竹内まりやが
アルバムアーティストとしての
ポジションを確立した
『LOVE SONGS』

松本隆の手腕も光るラブソング

アルバムタイトルが“LOVE SONGS”というだけあって、歌詞はラブソングばかり。今聴いても興味深いのは、やはり松本隆作品だ。

《からし色のシャツ追いながら/飛び乗った電車のドア/いけないと知りながら/ふりむけばかくれた》《街は色づいたクレヨンが/涙まで染めて走る/年上の人に逢う約束と知ってて》《セプテンバー そして九月は/セプテンバー さよならの国/ほどけかけてる 愛のむすび目/涙が木の葉になる》(M9「SEPTEMBER」)。

《からし色のシャツ》とか《街は色づいたクレヨンが/涙まで染めて走る》とか色の使い方はさすがに松本隆といった感じだし、《そして九月は/さよならの国》という表現にはプロの仕事を感じるところだ。アルバム収録曲はさらに冒険しているように思える。

《ペルーの大地と藍色の空の 隙間へ飛び立つ遊覧飛行機/神々の眠りを醒まして翼は舞う》《忘れてみせると強気の手紙を あなたに残して 旅して来たけど/言葉に尽くせない心に触れたの強く》《磁気嵐をさまよいながら 私達はいがみあっても/引き寄せ合う磁力線》《磁気嵐をさまよいながら 人の愛は宇宙の神秘/説明など出来ないわ》(M3「磁気嵐」)。

《人影もない入江/そこが二人の秘密の場所で/象牙海岸と名前までつけた/遠い夏》《あれから私時の波間を/ただ流れ木のように/ひとりで生きて来たの》《あなたのあとに愛を知っても/ただ流れ木のように/岸辺で踊っただけ》《三年をへだててあなたから来た電話/懐かしい名前に忘れているふりをした/冷たいと言われたけど/本当の気持ちもし話しても/過ぎ去った時を埋めるものはない/遠い夏… 遠い夏… 遠い夏…》(M4「象牙海岸」)。

《耳元を時の汽車が/音もなく過ぎる/ぼくの想い出の時計は/あの日を差して止まってる》《人気のないホールの/折りたたみ椅子たち/リハーサル前の暗い空気/靴音さえも途切れた休止符》《あの頃のぼくらは/美しく愚かに/愛とか平和を詞(うた)にすれば/それで世界が変わると信じてた》《10年はひと色/街影も夢色/変わらないものがあるとしたら/人を愛する魂(こころ)の 人を愛する魂(こころ)の/人を愛する魂(こころ)の五線紙さ》(M5「五線紙」)。

M3「磁気嵐」は、この話がどこへ流れていくのか分からないままに聴き進めていくと《宇宙の神秘》に辿り着き、M4「象牙海岸」は登場人物の間の何が起こったのか具体的には語られないままに《遠い夏》が回顧される。ともに不思議な余韻を残す内容である。M5「五線紙」では、おそらく竹内まりや自身とは直接関りがないであろう1960年代後半の平和運動も綴っている。また、松本作品ではないがM10「不思議なピーチパイ」も文字通り、不思議だ。

《恋は初めてじゃないけれども/恋はその度ちがうわたしをみせてくれる/不思議な 不思議な ピーチパイ》(M10「不思議なピーチパイ」)。

発売から約40年が経った今、冷静に歌詞だけ見ると、サンドウィッチマンじゃないけど、ちょっと何を言っているのか分からない。サウンド面でバラエティー豊かな作品だと言われる『LOVE SONGS』だが、実は歌詞も相当にバラエティーに富んでいる。その点にもアルバムらしいアルバムと言うことができると思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『LOVE SONGS』1980年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.FLY AWAY
    • 2.さよならの夜明け
    • 3.磁気嵐
    • 4.象牙海岸
    • 5.五線紙
    • 6.LONELY WIND
    • 7.恋の終わりに
    • 8.待っているわ
    • 9.SEPTEMBER
    • 10.不思議なピーチパイ
    • 11.little lullaby
『LOVE SONGS』(’80)/竹内まりや

OKMusic編集部

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