「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
総合的なヒット分析で
松任谷由実の真の名曲を探る

総合8位「卒業写真」の
カバー原曲を聴き分ける方法は?

総合8位には75年の3rdアルバム『COBALT HOUR』収録の「卒業写真」がランクイン。卒業アルバムを聴くたびに、青春の輝きを思い出すというノスタルジックなバラードで、こちらも卒業シーズンの定番曲となっている。もともとはハイ・ファイ・セットのデビュー曲として楽曲提供され、その後、セルフカバーされたユーミンのほうは2番の《柳の下を》の部分のメロディーを変えて歌っている。

本作は、徳永英明、コブクロ、松山千春、浜崎あゆみ、今井美樹、岩崎宏美、いきものがかりなど、ユーミンの楽曲の中でも最もカバーされているのだが、それらのカバーでも多くが2番を変えているので、若い世代も含め多くのリスナーにはこのユーミン版がスタンダードになっているようだ(もちろん山本潤子の澄んだ声でのハイ・ファイ・セット版も素晴らしいのでオススメ)。

「 卒業写真」/荒井由実

このように大ヒットシングルではないのに配信やカラオケで長く愛されるような、いわば“記憶のヒット曲”が多いのがユーミンの特長だ。こうした現象はアルバムやLIVEなどを通して、その世界観全体が支持されているユーミンならではだろう。

アルバムヒットに拍車をかけた
「守ってあげたい」と
「あの日にかえりたい」

とはいえ、総合5位の「守ってあげたい」と同6位の「あの日にかえりたい」というレコード時代の2大シングルにも触れておかねばならない。

「守ってあげたい」の方は81年のシングル17作目。薬師丸ひろ子主演、大林宣彦監督による映画『ねらわれた学園』の主題歌に起用され、薬師丸主演という話題性や大規模なプロモーションも一因となって、映画・主題歌ともに大ヒットとなった。また、誰かから守られる女性という、受動的なものがそれまで多かったのに対し、“守ってあげたい”という能動的なラブソングであったことも、女性の活躍が目覚ましくなりつつあった時代に大いに受け入れられ、29週にもわたってTOP100入りするほどのロングヒットとなった要因だろう。その後も、ミノルタ、三菱自動車など時代を超えてタイアップに起用されている。また、冒頭に書いたように本作を収録したアルバム『昨晩お会いしましょう』から、ユーミンのアルバムメガヒット時代の幕開けとなる。

「守ってあげたい」/松任谷由実

そして、「あの日にかえりたい」は75年に荒井由実名義で発売されたシングル6作目。山本潤子による透明感のあるコーラスで始まるイントロが印象的で、イントロクイズでもよく出題されるほど。ちなみに、コーラスは山本潤子が担当し、彼女が当時所属していたハイ・ファイ・セットにも「卒業写真」や「冷たい雨」など何作かの提供をしており、この「あの日にかえりたい」に使われるはずだったという当初の歌詞に別のメロディーを合わせた楽曲「スカイレストラン」も提供している。

当初はドラマ『家庭の秘密』主題歌(TBS)に起用されたが、ドラマの放送時期は75年8月~11月に対し、本作がオリコンTOP10入りしたのは75年11月末~76年2月なので、これはドラマタイアップがアーティストパワーを超えてセールスに影響した90年代とは異なり、楽曲自身の魅力が主体となったヒットと言えそうだ。

「あの日にかえりたい」/荒井由実

OKMusic編集部

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