クラシック音楽界に旋風を巻き起こす
~次世代の新レーベル“Opus One”か
ら若手実力派5人がデビュー、コンサ
ートも開催

国内のクラシック音楽レーベルとしては老舗でありながら、クラシック界のニュージェネレーションであるピアニスト反田恭平やクラシックサクソフォニスト上野耕平を送り出してきた日本コロムビアが満を持して、クラシックのニューレーベルを始動する。
そのレーベル名は、“Opus One(オーパスワン)”。“作品番号1”を意味し、「ここから船出」というフレッシュな気持ちがこめられている。2019年1月23日に5人の新人、笹沼 樹(Vc)、石上真由子(Vn)、鈴木玲奈(S)、古海行子(Pf)、秋田勇魚(G)のデビューアルバムを発売する。日本コロムビアのクラシック担当のディレクターたちが、経歴やコンクール歴とらわれず自分の目と耳で、人の心を動かすアーティストとして選んだ若き異才たちだ。彼らはファーストアルバムを引っ提げて、2019年1月25日(金)にHakuju Hallにて、デビューコンサートを開催することも決まっている。
今回は、5人のうち、チェロの笹沼、ピアノの古海、 ギターの秋田に、新アルバムの聴きどころやデビューコンサートへの意気込みを聞いた。
(左から)秋田勇魚、古海行子、笹沼 樹

--ニューレーベルOpus Oneからみなさん別々の楽器で同時にデビューされます。まずはみなさんがそれぞれの楽器を始めたきっかけと今に至るまでの来歴を教えていただけますか。まずは笹沼さんから。
笹沼 7歳のときにチェロの存在を知って、9歳から練習を始めました。当時は学習院の初等科に通っていて、オーケストラ部に入り演奏をしていました。
学習院は初等科のオケからOBで編成されるオケまで、いくつもオーケストラがあるのですが、僕もいろんなオケに所属しながらチェロと触れ合ってきました。いろいろな師匠とも出会う中でチェロへの思いは増していき、高校は桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)に入り、そのまま桐朋学園大学に進みました。いわゆる音大でチェロに向かい合ったんですけど、でも自分としては、音楽の世界だけにまとまってしまうことにちょっと違和感を感じてしまって。それで元々在籍した学習院大学のドイツ語圏文化学科に再度入学しました。現在は桐朋学園大学大学院に籍を置きながら音楽活動をしています。
--プロになるまでの間に影響を受けたものはありますか。
笹沼 チェロを始めたころから、気づいたら音楽をやっている人と触れ合っている環境でした。学習院のオーケストラ部もそうですし、昔所属していたチェロのアンサンブルなんかだと、まだ若い僕とともに、すでにチェリストとして活躍している大人が混じっていて。そんな人たちの背中をみて育ったので、昔から音楽家への憧れを持っていました。
笹沼 樹
--古海さん、秋田さんにも同じ質問をさせてください。
古海 わたしはピアノを6歳から始めて、習い事のひとつとして始めました。その後、中学生から昭和音楽大学付属のピアノアートアカデミーという大学の付属機関に入り、高校時代はアカデミーでレッスンを受けつつ普通科の高校に通っていました。現在は昭和音楽大学の3年生に在籍しています。
小さい頃からピアニストになりたかったというわけではなく、習い事の延長線上で続けていたのですが、今師事している江口文子先生に中学生のときに出会って、全ての価値観・意識が変わりました。音楽の奥深さを深く知り、一生突き詰めていきたいと思いました。それがいまの「演奏し続けていきたい」という気持ちにつながっているので、先生の影響が一番大きいですね。
古海行子
秋田 6歳からクラシックギターを習い事として始めました。
僕の祖父がギブソンのギターでジャズを演奏するのが趣味で、その自慢のギブソンを誰に託すか、という話になった時に、初孫の勇魚に託すかという話になったそうです。クラシックギターだったらすべての基礎ですし、結果中高生になってロックやジャズにはまっても応用きくので、とりあえずやらせてみようと思ったようです。僕はと言えば、まだ幼いみぎりだったので、なんかやらされている感もありましたが(笑)。
最初に習ったのは、ギタリストの村治佳織さんのお父様が教えていた教室でした。そこはギターで高度な英才教育を施す教室だったので、僕の周りの生徒の意識がものすごく高くて……。やらされている感の僕からすると、なかなかついていくのが大変だったのを覚えています。でも、小学校高学年の時にコンクールに出始めたころから、たまたま賞をいただくようになり、そこから、人前で演奏することが楽しくなっていきました。人に聴いてもらうことの楽しさ、難しさ。もっと工夫してよい演奏がしたい。そんなモチベーションが生まれていきました。
僕は音大にはあえて進まず、高校は普通校ですし、大学も普通の大学を選びました。学校では音楽をやることはほとんどなかったのですが、ギターは毎日自分で演奏していました。大学では芸術哲学を勉強するゼミで、音楽に限らず文学や映画、絵画などいろいろなジャンルの芸術の分析をしていました。僕にとってはこれが大きかった。クラシックギターの閉じた世界だけではなく、他のジャンルと垣根を越えた思考でこのクラシックギターの魅力を多くの人に伝えたいと強く思えました。
秋田勇魚
--CDの中身について少し詳しくお話しを聞きたいのですが、デビューアルバムの選曲にあたって考えたことやお気に入りの曲について教えてください。
笹沼 やはり僕にとって最初のアルバムになりますから、すべて思い入れが詰まりまくっていますし、お気に入りといったらすべてお気に入りなんですけど(笑)、選んで!と言われたら、なんといってもカサドの「親愛の言葉」です。
日本語では愛の言葉と訳したりもするのですが、もともとの意味は口説き文句という意味だとか。カサドの楽譜には「わがもっとも親愛なるカザルス先生へ」と書かれているので、「愛」や「親愛」の言葉は人それぞれ思いを巡らせていただければと思います。この曲は、高校生の頃からチェリストの堤剛先生の元で学んで、これまでいろんな機会で演奏してきた曲で、堤先生からインスパイアされたものを僕なりに一番表現できる曲でもあり、先生への思いが詰まった曲です。
二つ目は、カザルスの「鳥の歌」で、自分の中でターニングポイントになるタイミングで弾いてきた曲です。高校生のときに初めてソロで開催したリサイタルでアンコールに弾いた曲です。これまで大切に弾いてきた曲で、本当はピアノとやる曲なのですが、自分でアレンジして無伴奏で弾いてみたりもしました。昨年、学習院でのリサイタルで、アンコール曲として無伴奏で演奏したのですが、天皇皇后両陛下もいらして聴いてくださいました。
三つ目は、サン=サーンスの歌曲「あなたの声に私の心は開く」〜《サムソンとデリラ》です。聴いたときにビビッと鳥肌が立って、ぜひチェロでやってみたいと。チェロは人間の声に一番近い音域の楽器と言われますが、そのヒューマンなサウンドで、歌心をどこまで表出できるか。ぜひきいていただきたいです。
笹沼 樹
古海 わたしのCDは、シューマンのピアノ・ソナタ第3番がメインになっているのですが、これは迷いなく決まった曲です。曲に取り組むにあたって、その書簡や本を読んだり、当時の状況を調べていくうちに、曲の中からシューマンという人間の生々しい存在を感じるようになりました。これ、私にとっては初めての経験で……。
それまでは、曲の背景に一人の人間がいて命を削って作品を書いたということを、頭では理解していました。でも、いまひとつ実感が伴っていなかったんです。シューマンのこの曲は、作品の裏にある作曲家という人間の生の息吹を感じることができるようになったきっかけの曲です。国も性別も生きている時代も違う、言葉も通じない人の感情が長い時を経て、楽譜や音から伝わってくることにとても感銘を受けたんです。演奏するたびに、シューマンが曲の行間に込めた感情が音を通じて浮かび上がってくるのです。
古海行子
秋田 まずはアルバムのタイトルにもなっているセルジオ・アサドの「アクアレル」ですね。ものすごく言い方がバカっぽいですが、一言でいうと「かっこいい」に尽きる。リスナーにとってもグッとくるクールなポイント満載ですし、演奏技術的にも、和声の進行具合もギターのギターによるギターのための曲って言い切れるくらい最高なんです。実はめちゃくちゃ難曲なんですけど、自分にとっての初めてのCDの名刺代わりに、これほどふさわしい曲はないんじゃないかと思って、録音させてもらいました。
もう一曲あげるとすると、ヴェルディのオペラ「椿姫」の主題による幻想曲。実を言うとこの曲はもともと苦手でして……。この編曲版、ことあるごとにコンクールとかで聴いていたのですが、なんというか、ぜんぜん魅力的に思えなくて。でも海外で、ある時に、とあるギタリストがこの曲からエレガントで上品で、かつ喜怒哀楽の情をギター1本で弾ききっているのを目の当たりにして、ひどく感動し、考えが一変しました。あのような世界観を自分も表現してみたいと思い、今回取り組んでみました。
秋田勇魚
--初めてのCDを録音していかがでしたか。感想を聞かせてください
笹沼 なんといっても初めての録音ですので、ものすごく貴重な経験でした。コンサートでは、目の前のお客さんたちの気持ちや反応を空気感でとらえながら演奏する呼応関係があるのですが、当然ながらレコーディングはそのお客さんがいないわけで。CDの録音では、モードをかえて、CDの再生ボタンを押したときにどういう自分を聴いてほしいか、という意識で弾いてました。余談ですが、これまでも、自分の演奏の録音って、ほとんど聴いたことがなくて。今回レコーディングの最初の方で、自分の演奏の音を聴いたら、鼻息がものすごいボリュームで入っていて、びっくりしました(笑)それを踏まえて、以降は鼻息をおさえて演奏しましたが。
古海 こんなに楽しいとは思いませんでした。ホールの音響もピアノの状態も最高で、大好きな曲と深く向き合うことができました。一方で、なにぶん初めての経験なので、普段のコンサートと大きなギャップがあるので、難しさも感じました。いい経験となりました。
秋田 コンサートの演奏時間とは違い、録音の場合は長時間深い集中力が必要になります。1曲目は自分のテンションの持っていきかたが難しかったです。自分のコンディションの作り方というか、集中力の分散のさせ方はこれからもっと経験を積んでいきたいです。
--1月25日に開催されるCD発売記念コンサート「Opus One Concert 2019」について。この編成でコンサートが開かれることはめずらしいと思うのですが、5人が揃う場ならではのアンサンブルの企画があれば教えてください。
笹沼 いままではバラバラの活動をしてきた5人ですが、このレーベルの始動を機に、つながりができて、会うたびに、フィーリングが合うことを感じています。世代も思考も、同一ではないけど、同じ領域にいるような気がします。1月25日のコンサートでは、そのフィーリングの合っている感じをうまくアンサンブルで出せたらと思います。
秋田 笹沼君とは、ピアソラとかやりたいよね。
古海 私、もともとアンサンブルが大好きなので、ぜひいろいろやってみたいです!
--最後にSPICE読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
秋田 湯山玲子さんのビジュアルディレクションの元、クラシックの新しい見せ方の一つとしてトライしたCDジャケット。そして1月25日のコンサートでは生のクラシックギターを是非聴きにきてください!
古海 このような企画で他の楽器の方々と一緒にCDを出せることを嬉しく思っています。ひとつのコンサートで様々な楽器、様々な個性を持った演奏家がソロに加えてアンサンブルも演奏するということで、私自身もコンサートをとても楽しみにしています!
笹沼 チェロの魅力を存分に伝えるだけではなく、チェロを使ってどういう可能性があるか、チェロだけに限らず音楽の可能性を探っていく場だと思うので、ぜひCD・コンサートで新しい音楽の可能性を見つけてほしいです。
取材・文=田尻有賀里  写真撮影=山本れお

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