主人公のサトシを演じた安田顕

主人公のサトシを演じた安田顕

【インタビュー】『母を亡くした時、
僕は遺骨を食べたいと思った。』安田
顕「完成した映画を見たら、今まで以
上に『母親を大事にしたい』という気
持ちが湧いてきました」

 心優しいけれどちょっと頼りない漫画家志望の青年サトシと、がんを患った母親との日々、そして最愛の母から驚くべき贈り物が届く…という実話を温かな笑いと涙でつづった『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』が2月22日から全国順次ロードショーとなる。原作者・宮川サトシ氏の体験に基づく実話を描いた同名のエッセイ漫画を映画化した本作で、主人公のサトシを演じたのは「下町ロケット」(15・18)など、数々の作品で活躍する安田顕。母親役の倍賞美津子と共演した感想、自身の母親に対する思いなどを聞いた。
-原作を読んだ上で出演を決めたそうですが、そのときに感じた作品の魅力は?
 親の死というのは誰にでも訪れるものですが、宮川サトシさんの原作漫画はその視点が独特で、ユーモアにあふれている。だから、悲しい出来事ではあるけれど、くすっと笑えるところがあるんです。しかも、そこに人の気持ちの真実があるので、思わず涙腺が緩んでしまう…。とてもすてきな作品だなと。
-演じる上ではどんなことを心掛けましたか。
 純粋に作品の素晴らしさに心打たれたので、責任を持ってやらなければと覚悟を決めて臨みました。実在の人物を演じるので、モデルになった方たちのためにも、きちんとした作品にしなければなりませんから。だから、「ここでこう見せたい」といったエゴは一切なく、ただひたすら「作品のために」と考えながら演じていました。
-倍賞美津子さんが演じる母親とサトシの親子の関係がとても温かな物語でした。倍賞さんと共演した感想は?
 実は、僕の母親と倍賞さんの誕生日が一緒なんです。撮影が終わってから知ったのですが、驚きました。劇中で僕が一番好きなのが、お母さんが亡くなった後、父親(石橋蓮司)と兄(村上淳)と一緒に琵琶湖を訪れ、男3人が湖でじゃれ合う場面での倍賞さんのお芝居。悲しみに沈むお父さんの前に、お母さんのイメージが現れ、シャツのボタンを外して「行ってらっしゃい」と声を掛ける…。ただそれだけなのに、そのしぐさと言い方だけで2人の関係性がはっきり伝わるんです。「これが役者の仕事だ」と教えられました。
-あのシーンはとてもすてきでした。
 最初に脚本を読んだとき、最も心が動いたのがあのシーンでした。大森(立嗣)監督と話をする中でも、大事なのは残された人たちなのではないかという話になったんです。その人たちがどう再生していくのか、どう成長していくのか…。そこを描かなければ、この作品を作る意味はないと。
-確かに、そういう映画になっていますね。
 しかもこの場面、僕らは裸で湖に入っていくのですが、裸になることを提案したのは、実は倍賞さんなんです。ある日の撮影中、倍賞さんが監督に「湖のシーン、みんな裸がいいんじゃないの?」と。「(石橋)蓮司さんもですか?」と聞いたら、「そう。脱いじゃいなよ、すてきじゃない?」(笑)。お母さんのことを思いながら裸で湖に入るのは、何となく胎児に通じるものがあるので、僕もすてきだなと…。おかげで、笑って泣けるいい場面になりました。
-倍賞さんご本人の印象は?
 撮影したのはおととしの8月ですが、終わった後、倍賞さんと電話番号を交換したんです。そうしたら年末に「倍賞です。お世話になりました。またね」と留守電が入っていて…。そういうことをきちんとされる人柄を知り、改めてすてきな方だな…と。
-そういう意味では、撮影中も心が動くことが多かったですか。
 倍賞さんをはじめ、松下奈緒さん、村上淳さん、石橋蓮司さん…。他の皆さんも含めて、お芝居をする中でのバイブレーションみたいなものは、すごく感じました。監督もそれをとても大事にされていて、撮影中もカメラの横にいるのにモニターを見ないんです。見るのは役者の芝居。「何を撮っているのかはだいたい分かるから、その瞬間、この人たちが自分の目にどう映っているのかを見るんだ」と。監督のそういう姿勢も、僕たちの芝居をより引き出してくれたように思います。
-サトシと母親の関係に共感する部分はありましたか。
 全面的ではないにしろ、共感はしました。男にとって母親は絶対的な味方。心から甘えることができる人で、愚痴も言ってしまうし、どんなことがあっても味方でいてくれる…。そういう甘えが、男にはあるのかな。その分、失った時の喪失感はとてつもなく大きいでしょうね。その一方で、うっとうしさを感じもします。劇中でも、サトシが母親からの電話に出ない場面がありましたが、僕も母親と電話すると、3分持ちません。
-そういう意味では、安田さんとお母さんの関係も、サトシと母親に似ていますか。
 どうなんでしょう。でも映画を見ている最中、何度か「こういうことあるよね」と思いました。原作が広く愛されている理由は、やはり共感する方がたくさんいるからではないでしょうか。ただ、僕の母親は、サトシの母親とはかなり違いますが(笑)。
-この映画に出演したことで、お母さんに対する接し方が変わったようなことは?
 撮影中に自分の母親を思い出すことはありませんでしたが、完成した映画を客観的に見て、いろいろと思うことが出てきました。映画を見て教えられた感じでしょうか…。その後、誕生日に「おめでとう。体に気をつけて、これからも私を楽しませてください」とメールをもらいました。いつも私のことばかり気にかける母が初めて、自分を楽しませてほしいと付け加えていたんです。母との時間を大切にしたいと思いました。それもこの映画のおかげです。
-お母さんがこの映画をご覧になったらどんな感想を持つでしょうか。
 それは聞いてみないと分かりませんね(笑)。ただ、必ず見てくれると思います。僕の故郷は北海道の室蘭市で、両親は今もそこに住んでいます。『俳優 亀岡拓次』(15)の舞台あいさつを地元でやったときは、北寄貝の入ったおにぎりを握って持ってきてくれましたし、『小川町セレナーデ』(14)のときは、川崎が舞台の映画なのにわざわざ札幌まで見に来てくれましたから。後になって「今だから話すけど、(観客は)私たち2人だけだった。(北野)武さんのとき(『龍三と七人の子分たち』(14))は、いっぱいいたのに」と言われましたけど(笑)。
(取材・文・写真/井上健一)

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