ミュージカル『プリシラ』開幕~山崎
育三郎「再演の期待に応え、パワーア
ップした作品に」

誰もが知る往年のディスコヒッツにのって、ド派手な衣装をまとったドラァグクイーンたちが歌い踊る、ミュージカル『プリシラ』が、2019年3月9日、日生劇場にて開幕した。上演に先立ち、同劇場にて記者会見と公開ゲネプロが行われ、会見には主演の山崎育三郎をはじめ、陣内孝則、ユナク、古屋敬多(Lead)、演出の宮本亜門が出席。約2年ぶりとなる再演へ向けて意気込みを語った。
左から古屋敬多(Lead)、陣内孝則、山崎育三郎、ユナク、宮本亜門
2年ぶりにドラァグクイーンの衣装をまとった山崎育三郎は、「この衣装を着るとスッと『プリシラ』の世界に入っていける。衣装が22着もあって、着替えるごとに気持ちが変わっていく」とコメント。
また、思い入れの強い楽曲について問われると、「名曲ばかりだが、3人が傷つき落ち込む場面で励まし合いながら歌う『TrueColors』という曲は、何度歌っても涙が止まらない、グッとくるシーンなので一番期待していただきたい楽曲です」と自信を覗かせた。
山崎育三郎
再演にあたり初演と変わったところについて、バーナデット役の陣内孝則は、「時代に取り残された昔のドラァグクイーンの役なので、若手との格差を出すためにわざと下手に踊ったり、歌ったりしてます」と茶目っ気たっぷりに回答。するとキャスト陣全員から「あれわざとなんですか!?」と総ツッコミが入り、会場の笑いを誘った。
また、「役に向けて特別に行ったことは?」との質問に、「やっぱり、ムダ毛の処理かしら。アタシたち、水着になるからはみ出しちゃいけないの。意外とアタシたち、“エッチ売り”よね。(ユナクに)アンタなんか、乳首出してキャーキャー言わせるじゃない」と述べ、矛先を向けられたユナクもタジタジ状態。陣内の自由でユーモア溢れる発言に、会場は何度も爆笑の渦に包まれた。
陣内孝則
演出の宮本亜門は、「正直、再演があるとは思っていませんでした(笑)。それぐらいバカバカしい作品。でもその中に笑いと涙と、愛がグワーっと詰まっている。初演のお客さんが異常だったと思うくらい、予想以上の反応があり、“メガ愛情が詰まっている”作品。今回は僕の愛情ももっと入れ込んだので、一分の隙間もない、すごい作品になっています」と、さらに進化した作品になっていることをアピール。
会見の終盤では、「ちょっと真面目なこと言っていいですか」と断りを入れ、「この2年ちょっとの間で社会の意識が変わり、前に上演したときの言葉がこんなに深い意味を持つんだ、と感じた。“生産性”など含めて、いろんなことが問題視されてきたが、これだけ大きく世界を見る目が変わってきた。僕たちも変わったので、作品がすごく深いものになっている。より奥にある“人間愛”が満ちてきているので、時代の大きな変わり目に上演できてよかった」と語り、“今”この作品を上演することの意義を改めて感じさせられた。
宮本亜門
若く破天荒なドラァグクイーン・アダム役はユナクと古屋敬多のダブルキャストで演じる。お互いの印象について、ユナクは「僕が持っていないところを古屋くんが持っていて、古屋くんが持っていないところを僕が持っているので、お互いにプラスになっていると思う。今回、もっと仲良くなれてうれしいです」とコメント。すかさず、陣内が「お互いバチバチよ!」と茶々を入れる場面も。
ユナク
事務所の社長業もこなすユナクの姿を見て、古屋は「稽古中も韓国語でいろんな方と電話しているので、“予算の話でもしているのかな”と思っていました(笑)。でも表にも立って活動しているので、器用でかっこいいお兄さんだな、と思っています」と印象を述べた。
古屋敬多(Lead)
最後にキャスト陣それぞれが公演への意気込みを語った。
山崎育三郎「今、いちばんチケットが取れないミュージカルではないでしょうか。その期待に僕たちも応えたいと思っていますし、確実に前回よりも何倍もパワーアップして帰ってきた作品になっています。こんなに振り幅のあるミュージカルは他にないと思うので、ぜひ劇場で体感してもらえたらと思っています」
陣内孝則「死ぬ想いでやってるの。コルセット着てるんだけど、正月から太っちゃったからボンレスハム状態よ。大河ドラマの鎧を着るより、こっちの方が大変なのよ!必死で頑張っているので、その必死感を観に来ていただけたらうれしいです」
ユナク「約2年ぶりに、前回と同じキャストで上演できてうれしいです。さらにレベルアップしているのはもちろん、Areyoucrazy?と思わせるくらい、アダム二人のノリも半端じゃないです。みなさん、ぜひ劇場で確認してください」
古屋敬多「この作品の大好きなところは、“命の輝き”ですね。登場人物一人一人が関わり、交わることによって、どんどん命が輝いていく。それを観るだけですごく力が湧いてくると思います。“ちょっと最近元気ないな”とか、“朝ツライな”という人がいたら、ぜひ観に来てほしいです。待ってるわよ~~!」

ここからは会見後に行われた公開ゲネプロの模様を舞台写真と共にお届けする。この日のゲネプロでは、アダム:古屋敬多、シンシア:池田有希子、ミス・アンダースタンディング:大村俊介(SHUN)、ベンジー:瀧澤拓未 のキャストで行われた。
舞台はオーストラリア。シドニーに住む3人のドラァグクイーンが、オーストラリア大陸の中心にある砂漠の街、アリス・スプリングのホテルで開かれるショーに出るため、「プリシラ号」と名付けたバスに乗って旅に出ることに。ハプニング満載のドタバタ珍道中を笑いを交えながら、時に彼らを見舞う差別や偏見、それぞれのキャラクターが旅を通して成長していく姿がドラマティックに描かれていく。
山崎育三郎が演じるこの旅の主人公・ティックは、かつて結婚し子供もいたが、のちに自分がゲイであることに気付き、ドラァグクイーンの世界に飛び込んでいった人物。新しい人生を自分で選択し過ごしてきたものの、次第に「心の中に埋まらないもの」を抱えていることに気付く。
「自分とは何か?」と模索し苦悩するティックの姿には人間の普遍的なテーマが内在し、共感する部分も多いだろう。ティックは主人公でありながら、周りの濃いキャラクターたちに翻弄されたり、一歩引いて見守るようなところがあり、いわゆる“受け身”な存在である。またセクシャリティの曖昧さも含め、透明性を感じさせる難しい役どころだが、彼の持つ複雑さを山崎が繊細かつ丁寧に紡いでいく。“受け身”だからこそ、ティックの僅かな感情の揺れや、決心していく様がより鮮やかに観る者に伝わってくるのだ。会見でも思い入れの強い曲として挙げていた『TrueColors』を歌う場面では、ティックが自分自身を励ましている様にも見え、力強い歌声が必聴のナンバーとなっている。
また、ショーの場面では本来の持ち味である華々しさを遺憾なく発揮。ノリノリのディスコ・チューンには思わず客席で体を揺らしたくなること請け合いだ。
誇り高きトランスジェンダー・バーナデットを演じる陣内孝則は、初演よりさらにエレガンスと包容力が増し、その中で女性的なかわいらしさも覗かせる。旅の途中で、30年前にショーで観てバーナデットの“ファン”になったという男性・ボブ(石坂勇)と運命的な出会いを果たし、徐々に互いの距離を縮めていく姿は微笑ましく、年齢を重ねたからこそ育める“純愛”の境地というものを感じさせられた。バーナデットとボブのシーンには終始キュンとなり、思わず二人を応援したくなるだろう。
3人の中で最も若く、奔放なドラァグクイーンのアダムを演じる古屋敬多は、初演時と比べ、肉体改造を行い一回り大きくなった体躯が印象的で、よりダイナミックに変貌したパフォーマンスで客席を魅了。アダムの登場シーン『MaterialGirl』、2幕の『Hot stuff』のダンスシーンは必見だ。
力強さが増したアダムに進化しつつも、小悪魔的なキュートさは健在。ポップコーンのようにはじけたアダムを、実在感を伴い瑞々しく演じている。
後半、強気なアダムが見せる“弱さ”には、バーナデットでなくても庇護欲を掻き立てられるだろう。気の合わないバーナデットとアダムの二人の丁々発止のやり取りには大いに笑わせられるが、旅が進むにつれ、二人の関係性が変化していくのも本作の見どころのひとつだ。
女性陣のキャラクターも実に魅力的で、ボブの内縁の妻・シンシアのぶっ飛び具合は強烈だが、その突き抜け具合は妙にクセになるはず。そしてティックの元妻・マリオン(三森千愛)の聡明さ、大きな愛情の深さには心に響くものがあるだろう。物語を盛り上げるDIVA3人(ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花)のソウルフルな歌声も必聴だ。
物語のクライマックスでは、ティックの本当の旅の目的であった、「息子のベンジーに会う」ことが実現。ベンジーに父親として、そして一人の人間として受け入れられたときのティックの表情にはグッと込み上げるものがあった。
バーナデットとアダムも、この旅でそれぞれの“大切なもの”を見つけ、ひとつの大きな“愛”に全員が辿り着いたとき、言葉にはできない幸福感が劇場全体を満たしていた。
カーテンコールの最後の最後まで楽しめる本作は、観れば必ず元気と勇気が貰えるはずだ。彼らと共に、ぜひ「プリシラ号」に乗車し、刺激的で最高にハッピーな時間を劇場で味わっていただきたい。
取材・文・撮影=古内かほ

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