ヴァイオリニスト北川千紗が届けたド
ラマ性に富んだ音楽世界

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.12.9ライブレポート
クラッシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう!小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK!そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。12月9日に登場したのは、ヴァイオリニストの北川千紗だ。
現在4年生として東京藝術大学在学中の北川千紗は、2018年第1回国際ヴィクトル・トレチャコフヴァイオリンコンクール(ロシア)第2位。シンガポール国際ヴァイオリンコンクール第2位、併せて聴衆賞を受賞をするなど、国内外の期待を集めている気鋭のヴァイオリニスト。これまでにシベリア州国立管弦楽団、シンガポール交響楽団、リストアカデミー弦楽合奏団、東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニックオーケストラ、日本センチュリー交響楽団など国内外の数々のオーケストラと共演を重ねる他、ウィーン、シンガポールでの国際音楽祭、ラ・フォル・ジュルネTOKYOなどへの出演、更にロシア、中国、イタリア、フランス、ポーランド、ハンガリー等の演奏活動を展開している。
また、共に演奏するピアニストの日下知奈は、東京藝術大学大学院修了後、ケルン音楽大学に留学し、ケルンショパンコンクールなど数々のコンクールで入賞。ケルン音大をピアノ・室内楽ともに首席で卒業し、第3回東京音楽コンクール第3位、2007年バロックザール賞受賞、2009年摂津音楽祭伴奏者賞等、更に受賞歴を重ね、2015-2017年ベートーヴェンヴァイオリンソナタを核とする室内楽シリーズ等の演奏活動と共に、後進の指導にもあたっている。
この日のプログラムは、クライスラーの「シンコペーション」からスタート。強拍と弱拍の正常なリズムをずらし、本来弱拍のところに強いアクセントを置いて動きを出すことの音楽用語であるシンコペーションをタイトルに持つ楽曲を、北川が弾むような明るさで弾き始め、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGは一気に陽気な雰囲気に包まれる。日下のピアノのリズムとも見事に呼応して、美しいメロディーが際立った。
間をおかずに続けて演奏された2曲目はイザイの「子供の夢」。一転して切々としたメロディーを歌うヴァイオリンの音色が響き渡る。ピアノも出過ぎず、引き過ぎず絶妙に音楽に添い、高音の研ぎ澄まされた音色と、弱音でも途切れない緊張感が、精緻な音楽世界を創り出す。ピアノと共に息を合わせて音楽が長い余韻を残して消えていった時には、思わず感嘆のため息が広がった。
ここで北川が改めて自己紹介。ピアニストの日下も紹介しての3曲目はイザイの「悲劇的な詩」。ヴァイオリンの調弦を変えて演奏されるという珍しい楽曲で「ビオラのような趣も感じられるので、ドラマティックで壮大なものが見える悲劇と重ねて楽しんで欲しい」という北川の説明通り、すすり泣きや諦観ではなく、激しい嘆きを感じさせる世界観が広がる。テクニックと共に調弦を変えたことによってより深くなった低音の魅力も殊更印象的。想いをこめた間奏があって、低音でのメロディーがもの悲しく、高音に移ると更に訴えかける悲劇性が強まる。重音がたたみかける迫力を加え、ピアノも呼応しタイトル通りの詠嘆と悲しみを感じさせる様がまるでドラマのよう。高みに消えていくラストが昇天を思わせて、陰影に溢れる演奏になった。
北川千紗(Vn.)、北川千紗(ピアノ)
大きな拍手が湧き起こる中、ラストはポンセの「エストレリータ」。小さな星を意味する耳馴染みの良い美しいメロディーに、隠された悲しみも感じられるのが興味深い。よく知られた曲だからこそ北川の豊かな表現力と美しい音色が芯の強さを持って響き、曲に新しい命が生まれる様が素晴らしかった。
北川の目指す音楽世界が贅沢に伝わる30分間だった。
演奏を終えたお二人にお話を伺った。
ーー今日の演奏で感じられたeplus LIVING ROOM CAFE & DININGの雰囲気や、手応えはいかがでしたか?
北川:食事をしながら、歓談しながら聴いていただくコンサートはなかなかないので、皆様優雅に飲みながらもとても真剣に聴いてくださっているのが近くに感じられて、すごく良いコンサートだったなと思いました。
日下:会場の雰囲気もとても素敵でしたし、お食事をしながらと言うことだったので、音が気になるのかな?と思っていたのですが、全くそんなことはなくとても弾きやすかったです。
ーー特に演奏が始まってからは、皆様とても集中していらっしゃるのが感じられましたね。その中で本日の選曲にはどんな工夫を?
北川:敢えて「メインの曲です」とはお伝えしていなかったのですが、自分としてはメインをイザイの「悲劇的な詩」と考えていました。私はとにかくあの曲が大好きで、イザイ曲集のCDでたまたま巡り合った時、一目惚れというほどの衝撃を受けたんです。実際に演奏するようになったのは1年前くらいからですが、調弦を変える必要があることもあって、日本ではあまり弾かれていないんです。ですから多くの方に聴いていただきたいと思って、まず「悲劇的な詩」を真ん中に置いて、では前後に何を弾くのが良いのか、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGの雰囲気も考えながら、選曲して行きました。
ーー日下さんはご一緒に演奏されていてどんな印象を?
日下:例えばクライスラーでも「愛の喜び」や「愛の悲しみ」といったポピュラーなものという考え方もあると思うのですが、そこを敢えて「シンコペーション」を持ってきていたりもしていて、飲みながら、食べながらというサンデー・ブランチ・クラシックの演奏としてはとても良い選曲だったのではないかと思います。
ーー演奏していて感じるお互いの魅力はいかがですか?
北川:私から語るなんておこがましいのですけれど、私は結構自由に弾くタイプなのですが、それにしっかり合わせてくださるし、それでいて大切に綺麗に歌ってくださるので、いつも本当にお世話になっています。私の中にはないアイディアを弾いていて感じることがあって「なるほど!」と毎回勉強になりますし、私の創りたい音楽を、共に創り上げてくださり、作品として美しいものに仕上がるのでいつもありがたいなと思っています。
日下:彼女は技術も大変しっかりしていて、自分の表現したいことに技術が裏打ちされているので「こうしたい」という意志がよくわかりますから、一緒に音楽を創るのがとても心地よいです。
ーー素敵なコンビネーションを築かれているのですね。そんなお二人ですが、それぞれ演奏家としての今後のビジョンや夢などは?
北川:単独でコンサートを開催していくことが増えていくと思うのですが、たくさんの方が演奏する中の1人ではなくて、私の演奏を聴きにきてくださるお客様に、私らしさを追求しつつコンサートとしても楽しんでいただけるように、選曲にストーリー性を持たせたり、トークを充実させたり、プログラム自体に興味を持っていただけるコンサートをしていきたいという夢があるので、そこに向かって頑張っていきたいです。
日下:私は室内楽系を中心に活動していて、教えることもしているのですが、それらの活動のすべてが経験になっていて、どれも欠くことができないものになっています。その中で敢えて言うのならば、もう少し自分のソロの演奏会も増やしていきたいなと思っています。
ーーお二人のご活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。
(左から)日下知奈、北川千紗
取材・文・撮影=橘涼香

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