい弟キャラ」という意味で、「君は(俳優の)志尊淳になれ」と言ったら、「えー!志尊ですか!?」と(笑)。ただ、彼らも原作のキャラクターが持っている魂を忘れずに、生きた人間としてきちんと演じようと必死にやってくれたので、あとは多少修正したぐらい。基本的にはそれぞれの持ち味を生かしました。
-浅倉永久役の北村匠海さんはいかがですか。
 北村くんには具体的なイメージは伝えませんでしたが、『君の膵臓をたべたい』(17)とは変えたかったので、「永久ってそうなのかな…?」と、ずっと問い掛けていました。北村くんは、静と動のバランスをきちんと計算して芝居を作れる人。そこに問いを投げ掛けると、また少し違うものが生まれてくる。それが永久の個性になればと思ったので。
-本格的なバスケットボールの場面は、どれぐらい練習したのでしょうか。
 僕が参加したのは撮影の2カ月前からですが、彼らは出演が決まったときから、個人的に練習していました。ただし、体育館はなかなか予約が取れない上に、使えても週2、3回。だから、それ以外の日は夜な夜な公園に集まって練習していたようです。ハードルは高かったと思います。全国大会に出場する設定なので、現実的に考えたらものすごくレベルが高い。それに負けない熱量とプレーを見せなければいけないわけですから。その分、彼らは練習を通じてお互いに協力し合い、仲良くなっていきました。その雰囲気は映画の中にも生きていると思います。
-撮影も大変だったのでは?
 アングルを変えて、少なくともワンプレーで3回は撮るので、彼らは大変だったはず。足もパンパンだったに違いありませんが、きちんと乗り切ってくれました。改めて、若さってすごいなと…。ダンクシュートだけはワイヤーでつっていますが、それ以外はすべて彼ら自身のプレー。だから、うそがありません。その努力が生きるように、細部にもこだわっています。
-この作品を経験して成長した俳優の皆さんにも注目ですね。
 準備期間を含めてクランクアップまで4カ月ぐらいですが、その間にも彼らはどんどん成長しています。杉野くんなんかは本来、穏やかな性格ですが、竜二は熱血漢でテンションも高い真逆のキャラクター。大変だったと思いますが、きちんと演じてくれました。これでまた一歩成長したと思うので、今後が楽しみです。
-最後に観客にメッセージを。
 若いキャストのみんなが頑張ってくれたおかげで、とても気持ちのいい映画になりました。「見てよかった。楽しかった」と思ってもらえたらうれしいです。「明日から頑張ろう」という元気をもらえる映画でもあると思うので、「私も!」、「俺も!」、「40を越えたオジサンも!(笑)」と、みんなでこの映画を見て元気になってください。
(取材・文・写真/井上健一)

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