【公演レポート】『Living Room MUS
ICAL』《ルナティック狂詩曲 月と星
と花にいた人びと》~ダンスの魅力も
たっぷりと~

日曜日の昼下がりのクラシックコンサートとして定着している『サンデー・ブランチ・クラシック』をはじめ、ライブを堪能しながら食事やお酒を楽しめる様々な企画を発信している、eplus Living Room CAFE&DINING。渋谷道玄坂をほんの少し上がった渋谷プライム5階のエレベータを降りると、常に活気に溢れた渋谷にこんなにオシャレで大人の雰囲気の、まるで邸宅のリビングのような空間が!と驚くこのカフェに、劇場を飛び出したミュージカルスターたちが集って、珠玉のミュージカルナンバーを歌い踊るショータイム『Living Room MUSICAL』が行われている。普段は劇場の客席から仰ぎ見ているミュージカルスターたちが至近距離で、様々なミュージカルナンバーを届けてくれるこの企画は、eplus Living Room CAFE&DININGの大人気企画だ。
今回は第四弾企画(公演としては第5回目の『Living Room MUSICAL』)となった《ルナティック狂詩曲 月と星と花にいた人びと》の模様を振り返る。登場したのは、蒼乃夕妃、妃白ゆあ、花陽みく、貴千碧、月央和沙、岡本悠紀、山田元、田川景一、パーツ・イシバの面々。
女性陣は全員元タカラジェンヌで、愛らしい容姿に男前のシャープなダンスというギャップが魅力的だった元月組トップ娘役の蒼乃夕妃。透明感のある歌声+優れたダンス力を持ち合わせた実力派として活躍した元星組娘役スターの妃白ゆあ。『1789~バスティーユの恋人たち』ではソレーヌ役も務めた、歌唱力抜群の元月組娘役スター花陽みく。花組きっての男役ダンサーの誉れ高かった元花組男役スターの月央和沙。やはり名ダンサーとしての信頼が殊の外厚かった元月組男役スターの貴千碧が勢ぞろい。
彼女たち「月と星と花にいた人びと」の女性陣に対して、その宝塚を観たのがミュージカル俳優を志すきっかけになったという岡本悠紀。彼は出演中だったミュージカル『ゴースト』の休演日に駆け付けた。そして、美しい高音の歌声と茶目っ気のあるパフォーマンスが印象的だった第3弾公演から引き続いて登場となった田川景一。また、ハイトーンからバストーンまで音域の広い豊かな歌声と、甘いマスクで人気急上昇中の山田元と、男性陣も多士済々。さらにスペシャルゲストとして身体表現家のパーツ・イシバがパントマイムで参加する豪華ステージとあって、チケットは瞬殺の勢いでソールドアウト。熱気にあふれた満員の客席を、出演者がクルーとして回る恒例の姿も自然になっていて、気さくに話しかける出演者とお客様との団欒があちこちで繰り広げられていた。時には出演者にフードやドリンクを注文する方もいるが、出演者は極々自然に本物のカフェクルーに注文をつなぐーー等々、この企画自体がeplus Living Room CAFE&DININGにすっかりなじんできていることが感じられた。
■寸劇も交えて展開するディズニー・プリンセスから王道ミュージカルの世界
そこへピアノの伊藤辰哉率いるバンドメンバーの演奏がはじまり、クルーに扮した出演者たちがそのまま芝居を展開してステージはスタート。「ルナティック」=狂気の沙汰、という説明や、前回公演から唯一の連続出演となる田川が、夏季限定の「雇われ店長」であることが伝えられる。さらに、妃白、花陽、岡本、山田が店員で、月央が男役チックにキメたフロアマネージャー、との本日の設定も、メンバー紹介を兼ねて披露されていった。
岡本が『エリザベート』オタクで、『エリザベート』の台詞しか話さなかったり、山田の特技がフラワーアレンジメントだという小ネタも効いている。するとドレスに女優ハットの蒼乃が、執事とおぼしき貴千を従えて登場。彼女はこの店の上客で、持っているお金は全部使ってしまうその日暮らしのモンナシーヌだ……というところから2006年TBS昼ドラ愛の劇場『吾輩は主婦である』(脚本:宮藤官九郎)より「モンナシーヌ」が歌い踊られる。テレビドラマの中にミュージカルシーンを持ち込み、コアな人気を誇った『吾輩は主婦である』を選択するマニアックさが意表を突いた。
モンナシーヌに恋をしている雇われ店長の田川が愛を告白しようとするが、モンナシーヌは記録的猛暑で気を失ったあと記憶をなくし、モンナシーヌと名乗っているものの、自分の出自がさっぱりわからない。そこへ執事が現れ「あなたは月と星の世界にいた」と言うのだが、それも思い出せない。どうも歌ったり踊ったりしていたような、女優だったような気がする……ということで、では歌って踊ってモンナシーヌの記憶を取り戻そう!という流れから『Living Room MUSICAL』お馴染みの『ララランド』から「Another Day Of Sun」。
最早『Living Room MUSICAL』のテーマソングの感もあるこの楽曲の振付は、栄えある第1回の同公演に出演していた月央であり、その彼女が再びこのナンバーを粋に踊るのが心憎い。会場からは自然に手拍子が湧き、バンドメンバー(ピアノ:伊藤、ヴァイオリン:向江陽子、ベース:内田大輔、ドラム:坂入康仁)、およびパントマイムのパーツ・イシバが紹介されていく流れはスムーズ。蒼乃が元男役の二人月央と貴千と踊る姿も華やかだ。
「ここは渋谷!」のポーズで決まったあと、モンナシーヌは「今の曲は知らない……女優と言っても主役をやっていたような……」とのことで、「では王道ミュージカルナンバーを集めてみては?」「計画を説明しよう!」と岡本が全員を引き連れて退場。ステージでは黒い鞄を手にしたパーツ・イシバが、その鞄が動かなくなり悪戦苦闘、やっと鞄を置くことができたと思ったら今度は帽子がかぶれない……というパントマイムを。本当に鞄が鋼鉄のように動かないかのように見えるマイム表現に惹きつけられた。
そこから舞台は「ディズニー・プリンセス・メドレー」へ。『白雪姫』の「いつか王子様が」を妃白がリリカルなソプラノを響かせて美しく歌う。緑の鳥に扮した花陽と踊り、山田の王子様が登場すると『眠りの森の美女』の「いつか夢で」。劇団四季『リトルマーメイド』でプリンス・エリックを演じている山田の王子様感が、ディズニー世界にピッタリで、そのまま二人による『アラジン』の「Whole New World」へ。表現力も豊かで、とても絵になる美男美女のデュエットが雰囲気を盛り上げた。
続いて着替えて出て来た花陽が『リトルマーメイド』の人魚姫アリエルのソロ「Part Of Your World」を。歌える元娘役の本領発揮で、陸に憧れるアリエルがなんとも愛らしい。そこに赤蟹のセバスチャンに扮した田川が登場。アリエルに海の世界こそ最高さ!と歌う「Under The Sea」に会場からは自然に手拍子が。エスコートされてきた蒼乃モンナシーヌが客席から見つめる中、妃白、山田も加わり盛り上がる。
そのまま花陽が残り『塔の上のラプンツェル』から「輝く未来」を。蟹のかぶりものを脱ぎ、一瞬でスッキリした二枚目の表情になった田川と共に、美しいデュエットが繰り広げられた。
「何か思い出しましたか?」と問われたモンナシーヌが「ディズニーの記憶はないわ」と答えると、岡本が「憶えておられますか?」と語りかけ、ミュージカル『エリザベート』の世界へ。岡本による「最後のダンス」が歌われる。客席もふんだんに使っての岡本の歌唱は、公演中のスケジュールを縫っての出演だとは信じられないほどパワフル。最後のシャウトも豪快に決め大拍手が湧き起こった。その歓声の中を今度はルドルフに扮した山田が登場。岡本とのデュエットで「闇が広がる」。低音ボイスも魅力の山田がルドルフ・パートを鮮やかに歌い、音域の広さを感じさせる。振付も本格的で、楽曲の魅力が広がった。
ここで蒼乃モンナシーヌが「ディズニーよりは近いような……でもフランク・ワイルドホーンかも……いや、ハードボイルド?」となって、蒼乃が星組時代に出演した『ブエノスアイレスの風』で使用されたタンゴの有名曲「Por Una Cabeza」。まず蒼乃と妃白、そして蒼乃、月央、貴千で本格的なダンスシーンが展開。男役、娘役の粋を超えたカッコよさを持つダンサーでもあった、蒼乃の美点が光り輝く。やがて蒼乃も去り、元男役ダンサーの月央と貴千が舞台いっぱいに迫力満点のタンゴダンスを展開。圧巻の踊りっぷりに大拍手が贈られた。
その興奮も冷めやらぬ中、パーツ・イシバが鍵盤ハーモニカを手に、飲み物を客席に配るマイムを披露。見えない飲み物が見えてくるような感覚の中の、お客さんの反応も楽しい。やがてステージに戻ってきた蒼乃がパーツ・イシバから花をもらい、客席から登場した岡本と『スカーレット・ピンパーネル』の「あなたこそ我が家」をデュエット。蒼乃にとって月組トップ娘役としての披露公演でもあった、フランク・ワイルドホーンのミュージカルソングは、やはり実際に演じていた人ならではの深みがあり、実に豊かなデュエットになった。
「記憶が戻りました!」ということで、改めて蒼乃が自己紹介。蒼乃と岡本を中心に、全員の登場で『ミー&マイガール』から「ランベス・ウォーク」。客席を縦横無尽に巻き込んでの大騒ぎで、最高潮にヒートアップした中で休憩となった。
■それぞれの想いがこもった大ナンバーの熱唱と迫力のダンス
15分の休憩があっという間に終わっての第二部は、『CHICAGO』の「All That Jazz」から。『Living Room MUSICAL』では度々取り上げられているナンバーだが、ニューヨーク公演も行われた宝塚OGによる『CHICAGO』に出演していた蒼乃の堂に入った歌が鮮やか。田川、山田も客席に濃厚に絡みながら歌い、eplus Living Room CAFE&DININGを『CHICAGO』の世界で染め上げた。
空気をかえてパーツ・イシバが、腕が上がらない、足があがらない……と困ったあと、両手、片足にロープをつけて、マリオネットの動きになる!という興趣たっぷりのパントマイムを。ここからは各メンバーが、これぞという1曲を披露していく。
トップバッターの岡本はイギリスの階級社会を風刺したミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』から「Feeling Good」を客席で歌い、ステージでは月央が椅子を使った見応えあるダンスを。この本番の数日前に月央は艶やかな女性ダンサーとしてタンゴのステージに立っていたのだが、にわかには同一人物だと思えないほど男役時代の香りがいっぱい。改めて優れたダンサーの実力を発揮した。その月央がステージを去ると、岡本がバンドメンバーひとりひとりと掛け合いながらの迫力の歌で場を盛り上げた。
その興奮の中、山田が登場。『ノートルダムの鐘』から「僕の願い」。1日だけで良いから陽の光をあびて歩きたいと願う、カジモトの切ない思いがあふれた絶唱で、山田の歌唱力の高さが浮き彫りになる素晴らしい時間に喝采が贈られた。
続いて田川が『モーツァルト!』から「僕こそミュージック」を、豊かな表現力と迫力で歌い上げる。「自由に飛びたい、このままの僕を愛して欲しい」と訴えるモーツァルトの心情を貴千が踊り、心理描写が手にとるようにわかるダンスで魅了する。ラストの「ミュージック」の高音に至るファルセットを田川が完璧な美しさで力強く披露し、こちらも堂々たる場面になった。
一転して音楽が軽やかになり『マイ・フェア・レディ』から「踊り明かそう」を妃白と花陽で。ワンコーラスを英語で妃白が、古典としておなじみの岩谷時子歌詞でツーコーラスを花陽が歌い、更に二人での掛け合いに。伸びやかな声と、明るい持ち味がこの曲にピッタリで美しい共演に心躍った。
そこへパーツ・イシバが登場。ここまでの場を和ませる明るい表現とは全く別の、切なさのこもった表現で、目の前にある壁から抜け出す道がみつからない悲しみを表す。やがて何か音が聞こえ、走り、いつしか空を飛ぶ。心の自由という、目に見えない大切なものを伝える時間になった。そして蒼乃が『スカーレット・ピンパーネル』から、ヒロイン・マルグリットが結婚後人が変わったように心を閉ざしてしまった夫パーシーへの断ち切れぬ想いを歌う「あなたをみつめると」を。星組の新進娘役時代に新人公演で、そして月組トップ就任時と、このマルグリット役が宝塚人生の大きなポイントと共にあった蒼乃自身のドラマも背負った素晴らしい歌唱が、更に女優としての進化も感じさせるひと際味わい深い歌声だった。
ここから宝塚月組のショー作品『Heat On Beat!』で使われた斉藤恒芳作曲の「Fanfare et Bolelo」。蒼乃、妃白、月央、貴千がキレの良い迫力のダンスを披露。デュエットダンスには柔らかさもあり、最後には全員のコーラスの中蒼乃の美しいソロダンスで締めくくられ、大喝采が贈られた。
そのままフィナーレは「Another Day Of Sun」のリプライズ。撮影OK!の時間ともなり、お客様もヒートアップ! 「ここは渋谷!」のあと全員で「ありがとうございました!」の挨拶があり、鳴りやまぬ拍手はいつしかアンコールの手拍子へ。その熱気に応えたアンコールは『スカーレット・ピンパーネル』から「ひとかけらの勇気」。フランク・ワイルドホーンが宝塚での上演の為に書き下ろした、日本の『スカーレット・ピンパーネル』の主題歌。岡本、田川、山田それぞれのソロに個性がありつつ、それぞれが美声という豊かさの中、女性陣たちも加わり大コーラスで、名曲の力がeplus Living Room CAFE&DININGを包み込んだ。
熱気に満ちた空気の中、山田が「こんなに近くで皆さんと触れ合えて幸せ」と語ると、田川が「ここの空気感が大好き。『Living Room MUSICAL』が続いていくように僕も力をつけたい」と意欲的。岡本は「宝塚と巡り合ったからこの世界に入った僕が、宝塚出身の方達と一緒にできることが本当に嬉しい」と感慨深げ。
貴千は「久しぶりに同じ志を持った仲間とステージを創れて幸せ」と喜びを表した。月央が「久々に宝塚の“ザ・男役”を演じたら血が騒いだ、素晴らしい経験だった」と話せば、花陽も「宝塚を卒業してからこの楽しい稽古で刺激を受け、本番はお客様からパワーを頂きました!」と高揚感いっぱい。妃白も「スペシャルなメンバーから学ぶことばかり、出演できて幸せでした」と晴れやかに微笑。パーツ・イシバは「パントマイムは地味な芸術なのに、『Living Room MUSICAL』に必要としてもらえたことが嬉しい」と初めてその声を聞かせてくれた。
最後に蒼乃が「宝塚退団後初めてのライブステージでしたが、お客様やメンバーからパワーをもらって幸せです。この場が続いていくように頑張るので、お客様がいてくださってこそ成り立つステージを、これからもどうぞよろしくお願い致します」と挨拶。名残尽きぬステージは終幕となった。
全体にダンスの魅力がふんだんに盛り込まれた構成が特徴的で、『Living Room MUSICAL』が回を重ねるごとに練り上げられ、また出演者の個性で縦横無尽に変化していく可能性も感じられた。企画自体の成長がますます楽しみになる幸福なライブだった。
取材・文=橘涼香  撮影=上溝恭香

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着