【アレサ・フランクリン】アメリカに「リスペクト」されたその魅力

【アレサ・フランクリン】アメリカに「リスペクト」されたその魅力

【アレサ・フランクリン】アメリカに
「リスペクト」されたその魅力

そんな彼女の魅力をよく伝える一曲が「リスペクト」(1967年)だ。
この曲はビルボードR&Bチャート及び総合チャートで一位を記録し、アレサに最初の成功をもたらした。
「リスペクト」は、同時代の人気黒人男性シンガー、オーティス・レディングの同名曲がオリジナルである。
オリジナル「リスペクト」は、オーティスらしい人情味溢れる男性目線で歌われたが、それを巧みに女性目線に翻案したのがアレサヴァージョンであった。
その改変によって、オーティスヴァージョンつまり男性側の意見に対する、女性側からの反対答弁のようになっているのがアレサヴァージョンの面白い点だ。
両ヴァージョンの同部分を比較してみてみよう。
Aretha Franklin「Respect」
これをアレサはこう改変した。
「自分に見えないところなら悪さしたっていい」という男性側の言い分(この”優しさ”がオーティスの魅力であるかも知れないが)は、見方次第では女性を信用していないともいえる。
だからアレサはそんな考えに至る思考を批判し、そこに足りない敬意を要求するのである。
わずかな改変で、その立場なりの思いを鮮明に逆転させた手法は見事という他ない。
その上アレサの責め立てるような圧巻の歌唱が、曲のイメージを女性側からの断固たる抗議へと変貌させている。
背景にあったのは黒人女性の社会的地位
この曲がヒットした60年代後半当時、アレサのような「黒人かつ女性」という立場はアメリカにおいて相当に弱いものであった。
黒人差別はまだまだ是正されず、一方で女性は男性に従うものという固定概念も根強く残っていた。
黒人公民権運動やウーマンリブ運動が当時隆盛を極めたのも、そんな時代の反動であった。
アレサ・フランクリンの「リスペクト」は、そうした反動を象徴するかのような、強い黒人女性像を思わせる。
アレサ自身の転機にもなった楽曲
そんな時代の歩みと同調するかのように、「リスペクト」発表までのアレサは不遇の時を過ごしていた。
彼女はデビュー以来、持ち味であるゴスペルフィーリングを十分に発揮できないでいた。
さらには、マネジャーでもあった夫にひどい虐待を受けていたことが知られている。
そんな彼女のブレイクスルーである「リスペクト」は、黒人女性として体験した差別と偏見、そして封じられてきたゴスペルフィーリングを爆発的に開放させたものであった。
アレサはそこで時代の要請という好機を逃すことなく、象徴的なキャラクターを見事に演じ上げたのだった。
そして”〈少しの敬意〉を持てば好転するのよ”というメッセージは、その真に迫る表現によって、シリアスな時代に明るく響いたのである。
そのキャラクターのインパクトを映像化したのが、のちの映画『ブルースブラザーズ』(1980年)だ。
歌ったのは「シンク」だったが、アレサ自身が演じる肝っ玉母さんはほとんどこの「リスペクト」の主人公そのもの。
ちなみにその続編『ブルースブラザーズ2000』でアレサは同じ役柄で「リスペクト」を歌っている。
アメリカ国民からのリスペクトの対象に
さて、アレサ版「リスペクト」は中盤辺りから、メロディ、歌詞、構成に至るまでいよいよオリジナルから逸脱していく。
最後まで聴けば、完全にアレサオリジナルの楽曲という認識に変わるはずだ。
特にインパクト抜群のフレーズ〈R‐E‐S‐P‐E‐C‐T , find out what it means to me〉を含む終盤の盛り上がりは、アレサの比類なきゴスペルフィーリングを発揮した最高のクライマックスとして再構成されている。
ここではオーティスが好んで用いたフレーズ〈sock it to me〉をあえてコーラスに歌わせて、それをアレサの歌唱が飲み込む形になっているのが面白い。
「リスペクト」で示したアレサの偉大なオリジナリティは、その後も生涯のパフォーマンスを通じてアメリカ国民からの”リスペクト”を集め続けた。
ホット100には77曲を送り込み、グラミー賞は20回受賞、さらには2005年には大統領自由勲章をもらっている。
TEXT:quenjiro

UtaTen

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