小空間で濃密な『メアリー・ステュア
ート』に挑む 森さゆ里×江間直子×
樋口泰子インタビュー

名優・仲代達矢が主宰する俳優養成塾「無名塾」。映画やテレビ、舞台等で活躍する俳優を続々と輩出している同塾に所属する女優、江間直子と樋口泰子が演劇ユニット「ZASSO-BU」を立ち上げた。その旗揚げ公演『メアリー・ステュアート』が2019年3月6日から下北沢楽園で行われる。今作はイタリアの劇作家、ダーチャ・マライーニの戯曲で、1990年に宮本亜門演出、麻実れいと白石加代子の出演で日本初上演された。その後、2005年には同じく宮本亜門演出で原田美枝子と南果歩の出演、2015年にはマックス・ウェブスター演出で中谷美紀と神野三鈴の出演など、これまで何度も上演されてきた人気の作品だ。
メアリー・ステュアートとは、16世紀に実在したスコットランド女王で、この戯曲では同時代のイングランド女王、エリザベス一世と共に、二人の「女王」として、そして「女」としての生き様が描かれている。16世紀に実在したイギリスの女王たち、メアリーとエリザベスの物語はこの戯曲のみならず、2019年3月15日からは映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」がTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ他で全国ロードショーされるなど、様々な形で芸術作品に描かれ人々を魅了し続けている。
そんな作品を旗揚げ公演に選んだ江間と樋口、そして演出の森さゆ里に、公演にかける思いを聞いた。
『メアリー・ステュアート』稽古場写真
20年の時を超えて実現した『メアリー・ステュアート』
――まずは演劇ユニットZASSO-BUを立ち上げた経緯を教えてください。
江間 無名塾では私がヤス(樋口)の2期先輩で、芝居に対する意見が一致する部分が多いな、と思っていました。2017年に無名塾稽古場公演『ベルナルダ・アルバの家』で久しぶりに共演したのですが、やっぱりすごく楽しくて、この二人で何かできたらいいな、じゃあやってみようか、となりました。
樋口 それで私が『メアリー・ステュアート』の台本を「これやりませんか?」と出したんです。
江間 ヤスが差し出した台本を見て驚きました。だいぶくたびれた感じのその台本は、もう二十数年前、研究生時代に私がヤスに「これやらない?」と渡した台本だったんです。
江間直子
樋口 そのときは、受け取ってざっと目を通して、「これは、自主稽古の題材としては、今は無理です。難しいです」って却下しちゃったんです。でもその台本は返さずに、手元に取っておきました。「いつかできたらいいな」とずっと思っていて、たまに取り出して読んでみて、まだ早いな、と本棚に戻す、ということを繰り返して、ようやく今回上演できることになりました。
江間 ヤスが取っておいてくれたその台本を久しぶりに開いたら、20年前に私が渡したそのままで、ちょっと黄ばんでたり、クリップしておいたところが錆びてたりして。
――ということは、今回旗揚げで『メアリー・ステュアート』をやることになったのは、元々は江間さんが20年前に樋口さんに台本を渡していたことが始まりだったんですね。
江間 1990年に白石加代子さんと麻実れいさんの出演でこの作品が上演されたときに、それに影響を受けて購入した台本なので、そこから繋がってると考えるとすごいことですね。
大変さと同時に楽しさがずっとある
――お二人が久しぶりに共演した『ベルナルダ・アルバの家』では江間さんが演出もされていました。今回も演出家が女性で、出演者も女性のみという点で共通しています。
江間 この題材をやるからにはやはり女性の演出家にやってもらいたい、というのはありましたね。
樋口 誰かいないかな、と思ったときに最初に森さんのことが浮かんで、絶対に森さんがいい!とお願いをしました。
森さゆ里
森 こんな幸せなことはないですね。『メアリー・ステュアート』は私もずっとやりたいな、と思っていた作品です。江間さんとは初めてですが、樋口さんとご一緒するのはこれで4回目になります。無名塾に所属する江間さんと樋口さんと、文学座に所属する私のタッグというのも面白いな、と思いました。「大変な作品だけど頑張って」と言われますが、正直、特に大変とは感じていないんですよね。目指すところがあって、そのために何度も繰り返して稽古する、ということはありますけど、このシーンはどうすればいいのかわからない、と立ち止まってしまうことがない。
江間 確かに大変さはありますが、同時に楽しさがずっとあるんです。
森 よくできた台本だし、この二人がこの台本をやろうとしただけのことはあるな、というスムーズさで稽古が進んでいます。ただ、稽古は楽しく進んでいるんですが、思っていた以上に時間がないです。時間がない、というのは、稽古が進まないから時間がないのではなくて、進んでいるんだけど時間がもっと欲しいな、と思ってしまうんです。
――実際に稽古に入って、演じるお二人はそれぞれ今どのような心境ですか?
樋口 私は基本的に、稽古をしていると早く本番の舞台に立ちたくなるんです。でも今回に関しては、ずっと稽古していたいと思うくらい楽しいです。この稽古場は目指したいものが明確にあるし、自分の役割をきちんと果たした上で、さらにやりたいこともどんどんわいてきて、それはこの二人だし、森さんだし、この本だし、というこの環境だからこそだな、と思います。
樋口泰子
江間 演者だけをやる公演はちょっと久しぶりで不安があったんですけど、始まってしまったら、どうしてそんな不安を抱いていたんだろう、というくらい今は自由になっていて、余計なことを考えずにただ稽古していられるのがすごく楽しいです。
森 セリフは膨大で大変ですよね。
江間 この膨大なセリフも、決して覚えるのが嫌だな、という感じはなく、かえって心地よいです。街中でもセリフをずっとブツブツと呟いていて、電車の隣の席のおじさんに「ん?」という感じで見られても、ブツブツ呟き続けてます。もう止まらない、遠慮している暇はない、という感じで。
樋口 そのおじさんに向かってセリフを言いながら公演チラシを渡すとか(笑)。
森:怖いでしょう(笑)。セリフの内容も怖いからね。
左から、江間直子、森さゆ里、樋口泰子
本人の性格と役柄が逆のキャスティング
――江間さんがエリザベス、樋口さんがメアリーというキャスティングはどのようにして決まったのでしょうか。
江間 「私エリザベスやりたーい!」
樋口 「あ、私もー!」ってなって。
江間 それでしばらく置いといて。
樋口 そこから、江間さんの「私がエリザベスでしょアピール」がものすごいんですよ。これは暗黙のうちに私がメアリーをやることになる方向だな、と諦めました(笑)。
江間 森さんも、二人で決めていい、と言ってくださって。二人の性格は役柄とは逆なんですけど、見た目は私がエリザベスなんじゃないかな、と思ったんです。
樋口 性格は、無名塾の先輩に言わせると私の方が絶対にエリザベスだそうです。「ヤスは冷静に物を見ているから。江間なんて、ハッ!と思ったらパン!よ」って(笑)。
江間 直情的なんですよね、私。メアリーがどちらかというと直情的で、好きなら好き!やるならやる!という女の人で、エリザベスは外堀からじっくり攻めていくタイプ。
『メアリー・ステュアート』稽古場写真
――でも、周囲の人が抱いているイメージとあえて逆の配役にする、というのは芝居のだいご味でもありますよね。森さんから見て、お二人の配役はいかがですか?
森 私が江間さんとは今回が初めてというのもあるんですけど、中身が全然違うといわれてもあまり違和感がないです。性格的にそうだからって、それで役が合うとは限らないですし、実は反対の方がいいと私は思っています。役そのままよりも、違う部分を持ちながら演じた方が深みも出ますし、だから配役は合ってるんじゃないでしょうか。
『メアリー・ステュアート』稽古場写真
インタビュー後、稽古場を見学させてもらった。
下北沢楽園という小空間で、舞台装置も大きなものはなく、クラフトのものがいくつか置かれるだけ。そこでの二人芝居ということで、かなり濃密なものになりそうだ。
「今回の演出は、クラフト、紙素材にこだわっている」と森が語る通り、紙を印象的に、また効果的に使った演出が、メアリーとエリザベス、それぞれの心の動きや激しさとうまく呼応して新たな表現を生み出していることがうかがえた。
一度くしゃくしゃになってしまったり、ちぎれてしまった紙は、もう元に戻すことができない。それはまるで、もう戻ることのできない二人の女王の運命を示しているようである。しかし、簡単に形を変えることのできる紙は、同時にしなやかでしたたかであることの象徴でもあるのだろう。そんな紙の姿は、彼女たちのユニット名「ZASSO-BU」、強くたくましい生命力をたたえた雑草にも通じるものがある。
演出家も役者も口をそろえて「楽しくてしょうがない」というこの稽古から、どのような『メアリー・ステュアート』の舞台が誕生するのか、本番を迎えるのが楽しみだ。
『メアリー・ステュアート』稽古場写真
取材・文・撮影(一部)=久田絢子

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