GRAPEVINE、中村佳穂 両者一歩も譲ら
ない凄みある対バンを観れた幸せな夜

2月6日にニューアルバム『ALL THE LIGHT』をリリースしたばかりのGRAPEVINE。そんな彼らが2016年以来3年ぶりとなる対バンツアー『SOMETHING SPECIAL』を東名阪にて開催。前回はゲストにSuchmosSchroeder-Headzを迎えたが、今回は、去年11月にアルバム『AINOU』をリリースしたシンガー中村佳穂をゲストに招いた。初日の名古屋を終え、2日目は大阪の心斎橋BIGCAT。
中村佳穂  撮影=河上良
「やべー! 人だらけじゃん! すっごい! みんなにも見せてあげたい! 写真撮っておこう! 後で見せてあげますね!!」。ここだけ書いたら、中村はどこにでもいる20代の若き女性だ。そんなフランクな喋りをしたかと想えば、唐突に歌い出す。その歌い出しにゾワッとする。確かに事前に頂いたセットリストには「1アドリブソロ」と書いてある。確かにその通りなのだが、それにしても本当にこんな感じで始まるのだという驚きしかない。音源は愛聴していて、インタビューで一度話しているが、ライブは初めてなだけに、ただただ戸惑う。
中村佳穂  撮影=河上良
BIGCATで始めて観たのがSuchmosで、めちゃくちゃカッコ良かったとか、実際に会ったら、あんなかっこいい人と話せるかだろうか、その時はBIGCATに立つ事も想像してなくて、音楽を続けていたら、GRAPEVINEに出会い、今や同じマネージメント事務所だとか、そういう事を語りというか、普通に喋る様にメロディーに乗せていく。気が付くと「転がるように愛して」と歌われる「POiNT」へ自然に移行していて、声をDJのスクラッチの様に出して、楽しんでる。このあたりで、ようやくバンドの演奏も入り、最後はドラムの深谷雄一のシンバルが倒れるくらいに白熱した状況に。めまぐるしい展開に振り落とされそうで、こっちは必死にメモを取るが、当の中村は楽しそうに笑っている。
中村佳穂  撮影=河上良
アルバムのリード曲でもある「きっとね!」では、とにかく今の時代風に言うとMASAHIRO KITAGAWAのコーラスのクセが凄い。こちらが勝手に持っているコーラスの概念を破る自由でインパクトのあるコーラスに目がくぎ付けになるし、中村も笑いながら楽しんでいる。続く「GUM」では冒頭にGRAPEVINE「Alright」の《愛の歌はどのくらい》と歌い出すが、多分これも事前に用意して練習してというよりは、その場での思いつきアドリブではなかったのかと想う。
そのアドリブ感を強烈に感じさせられたのが、5曲目以降だった。1曲目からアドリブで、曲の繋ぎ目もわからないくらいにめまぐるしく展開していたが、それでも、ここまではセットリスト通りに進んでいた。しかし、5曲目以降、順番通りに進んでいない事がわかり、これは下手に考えるのではなく、感じるライブだとわかった。そこでセットリストを1曲ずつ丁寧に追っていく従来のライブレポートの書き方を止めて、セットリストを畳んで閉じた。後から、訂正済みのセットリストを頂き、わかった事だが、何と新曲までやっていた。途中、KITAGAWAに歌全てを託す場面もあった。中村は水を飲み、リズムを取り、時には深谷の肩に手を置いたりして、ギターの西田修大やキーボードの荒木正比呂と微笑みながら、KITAGAWAの歌を聴いている。それも結構の長尺であり、「これは何を観ているんだ!?」という感覚に陥る……。
中村佳穂  撮影=河上良
今まで全く観た事の無いライブを観た。それが正直な感想。あまりの凄みに、観客の中には笑う者もいたし、泣く者もいた。どちらかというと私は後者だ。人は観た事の無い凄いものを観た時に、感情が本当におかしくなる。もはやジャムセッションなんていう言葉では捉えきれない歌と演奏。そして、そんなアドリブ要素の多いライブに寄り添う照明……、というか、もはや美しい光と言った方が的確であるが、そういった舞台スタッフの力も素晴らしかった。あくまで余談だが、ライブ後、中村から「(セットリストを)覚えてないです」と笑顔で言われ、本当に凄いものを観たんだなと再認識した。
GRAPEVINE 撮影=河上良
対バンというのはバンドが対決するというか、勝ち負けが全てでないのもわかっているが、どうしてもしのぎを削る姿に、こちらは熱狂して興奮する。そういう意味では、キャリア20年を超えるGRAPEVINEが若手の中村と、どう対峙するかが、この日の見所であった。ニューアルバム『ALL THE LIGHT』の1曲目を飾る「開花」が登場SEとして鳴る。ゴスペル調のアカペラ楽曲が鳴り終わると、アルバムで続く「Alright」へ。
若手が自由自在に凄く楽しんで暴れ回った後のステージに立つ事は、普通は動揺したり、たじろいだりするものだと勝手に想っていた。そして、GRAPEVINEが、そういうタイプのバンドでない事もわかっていた。それでもだ、あんな観た事の無いライブを観た後は、少しくらいは揺らぎが生まれてもおかしくないはずだ。このツアー2日目だからとか少し慣れてきたとか、そういう事でも無く、ただただ、いつも通りの威風堂々とした姿だった。何事も無く、いつも通り、進んでいくライブ。
2曲目「Esq.」、続く「GRAVEYARD」とリズムが刻まれ、ギターが鳴っていく、それも泣くに近い、泣きのギター。個人的には、この泣きのギターがたまらない。古き良きロックバンドの系譜というと陳腐だが、逆に言うと、今、こういった古き良きルーツを持ったバンドがいないからこそ、彼らの存在感が増すのだろう。いつも巧みさを感じるのだが、これも手堅いと言った意味ではもちろん無く、常に攻めの姿勢を感じる。そんな鉄壁のバンドも中々観れるものでは無いし、毎回、観れている事も或る意味凄い事なのだ。
GRAPEVINE 撮影=河上良
田中和将が自己紹介がてら、「我々と対バンするとグイグイいく事でお馴染みのアゲバンドGRAPEVINEです!」と冗談交じりに話したが、その後の「スター街道に行くのって見えるんやな、ホンマに。ひしひし味わってます」という言葉に痺れた。しっかりと若き才能を認めながら、真正面から受け止め、一瞬たりとも揺らいだり、たじろいだりしない事が、改めて、どれだけ凄い事かが、どんどん理解できてくる。決して、わかりやすく明るかったり、わかりやすく派手なバンドでは無いが、そんな彼らが不穏な感じで始まる『豚の皿』で徐々に熱を帯びていき、盛大な歓声が起きていく光景には凄みしか感じない。これは20年を超えるキャリアの成せる業なのか…。何事にも微動だにしないかっこよさ。それを見せつけられた。
凄みを見せつけられて痺れているからか、彼らのライブは観客も微動だにせず、じっと耳を傾けるている。とても好きな関係性だが、音楽に誠実に真摯に向かい合ってるバンドに、観客も誠実に真摯に向き合っている。そんな中、終盤「Afterwards」では少し観客が横に揺れ始め、続く「FLY」では田中自身のアクションも大きくなり、観客からも我慢しきれなかったかのように手が上がる。じわじわと始まりながらも、最後は完璧に観客を興奮させてしまう。本編は、「ALL THE LIGHT」収録のラストナンバー『すべてのありふれた光』で終えた。
GRAPEVINE 撮影=河上良
アンコール1曲目は、「光について」。カタルシスとは「心の中に溜まっていた澱のような感情が解放され、気持ちが浄化されること」という意味らしいが、この曲を聴く度に、その言葉を、いつも想い出してしまう。うねりのあるメロディーから、グルーヴを、高揚感を感じる。アンコールラスト「聖ルチア」の前に、田中が「どうもありがとう! 最後に1曲だけやるぜ~!」と話す。これ文字だけでは伝わりにくいが、叫んでいるわけでも呟いてるわけでも無い独特の波長がある。淡々の中にも温もり、秘めた熱がある。その事にも象徴される様に、GRAPEVINEは、田中は、何でも無い平然とした顔で、とんでもなく凄まじいライブをぶちかます。
帰り道、「ええ対バンを観た……」という言葉しか思い浮かばなかった。両者一歩も譲らない対決。ホームとかアウェーとか、勝ちとか負けとか、そんな安易な枠組みを取っ払った凄みしか無い時間…、本当に幸せな時間であった。
取材・文=鈴木淳史 撮影=河上良

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