『朝顔』はレミオロメンの類稀なる
センスが詰まった破格のデビュー作
唯一無二、絶品のメロディーセンス
また、デビューアルバムにはそのアーティストのほぼ全ての要素が詰まっているとはよく言ったもので、『朝顔』にはそのメロディーセンスもさることながら、3ピースというバンドスタイルの提示、歌詞に描かれている世界観と、これまたレミオロメンの何たるかが詰まっている。例えば──この辺は後述することにもなるだろうが──サウンド面で言うと、彼らはのちにキーボードやストリングスもそのサウンドに取り込むことになるわけだが、本作では、オーバーダビングはあるものの、ほぼ3人の音だけで楽曲が構築されているのも注目に値するところだと思う。
それでは、まずはそのメロディーから『朝顔』を見ていこう。藤巻の作るメロディーは独自の起伏と展開を備えたものだと前述した。もちろん本作収録曲はどれもそれもそうだ。M2「雨上がり」もM4「ビールとプリン」もM9「電話」も、レミオロメンらしい抑揚を持っている。そんな中、強いて特徴的な一曲を選ぶとするならば、M6「昭和」ではなかろうか。その歌メローにおいて最も彼らの個性が発揮されているナンバーだと思う。西洋的でも東洋的でもなく、一度聴いたら誰もが口ずさめるような親しみやすさがありつつ、かと言ってパッと聴いても単純なそれとは感じない音階。こればかりは実際の音源を聴いてもらうのが最適なのだが、みなさんにそれを委ねるのはあまりにも投げっぱなしであろうから、言葉で説明を加えるのは無粋なことは承知で、少し解説を加えてみたい。
1小節の中で少ない音符でもしっかりと起伏を出し、それをリフレインさせながら曲を進行させていきつつ、そのリフレインのテンポを変化させたり、音階を上げ下げする。言葉にすると本当に無粋だが、M6「昭和」で見せるレミオロメンならではのメロディーの特徴はそういうことだと思う。もっと言えば、勢いに逃げず、ちゃんとリズミカル。その上、言葉を音符に詰め込むことも白玉でごまかすようなこともなく、ジャストな塩梅で歌詞を乗せている。だから、とてもキャッチーで耳馴染みがいいのだと思う(さらに突っ込めば、音階の度数がどうだとか、いろいろあるのだろうが、これ以上は専門外なので何卒ご容赦ご勘弁願います)。
強いて言葉にすればそういうことになるが、だからと言って、その通りにやれば誰でも名曲が作れるかと言えば、決してそうならないことは素人でも分かるはず。それでも──もちろん彼にも作曲において産みの苦しみはあったであろうが、メロディアスかつキャッチーなナンバーを量産できたことは今さらながら本当にすごいと思う。間違いなく天賦の才と言ってよい。