odolが佐藤千亜妃とPAELLASを迎えた
『O/g-9』は、その意義を深め続けて
いた

odol LIVE 2019 “O/g-9” 2019.03.04 渋谷WWW X
odolの自主企画『O/g(Overthinking and great Ideas)』が着実に回を重ね、9回目となる今回は佐藤千亜妃PAELLASを迎え、過去最大キャパのWWW Xを満員にする盛況ぶりを見せた。2月の大阪編にはカネコアヤノを迎えるなど、女性ソロアーティストを組み込んだキュレーションの審美眼は、なかなか他のバンドにはないものだと思う。
PAELLAS 撮影=今井駿介
サブベースがフロアを震わせ、群青の照明がサーチライトのように長い時間駆け巡り、一つの世界観を作り上げた中、一番手のPAELLASが登場。繊細な感性で音を選びぬく彼らの音楽性の中でも、殊更に音数が少なく、夜明け前の孤独を思い起こさせる「daydream boat」でスタートしたのは、初見のオーディエンスもいる中で、むしろ彼らの個性を明確に印象付けたように見えた。独り言に近いぐらいパーソナルで、かつエモーショナルなMATTON(Vo)のセンシュアルなボーカルと歌詞がしっかり届く。初っ端でフロアを没入させた後は、踊れるビート感の「Echo」「Shooting Star」と続けるが、Satoshi Anan(Gt)の音色やフレージングは、現代と80年代のAORを行き来するようなものに更新されていた。
PAELLAS 撮影=今井駿介
歌いたくなるようなサビを持つ「Orange」、温かみのあるメロウなスローチューン「Weight」は、エバーグリーンな深みすら放っていた。今の彼らを自己紹介するにはぴったりなコンパクトな選曲だったが、そこには大切な人だったり、一度糸が絡んでしまった関係であったりに対しての真摯なストーリーが、一貫して存在する。ラストは夜を越えて君に会いに来たという文意の「Over The Night」で、光が差し込むような全体の流れを構築した短くも美しいアクトとなった。
PAELLAS 撮影=今井駿介
佐藤千亜妃 撮影=今井駿介
続く佐藤千亜妃は、お馴染みきのこ帝国のフロントマンにして、ソロでも昨年7月に1stE.P.『SickSickSickSick』をリリース。影響を受けたカバー曲を歌うシリーズも展開している彼女だが、この日はオリジナル楽曲をバンドメンバーとともに披露してくれた。紫の花柄ワンピースで髪をひっつめた彼女が登場すると華やかさが際立つ。儚くも訥々とした表現の「Prologue」はアブストラクトな印象だったが、一転して艶っぽい歌唱でジャジーな「太陽に背いて」へと、猫の目のように歌の表情も変化してゆく。音源に比べてロックバンド的なダイナミズムのある演奏が少し意外ではあったが、ポップ・ボーカリストとして真正面から戦う心意気なのかもしれない。その印象をさらに深めた「リナリア」、「まだ冬ですが、夏の歌を歌いたいと思います」と曲紹介した「Summer Gate」では、自然とクラップが起こり、体を揺らす人も続出。スモーキーなレアグルーヴだが、ライブでは気負わず盛り上がれる曲として定着しそうなムードを感じた。
佐藤千亜妃 撮影=今井駿介
共演者について他の2バンドが語らないのに比べ、佐藤がMCで感想や共演の経緯を話したのはイベントをより楽しいものにした。PAELLASについてはMATTONの歌う横顔のセクシーさを褒め、「私も負けないように。苦笑いしないでください(笑)」と、今の彼女の懐の深さが垣間見える。そして主宰のodolは、きのこ帝国も所属したUKプロジェクトの後輩であることをずっと知らず、その音楽を好んで聴いていたら後輩であることが発覚、今回のイベントに招かれて非常に嬉しいと、縁を感じる経緯を話した。後半はフォークロック調の「Bedtime Eyes」、オーソドックスなピアノバラードであることが、歌詞の切実さを浮き彫りにした「キスをする」、そして最後は怒涛のバンド・アンサンブルに拮抗するように「Donut」を歌いきった。歌い手に徹するもう一つの表現者としての顔を見た思いだ。
佐藤千亜妃 撮影=今井駿介
odol 撮影=今井駿介
演奏と関係ないことだが、odolの膨大な機材を入れ替える転換は、ライブを重ねるごとに驚くほど早くなっている印象がある。イベントの流れを勘案するとこれは重要なことかもしれない。森山公稀(Pf/Syn)らがすでに位置についている状態からSEが流れ、垣守翔真(Dr)のマーチングドラムが重なり、これまで以上に始まりのワクワクする予感を携えて「光の中へ」でスタート。Shaikh Sofian(Ba)のシンセベースが会場の壁を押し広げるように大きな空間を作る。ビートもギターリフも縦のグリットが揃っているのが心地いい「憧れ」にスムーズにつながってく上に、今日はミゾベリョウ(Vo)の歌が率直に楽しげに聴こえる。彼の生まれたばかりの感情が色褪せないボーカル表現は、素朴なだけではない。森山の書く一筋縄でいかないメロディラインをともに辿る快感が、ミゾベのボーカルの安定と共に高まっている。さらに裏拍のキーボードリフに歓声が上がるほど人気ナンバーになった「four eyes」は、後半にいくにつれて全ての楽器が作り出すウォール・オヴ・サウンドが、この曲の主人公のパラノイアックな側面をアンサンブルで描き出す。音数は楽器隊の5人分で厚いのだが、ロック的な常套手段からどんどん遠ざかるodolの音の抜き差しはうるさくない。体感として迫るものこそあれ、耳に暴力的じゃないのだ。
odol 撮影=今井駿介
odol 撮影=今井駿介
「声」ではライブPAの手腕によりボーカルにかけられたエフェクトが、声という意味の手前の感触を見事に演出。ループするピアノのフレーズ、井上拓哉(Gt)と早川知輝(Gt)の残響感にフォーカスした音色など、楽器全体で呼吸しているようなアレンジも、歌詞にあるようにメロディと意味だけを極力伝えていた。そこからodolのもう一つの側面である怒涛のシューゲイズ・サウンドへ突入。エモーショナルな歌メロが素直に入ってくる「愛している」、新たなフレージングやアレンジがバンドの風通しの良さを実感させた「夜を抜ければ」で、メロディのカタルシスに浸れた。その後、テクノ+エスニックなセッションに突入し、ミゾベと井上は踊るだけ(!)。しかしこの二人を見ていると、別にどんな乗り方でもいいか、と思えてきて、それは時に少々ストイックに見えるこのバンドからのファンへのメッセージだったのかも?と想像した。本編ラストはライブだからこそより聴こえるベースラインとギターのユニゾンや、全ての音色が打楽器的に拍を刻む、その一つ一つの音の弾みが楽しい「大人になって」で締めくくった。何気ないけれど音楽的に無二の曲で、音楽そのものを体感させるエンディングも、今のodolのいい身軽さを表していたように思う。
odol 撮影=今井駿介
odol 撮影=今井駿介
アンコールでは井上とShaikhによる即興ソング&ラップによるグッズ紹介。一瞬「またあした」のメロディに乗せたりして、笑いながら「いいのか?」とこちらに思わせてしまうぐらい、今のodolはタフなのかもしれない。
そして最近では特番にも出演するほどYMOファンかつ造詣の深い森山のルーツを示すように、YMOの「ONGAKU」のカバーを披露。何かを弾く効果音が会場中を跳ね回ったり、音響面でも楽しめた。
odol 撮影=今井駿介
odol 撮影=今井駿介
来たる10回目の『O/g』は普段のワンマンとは違うコンセプトのワンマンとして行うことを発表し、この企画が彼らにもたらした影響をどう表現するのか期待を高めたところで、この日のラストナンバーとして原点とも言える「生活」を披露。年々送られてくる便りにはきっと変わったところも変わらないところもあるだろう。春が近いこの時期に、必然的な響きを伴って聴こえた「生活」だった。
odol 撮影=今井駿介
肩肘張ることはないけれど、曲を作ること、一本のライブを行うことのかけがえのなさをodolはますます深めている。この日の出会いもきっと10回目に何らかの形で表出するのではないだろうか。

取材・文=石角友香 撮影=今井駿介
odol 撮影=今井駿介

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