フレデリックが新作『フレデリズム2
』で向き合ったダンス・ミュージック
の多様性と抱く使命とは

新たな音像を打ち出した配信限定シングル「LIGHT」から3ヶ月、フレデリックがメジャー2ndフルアルバム『フレデリズム2』をリリースする。アルバムのトップを飾る、その「LIGHT」に加え「かなしいうれしい」「TOGENKYO」「飄々とエモーション」「シンセンス」といった『フレデリズム2』の助走だったとも言える5曲を含む全13曲は、メジャー1stフル・アルバム『フレデリズム』以降の挑戦の集大成――と呼ぶよりもむしろ、前作からの2年、挑戦を続けながらメンバーたちが見出した答えが、より大きな視点を持ったさらなる挑戦だったことを印象づけるものになっているところが、あまりにも痛快だ。

今回のインタビューは、『フレデリズム2』を聴きながら感じたことが、4人の言葉によって確信に変わる、いつも以上に充実の時間となった。ミュージシャンとしての成長に加え、この2年間、ステージから見える景色が広がったことが楽曲の幅広さや自由度の高さに結びついたことは、メンバー自身も認めるところ。その中でバンドが持つ使命感もさらにはっきりしてきたところが頼もしい。使命感を掲げられるバンドはいまどき稀有な存在かもしれない。それはこれからバンドの大きな力になっていくはずだ。
――17年と18年は、フレデリックにとって挑戦の連続だったので、新しいアルバムには期待していたのですが、実際、聴いてみたら、期待を上回るかっこよさで。
三原康司(Ba/Cho):いえ~い(笑)。 ありがとうございます。
――もちろん、楽しみながら作っていたとは思うのですが、『フレデリズム2』を聴いて、思ったのは、信念、意思、そして、ひょっとしたら使命感も持って、アルバムを作り上げたんじゃないかということでした。この言葉を使うのは、年齢的に早いのかもしれないですけど……
康司:いや、僕ら、もう28ですからね(笑)。
――まだ20代じゃないですか(笑)。でも、成熟みたいなものも感じて、ライブハウス・シーンでただワーワーやっているバンドとはもう違うのかなと思ったのですが、『フレデリズム2』を完成させて、どんな手応えを感じていますか?
康司:曲を作ることは、もう僕にとっては日常的なものなんですけど、それでもフル・アルバムというバンドにとって大事な、いろいろな曲を聴いてもらえるきっかけになるものをリリースするにあたって、自分たちの成長を感じながら、本当に広い視野で作れたと思っていて、おっしゃるように使命感を感じている部分もあるんです。一歩一歩、活動してきた中で、自分たちが立つステージが大きくなることで、音楽への向き合い方や人への伝えた方が昔とは全然違うものになっていると思えたので、そういう意味でも、ちゃんと人に伝わるアルバムができたと思います。本当に、ここからさらに広がっていくんだなって期待が、自分たちの中でも大きいですね。
三原健司(Vo/Gt):視野が広がったっていうのは本当に。アリーナ公演を含め、ステージが大きくなってきたことに対しての責任感みたいなものも、前作の『フレデリズム』を作ったときよりもバンドのスタンスとして大きくなっているし、それとは別に、聴いている音楽の幅が広がったり、康司が作る曲の種類が増えたり、僕らもやれることが増えたりして、『フレデリズム』になかったものを広げることができて、フレデリックの中のシーンをもっと広げられたという意味でも視野が広がった。それは出来上がったものを聴いて、感じたことですね。
――赤頭さんは?
赤頭隆児(Gt):アルバム曲の“手を抜く良さ”っていうのもあると思うんですけど、今回は全曲、全力と言うか。どの曲もMVを作って大丈夫みたいな、そういう曲にしようって。もちろん、これまでだって手を抜いたことはないんですけど、今回はいつも以上に、そういう気持ちで作りました。あと、このアルバムは今までで一番、“こういうのどう?”って僕から提案しました。
康司:めっちゃ話したよな。
赤頭:康司君が作るデモの段階で、すでにいいフレーズが入っていることが多いんですけど、今回は僕からもバンバン投げてみようって。
――そして、高橋さんは正式加入後、初めてのアルバムになるわけですが。
高橋武(Dr):『フレデリズム』の時は、僕が叩いていない曲もあったので、全曲、通して叩いているフル・アルバムという意味では初めてですね。
――そういうところで、取り組む意識も違ったんじゃないでしょうか?
高橋:それは特になかったです。もちろん、自分が全曲叩いて、アルバムが完成した歓びっていうのはありますけど。ただ、視野が広がったという話が出ましたけど、『フレデリズム2』を聴いてもらったら、僕らが感じたステージから見える景色の変化を、お客さんにも感じてもらえるんじゃないかと思うんですよ。フレデリックはジャンルとしてダンス・ミュージックを掲げることがあるんですけど、ダンス・ミュージックって言っても、本当に色々あるじゃないですか。モータウンだってダンス・ミュージックだし、ディスコ・ミュージックはもちろん、ファンクもそう、ジャズだってビバップ的なものはダンス・ミュージックに入ると思うんです……ってなると、色々なダンス・ミュージックの形を提示するっていうのは、フレデリックの使命の1つだと思っているところはあります。
康司:使命って言ったら、やっぱりな。
高橋:ダンス・ミュージックと言ったとき、フレデリックのお客さんが連想するものが狭いものであってはならないと思うんですよ。ダンス・ミュージックってすごく広い意味の言葉なので。だから、そういう意味では今回のアルバムって、それこそ「CLIMAX NUMBER」ではモータウン・ビートが出てくるし、「夜にロックを聴いてしまったら」では、サビで――ちょっとテクニカルな話になっちゃうんですけど――ズチタチ・ズチタチというハイハットの裏打ちではなくて、ジジジジってハイアットの表打ちをしているんです。
――ああ。最近、4つ打ちっていうと、裏打ちになりがちだけど。
高橋:4つ打ちって元を辿れば、モータウンの時代はバスドラじゃなくて、スネアでやっていたんです。それが派生してバスドラの4つ打ちになったんですけど、そのスネアの4つ打ちを髣髴させるというテーマが僕の中にあって、ハイハットを表打ちにして、そのニュアンスに近づけるって方法を取ったんです。そんなふうに、ほんとにダンス・ミュージックの形っていろいろあるんですけど、その幅広さが今回、すごく出ていると思います。だから、僕らの視野が広がったように、お客さんの視野も広げることができる作品になっているんじゃないかって。
――なぜフレデリックは、ダンス・ミュージックにはいろいろな形があるということを、伝えていかなきゃいけないと考えているんですか。
高橋:それはダンス・ミュージックに対するイメージが狭いように感じることが個人的に多いからです。
――ああ、それはメンバー全員が感じていることなんじゃないですか?
康司:そうですね。今回の『フレデリズム2』のメッセージ性にもすごくリンクしてくると思うんですけど、「LIGHT」「かなしいうれしい」って二面性を歌った曲だと僕は考えていて、1つの言葉だけだと、イメージが限定されちゃうことがあると思うんですよ。「スキライズム」もそうなんですけど、“嫌い”って言葉には、やっぱりネガティヴな印象があるじゃないですか。でも、“かなしい”と“うれしい”とか、“光”と“影”がとか、視野をもっと広げてみたら、表面をさらうだけじゃなくて、本当にその意味を理解したうえで、芯から楽しめるんじゃないかと思うんです。そういう意味で、さっきのタケちゃん(高橋)の話もそうですけど、音楽的にもメッセージ的にもそうあるべきだと思います。そこをちゃんと伝えていかないといけない。
フレデリック・三原健司 撮影=菊池貴裕
――『フレデリズム2』以前から、『かなしいうれしい』『TOGENKYO』という作品で、フレデリックはいろいろなタイプのダンス・ミュージックに挑戦してきました。そういう曲をライブでお客さんにぶつけた結果、ちゃんと伝わって、浸透していっているという手応えはありますか?
康司:ワンマンでは感じますね。
健司:それこそ去年の11月20日にSHIBUYA WWW Xでやった『フレデリズムツアー特別公演 -LIGHT LIVE =♩120~140-』では特に(※その模様を収めたDVDが『フレデリズム2』の初回限定盤に収録される)。今、自分たちがいるロック・シーンのお客さんは、ダンス・ミュージックを、僕らミュージシャンが思っているよりも狭い意味で捉えていると思うんですよ。Suchmosのようなバンドが、その認識を広げているとは思うんですけど、もっとそういうことができるバンドがいたらいいと思うし、フレデリックにならそれができるという自負もあるんです。
それで、ライブとして表現できることは何かないかなって考えた第1弾が『LIGHT LIVE ♩=120~140』だったんです。あのライブでは「♩=120~140」と謳っているようにBPM(テンポ)も限定して、そこでの乗り方をみんなで作っていきたいというテーマがあって。120~140のBPMの中での乗り方って、大体は決まってくるんですけど、乗り方がわからないというお客さんも遊びに来てもらって、“あ、こういうことなんだな”っていうきっかけになればいいなぐらいに思ってたんですけど、いざライブが始まってみたら……最初は本編最後の「LIGHT」で、みんな乗り方がわかって、最高の空間になったらいいと考えていたんですけど、もっと早い段階から、みんな楽しんでくれて。自分たちが思っている以上に、そういうダンス・ミュージックを理解して、楽しんでくれる人って多いんだなって、自分たちがビックリさせられました。お客さんのほうが全然、進んでいたんですよ。
康司:そういうお客さんがいるって、本当に素晴らしいことだと思いました。今回の『フレデリズム2』もどう受け止められるか、僕はわくわくしているんです。これからのワンマンライブでも、このアルバムの曲をやっていくことになるんですけど、そこから今までのフレデリックとはまた違う形になっていくと思います。音楽はもちろんですけど、演出だったりとか、ステージをどう作るかにしても、「こういうおもしろいことをしよう」って話がこれからどんどん出ると思うんです。それを考えると、絶対、このアルバムを聴いたほうがいいよなって思います(笑)。
――『フレデリズム2』ってタイトルは、すぐに決まったんですか?
健司:満場一致というか、『フレデリズム』を出した時点で、『フレデリズム2』『フレデリズム3』となっていくんだろうなっていう考えはありました。
――今回、新しい音像やバンド像を打ち出しているから、「2」には前作の続編という意味に加え、「新」「ニュー」という思いも込められているんじゃないかと思うんですよ。
康司:うんうんうん。
――アルバムのリリースは2年ぶりですけど、その間、シングル、ミニ・アルバム、EP、配信シングルをリリースしてきているから、アルバム1枚分ぐらいの曲を発表しているんですよね。だから、今回、2月リリースと聞いて、“早っ!いつ曲を作ったんだろう!?”とビックリしたんです。しかも、17年と18年はけっこうライブの本数も多かったじゃないですか。
康司:根を詰めて、“ここで作る”っていうのも、あったと言えばあったんですけど、日常的に書いていた曲もあったので。
――冒頭で、曲を作ることが日常的になっているとおっしゃっていましたね。
康司:作るの好きだから、作ってましたね(笑)。
――じゃあ、康司さんが曲ができないって悩んでいる姿って。
健司:見たことないですね。今までのキャリアを含めても。もちろん、リード・トラックとして作り上げるってことはありましたけど、アルバムを出すってなったとき、困ることはなかったし、ずっと作り続けているし、その中で色々なジャンルの曲ができるし。むしろどれを入れようって、選ぶほうが大変でした。絞りに絞って、13曲になりましたけど、たぶん、3~40曲はあったんじゃないかな。
――そこから、どんなふうに選んでいったんですか?
健司:なるべく最近の曲から選ぶようにしましたね。前作のときは、「レプリカパプリカ」みたいにインディーズ時代のデモを、その時の自分たちらしいものに作り直した曲もあったんですけど、今回は、18年に作った曲やアルバムを作ることになってから作った曲の中から選ぶようにしました。それは言葉はもちろん、今、伝えたいことは何なのかということも含めてなんですけど。
――アルバムの1曲目に「LIGHT」を持ってきたことにも大きな意味があるんですよね?
康司:「LIGHT」は、ここだろうなぐらいのことでしたけどね(笑)。1曲目は「LIGHT」じゃなきゃダメだって感じでは、僕はなかったです。「飄々とエモーション」は絶対、最後だと思ってましたけど、メンバーやチームで話し合った結果、1曲目は「LIGHT」だろうってなりました。
――新たな音像を打ち出した「LIGHT」で始まって、<君のさいはてに最後まで寄り添って>と歌う「飄々とエモーション」で終わることに意味やストーリーがあるのかなって。
康司:結果、そう思いました。曲順を決めるときは、そんなに考えてなかったですけど、僕は違う提案もしていたんですよ。だけど、それに決まったとき、あ、そうだなって思いました。
フレデリック・三原康司 撮影=菊池貴裕
――違う提案っていうのは、1曲目に別の曲をということですか?
康司:そうです。1曲目は「夜にロックを聴いてしまったら」がいいんじゃないかって思ってたんですよ。
――そうなんだ。おもしろい。1曲目って大体、アッパーな曲を持ってくることが多いじゃないですか。でも、「LIGHT」も「夜にロックを聴いてしまったら」も、ことさらにアッパーな曲じゃない。
康司:アッパーかどうかではあまり考えていないというか、曲調の強さが判断基準ではない感じですね。それよりもメッセージのほうが大きいかな。前半にビートの強い曲を持ってくるっていうのがフル・アルバムらしいっていう認識はあまりないですね。
――そうなんだ。それも含め、今回は周りからどう思われてもかまわないぐらいの自信があったんじゃないか?と感じましたが。
康司:作った曲の幅とか自由さみたいなところに出ていると思いますけどね(笑)。
健司:この2年、受け取る側の信頼度が高まったところもあるんですよ。17年、18年、自分たちなりの挑戦をやってきて、それに変わらずについてきてくれるお客さんもいれば、新たに僕らを好きになってくれた人たちもいて。そういう人たちへの信頼度も高まって、自分たちがこういう曲をやったら、自分たちが予想だにしないような聴き方をしてくれるんじゃないかって。だから、どう思ってくれてもいいと言うよりは、“どう思ってくれるんやろ? 楽しみだな”っていう期待値のほうがデカかったですね。
――そういう期待を込めた曲もあるんですか?
康司:「逃避行」かな。サウンド感がけっこう新しいし、今の自分たちにしかできない感じは、すごくあって、どういう反応が返ってくるのかすごく楽しみですね。
――どんなところが新しいと感じているんですか?
康司:ノリはデモの段階から、完成するまでにすごく変化したんです。その変化が抜群に良くて、最終的に音源を聴いたときに、ほんとに乗れると思ったし、やりたかったダンス・ミュージックがここにあると思えたんですよ。
――健司さんは。
健司:「CLIMAX NUMBER」は、聴いた人がどう感じるんだろうかっていうおもしろさがありますよね。今までのフレデリックの楽曲にはなかったと思うんですよ。それを、みんながライブでどう受け止めるのか、この曲を聴いて、どういう感情を持ったりするんだろうかって気になりますね。
康司:こういうモータウン・ビートの曲は……「骨の船」がそうだった?
健司:ビートはそうだったかもしれないけど。
康司:でも、「CLIMAX NUMBER」は、それとはまた全然、違うんで。
――聴きながら、最初、歌詞の中の<君>は、恋愛対象である女の子なのかなと思っていたんですけど、よくよく聴いてみると、そうじゃないのかなって。
康司:どっちにも捉えられる曲ですよね。
――高橋さんと赤頭さんはありますか?
高橋:全曲そうなんですけど、「対価」は、歌もすっと入ってくるところもあるし、ミディアム・テンポではあるんですけど、乗れるところもあるので、それをお客さんがライブでどう聴くのか、結構楽しみなところはあります。もちろん、僕らのライブでの提示の仕方もあると思うんですけど、今までになかった景色が見えるんじゃないかなって気はすごくしますね。
赤頭:僕は「YELLOW」が特殊な展開というか、これ、ビックリしますよね?(笑) 終わり方も含め、ここでこうなるんや!?って。1回聴いただけじゃ、何が起きたんやろって感じになるんで、僕は自分で弾いてますけど、何回も聴かな分からへんかな?と初めて聴いたときに思って。だから、めっちゃ何回も聴きました。そんなに長い曲じゃないんですけど、その中にいろいろな展開があって。
康司:うんうんうん。
赤頭:一番新しいタイプの曲だから、めっちゃ反応が気になりますね。
――EDM風になる展開は意外でした。
康司:それも視野の広さの1つの形ですね(笑)。
フレデリック・赤頭隆児 撮影=菊池貴裕
――今回、これまで以上にシンセを使っていますが、バンドの基本編成に無い音じゃないですか。その音色を、これだけ入れるというのは、自分たちのやることにリミットはないということなんですよね?
康司:アルバムとして音源が残る中で、そこに制限を持ってたら、出したい色が出せないと思うんですよ。それぐらい自分たちが考えている幅や言葉の意味を大きく捉えているからこそ、そういうサウンドを残していくことも僕は必要なことだと考えてます。基本、バンドとしてっていう意識もあるんですけど、そういう音作りをしていくことも1つのメッセージとして捉えています。
――その一方では、4人の演奏もこれまで以上に、それぞれの個性、存在感が際立ってきた印象があります。
康司:今回は、僕が作ったデモに対して、考えていた以上のものが3人から返ってきましたね。
高橋:それぞれの楽器を立たせると言うよりは、それぞれが曲を立たせるためにやった結果、そうなったというほうがニュアンスとして合っているかな。
――でも、ドラム、かなりかっこいいですよ。
高橋:ありがとうございます……! ダンス・ミュージックの間口を広げたり、自分の中でフレデリックの新しいダンス・ミュージックを提示したりする中で、この1、2年、こういうのが新しいビートなんじゃないかなって考えていたものを、いろいろ楽曲に取り入れることができたんですよ。
――たとえば?
高橋:「エンドレスメーデー」はサビがずっとシンコペーションしているんです。サビが始まってから終わるまで1回も着地していない。そういう曲は基本ないからおもしろいよねってところもあってやっているんですけど、楽曲としてロックの要素も強い中でそういうアプローチをすることで、フレデリックの“面白いこともやってみる”っていう姿勢も表現できているし、ずっとシンコペーションしているってことは、言い換えれば、ずっと一定のリズムで4分音符が鳴っている。それも4つ打ちの1つの解釈だと思っているんです。これは僕の中では新しいアプローチとして提示できるものだと思うし、さっき言った「夜にロックを聴いてしまったら」のハイハットの表打ちもそうだし、「逃避行」は結構ドラムが細かいことをやっているんですけど、それをキレイにではなく、ちょっと武骨な感じで叩いている。そういうアプローチって、日本のバンドには意外にないんですよ。うまい人がうまく叩くのはあると思うんですけど、敢えて武骨に叩いて、ギター・ロック感を残しつつ、ダンス・ミュージックを提示してみました。
――ギターはリフが増えたような印象がありましたが。
康司:アレンジの中に増えたって感じかな。
赤頭:バンド感を出そうっていうのがあったよな。
――そうなんですよ。だから、シンセの音が増えたけど、ギターの音が太くなったぶん、全体の印象としてそんなにシンセシンセしたものにならずに、ちゃんとバンド感もあるものになっている。
康司:そこのバランスは、結構こだわりましたね。EDMっぽくしようと思えば、もっとできるんですけど、主体はバンドという中で、どうやったらおもしろい形に落とし込めるか。そこはかなり話し合いました。
赤頭:「ここはもっと(ギターを)弾いて」とか、「ここ、もうちょっとギターで埋めてほしい」とか、今回は何回かありましたね。
フレデリック・高橋武 撮影=菊池貴裕
――「スキライズム」は、所謂これまでのフレデリックらしい曲だと思うのですが、そういう曲がこの中に入っていることもすごく意味があるんじゃないでしょうか?
康司:そうですね。そこはやっぱり“2”なので(笑)。前作でも使っていたパターンではあると思うんですけど、フレデリックの王道ですよね。僕は1つ大事なものだと思っています。
――そういう曲にギターの裏打ちのカッティングやレゲエっぽいパートが加わっているところも“2”なのかな、と。
康司:サウンドにはこだわったぶん、新しい形での王道をみんなに聴いてもらえると思います。
――さて、健司さんは今回、さらにいろいろなタイプの曲を歌ったわけですが。
健司:自分の声の幅の使い方を、全曲でよく意識できたと思います。去年のアリーナ公演からイヤモニを使うようになって、MCで話すトーンが変わったというか、トーンが一定になってきたんですけど、その中で、話すトーンのまま歌にできないかなと思い始めたんです。それまでは話すときと歌うときでは、結構トーンを変えていたんですけど、そういう歌い方ってできないかなって、今回やってみたんですよ。「YELLOW」や「夜にロックを聴いてしまったら」は、歌のテクニックよりも話し声に近い歌を意識しました。
「夜にロックを聴いてしまったら」は、歌詞も含め、1人の男の子の物語でもいいんじゃないか、等身大で歌いたいと思ったときに、話し声が一番いいと思いました。そういう歌い方って、今までもやっていたかもしれないけど、意識してやってみたらどうなんだろうって。それができるようになったことで、聴く人に、より親身に感じてもらいやすくなったと思うんですよね。勢いよくガーッて言われるより、話してくれたほうがすっと耳に入りやすいってことってありますよね? それも含めて、この声の感じだったら、聴いた人はどう感じるんだろうってことを意識したレコーディングでしたね。
――今回、康司さんが書いた歌詞については、どんな印象がありますか?
健司:「飄々とエモーション」を含め、バンドのことを歌っている曲もあるからなのか、人間らしい曲が増えたなって感じました。たぶん自分が話し声で伝えたいと思ったのも、だからだと思うんですよ。もちろん、今までの曲が人間らしくないわけではないんですけど、音楽を元々、熱心に聴いていた人たちじゃない層にも広がる歌詞が増えたんじゃないかな。広い視野で見られるものが増えたんですよ。別れを描いていても、恋愛にも、極端なことを言えば、生き死ににも捉えられる。だからこそ自分も歌という狭いところからアプローチするのではなく、人間らしいものとして表現したいと思う曲が増えましたね。
――中でも一番、人間らしいと感じた曲は?
健司:僕がミュージシャンだからこそ共感できるのは、「夜にロックを聴いてしまったら」ですけど、ファンにも共感してもらえるなって思えるのは「対価」とか、「CLIMAX NUMBER」とか。ただ楽曲としての良さだけじゃなくて、自分の思い入れもリンクできるようなところはあるなって思います。
――「夜にロックを聴いてしまったら」の“ロック”は、歌詞を書いた康司さんの中では何か具体的な曲があるんでしょうか?
康司:それよりも、この曲を聴いた人が、“あ、私が初めてロックを聴いた時もこうだったよな”って共感してもらえたらと思って作った曲なんです。みんな年齢が違うし、最近音楽を聴き始めた人もいるし、僕らよりもいろいろな音楽を聴いている人もいるし、そういう中で、その人が初めてロックを聴いたときの感覚、気持ちを共有したいというか、そこから色々な音楽を聴いて、色々なことを思って、それぞれの道ができあがっていったわけですけど、でも、始まるきっかけはみんな一緒で、その瞬間を共有できたときにもっと理解しあえるなって思ったんですよね。
――なるほど。さて、今年1年は、どんな年にしていきたいと考えているんでしょうか? 最後に19年の抱負を聞かせてください。
健司:18年に『LIGHT LIVE ♩=120~140』をやったことで、自分たちの意思を明確にできたと思っているんです。お客さんに対して、“フレデリックはこういうことをやっていきたいんです”っていうその第1弾が『LIGHT LIVE ♩=120~140』だった。そこに120%で返してくれたお客さんがいたからこそ、“じゃあ、もっといろいろなものを提案して、みんなと楽しむことができるんじゃないか”って期待が高まったんですよ。19年はそれをもっと深く根づかせるような活動をしていきたい。4月13日には新木場STUDIO COASTでワンマンライブも決まって、それがアルバムリリース特別公演第一弾になるんですけど、その後も第二弾、第三弾と続いていきます。そこで、それぞれにコンセプトを立てつつ、いろいろ提示していくんですけど、それと同時に、新たにファンになった人にも今までのフレデリックを、ちゃんとわかりやすく伝えて、深いところに行けたらいいなという1年にしたいと思っています。とにかく、いろいろな可能性を秘めた1年にしたいですね。

取材・文=山口智男 撮影=菊池貴裕
フレデリック 撮影=菊池貴裕

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着