トリコロールケーキ&劇団「地蔵中毒
」合同公演『懺悔室、充実の4LDK』の
出演女優7人が座談会

笑いをやるなら男が有利。一昔前まで(あるいは今も)そう考える傾向はあったし、たしかに男性種類の笑いはある。しかし「不条理な物語の中で、ナンセンスな笑いを扱うなら、男も女もない。時には女の方が得意なのでは?」と思わせてくれるのが、トリコロールケーキと劇団「地蔵中毒」の女優たちだ。
鳥原弓里江主宰のトリコロールケーキ(以下、トリコロ)と、大谷皿屋敷主宰の劇団「地蔵中毒」(以下、地蔵中毒)が、2019年2月2日(土)・3日(日)の2日間、浅草九劇で『懺悔室、充実の4LDK』という合同公演を4回上演する。本作は両劇団にとって、それぞれの本公演として製作されるものであり、脚本・演出は、トリコロの今田健太郎と地蔵中毒の大谷が2人で手掛ける。
開幕を控えた1月上旬、『懺悔室、充実の4LDK』の出演者のうち、女性メンバーのみで座談会を行った。出席したのは鳥原、香西佳耶、後藤のどか、荒威ばる、三葉虫オーディンみどり、フルサワミオ、hocoten(公演には、さらに高澤聡美と、男優陣も出演する)。なお、各出席者の所属やプロフィールはそれぞれの写真のキャプションを参照していただきたい。座談会の話題はお互いの劇団の印象から、過去作品の名台詞、「オモシロと美とどちらを選ぶか」まで多岐に渡った。
両劇団を初めて知る方には両劇団の作風を、すでにファンの方には舞台上とは少し違う彼女たちの表情を垣間見るきっかけとなれば幸いだ。なお座談会は、トリコロの今田、地蔵中毒より大谷、かませけんた、東野良平、そして立川がじらが、2メートルほど離れた場所から見守る中で行われた。
(撮影:安藤光夫)

公演概要
「第11回」であり「vol.9」である
トリコロールケーキと地蔵中毒。
いま、それぞれの本公演となるひとつの物語が始まる。
気をつけろ。これはコラボではない。二本立てでも、リレー形式でもない。
始まりから終わりまでふたつの劇団のすべてが詰まりつつ、
しかしあくまでも「通常公演」だ。
入り乱れる思惑。飛び交う罵声。
押し付け合う責任。絶え間なき楽屋泥棒。
荒涼とした舞台の上で、断末魔と断末魔が世間話を始める――
トリコロールケーキと地蔵中毒
——両劇団を橋渡ししたのは、荒威さんだそうですね。
荒威 2017年7月に地蔵中毒の『継母特製!!ニュルニュル蓋なしタジン鍋』に、そして2018年3月にトリコロールケーキの第10回公演『ヤシの木』に出ました。橋渡しをしたという意識はありませんが、地蔵中毒がこぞって『ヤシの木』を観にきて、その日の夜に地蔵中毒が皆で飲んでいるところにトリコロのメンバーたちと共に合流したんです。
荒威ばる/劇団ジェット花子(主宰:ぐみ沢)  2014年9月「廃病院パーティ」終末落語研究会で、旗揚げ直前の地蔵中毒メンバーを知る。地蔵中毒『継母特製!!ニュルニュル蓋なしタジン鍋』、トリコロールケーキ『ヤシの木』に出演歴あり。(撮影:安藤光夫)
——地蔵中毒の方にお聞きします。『ヤシの木』はいかがでしたか?
みどり 飴玉をもらったのが、うれしかったです。あとは客席が(演じるスペースを囲むように)輪っかになっていて、カラフルなプラネタリウムみたいでした。
hoco 大谷くんが以前からトリコロが好きだと言っていたので、『ヤシの木』を観にいきました。かみしめながら、ニヤニヤ味わう感じの笑い。下ネタもグロいのも無しでこんな面白いことできるんだなと思いました。あとは、衣装がおしゃれ。靴、左右で違っていましたよね?
鳥原 はい、左右でソールの色が違うスニーカーでした。
荒威 それ、私が買いにいきました。緑と黄色の蛍光色のを、私ひとりで出演者全員分!(笑)
——合同公演が決まった時、どんなことを考えましたか?
hoco 『ヤシの木』の台詞に「奥華子」が出てきて、大谷くんがめちゃくちゃ笑っていたんです。
hocoten/地蔵中毒  8歳の頃「ガラスの仮面」を読み演劇に興味を持つ。主催イベント「オルギア視聴覚室」にて行われた地蔵中毒の全員合格オーディションに応募し合格。第5回公演より参加。(撮影:安藤光夫)
——シンガーソングライターの奥華子?
荒威 木をずらす妖怪「木(もく)ずらし」が登場する話で、木ずらしと奥華子を言い間違えるシーンがあって。
hoco 地蔵中毒の台詞にも芸能人の名前がよく出るのですが、「奥華子は思いつかなかった」って。大谷くんがくすぐられるものがあるなら、合同公演は上手くいくだろうと思いました。大谷くんと今田さんが一緒にやると、今度はどんな芸能人の名前が出てくるのか楽しみだなとか。
みどり・フルサワ (うんうん頷く)
三葉虫オーディンみどり/地蔵中毒  大谷皿屋敷が客演した「東京にこにこちゃん」の公演で地蔵中毒の存在を知り制作などを手伝うように。(撮影:安藤光夫)
——トリコロの皆さんは、合同公演と聞いて、どんな感想をもちましたか? 地蔵中毒をご存知でしたか? 
香西 地蔵中毒の手書きのチラシを何度かみかけて、存在は知っていました。鳥原さんは、先に観ていましたよね?
——鳥原さんは、今回「企画」という立場なのですね。トリコロは衣装も含めおしゃれで、見せ方がきれいな劇団と認識していました。地蔵中毒はチラシは手書き、セックスや暴力、内臓系のネタも多いです。合同公演の企画に、迷いや抵抗はありませんでしたか?
荒威 あんな奴らとやるの「やだなー」とか思いました?(笑)
鳥原 2018年1月のテアトロコントで地蔵中毒を見て面白くて。私から「一緒にやりませんか」と言ったので、抵抗はありませんでした。むしろ周りを巻き込んだ感じです。
香西 私も抵抗はありませんでした。その時点で、公演は観たことがありませんでしたが、Twitterに上がっていた今田さんと大谷さんの写真が素敵だったので、きゅんと。
一同 きゅん?
香西 違いますね。何て言うか…。
hoco 信頼できる、とか?
香西 そういうことです!
香西佳耶/トリコロールケーキ  地元劇団での活動を経て上京。友人が出演したトリコロールケーキの(蟹の足をひきちぎりハンドベルをする)公演をみて、その後オーディションに参加。(撮影:安藤光夫)

今田健太郎と大谷皿屋敷、2人が演出
——脚本も演出も、今田さんと大谷さんの連名です。稽古場での、お二人の演出についてお聞かせください。
hoco 今田さんは清潔感がありますね。女性が多い劇団の中でやれるのは、清潔感があるからだと思いました。今田さんの影響もあってか、大谷くんは今までと違い、稽古場でおならをしません。
フルサワ たしかに。普段は、ナチュラルにボフッて。
hoco すぐします。クラップ(はじめの合図)のかわりに、おならしたり。
フルサワ ナチュラルすぎて、もう誰も突っ込まないですね。
みどり (はげしく頷く)
荒威 それ、演出の話ですか?
一同 (笑)
——おなら以外の話題はありますか? フルサワさん、hocotenさん、みどりさんは、初めて今田さんの演出を受けてらっしゃいますね。
フルサワ 今田さんは、稽古場で色々変えたり、足していくのが新鮮です。
香西・後藤・鳥原 へえー。
後藤のどか/The Dusty Walls (休止中)  劇団四季のライオンキングに憧れ、演劇をはじめる。2015年よりトリコロールケーキの公演に出演するようになる。(撮影:安藤光夫)
hoco 今田さんはどんどん変えますね。
フルサワ 大谷さんだと、間とか句読点の位置まで頭の中に正解があって、それを台本にしているような印象です。だから演出の時も台本に忠実。点が抜けると「あれ? そこに、点うってなかったっけ?」って確認するくらいで。でも今田さんは、台本にない台詞でも、稽古で流れをみながら、面白いと思えばその場で言葉を足したり変えたりしますよね。それで本当に面白くなるんです。これが、つかこうへいさんのやってた「口立て」か!って。
フルサワミオ/地蔵中毒  桐朋学園芸術短期大学で演劇を学んだ後、個人で活動。活動休止期間を経て、チラシで知った地蔵中毒第3回公演を観たことをきっかけに、第4回公演より活動再開。(撮影:安藤光夫)
荒威 たしかに大谷さんは、台本に忠実で音にもこだわりがありますね。この音を上げてとか下げてとか。前回、地蔵中毒に出させていただいた時は、それが衝撃的で。こんな芝居に、これほどちゃんと演出をつけてたんだ!って
一同 (笑)
——鳥原さん、香西さん、後藤さんはいかがですか?
後藤 今田さんと大谷さんは、演出でおさえるポイントが似ていると思いました。「台詞に気持ちを入れて」とかではなく、今お話されていたとおり、聞こえてくる音程というか音で演出をつけている感じ。
香西 そこ、似てますね。違うところもありますよね。テンポとか句読点までの長さは、今田さんと大谷さんで結構違う。今田さんの方が短いかな。
鳥原 台詞の行数も違いますね。今田さんは自分の台詞は長く書くのですが、他の出演者の台詞はわりと短め(一同、笑)。1人で3~4行喋ったりすると「こんなに長く喋ってるの久々」って思います。
鳥原弓里江/トリコロールケーキ(主宰)  筑波大学在学中、声優に憧れを抱くも「棒読みなので無理」との判断から演劇サークルへ。大学卒業、就職後の2010年、トリコロールケーキ旗揚げ。(撮影:安藤光夫)

男性出演者から質問を集めました
——ここからは、事前に、男性出演者の皆さんよりお預かりした質問で進めます。さっそく一問目。「夏の稽古場にはよくアイスアイスキャンディーをもっていきます。冬のおやつは何がいいですか?」かませけんたさんからです。
香西 いちご大福。
鳥原 シュークリーム。
荒威 おせんべい。
後藤 メルティーキッス。
みどり 鈴カステラ。
フルサワ いちご。
hoco 芋けんぴ。
——「好きな女優さん、憧れる役者さんはいますか?」こちらも、かませさんからです。
hoco マリリンモンロー。
みどり 池脇千鶴です。
フルサワ バラモン兄弟(プロレスラー)が大好きです。キャラクターの作り方とか見せ方とか、本当に憧れます。
後藤 もたいまさこさん。
香西 あ、私もです! もたいまさこさんです。
荒威 私はミラクルひかるさん。おもしろくて、歌もうまくて、器用で。
鳥原 私は道重さゆみさんです。道重さゆみさんがすごく好きです。ハロープロジェクトが好きで、ハロープロジェクトがとても好きなので、道重さゆみさんが一番好……。
——ありがとうございます、よく分かりました。次は、武内慧さんからの質問です。「この座組の中で異性として好きな人、または好きになりそうな人はいますか?」
(一同、口々に「は?」「何それ」「聞いてどうするの?」「次」)
(撮影:安藤光夫)

魔法使いから、美かオモシロかまで
——「女の子は誰でも魔法使いに向いているとのことですが、もし僕に魔法をかけて頂けるとしたら、一体どんな魔法を?」 立川がじらさんからです。
hoco 私が寝れない時に、寝れるまで出張落語をさせる魔法。
荒威 枕元にくるの?
フルサワ え、それちょっと……(笑)。
hoco 脳内に直接語りかけてくるやつでもいい。
みどり 私はがじらさんの腕を伸ばしたい。ゴムゴムの実みたいな。それで落語をしてるのがみたい。
一同 (笑)
後藤 がじらさんが、くるくる回る魔法。
(見学中のがじら、オフィスチェアに座ったまま回転しはじめ、一同爆笑)
鳥原 がじらさんの家の窓が直る魔法。1階なのに窓が壊れてるらしいんです。
荒威 終電で帰れる魔法。
hoco がじらさん、すぐ終電逃すから。
(がじら、深く頷く)
(撮影:安藤光夫)
——「一生キレイと言われない代わりに絶対的な面白さを手に入れるのと、一生面白くならない代わりに絶対的な美しさを手に入れるの、どちらがいいですか?」今回は出演されない、地蔵中毒の関口オーディンまさおさんからです。
荒威 面白いって言われたい!(即答)
鳥原 美しい、がいいです。
後藤 絶対オモシロで。
みどり 美しいで。
フルサワ 私はオモシロ。
hoco 絶対的美しさか絶対的面白さか……。
フルサワ オモシロだと、顔も面白く変わっちゃうよ? きっと。
hoco 美で。美が好きです。
香西 私も、美で。
(撮影:安藤光夫)

練馬インターチェンジからラウンドワンまで
——「過去の公演で、印象に残っている役とその台詞を教えてください」コンプソンズの大宮二郎さんからです。
hoco ヒガシノ(東野良平の役名)の家に地下通路を造っちゃう風俗嬢役。印象に残ってる台詞は、ボイパで「野村克也」。
フルサワ 若い男の子に口淫するおばあさんの役。脱がす時に、下に履いてきてくれていた肌色のパンツごと脱がしちゃって、目の前に武内くんのおちんちんがぽろんと。台詞ではないけれど、印象的でした。
みどり 私はテアトロコントに出た時の台詞、「練馬インターチェンジ!」。自分の中で初めて、あんなに大きい声を出したので印象に残ってます。
後藤 私は、はじめてトリコロに出た時の、おばあちゃんの役が印象的でした。落ち込んでいる人の肩を掴んで、慰める台詞で「ウィー・アー・ザ・ワールド」。ちゃんと慰める気持ちを込めて「ウィー・アー・ザ・ワールド」って。
荒威 地蔵中毒では、大勢の強姦魔から逃げ惑う女寿司職人をやりました。逃げまわりながら寿司握りながらボコボコにされてそれこそレイプとかされるのですが、「セイッ」って言うと、強姦魔たちが左右に飛ぶんです。その「セイッ」と、「ボコボコにされても寿司は握れるんだぜ」の台詞が忘れられません。
(「それ、トラウマ的な……」とざわつく中、見学していた大谷、爆笑。)
鳥原 私は、トリコロでやった、人から「ラウンドワンだよ」と言われる中学生の役です。なるかならないか思い悩んだ末、ラウンドワンになります。台詞は「決めたよ。私ラウンドワンになる」。観にきてくれたナカゴーの鎌田さんが、「ラウンドワンだったよ」とメールをくださって、「良かった、ラウンドワンだったんだ」と思った記憶があります。
香西 鳥原さんと同じ役を再演でやったので、私も「決めたよ、私ラウンドワンになる」は印象に残ってます。先ほど話に出た木ずらし。高い声で「ズラシ、ズラシ、モクズラシ」といって、ちょっとだけヤシの木をずらす役も。
——「こんな共演者は嫌だ。どんな共演者?」礒村夬さんからです。
荒威 目が3つある、とか嫌ですよね? あれ? そういうこと?
hoco センスがないやつは嫌です。
一同 厳しい!(笑)
フルサワ 私は喋る時に口角に泡がたまる人。
荒威 それ、一生懸命喋ってる証拠ですよ?(笑)
フルサワ でも嫌。ずっと泡を見ちゃうから。
(撮影:安藤光夫)
——「稽古を見てきて、この人すごいなと思う役者はいますか?」これは、東野良平さんからです。
フルサワ 「東野さん」って言われたいのかな。
hoco じゃあ東野さんで。
一同 (口々に)東野さんで。
(見学中の東野、「ちがうちがうちがう!」の素振りをするも、一同、口々に「声もいいし」「動きがしなやかだし」「器用で」「稽古に対する姿勢も」「モチベーションも高いし」など)
——では……
一同 東野さんで。
(東野、頭を抱え「まじか……」)
——今日はありがとうございました! 最後に『懺悔室、充実の4LDK』をどんな方に観にきてほしいかお聞かせください。
香西 優しい人に。
後藤 見たことない人に。
荒威 たくさんの人に知って観にきてほしいので、友だち100人いる人に。
鳥原 退屈してる人に来てほしいです。他であまり見られない作品が見られると思います。
フルサワ バラモン兄弟に。あとはうちの猫に、お母さんのがんばる姿を。あと別れた旦那に。お前の浮気のせいでこんなことになってるんだぞという姿を(笑)。
みどり 5歳くらいの小さい子に。
hoco 5歳なら、わかんないもんね。私はガラスの仮面が好きな人。あとはお金持ちの人。よろしくお願いします。
(左から)後藤のどか、三葉虫オーディンみどり、香西佳耶、フルサワミオ、荒威ばる、hocoten、鳥原弓里江 (撮影:塚田史香)
取材・文:塚田史香

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