ポルノグラフィティ「フラワー」、命の美しさを花に例えた歌詞が秀逸

ポルノグラフィティ「フラワー」、命の美しさを花に例えた歌詞が秀逸

ポルノグラフィティ「フラワー」、命
の美しさを花に例えた歌詞が秀逸

花のように儚くも強い命

ここでは、人知れず咲いた花の寂しさと美しさを歌っています。なぜ咲いたのか、花自身も知らず、誰もいない荒野でもたった一輪で咲き続ける様は、凜とした美しさがあります。

大泉洋さん演じる鹿野靖明は筋ジストロフィーによって体を動かすことがほとんどできず、人の助けなくしては生きていけません。
なぜ、こんな体に生まれたのか?生きていくことが困難な荒野に放り出された命という意味では、歌に登場する花とよく似ています。
一人では体を動かせず、社会的には弱者に当たるはずの鹿野靖明は、どんな荒波にも負けず、吹きすさぶ風にもめげることなく、強く生きています。
普通なら簡単に枯れてしまいそうな環境でも、必至に対応して生き抜いていく姿。その姿が、周りに勇気や感動、時に笑いを与えた鹿野靖明の姿と重なります。

それにもかかわらずワガママ放題で周りの人たちを困らせ、時に笑わせる魅力的な人物でもあります。

美しい生き様

一人では生きていけないのに、そこにいるだけで美しい。どんな環境でも生き抜く花は、その可憐な見た目に反して、とてもたくましく、見るものに勇気すら与えます。
すぐに折れてしまいそうな弱さ、それでも決して折れない強さ。そんな二面性を持つ姿が人を惹きつけるのです。
人に支えられて生きているのにワガママを言い、周りを困らせる。それでもなぜか、見捨てることができない人。
関わっている人は苦労が絶えないでしょうが、とても魅力的な人なのだと分かります。

なぜ、そんな姿が美しいのか?それは、人から愛されようとか、哀れんで欲しいとか思っていないからです。ただ、生きている。ただ、鹿野靖明という人生を生きているからこそ、誰よりも輝くことができるのです。
本当は不安で、自分の運命を呪うことだってあったはず。しかしそんな姿を決して見せず、明るく、人生を謳歌する姿が人に勇気を与えるのです。

限りあるからこそ輝く命

どんなに強がっていても、ワガママを言っても、辛くないわけはありません。どんなに笑っていても、心は笑っていないことだってあります。

それでも、前向きに生き、一瞬一瞬を全力で駆け抜けるからこそ、死を感じながら生きているからこそ、今の命がまばゆく輝くのです。

限りある人生、それを健常者よりも強く感じているからこそ、今を輝かせることができるのです。

人の心に息づく人

死と隣り合わせで生きている、儚い人。それでも鹿野靖明という人は、そこにいなくてもなお、人の心に息づいてしまうほど存在感の強い人だったのでしょう。

誰かが生きた記憶は、確かに今を生きる人の心に息づきます。たとえそこにいなくても感じ合える関係というのは、とても美しく、温かいものです。一人の夜にも、心は満たされている。そんな温かさを感じる歌詞です。

迫り来る命の終わり

花が次の季節に種を落とすように、人間も種を落とします。しかし人間は、死んでしまえばそれっきり。悲しい別れを前に、出会った人の心に思い出や絆という種を残したのでしょう。

冬の気配と散ってゆく花びら。長い眠りというのは不穏な雰囲気を表現しています。
花は、雪の下で春を待ちます。しかし、映画と照らし合わせるならば「閉ざされた世界」というのは、死後の世界でしょう。現世を旅立ち、きっと安らかで幸せそうな最後の顔で、一体どんな夢を見ているのか?
それは残された人が想像することしかできないものです。たとえ命は終わっても、鹿野靖明に触れて、出会った人の心には、何かしらの変化が起きているでしょう。

これまでとは違う世界。鹿野靖明に出会えなければ気づけなかった世界がそこにはあり、その人の人生を明るく照らすのでしょう。
別れは悲しくても、悲しみだけでは終わらない。その先にはきっと幸せな春が待っている、それが、最後に鹿野靖明が残したものなのでしょう。
ただ、咲いているだけで美しかった人。周りを巻き込みながらも、人の心に息づき、笑顔と幸せを届けた人の歌です。

花の強さと命の輝きをリンクさせた名曲
花の強さと儚さ、その先にある美しさを歌いながら、きちんと映画の世界とリンクさせているところが、新藤晴一のすごいところです。
だからこそ、『フラワー』を聴くだけで、映画のワンシーンが蘇り、思わず波が流れたり、心が温かくなったりするのです。

映画との出会いが生んだ、ポルノグラフィティ史上最も温かいミドルバラードの一つと言えるでしょう。
TEXT:岡野ケイ

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